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樹の散歩道
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 虫たちの創造性あふれる作品群


 樹木の葉などでしばしば「虫こぶ」と呼ばれる奇妙な膨れた部位が見られることが知られている。イスノキクヌギでしばしば見られるものは広く知られているが、これら以外の“らしきもの”を見ても本当は何なのかはさっぱりわからない。そこで写真だけ撮りだめして、まとめて図鑑で調べてみれば、何とちゃんとそれぞれに長い名前がついていて、間違いなくこれらが虫こぶ(等)であることを確認できる。中には実に芸術的な形態のものも見られ、多くの人が思わずシャッターを切る対象にもなっている。【2011.10】 *順次追記


   虫こぶ(虫えい、ゴール)は病的なものはぞっとするが、美しい色彩をのものや異次元の果実状・球果状のオリジナリティーに富んだ形態を有するものはほとんどアートの世界となっていることに強い興味を感じざるを得ない。

 しかし、色や形態以上に感心するのは、虫たちが労せずして植物を手玉に取り、食べ物に全く不自由のない、自分にとって最も住み心地の良い住居を意のままに植物に作らせているという事実である。小さな幼虫たちは、植物をずるがしこくコントロールし、安全快適な住居を確保した上に、食べ物が安定的に供給されるように仕向け、天国のような暮らしの中で、すくすくと生長しているのである。実にたいした生き方である。以下はたまたま見かけたそんな虫たちの作品群のごく一部である。(図鑑で同定したもの。)  
   
 
アキニレ(ニレ科ニレ属)  ハルニレ(ニレ科ニレ属)  ノブドウ(ブドウ科ノブドウ属) 
アキニレハフクロフシ  ハルニレハフクロフシ  ノブドウミフクレフシ 
形成者:アキニレヨスジワタムシ Tetraneura akinire
・ 葉表側に形成される高さ10~15mmの袋状の虫えい。形は紡錘形~柄のある球形など変化が多い。緑黄~赤褐色(ハンドブック) 
形成者:オカボノクロアブラムシ Tetraneura nigriabdominalis
・ 葉の表面に袋状に突出し、形は変化に富む。黄緑色~深紅色。(ハンドブック) 
形成者:ノブドウミタマバエ Asphondylia baca   種小名がすごい!!
・ 果実がやや肥大する球形の虫えいで、直径10~15mm。表面平滑で、内部に1虫室があり、1幼虫が見られる。(ハンドブック)
植物図鑑では他の形成者を掲げていたり、カラフルな果実のほとんどが虫えいであるとした例が見られたり、虫えい果の色に関する見解もバラツキが見られる。じつは本当の虫えいは多くないと思われる。したがって、
上記写真は虫えいではない可能性が高い。
★ノブドウの関係記事及び確認できた真正の虫えいについてはこちらを参照
   
 
オヒョウ(ニレ科ニレ属)  オヒョウ(ニレ科ニレ属)  ホルトノキ(ホルトノキ科ホルトノキ属) 
オヒョウハホソフクロフシ  未確認  ホルトノキハウラエボウシフシ 
形成者:エゾヨスジワタムシ
Tetraneura yezoensis 
・ ハルニレにも類似の虫えいを形成する。(虫えい図鑑)
 虫えいの呼称としてハルニレハケフシの名はあるが、残念ながらオヒョウハケフシの名は確認できない。
(追記 2015.11)
形成者:ホルトノキタマバエ
Pseudasphondylia sp.
・葉裏に形成される円錐形の虫えいで、高さは2.8~5.1mm。内部には1個の幼虫室があり、1匹の幼虫が入っている。
・冬を越して4月中旬に蛹化するが、それまでに紅葉・落葉すると羽化できないことが多い。(虫えい図鑑) 
   
 
ケヤキ(ニレ科ケヤキ属) ケヤキ  ケヤキ 
ケヤキハフクロフシ  (同前)  (同前) 
形成者:ケヤキヒトスジワタムシ Paracolopha morrisoni
・ 葉の表面に形成される袋状の虫えい。上部は広がり下部は細くなっている。虫えいの高さは10mm程度である。(ハンドブック)
・ 痛ましいことに新葉も餌食となっていた。   ・ 北海道で見かけたケヤキの大径木では、すべての葉がとことん餌食となっていて、葉の形態自体がヨレヨレとなっていた。(★ 中の住人は文末の写真参照
北海道のケヤキは植栽されたものであるが、本種に甚だしく寄生された木を見かけることが多い。虫えいの密度が高い木では、スズメによって虫えい内のアブラムシが補食されることがある。(虫えい図鑑) 
 
