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続・樹の散歩道
  アカシデの虫えいの虫探し


 アカシデの冬芽に混じって、芽鱗のややゆるい小さな芽が固まって多数ついたような状態のものが少なからずついている風景を見かけるが、実はこれがアカシデで見られる固有の虫えい(虫こぶ)であると聞いた。虫こぶアート≠ェ際限なく存在することに感心するが、これを知ったからには住人の素顔を是非とも確認しなければならない。 【2017.5】 


 「虫こぶハンドブック」によれば、この虫えいを「アカシデメムレマツカサフシ」と呼び、形成者はフシダニの一種(Acalitus sp.)とされる。
 虫えいの呼称は、アカシデで、芽が群れて松笠状になることから、そのまま表現したものである。同ハンドブックでは「鱗葉基部内側に(形成者たる)多数のフシダニが見られる。」としている。さあ、虫えいのサンプルを採取して、早速ながら虫の探索である。
 
 
 アカシデの様子  
 
 アカシデを含むシデ類には、ほかにイヌシデ、クマシデなどがあるが、どれも地味な樹で、花が咲いても全く目立たず、果実(果穂)もガサガサした状態のものがだらしなくぶら下がっているだけで、これも人の目を引くことは絶対にない。木材もシデ類ならではといった特性もなく、薪炭材としての利用がせいぜいである。こうした存在感のなさでは、ハンノキと同類である。ただ、アカシデは葉の印象がやや繊細で、盆栽に利用されることがあるそうで、黄葉もまあまあである。  
 
       アカシデの葉
     アカシデの正常な冬芽
 太い冬芽は雄花芽で、細い冬芽は葉芽又は葉と雌花の混芽である。
      アカシデの芽吹き
 アカシデの芽吹きや新葉は非常に美しい。
     
   アカシデの雄花序と雌花序
 左が雄花序で、右が雌花序。 
      アカシデの雄花序
 個々の苞鱗には雄花が3個収まっていて、個々の雄花には花被はなく8個の雄しべがあるという。 
      アカシデの雌花序
 ピンク色の花柱が美しい。雌花は個々の苞鱗の腋に2個セットで付き、花柱(柱頭)は2個ある。 
     
     アカシデの若い果序 
 果苞は下部で3裂している。
  アカシデの果苞と若い種子
 2個の果苞がセットになって付き、それぞれの基部に堅果が1個つく。 
   アカシデの樹皮(北海道) 
 
   【追記】 アカシデの果苞の由来  
   アカシデの雌花序苞鱗と果序の果苞の形態を比べると、果苞がどのように形成されたのか全く想像もできない。このわかりにくさは別項で学習したシラカバ(こちらを参照)と同様である。そこで、日本の野生植物で学習したところ、その概要は以下のとおりであった。

 アカシデの雌花序では、鱗片状の各苞鱗(苞、1次苞とも)の腋に2個の雌花をつける。各雌花は2次苞(小苞)の基部につき、さらに2次苞の左右に3次苞(小苞)がつく。苞鱗(1次苞)は脱落性で、果穂となった段階では既に脱落しており、一方2個の花から生長した2個の堅果はそれぞれ果苞に抱かれているが、この果苞は2次苞と3次苞が葉状に生長して合着したものと解されている。

 残念ながら、目を凝らしても2次苞と3次苞の境目さえよくわからない。カバノキ科各属の雄花や雌花は目で確認しながら理解するのは難儀であることを痛感するのみである。
 
アカシデの花については改めて別項で観察することとしたい。  (★ アカシデの花の様子についてはこちらを参照
 
     
2   アカシデの虫えい(虫こぶ)   
 
 
    アカシデの虫えい 1の1
 アカシデメムレマツカサフシの名を与えられている。形成者はフシダニの一種とされる。今回の虫探しの対象としたもの。
下方の冬芽は通常のもの
   アカシデの虫えい 1の2
 
左の写真と同じアカシデメムレマツカサフシであるが、左のものは淡緑色であったが、こちらは別の個体で見られたもので赤褐色であった。
    アカシデの虫えい 2
 アカシデメフクレフシの名を与えられている。 形成者は、左と同属のフシダニとされるが、同種かは不詳となっている。
下方の冬芽は通常のもの
 
     
   【追記 2018.4】 アカシデの大きな虫えい    
   アカシデの樹で、前出のアカシデメムレマツカサフシに近似し、大きさがはるかに大きな虫えいを目にした。形成者が同一とは考えにくい印象である。なお、アカシデメムレマツカサフシでは、アカシデの枝が短縮し、枝につく多数の芽が集まり、松笠状になったもの(虫こぶハンドブック)とされるが、芽とすればものすごい数に相当し、理解を超えている。    
     
