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続・樹の散歩道 ノブドウの果実の多様な色は虫えい故なのか?
そもそも正常な果実とはどんな色なのか?
カラフルなノブドウの果実は見た目には楽しいが、このことの意味を知ろうとして複数の図鑑に目を通すと、必ずやイライラすることになる。あるいは、たまたま目にした図鑑の説明に従えば、間違いなく人によってまちまちな理解に陥ることになる。加えて、わからない点については依然としてわからないままでストレスが貯まってしまう。特に珍しいわけでもない普通のつる植物であるが、未だに知見が不十分なのであろうか。 【2017.2】 |
1 | ノブドウの果実に関する疑問点 | |||||||||||||||||||||||||
見る図鑑によって理解が異なったものとなってしまうのは非常に不幸なことであるが、ノブドウに関して、最も理解が混乱しているのがこの植物の個性の原点たる果実の色に関する記述である。 これは図鑑での説明要旨が A 虫えい果実は様々な色になり、正常な果実はほとんどない(少ない)。 (牧野新日本植物図鑑、樹に咲く花、植物の世界) *世界大百科事典でも果実の多くは虫こぶをつくるとしている。 B 果実は(緑色から順次)白色、(淡)紫色、青(碧・空)色となって成熟する。 (日本の野生植物、原色日本植物図鑑、APG原色牧野植物大図鑑) としている例があることによる。つまり、A を見れば、いろいろな色の果実は、虫えいであることに由来すると読めるし、一方B を見れば、(正常な)果実は白色から青になって成熟すると、淡々と述べているように受け止められる。残念なことに、虫えい果実と正常な果実のそれぞれについてわかりやすく記述している例は見られない。そもそも、外形的に直ちに認知可能な固有のこぶ≠作らない虫こぶ(虫えい)であることが混乱の要因の1つとなっている。 その他記述内容がまちまちな点があることや、知りたいことがわからない点など、改めて確認したい点、課題を整理すれば以下のとおりである。 |
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ノブドウに関して(ノブドウに限らずか?)、多くの図鑑の記述は、それぞれが依拠した(信頼した)図鑑の内容を踏襲しているのが見て取れ、残念なことに長い年月にわたってほとんどその内容の確認、検証をしないままとなっているとしか思えない。 | ||||||||||||||||||||||||||
2 | ノブドウの虫えい(虫こぶ)に関する情報 | |||||||||||||||||||||||||
ノブドウの虫えい(虫こぶ)に関する図鑑等の説明では、虫えい果実そのものの属性に関しては情報が乏しいが、やや肥大した果実、あるいは異常に肥大した果実は虫えいの可能性が高いということになりそうである。 ノブドウの虫えいにはノブドウミフクレフシの名があり、その形成者はノブドウミタマバエ(=ノブドウタマバエ)とされ、その果実には種子が形成されず、中心に虫室があって、その中に黄色の幼虫が見られる模様である。(虫こぶハンドブック、日本原色虫えい図鑑ほか) しかし、図鑑によってはブドウタマバエ(樹に咲く花、世界大百科事典)、ブドウトガリバガ(原色日本植物図鑑、世界大百科事典)、ブドウトガリバチ(樹に咲く花)を虫えい形成者として掲げていて、さらにこれらに「等」を付していたりと、これらの見解が現在でも有効なものなのかは不明で、昆虫図鑑でもこうした名は確認できない。このうちのブドウタマバエ(ブドウタマバイ)については、日本原色虫えい図鑑で「わが国に分布しているのかどうか疑わしい。」としている。やはり、虫えい形成者に関する知見については混乱の歴史が見られるようである。 なお、虫えい形成者ではないが、ブドウトリバの幼虫はノブドウの果実や虫えい内部を食い荒らして糞をためる(虫こぶハンドブックほか)との記述が見られる。 |
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(ノブドウの様子) 以下の写真は従前撮影したもので、色とりどりの果実について、この時点では虫えい果か否かについては確認していない。 |
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<参考資料> | ||||||||||||||||||||||||||
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3 | ノブドウの果実に関する巷のうわさ | |||||||||||||||||||||||||
色鮮やかな果実は誰の目にもとまることから、一般個人が発するウェブ情報は溢れていて、図鑑による説明ぶりの違いがそのまま反映していることが多く、一方でこれらに疑問を持った者による観察レポートも目にする。やはり関心の焦点は果実の色と虫えいの関係である。 例えば、 |