   
 
クヌギ(ブナ科コナラ属)  クヌギ  クヌギ  
クヌギハナカイメンフシ(両生世代虫えい)  クヌギエダイガフシ(単性世代虫えい)  クヌギハケツボタマフシ(単性世代虫えい) 
形成者:クヌギハケタマバチ Neuroterus vonkuenburgi (クヌギハナカイメンタマバチ)
・ 花序全体が肥大して綿球状の虫えいを形成。(ハンドブック)
・ クヌギの雄花に作られる虫えいである。虫えいは1花に1~4個で、まれに5この例もあるが、花穂全体が虫えい化すると、直径25~30mmの綿球となる。(虫えい図鑑)  
形成者:クヌギエダイガタマバチ Trichagalma serratae
・ 径10mm内外の虫こぶで、群生することが多い。表面は軟毛が密生した棘状片で包まれる。虫えい外壁と卵形の虫室との間には空間がある。(ハンドブック)
形成者:クヌギハケツボタマバチ 
Neuroterus nawai
・ 葉の表面に形成される偏球状の虫えいで直径4mm内外。虫えいの頂部はやや凹み褐色で、その外側を白色、さらに外側は褐色、次いで白色微毛が同心円状に取り巻く。内部1室、1幼虫が見られる。(ハンドブック)  
   
 
クヌギ  クヌギ アベマキ(ブナ科コナラ属)  
クヌギハマルタマフシ(単性世代虫えい)  未確認  クヌギハマルタマフシ 
形成者:クヌギハマルタマバチ Aphelonyx acutissimae
・ おもに側脈に沿って葉表に形成される球形の虫えい。黄緑~淡紅~褐色。虫えいの内部からの細い繊維状突起によって虫室が中央に保持される。1幼虫が見られる。(ハンドブック) 
・ クヌギの葉裏で見られたもので、毛がないこともあり、葉表で見られる前出のクヌギハケツボタマフシとは異なったものと思われるが未確認。 (クヌギで登場した)クヌギハマルタマバチによるクヌギハマルタマフシ(単性世代虫えい)と同じ。(ハンドブック)  
   
 
ケヤマハンノキ(カバノキ科ハンノキ属) モンゴリナラ(ブナ科コナラ属)  ミズナラ(ブナ科コナラ属) 
未確認  未確認  未確認 
 ケヤマハンノキの葉表で確認したもので、先端が尖っている。  モンゴリナラの葉表で確認したもの。
 ミズナラの葉裏で確認したもので、形成者は前出と同様と思われる。
   
 
ミズナラ(ブナ科コナラ属)  コナラ(ブナ科コナラ属)   コナラ
ナラメリンゴフシ(両生世代虫えい)  (同前) ナラメイガフシ
形成者:ナラメリンゴタマバチ 
Biorhiza nawa
i
・ 芽に形成されるほぼ球形の虫えいで、表面平滑、淡緑~黄緑色。赤褐色になる場合もある。内壁はスポンジ状で軟らかく、虫室が多数、放射状に配列している。(ハンドブック)
・ 大型できれいなことから、古くから知られている代表的なタマバチの虫えいである。(虫えい図鑑) 
・ 名前のとおり、枝先にリンゴの果実様の虫こぶが付いている。 形成者:ナラメイガタマバチ 
Andricus mukaigawae
・ 多数の針状片に包まれたいが状の虫えい。虫えい本体はイチジク状で木質。先端部に虫室(1室に1幼虫)が埋まっている。(ハンドブック)
・ コナラ、ミズナラ、カシワの芽に作られる虫えいで、早くから広く知られていたため、タマバチの和名も様々である。虫えいは初め緑色。(虫えい図鑑) 
 
   
 
