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続・樹の散歩道
  アオキの虫こぶはちっとも虫こぶらしくないが
  どんな虫がどの部分に巣くっているのか?


 アオキの虫こぶ(虫えい)に関しては、果実のどこを見ても肝心な「こぶ」が見当たらず、前から違和感を持っていた。「虫癭」と書いても変わりない。だから、最近は困って英語のゴール(gall)の名を使ったりするのだという声があるが、そもそも gall の意味自体が何かとなれば、「癭瘤(えいりゆう)、こぶ 〔ある種の昆虫 (gallfly) による虫こぶや、菌類などの寄生により植物の葉・茎・根にできる異状生長部〕」とされ、明らかな外形的な異常性を認知した上での呼称であるから、英語を使ったごまかしに過ぎない。
 こうした不満を感じつつも、この半端な姿の果実の住人の顔も見たことがなかったため、改めて検分しみることにした。 【2018.12】 


 アオキとその虫こぶの様子     
 
 
アオキの斑入り園芸品種   アオキの雄株の雄花 アオキの雌株の雌花 
 
 
 
            アオキの正常な果実 1
 この果序では全くの無傷で果実が無事に育ったことになる。
         アオキの正常な果実 2
 艶やかで真っ赤な果実は眩しいほどである。 
 
 
     
 
       アオキの虫こぶとなった果実 1
 この果序ではすべての果実が餌食となっている。この虫こぶはアオキミフクレフシと呼んでいる。正常な果実が見られない5月になってもついている果実は皆虫こぶである。 
      アオキの虫こぶとなった果実 2
 多くは赤と緑のツートンカラーのゆがんだ形態となっている。右端の果実は比較用の正常な果実である。 
 
     
     
 アオキ「虫こぶ(虫えい)」とされているものは単に果実の形が少しゆがんでいたり、赤と緑のツートンカラーになっているだけで、形態的には全く面白味がない。

 虫こぶ(虫えい)は、本来的には形成者たる虫が、寄主となる植物を上手に操作してその植物の本来の器官には全く見られない異質の形態の快適な住み家を労せずしてつくらせている点で驚きと感動をもたらしているものであり、ヒトがそのメカニズムを理解するなど到底困難な高度なハイテクの技によるものである。

 ところが、アオキの虫こぶとされいるものは、どう見ても正常な果実の一部にちょっとだけ間借りしているだけ、あるいは単に巣くっているだけという印象であり、他の虫こぶで見られるような形態的な個性のかけらもなく、全く創造性を欠いていており、これを「虫こぶ」あるいは「虫えい」と呼ぶのは全くふさわしくなく、本来的には別の用語で整理すべきものであろう。そもそも、コブがないのは致命的である。

 このように、アオキの虫こぶは虫こぶの風上にも置けない代物であることは間違いないが、これを他と仕分けてグループ名をつけるほどお仲間がいないためか、仕方なくアオキの場合も便宜上「虫こぶ(虫えい)」として扱っている模様である。まあ、これは仕方がない。とりあえずは、「虫えい果」と呼べば幾分違和感が減少する。
:「虫こぶ」の呼称は「虫」の語が邪魔をして「菌えい」を包括しにくいため、意識して「ゴール gall」の語を使う場合がある。

 さて、このアオキの虫こぶであるが、そもそも、果実のどの辺にもぐり込んでいるのか,また幼虫はどんな姿をしているのか、やはり自分の目で確認する必要がある。
 
 
 虫こぶの住人の素顔  
 
   幼虫を探索するためには、怪しい果実を見当を付けてザックリ切ってみる必要があるが、必ずしも幼虫の虫室に当たるとは限らず、一方、大当たりで幼虫を惨殺する可能性もある。   
 
   アオキの正常な果実の断面
 大きな種子(核)が収まっている。
    アオキの虫えい果の断面 1
 虫えい果では、ふつう複数の虫室が内部を占拠している。
   アオキの虫えい果の断面 2 
 この虫えい果では小さな核と虫室が同居状態となっている。核を内蔵した側だけの果皮が赤い。
 
     
 
    左の断面写真は、「断面2」と同様に中途半端に成長した核を持っているが、中心部が黒変している。ザックリ切った際には、黒い汁を垂れ流した。

 同様の状態のものが多数見られたが、これが何なのかは確認できない。

 ひょっとすると、虫がへまをして虫室を作り損ねて、核が腐敗したのかも知れない。
アオキの虫えい果の断面 3    
 
     
     