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といった具合で、果実に関する観察レポートの内容は様々で、必ずしも収束をみていない。 | ||||||||||||||||||||||||||
4 | 現物による観察結果 | |||||||||||||||||||||||||
都内の3箇所のノブドウの様子をしばしば観察しつつ、先の課題を検討してみる。 | ||||||||||||||||||||||||||
(1) | ノブドウの果実は本当にほとんどが虫こぶ(虫えい)なのか | |||||||||||||||||||||||||
9月上旬時点で3箇所のノブドウは、何れも若い緑色の硬い未熟果実と成熟状態と思われる白色多汁質の柔らかい果実のみで構成されていた。一部で、わずかに赤みがかったものや青みがかったものが見られた。白い果実及びわずかに色づいた果実のいずれもジューシーで1〜3個の成熟種子を含み、果実内に虫室は全く確認できなかった。したがって、これらは正常な成熟果実と判断でき、ほとんどが虫こぶであるとする見解とは異なった状態であった。 そこで、後日改めて虫えいを探してみると・・・ 11月下旬までの間の複数回、果実のサンプルを採取して果実の断面を確認した。白色の果実と色づいた果実が同居した状態にあったが、やはり果実の中心に虫室ができた虫えい果を確認することはできなかった。そもそも、不自然に肥大して虫えいの可能性を感じさせる果実は皆無であった。 ただし、種子を内包した果実のわずかな薄い果肉の部分に、(虫えいをつくるとされる)ノブドウミタマバエとは明らかに異なった幼虫が入っている例が見られた。 |
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(観察したノブドウの果実の様子) |
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ということで、ノブドウの果実はほとんどが虫えいであるとする見解は信じないことにしたが、本物の虫えい果の探索は引き続く課題としたい。 | ||||||||||||||||||||||||||
特に虫えいに着目してこれから検討しようとしたところ、早くも挫折してしまった感じであるが、気を取り直して続けることにする。 | ||||||||||||||||||||||||||
【追記 2017.4】 | ||||||||||||||||||||||||||
ノブドウの白い果実は成熟果実と判断したが、念のためにその種子で発芽試験をしたところ、以下に掲げるようにちゃんと芽を出した。 | ||||||||||||||||||||||||||
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(2) | 正常な果実も虫えいも 色が同様に変化するのか | |||||||||||||||||||||||||
正常な果実の色に関しては、先に触れたように、(緑色から順次)白色、(淡)紫色、青(碧・空)色となって成熟する(日本の野生植物、原色日本植物図鑑、APG原色牧野植物大図鑑ほか)として、最終的に青(碧・空)に熟すとして定型化した表現を採用している場合が多い。 しかし、庭先にない限り個々の果実の色のわずかな変化を厳密に見極めるのは少々難儀である。大雑把に見た限りでは、 |
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虫えい果の色に関しては記述がバラバラで、 | ||||||||||||||||||||||||||
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とした記述が見られるが、サンプルが得られなかったため、虫えい果の色に関しての検証は保留である。 | ||||||||||||||||||||||||||
(3) | 虫えいは外観から正確に見分けられるのか | |||||||||||||||||||||||||
虫えいについても正常な果実と同様に色については多様であるらしいが、サンプルが得られなかったので、色のについての検証は先に保留としたところである。 虫えいの形態に関しては、「不規則に歪んだ球形(牧野新日本植物図鑑)」、「やや肥大する球形(虫こぶハンドブック)」、「異常にふくらんでいる(原色日本植物図鑑)とする記述例をみるから、とりあえずはこのことを記憶しておくことにする。 |
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(4) | 果実が食べられないとしているのは特に虫えいだけを念頭に置いたものなのか | |||||||||||||||||||||||||
果実の食用の可否について、次のように様々な記述例を見るが、一般に正常果と虫えい果を明確に区別して、それぞれについて記述している例は見られない。 | ||||||||||||||||||||||||||