クリ(ブナ科クリ属)  ナラガシワ(ブナ科コナラ属)   アオキ(ミズキ科アオキ属) 
クリメコブズイフシ  未確認  アオキミフクレフシ 
形成者:クリタマバチ 
Dryocosmus kuriphilus
・ 新芽が紡錘形~球状に肥大した虫えいで、直径15mm内外。壁は木質で固く、内部に数室の虫室がある。(ハンドブック)
・ 1940年頃中国から侵入してきた。(ハンドブック)
・ 中国産のクリの木を導入した際に侵入したといわれる。
 
・ 枝の先端部が膨れているが、不明。  形成者:アオキミタマバエ(アオキタマバエ) Asphondylia aucubae
・ 果実が変形する虫えい。内部は数個の虫室があり、1幼虫を含む。虫えい化した果実の方が枝に残ることが多い。(ハンドブック)
・ 冬になると正常果は赤く色づいて落下するのに対して、虫えい化した実は初夏までは落下しない。(虫えい図鑑)

★アオキの虫えいの内部、幼虫・蛹・成虫の様子についてはこちらを参照 
   
 
イスノキ(マンサク科イスノキ属)  イスノキ  イスノキ 
イスノキエダコタマフシ  イスノキエダナガタマフシ  イスノキハタマフシ 
形成者:イスノタマフシアブラムシ Monzenia globuli
・ 枝に形成される直径10から15mmの球形の虫えい。緑から黄白色で壁は薄い。しばしば多数の虫えいが相接する。(ハンドブック) 
形成者:イスノフシアブラムシ Nipponaphis distyliicola
・ 小枝につく緑色のイチジク状の虫えい。長さ30~40mm、直径20mm前後。先端部にとげ状突起を持つことが多い。裂開孔はきれいな形にならないことが多い。(ハンドブック)
形成者:ヤノイスアブラムシ Neothoracaphis yanonis
・ 葉の表面側には半球状、裏面側にはやや円錐状に突出する虫えい。直径は7mm前後。黄緑~緑色で、赤褐色を帯びる。(ハンドブック) 
★イスノキのその他の虫えいについてはこちらを参照
   
 
イスノキ  エゴノキ(エゴノキ科エゴノキ属)  エゴノキ 
 (ヤノイスアブラムシの有翅胎生虫) エゴノキメフクレフシ(エゴノキメフシ)  (同前 中の住人) 
前出のイスノキハタマフシの住人である。翅を水平に重ねている。
★ヤノイスアブラムシの多様な生活環については
こちらを参照
形成者:タマバエの1種
・ タマバエの1種によって、枝の先に近い腋芽や頂芽が先端が尖った卵形に膨れ、高さ5.0~16.0mm、直径5.0~10.0mmの虫えいとなる。 
・ べっちょりした虫室には、同じくべっちょりした黄色い幼虫が見られた。 
   
 
エゴノキ  エゴノキ  エゴノキ 
エゴノネコアシ  (エゴノネコアシアブラムシの有翅虫)  (エゴノネコアシアブラムシの有翅幼虫) 
形成者:エゴノネコアシアブラムシ Ceratovacuna nekoashi
・ 側芽に形成されるネコの足状の虫えい。ネコの足指に相当するのは、それぞれ独立した虫室。(ハンドブック)  
 前出エゴノネコアシの房室の住人である。
前出エゴノネコアシの房室の住人である。 
   
 
エゴノキ  エゴノキ   エゴノキ
エゴノキハヒラタマフシ(葉表)  エゴノキハヒラタマフシ(葉裏)   (エゴタマバエの幼虫)
形成者:エゴタマバエ
Rhopalomyia
styracophila(原記載不明、属名要再検討)によって葉の表裏両面にほぼ等しく膨れた円形でわずかに扁平な虫えい。葉裏部の中央に小さな凹みがある。虫えいの直径は3.0~7.0mm 、厚さは1.5~3.0mm 、内部は漿質で、小さな幼虫室があり、淡黄色の幼虫が1匹入っている。(虫えい図鑑)
★時期的なものなのか、5月時点では幼虫は全く確認できなかった。   追って改めて観察すると、水っぽい虫えいの中心部に小さな空洞(幼虫室)があって、淡黄色のエゴタマバエの幼虫を確認した。
   