 
  アオキの虫えい果内の幼虫(アオキミタマバエ) 1
 写真で見られる2つの虫室にはそれぞれ1匹の黄色い幼虫が確認できる。 
 アオキの虫えい果内の幼虫(アオキミタマバエ) 2
 
この幼虫はアオキミタマバエとされる。 
   
 アオキの虫えい果内の幼虫(アオキミタマバエ) 3 
 幼虫の体は半透明で,表面には淡黄色の斑紋がある。
 幼虫であることを忘れれば、まるでフルーツゼリーのようで、きれいな色で美味しそうである。
 アオキの虫えい果内の幼虫(アオキミタマバエ) 4 
 幼虫のまわりの透明なぶどう状の組織は、ひょっとすると幼虫が果実を操作してつくらせた自分専用の特製の食べ物であろうか? なぜか汚い糞も見られない。
 
     
 アオキミタマバエの蛹(背面) アオキミタマバエの蛹(側面)  アオキミタマバエの蛹(腹面) 
 
     
 
  羽化が始まった虫えい果 1
 蛹が虫えい果から身を乗り出した状態で羽化し、蛹殻を残す。 
  羽化が始まった虫えい果 2 
 日にちが経過すれば、ひとつの虫えい果でふつう複数のアオキミタマバエが登場する。
   4匹が羽化した虫えい果 
 飛び立つ前のタマバエがとまっている。こうした風景は虫えいを作るタマバエ類に共通したもののようである。 
 
     
 
                  アオキミタマバエ(背面)
 タマバエ類は皆同じように見えて、種類を識別するなどとてもできないが、アオキの虫えい果から羽化したからアオキミタマバエであろう。平均棍が確認できる。ただし、ときに寄生バチが登場する。 
 
                  アオキミタマバエ(腹面)
 
     
 3  しばしば見られる寄生バチ   
     
   アオキの虫えい果(アオキミフクレフシを)を多数採取してプラスチックケースに入れて様子を見たところ、もちろん、アオキミタマバエが次々と羽化してケース内がにぎやかとなるが、しばしば小さなハチが羽化しているのが見られる。

 たぶんアオキミタマバエに取り付いた寄生バチと思われる。産卵から羽化までの具体的な経過はわからないが、アオキミタマバエの蛹を食い尽くして虫室内で羽化し、虫えい果を食い破って脱出しているものと思われる。  
 
     
 
              アオキミタマバエの寄生バチ(♂ 背面)
 体長は約3ミリほどである。種名は未確認。    
 
アオキミタマバエの寄生バチ(♂ 腹面) 
 
          アオキミタマバエの寄生バチ(♀ 背面) 
 捕獲・拘束した際に、触角を損傷してしまった。 
 
アオキミタマバエの寄生バチ(♀ 腹面) 
 
 
     
<参考資料>  
 【日本原色虫えい図鑑】アオキミフクレフシ:
 アオキミタマバエ=アオキタマバエ Asphondylia aucubae によって実が不規則に膨れ、変形するもので、西日本では通常、正常実より虫えい化した実の方がやや小さいが、北日本など寒地のアオキやその変種であるヒメアオキでは後者の方が大きい。虫えいの表面は平滑で緑色、部分的に赤みを帯びることもある虫えい化した実は初夏までは落下しない。内部には1~18個の幼虫が入っている。  
 【虫こぶハンドブック】アオキミフクレフシ:
 形成者:アオキミタマバエ Asphondylia aucubae 
 形状:果実が変形する虫えい。内部は数個の虫室があり、1幼虫を含む。南日本で正常化より小さく、北日本やヒメアオキではやや大きくなる傾向がある。虫えい化した果実の方が、枝に残ることが多い。
 生活史:6月に羽化し、幼果に産卵。1齢幼虫で虫えい内越冬。
 分布:北・本・四・九:佐渡・伊豆諸島・八丈島 
 【虫こぶ入門】
 アオキミフクレフシやエゴノキミフシの場合、タマバエが寄生すると、果実の発育が途中で停止し、正常の大きさに達しないが、これもゴールと呼ばれる。