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虫えいのサンプルが得られなかったので、残念ながらこれも検証は保留である。ただし、仮にサンプルが得られても、虫えい果を口に含むのは迷うところである。 なお、一部の情報で、タンニンが多くて苦いため食べられないとしているのは試してみなければわからないが面白い話である。仮に形成者がアブラムシであれば他の虫えいでの例があるため、機会があれば確認したい点である。ただし、一部に果実は有毒と断言する記述を見るが、これは根拠に欠ける記述と思われる。 |
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(5) | 正常な果実であれば(美味しいかは別にして)問題なく食べられるのか | |||||||||||||||||||||||||
白色及び色づいた正常な果実で確認した結果では、味はわずかな甘みがあり、またわずかにブドウの風味もあって、食べられないということはなく、「まずい」とか「味が悪い」とする表現は全く当たらない。もちろん、積極的に食べたくなるという代物ではない。 したがって、つとめて客観的に言えば、正常な果実は美味しいということはないが、食べられるということになる。(注:ブドウトリバが食い散らかした果実についてはもちろん試食などしていない。) 最後にひとつ気になった点がある。ノブドウの液果には気孔がある(日本の野生植物)とした記述が見られたことである。この点に触れている図鑑はほかに見ないが、筑波実験植物園のホームページにおける解説でもこの記述をそのまま踏襲している。 そこで調べてみれば、「みんなのひろば(日本植物生理学会)」に関係する解説があって、植物は葉以外でも緑色の組織は果実を含めて葉緑体があって光合成をしており、葉緑体をもつ細胞が何層にもなっている場合は(葉以外の組織でも)気孔をもっている。」としている。したがって、果実に気孔があるのは特別のことでもないことがわかったが、他の植物の果実でも表面にブツブツのあるものがいろいろと思い浮かぶものの、これらが気孔である場合が多いのかは確認できない。 |
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(ノブドウの気孔とされるもの) |
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ノブドウの果実の表面には黒点が見られ、これが気孔なのかはよくわからない。食用のブドウにも気孔がふつうに見られるというから、特別の存在ではないようである。なぜノブドウの果実に限って記述されているのかは謎である。黒点を拡大して見ても、がさついたかさぶた状で、樹皮の皮目のようでもある。若い緑色の果実(右側の写真)でも同様であり、中学生の理科的な孔辺細胞の存在はよくわからない。 | ||||||||||||||||||||||||||
【追記:ブドウトリバの成虫】 | ||||||||||||||||||||||||||
先にブドウトリバの幼虫に登場願ったが、これはその成虫と思われる。なぜか住宅の壁にしがみついていたものである。 | ||||||||||||||||||||||||||
【追記 2017.9】 ノブドウの虫えい果を確認!! | ||||||||||||||||||||||||||
ノブドウの虫えいは身近なところでは一般的な存在ではなかったことから、探索を諦めていたところ、横浜市在住の知り合いの S さんが見つけたノブドウの虫えい果らしきものをもらうことができた。これをザックリ切ると、うじ虫の時期(幼虫期)は過ぎていて、茶褐色のさなぎを確認することができた。同様の複数の虫えい果の様子をしばらく観察していたところ、キノコバエのような虫が虫えい果に脱出孔を空けて姿を現したことから、やはりこの虫えい果はノブドウミフクレフシであり、羽化した昆虫はノブドウミタマバエと考えてよいと思われる。 | ||||||||||||||||||||||||||
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先に保留あるいは確認できないままとなっていた点について、以下に整理してみる。 |
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そもそもノブドウの虫えい果に関する信頼性の高い知見の集積が未だ不十分な状態にあると思われ、目にする見解がバラバラであり、残念ながらその属性(仮に幅があるのであればそれを踏まえたものとして)が客観的に集約・表現しきれていないようである。 なお、ノブドウで本当にカラフルな “真正の虫えい果” が存在するのかについては、個人的には依然として確認できていない。 |
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