 
エノキ(ニレ科エノキ属)  エノキ  エノキ 
エノキハトガリタマフシ  同前 葉裏側  (エノキハトガリタマフシの幼虫) 
形成者:エノキハトガリタマバエ
Celticecia japonica
・葉(表・裏)・若枝などにつくられる擬宝珠状~砲弾状の虫えい。虫室に1幼虫が見られる。(ハンドブック) 
 葉裏でも同様に見られ、色は緑色から淡紫褐色である。 エノキハトガリタマバエノの幼虫で、虫室の底部で1匹だけが寝転んでいた。
   
 
エノキ  サツキツツジ  サツキツツジ 
エノキハイボフシ  もち病(菌えい)  (同前 反対面) 
形成者:フシダニの1種 Eriophyes sp.
・ フシダニの1種 Eriophyes sp. によって葉に形成される袋状のえいで、葉表に不規則な形に突出する。直径は1.5~2mm、長さは4~5mmで、曲がりあるいは捻れて先端は鈍頭で終わる。(虫えい図鑑) 
形成者:Exobasidium 属菌
・ 一般に、もち病と呼ばれる葉の肥厚は、葉に形成される一般的な菌えいである。チャ、ツバキ、サザンカ、ツツジなどのもち病はすべてExobasidium 属菌によるもので、病徴もきわめてよく似ている。(虫えい図鑑) 
・ 庭先で見かけたものである。 
   
 
ヌルデ(ウルシ科ヌルデ属)  マタタビ(マタタビ科マタタビ属)  マタタビ 
ヌルデミミフシ(ヌルデ五倍子)  マタタビミフクレフシ(木天蓼)  (同前 上側と下側) 
形成者:ヌルデシロアブラムシ Schlechtendalia chinensis
・ 羽状複葉の葉軸部に形成される袋状の閉鎖型虫えい。黄緑~淡褐色。(ハンドブック)
・ 本種の虫えいは多量のタンニンを含むことで著名である。(虫えい図鑑)
・ タンニンの採取源として利用された歴史がある。 
形成者:マタタビミタマバエ Pseudasphondylia matatabi
・ 本来楕円体~円錐体になるべき果実が扁平球状~不規則塊状となった虫えい。花弁、雄しべ、花柱の一部が残存。内部は漿質で多数の虫室があり、各1匹の幼虫が生活している。(ハンドブック)
・ 本来の果実とは全く形が異なるが、上側にはちゃんと萼が付いている。 
・ マタタビの虫えい果実には「木天蓼(もくてんりょう)」の名があり、古くから薬効が認められている。 
   
 
エゾマツ(マツ科トウヒ属)  エゾマツ  エゾマツ 
エゾマツシントメカサガタフシ  (同前 断面)  (エゾマツカサアブラムシ幼虫の素顔) 
寄生者:エゾマツカサアブラムシ Adelges japonicus
・ エソマツやトウヒの枝端に形成される球果状の虫えい。針葉が短縮・肥大し、その基部間隙が虫室となる。(ハンドブック) 
・ 虫こぶをざっくり切ったところ、虫室の多くのアブラムシの幼虫は惨死したが、難を免れたものが這い出してきた。(右写真参照) 
・ この後、虫えいは全体が褐色となって、虫室が開口し、有翅虫が脱出する。
左の虫室の住人である。
・ 本種は年2世代を経過する。本種の加害が甚だしい時は、林木の生育を阻害し、まれには枯死を招くことがある。(虫えい図鑑)
   
 
エゾマツ ハリギリ (ウコギ科ハリギリ属)  ハリギリ 
(脱出した有翅虫と葉裏に産んだ卵)  未確認  (同前 断面)  
・ いつの間にか虫えいは空になっていて、葉裏にたくさんの卵が産み付けているのを確認した。
 白く見えるのが産卵中又は産卵後の有翅虫である。
・ ハリギリでは、葉柄に形成される虫えいとして、ハリギリハグキタマフシ(仮称)の名のタマバエの1種が形成者となるものが知られているが、これは全く別物である。
 形態的にはノリウツギタマバエがノリウツギの花序の子房を他の果実の成熟に先行して球状に肥大させる似たような例がある。 
 