 
        アカシデの大きな虫えい 1 
 大きめで、形態が変則的である。
         アカシデの大きな虫えい 2
 こちらは特に巨大な虫えいで、径が約5センチほどもあった。
 
     
 肉眼で存在を確認できた虫たち  
 
 鱗葉の基部の内側に棲んでいるようであるが、具体的には少々わかりにくい。まずは一部の芽鱗を適宜押し下げて、全体を観察してみた。

 名前がわからない体長1mm にも満たない、ダニならぬ昆虫が見られたほか、体長が2mm ほどのゾウムシが確認された。彼等がここで何をしていたのかは全く不明である。
 
 
   
         名称未確認の虫
  脚が6本あるからダニの類ではない。
              
 
 
 チビハナゾウムシ 1  チビハナゾウムシ 2    チビハナゾウムシ 3
 
 
 チビハナゾウムシは2ミリほどの極小のゾウムシであるが、一丁前のゾウムシの形態となっている。こうしたユニークな姿から、ゾウムシの仲間は人気者である。本当はダニを探すよりも、ゾウムシを観察した方がはるかに楽しい。  
 
 高倍率でやっと見られた虫たち  
 
 フシダニらしきものの姿は全く確認できないため、倍率を上げて観察したところ、大小の透明な体のダニが多数、虫えいの表面を素早い動きで徘徊しているのが確認できた。ひょっとすると捕食性のダニである可能性を感じた。  
 
        淡色の極小のダニ
  捕食性のダニの幼虫であろうか? 
      成虫と思われる淡色のダニ
  左のダニの成虫と思われる。
 
 
      
 
 冬芽状のアカシデの虫えいらしきものをザックリ縦に切って見られた虫  
     
   フシダニの姿は依然として確認できないため、冬芽状の個々の虫えいをザックリと縦割りにしてみることにした。芽の内側には小さいながらも虫室状の空間が見られ、めでたくフシダニが多数蠢いているのを確認できた。   
     
 
    アカシデの虫えいの
   虫室で群れるフシダニ 1
     アカシデの虫えいの
     虫室で群れるフシダニ 2
     アカシデの虫えいの
    虫室で群れるフシダニ 3

 フシダニと別のダニが接触している。
 
     
 
   
      アカシデの虫えいの
     虫室で群れるフシダニ 4
      アカシデの虫えいの
     虫室で群れるフシダニ 5
 
     
   「鱗葉の基部の内側」という説明には少々迷いが生じたが、要はフシダニの一種が作った冬芽状の虫えいの中にある虫室に棲んでいるということになる。もちろんこの芽はあくまで芽もどき≠ナあり、ダニが何らかの物質で巧みにアカシデを操作した結果の住み家であるから、開芽しないことが知られている。

 いつものことながら、虫が狙いを定めた植物に虫えいを作らせるワザには感心する。どんな手順・手段で住み家を作って、居心地のよい部屋におさまっているのか、そのメカニズムの解明はまず困難と思われる。
 
     
6   イヌシデの虫えい(虫こぶ)とその虫室の住人の様子    
     
   アカシデと同属のイヌシデの枝についても注意して見たところ、形状が異なった虫えいを確認することができた。
 この虫えいには「イヌシデメフクレフシ」の名があり、形成者はフシダニの一種で、「ソロメフクレダニ」の名がある。 
 
     
 
   イヌシデの虫えい 1−1
 枝の太さに対しては大形で径2センチほどあり、タイヤのような形状であった。
   イヌシデの虫えい 1−2
 同左虫えいの裏側である。大きいものは長さ5センチにも達する(虫こぶハンドブック)という。  
    イヌシデの虫えい 1−3
 同左虫えいのの断面の様子である。
 肉眼では住人を確認できない。
 
     
 
    イヌシデの虫えい 2−1
 中形のタイプで、やや歪んだ形状であった。
    イヌシデの虫えい 2−2
 同左の裏側である。
      イヌシデの虫えい 3
 小形のタイプで、鱗片構造が左右対称となっている。
 
     
 
    イヌシデの虫えいのダニ 1
 フシダニがウジャウジャ蠢いていた。 
   イヌシデの虫えいのダニ 2
 アカシデの虫えいのダニよりも簡単にその姿を確認できた。
   イヌシデの虫えいのダニ 3
 このダニの生活史の詳細は不詳という。
 
     
   近年、ビル周辺の緑化木として、意外やイヌシデが植栽されている例をしばしば見るようになり、この虫えいを市街地でふつうに見るようになった。