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続・樹の散歩道
  シダレヤナギの枝に果実のような球体が・・・


 目にするシダレヤナギは、ほとんどが雄株のクローンで、通常はその果実(果穂)を目にすることははまずない。ところが、面白いものを見かけた。シダレヤナギのしなやかで細い枝に円い果実のようなものがついていたのである。こういった奇妙なものは虫こぶ(虫えい)と相場が決まっている。以前にエゾノバッコヤナギの葉裏で虫こぶを確認したことがあったが、シダレヤナギでは初めてである。しかもアブラチャンの果実のように枝から丸いコブがぶら下がった姿は少々変則的であるように思われた。 【2018.10】 


 
               シダレヤナギの虫こぶ(虫えい)
 
     
 これを調べてみると、コブハバチの一種が形成する「シダレヤナギハオオコブフシ」がとりあえずの候補として考えらる。

 虫こぶハンドブックには次のように記述されている。
 
 
名 称  シダレヤナギハオオコブフシ 
形成者  コブハバチの一種 Pontania sp. 
形 状  主脈に接し、葉の両面にふくれる虫えい。直径10ミリ、長さ15ミリ内外。虫えいの内部は広く、内部に白色の1幼虫と糞が見られる。 
生活史  4月に羽化し、新葉の葉身基部に産卵。虫えいは10月頃、葉についたまま落ち、幼虫は小孔をうがって脱出。地中でまゆをつくり、前蛹状態で越冬する。 
分布  本州・九州 
 
 
 以上のとおりであるが、観察した結果では、どうもこれとは違っているようである。以下に見ていくことにする。  
 
      シダレヤナギの虫えい(名称不詳)
 周囲に見られる継ぎ目のようなものは、葉の脱落痕と思われる。
        シダレヤナギの虫えいの断面
 内側は糞だらけで、中央に蛹が1匹転がっている。
 
     
 虫えいは一見すると果実のような付き方をしているようであるが、よく見ると虫えいには周囲を取り囲むような筋がいられる。多分これは葉の痕跡で、つまり葉の両側にふくれた後に周りの葉部が脱落したものであると推定される。この点はシダレヤナギハオオコブフシとは少々異なっているような印象がある。なお、柄に相当する部分の形状をみると、間違いなく葉柄に由来するものであることがわかる。  
 
       シダレヤナギの虫えい内の蛹  
 尾部のゴミのようなものは幼虫からの脱け殻か。 
シダレヤナギの虫えい内の蛹(部分)  
 
 
 次に虫えいを割ると、幼虫室の壁の内側は広くてスカスカで、褐色の糞が多量に見られ、この中に小さな蛹が1匹だけ収まっていた。この様子は先のシダレヤナギハオオコブフシのコブハバチの生活史と全く異なっている。つまり、この虫えいでは羽化した成虫は樹上の虫えいに穴を開けで、さっさと脱出するようである。  
 
シダレヤナギの虫えいから羽化したコブハバチ(背側)   シダレヤナギの虫えいから羽化したコブハバチ(腹側)  
 
 
 さらに、この蛹が羽化するのを待ったところ、スリムなハバチが登場した。そこで、虫こぶハンドブックに掲げられたシダレヤナギハオオコブフシのずんぐりしたコブハバチの写真と比べると、明らかに外観が異なっている。

 ということで、残念ながら、この虫えいはシダレヤナギハオオコブフシではないことが明らかとなった。

 そこで、日本原色虫えい図鑑でも調べてみた。シダレヤナギに関わる虫えいとしては以下のものが掲げられている。 
 
     
 
 虫えい名 形成者  形状など 
シダレヤナギシンメトジフシ  ハマキハバチの1種  新鞘先端部の数枚の葉で形成 
シダレヤナギハイボケフシ  ヤナギフシダニ  葉裏へ袋状に突出 
シダレヤナギハオオコブフシ コブハバチの1種 (前出) 主脈に接して葉脚部に形成される虫えいで、葉の左右の一方が表・裏ともに大きく膨れる
ヤナギエダカタガワフシ  ヤナギカタガワタマバエ  シロヤナギほかの枝の芽の基部に半球形あるいは不整球形の虫えいを形成 
ヤナギエダマルズイフシ  ヤナギマルタマバエ シロヤナギほかの小枝の中軸に形成される準球形ないし紡錘形の木質の虫えい。 
ヤナギエダコブフシ  ヤナギコブタマバエ  ヤマヤナギほかの小枝に形成される様々な形状、大きさの虫えい 
 
 
   該当するものは見当たらず、残念ながらシダレヤナギハオオコブフシを形成するコブハバチとは別種のコブハバチによるもののようであり、とりあえずは虫えい名も不詳である。