・ 黄色い幼虫が確認できた。 
   
 
ハリギリ  ヤブニッケイ(クスノキ科ニッケイ属)  ナシ(バラ科ナシ属) 
(同前 中の住人)  ニッケイハミャクイボフシ  赤星病(毛状体) 
・ ゴムのように弾力のある幼虫であった。  形成者:ニッケイトガリキジラミ 
Torioza cinnamomi
・ 葉表にいぼ状にふくれ、葉脈に沿って形成される虫えい。黄緑色で、一部赤褐色を呈する。幼虫は葉裏部の凹みに1匹はりつく。(ハンドブック) 
形成者: 糸状菌 担子菌類
Gymnosporangium asiaticum
・ 葉表に黄色~橙黄色の斑点が生じ、その葉裏側に形成され、毛状体と呼ばれる。この先端から胞子が放出されてビャクシン類を中間宿主として拡大する。
・ ナシの病害であるが、形態的には芸術作品である。
   
 
シナノキ(シナノキ科シナノキ属)  シロダモ(クスノキ科シロダモ属)  シロダモ 
未確認  シロダモハコブフシ  (同前 葉裏側) 
シナノキの葉表で確認したもの。
形成者:シロダモタマバエ
Pseudasphondylia neolitseae
・虫えいの葉表部は、黒褐色の球形部を緑色の円錐部が支えている。(ハンドブック) 
 葉裏部は茶褐色で丸く、葉表部よりもはるかに体積が大きい。この大きめの虫えいに1匹の幼虫がいる。
  
   
 
シロダモ  アカシデ(カバノキ科クマシデ属)  アカシデ(カバノキ科クマシデ属) 
(シロダモタマバエの幼虫)  アカシデメムレマツカサフシ  アカシデメフクレフシ 
・個々の虫えいの中心に1匹だけ見られた橙黄色の非常に小さな幼虫。 形成者:フシダニの一種
Eriophyes sp
・アカシデの枝が短縮し、枝につく多数の芽が集まり、松笠状になったもの。個々の芽は赤褐色で、開芽することはない。鱗片基部内側に多数のフシダニが見られる。(ハンドブック)
★虫えいのダニの様子についてはこちらを参照
 
形成者:不詳
   
 
イヌシデ(カバノキ科クマシデ属)  ハナイカダ(ハナイカダ科ハナイカダ属)  エゾノバッコヤナギ(ヤナギ科ヤナギ属) 
イヌシデメフクレフシ  ハナイカダミフクレフシ  未確認(葉裏側) 
   
形成者:ソロメフクレダニ
Eriophyes sp. (フシダニの一種)
・越冬芽の芽鱗が肥大したもの。(ハンドブック)
・茶褐色の芽鱗が残っていて、これが厚みを増してタイヤのような形状となっている。
★虫えいのダニの様子についてはこちらを参照
 
形成者:ハナイカダミタマバエ
Asphondylia sp. によって実が不規則に膨れ、正常果よりわずかに大きくなり変形する。高さは4.2~8.7ミリ、最大直径は3.1~8.3ミリ。表面は平滑で、正常実と同じ緑色である。内部には通常3~5個の幼虫室があり、それぞれに1匹ずつの幼虫が入っている。(虫えい図鑑) 
★写真はハナイカダの単独の雌株の葉にできた虫えいで、脱出したハナイカダミタマバエの蛹の殻がついている。

★本虫えいの幼虫、蛹、成虫に関してはこちらを参照
・ヤナギの虫えいは一般にコブハバチの一種であることが多いとされる。  
   
 
クコ(ナス科クコ属)  クコ  クコ 
クコハフクレフシ  (クコフシダニ) フシダニ類
形成者:クコフシダニ
Eriophyes kuko
・葉の両面にイボ状にふくれ、葉裏側の膨らみの頂部は平ら。直径5mm、高さ2mmほど。  
・虫えいの中の様子の一部で、この虫えい固有の微小なフシダニが多数蠢いていた。 形成者:未確認 
・クコの花の萼筒の下部から花柄にかけてイボ状にふくれた虫えいがしばしば見られ、中の虫室とみられる空洞部に左と同様のフシダニ類が見られた。
   
 
ヤナギ (種名未確認) ヌルデ(ウルシ科ヌルデ属)  ヌルデ
未確認(葉裏側)  ヌルデハイボケフシ(葉表側)  ヌルデハイボケフシ(葉裏側)
・ヤナギの虫えいは一般にコブハバチの一種であることが多い。  形成者:ヌルデフシダニ
Aculops chinonei
・葉に作られるフシダニえい。葉表に不整形のいぼ状に突出。えいの色は緑色または黄緑色で、赤色を帯びる場合もある。(虫えい図鑑) 
・葉裏は凹んで白色毛を密生し、その間にダニが生息する。ダニの生息密度は低い。(虫えい図鑑) 
★ダニえいのダニの様子についてはこちらを参照
   
 
モチノキ(モチノキ科モチノキ属)  モチノキ  モチノキ(モチノキ科モチノキ属) 
モチノキメタマフシ  (同前 中の住人)  モチノキメタマフシ? 
形成者:タマバエの仲間か?   ・虫えいには1匹の幼虫を確認した。 形成者:未確認
   
 
 モチノキ  キヅタ(ウコギ科キヅタ属)  キヅタ
 (同前 中の住人)  キヅタツボミフクレフシ (キヅタツボミタマバエの幼虫) 
・虫えいには複数の虫室にそれぞれ1ミリ足らずの幼虫を確認した。前出の幼虫の1齢幼虫であろうか。  形成者:キヅタツボミタマバエ
Asphondylia sp.
蕾が直径6mm、長さ15mm前後の卵形に肥大した虫えい。虫えい内で1齢幼虫で越冬し、5~6月に虫えいより直接羽化。(ハンドブック)
・花が終わった時期に蕾の形態のままとなっていることから、その存在に気づく。写真の段階(12月上旬)では、まだ肥大しているという印象はない。 
 ・当初は蕾の構成要素が普通に整っていて、観察したものでは蕾内の底部のすき間(のちの房室)に2匹の極小の幼虫を確認した(12月上旬)。この状態で冬を越し、翌年春に蛹となって羽化するらしい。
   
 
シダレヤナギ(ヤナギ科ヤナギ属)  コナラ(ブナ科コナラ属)  コナラ 
 シダレヤナギハオオコブシ ナラハタイコタマフシ  (同前 羽化後の虫えい) 
形成者:コブハバチの一種Pontania sp. 
・主脈に接し、葉の両面にふくれる虫えい。直径10ミリ、長さ15ミリ内外。虫えいの内部は広く、内部に白色の1幼虫と糞が見られる。 
4月に羽化し、新葉の葉身基部に産卵。虫えいは10月頃、葉についたまま落ち、幼虫は小孔をうがって脱出。地中でまゆをつくり、前蛹状態で越冬する。(ハンドブック)
★本虫えい果の蛹、成虫に関してはこちらを参照
 
形成者:ナラハタイコタマバチ
Andricus moriokae
 
・葉の表裏、ほぼ同程度にふくれた準球形の虫えい。えいの上端と下端が平らになるのが、太鼓の名のおこり。内部の虫えいは、上下2室の中間に、葉脈で支えられているように見える。1虫室で1幼虫。
・5月に雌雄が羽化。単性世代虫えいは未知。(ハンドブック)
 ・決して太鼓型には見えないが、虫えい果の中の虫室が小さなカプセル状になっているのがユニークである。
★本虫えいの蛹、成虫に関してはこちらを参照
   
 
バクチノキ(バラ科サクラ属)  カラスウリ(ウリ科カラスウリ属)  カラスウリ 
バクチノキミフシ
バクチノキミミドリフシ
(博打の木実緑フシ) 
カラスウリクキフクレフシ  (ウリウロコタマバエの幼虫) 
形成者:ダイズサヤタマバエ(旧バクチノキミタマバエ)Asphondylia yushimai
・夏~秋寄主として、ダイズやマメ科植物の莢にゴールを作り、秋~冬寄主としては、バクチノキ(バラ科・バクチノキ科)やヒイラギ(モクセイ科)の実にゴールを形成して、1年の生活環を完成させてる。(湯川)
・写真は成虫が羽化した際に蛹殻を残した状態である。
★本虫えい果の蛹と成虫に関してはこちらを参照
形成者:ウリウロコタマバエ 
Lasioptera sp.
・茎や葉柄が不整形のこぶ状や紡錘形に肥大する虫えいで、ときには数個の虫えいが連なったり、捻れたようになる。直径は4.3~7.5ミリ。
・内部に坑道状の幼虫室が多数あり、それぞれに1匹ずつ淡黄色の幼虫が入っている。(虫えい図鑑)
 
・虫えいを縦に割った状態である。観察したものでは、虫えい内の幼虫はそれぞれ1匹のみであった。太い方(写真では右側)が頭のようである。 
★なお、キカラスウリの茎には長卵形の虫えいが形成されることが知られていて、キカラスウリツルフクレフシの名があり、オオモモブトスカシバ Melittia nipponica が形成者とされる。
   
  <参考1> 

【日本原色虫えい図鑑:全国農村教育協会(1996.6.21)】
 「えいgall ゴールとは、えい形成者 gall maker, gall inducer から出される何らかの刺激に対して植物が組織分化の途上で反応し、その結果、植物の一部の細胞が異常に増殖したり、肥大したり、無核や巨大核、多核など核に異常が生じたり、あるいは、組織分化の過程が狂ったりすることによって引き起こされる、組織や器官の病理学的に異常な形状のことをいう(Mani,1964)。
 えいは、ウィルス、マイコプラズマ、バクテリア、菌類 Fungi 、線虫類 Nematoda 、昆虫類 Insecta 、ダニ類 Acarina ,Acari などさまざまな生物によって形成される。
 虫えいの発現機構に関して、現在では化学的刺激説が多くの研究者により支持されるに至っている。
 ほとんどすべての場合、幼虫の吸汁の開始とともに虫えいの形成が始まる
 虫えいの中に高濃度の栄養物質が蓄積されており、それが虫えい形成者の栄養条件を高めるということは、多くの研究者によって指摘されていることである。・・・虫えい形成者に近接した組織における組織学的、形態学的変化は、すべて虫えい形成者の摂食や生長に有利なものとなる。・・・まさに、居ながらにして食物を得ることができ、植物の防御反応の少ない安全な場所といえよう。
:「えい」は原因者により、「昆虫えい」、「ダニえい」等々の呼称があり、本書ではこれら2者を一括して「虫えい」として取り扱っている。虫えいは一般的には「虫こぶ」の名で呼ばれている。 

【虫こぶハンドブック:薄葉 重(2003.6.20、文一総合出版)】
 一般に虫こぶ、虫えい(虫癭)と呼ばれる植物に見られるこぶは、昆虫だけでなく、ダニや線虫、さらに菌類や細菌によっても形成されることがわかってきたことから、これを虫えいと呼ぶのは不適当となった。このため、虫えいダニえい菌えい・・・をまとめ、いわば広義の虫えいをゴール(Gall)と呼ぶようになってきた。一方、広義の虫えいの個々の呼称は、従前から最後に「フシ」(古くはヌルデ五倍子を指した。)を付けている。
 ゴールは、ゴール形成生物(Gall-maker)の何らかの刺激により、寄生(Host)となる植物の細胞・組織が異常に増殖・肥大して生じる。何らかの刺激の実態は、現在でも詳らかでない。 
   
  <参考2> 
 
 木々で見られる虫こぶが、ほんの一部にご愛敬程度に存在するのであれば、面白い自然の風景として受け止めることができるが、そうではない場合もある。

 下の写真は北海道内で見かけたケヤキの大径木の例である。先にも触れたとおり、北海道に植栽されたケヤキは不幸である。この姿はあまりも痛ましい。枯死には至らないものの、樹自身が、このために相当のエネルギーを使う羽目になっているに違いない。また、本来であれば心地よい緑陰を提供してくれるはずであるが、これでは上から何かが降ってきそうで恐怖感をいだいてしまう。
   
 
         虫こぶだらけのケヤキの葉
 もはや、無傷の葉を探すのは困難である。
          ケヤキ虫こぶの住人の素顔
 このケヤキヒトスジワタムシの幹母の体長はわずか1ミリほどであった。虫こぶ住宅から出て頂いて、ケヤキの葉の上で撮影会を実施した。