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続・樹の散歩道
  アカシデの花の観察


 カバノキ科の各樹種の花、特に雌花についてその構造を目で見て実際に理解するのは難儀である。図鑑には各属各樹種毎に微妙に花の構成要素が異なることを詳述しているが、全くついて行けない。誰がこんなに微細な構造を観察して体系的に整理したのか、ただただ感心するばかりである。ちょっと目を凝らして見てもフムフムということにはならないが、アカシデの花をサンプルにして、可能な範囲でその構造を理解すべく努力してみた。 【2018.5】   
 ★アカシデの花序の外観、果実、虫えいの様子についてはこちらを参照 


   アカシデの花の構造(構成要素)については「日本の野生植物」に詳しいが、図鑑によって苞鱗に抱かれた花の数のカウント方法が異なっている。つまり、派閥によって解釈が異なっているものと思われ、要はそれぞれ自由に理解しているようなので、一般人としては、苞鱗内の雄花と雌花の構成要素や形態に重点を置いてなるべく理解するように努めることとしたい。
:以下、花の構造については「日本の野生植物」をベースとする。 
 
     
 アカシデの雄花の様子  
 
 アカシデの雄花序はカバノキ科の他の樹種と共通してヒモ状で垂れ下がり、面白くも何ともないことで意見が一致する地味な存在である。あまりにも地味であるため、早春に一斉に開花しも、そもそも花として認知されないのが普通である。風媒花で虫達に依存しないからこんなものなのであろう。

 図鑑(日本の野生植物)では、アカシデの雄花について次のように説明している。

 「雄花序の各1次苞(苞鱗)には3個の雄花があり、2次苞、3次苞を欠く。雄花は花被を欠き雄しべは8個花糸は2裂して先端に1個の葯室をつけ、葯の先には毛がある。」
注:「樹に咲く花」では、雄花序の各苞に雄花は1個ずつついているとしている。
 
 
    以下はアカシデの雄花序、雄花、雄しべの様子である。  
     
        アカシデの雄花序(部分)
 苞鱗(1次苞)の傘の下に雄花が収まっている。
    苞鱗に包まれた雄花(左は上から、右は下から見た状態) 
 裂開前の葯を数えると16〜26個程度見られた。
 
 
 
   花糸が2裂したアカシデの雄しべ  1(軸側)
 葯の先端部に長い毛があるというのも奇妙なものである。長い毛にどんな意味があるのかは不明である。
  花糸が2裂したアカシデの雄しべ  2(苞鱗側) 
 雄花序を横から見たときに見える毛は、この葯の毛に由来するものであることがわかる。
 
     
 雄花は苞鱗ごとに3個あるとされる。しかし、花被を欠くとされるから、1単位の雄花は識別できない。
 また、図鑑では「花糸は2裂して先端に1個の葯室をつける。」とある。ということは、個々の葯のように見えるのは半葯ということなのであろうか。何やら理解しにくい点である。
 
 
 アカシデの雌花の様子  
 
 アカシデの雌花序では、カバノキ科の他の樹種と同様に細い花柱をチラリと見せているだけであるから、花序を解体しなければ何もわからない。しかし、実は解体してもわかりにくい。

 図鑑(日本の野生植物)では、アカシデの雌花について次のように説明している。

 「雌花序の各1次苞(苞鱗)ごとに2個の雌花をつけ、雌花には1枚の2次苞と2枚の3次苞がある。1次苞は脱落性、2次苞は対をなし3浅裂し、それぞれの基部に1個の雌花がある。雌花の花被は子房に合着し、4−5裂する。花柱は短く、先は柱頭となる。柱頭は2個、糸状に伸び、帯紅色。2次苞は花後に伸長増大し、3次苞とともに葉状の果苞となる。」
注:「樹に咲く花」では、雌花序の各苞に雌花は1個ずつついているとしている。
 
 
   まずは、自力観察の前に、特に雌花について、その詳細のイラストがあると大変理解の助けになるのであるが、残念なことに細部の表現を端折ったものばかりでなかなか見つからない。何とか目にできたのは同属他種の以下のイラストである。2種のイラストの質は異なるが、雌花を構成する要素の配置関係はたぶんこれに近いのであろうと思われる。
 
  2種のイラストのそれぞれ左側は苞鱗(1次苞)に抱かれた2個の雌花の様子であり、右側は1個の雌花を取り出した様子である。いずれも1次苞、2次苞、3次苞が表現されている点はエライ! さらに左側の図では子房の基部を取り巻いている花被まで表現されている。 
 
     
 
        セイヨウシデの花の様子
Carpinus betula:Reprasentanten einheimischer Pflanzenfamilien in bunten Wandtafeln mit erlauterndem
         アメリカシデの花の様子
 Carpinus caroliniana:The Silva of North America
 
     
   以下はアカシデの雌花序、雌花の様子である。   
     
 
                  アカシデの雌花序 1
 雌花は葉が一緒に入った混芽となっていて、雌花序が伸び出た後に葉が展開する。写真の雌花序の基部にあるのは混芽を包んでいた芽鱗である。 
 
     
 
      アカシデの雌花序 2(部分)
 長い毛のある苞鱗ごとに雌花は2個入ついている。 一部に2次苞がチラリと見えている。 
      アカシデの雌花序 3(部分)
 花柱が2裂しているため、各苞鱗を単位に4本の花柱が出た状態となる。
 
     
 
       アカシデの苞鱗に抱かれた2個の雌花
 とりあえずは2個の雌花にそれぞれある2次苞が確認できる。
 3次苞は小さいため、この写真では確認しにくい。
         アカシデの2個の雌花(苞鱗側)1
 苞鱗をはがすと、鳥の翼のような形状の2次苞と小さな3次苞が確認できる。(以下、苞鱗を取り除いて観察した。))
   
         アカシデの2個の雌花(苞鱗側)2
 少し上から圧をかけて、平たくしたもの。2次苞は先端が4〜5裂(図鑑では3浅裂)し、それぞれの先端部は円みのあるへら形で無毛、のちに3次苞とセットで、左右非対称の果苞の鋸歯となるようである。なお、へら形の鋸歯の頂部には小さな付属物が見られる。
      アカシデの2個の雌花(苞鱗の反対側)3
 苞鱗のあった反対側から見たもので、こちら側にも3次苞があり、1雌花当たり2個の3次苞があることが確認できる。
   
           アカシデの1個の雌花 1 
 1個の雌花を分離したもので、翼型の2次苞と2個の小さな3次苞がセットで確認できる。横から見たもの。
            アカシデの1個の雌花 2
 やや角度を変えて、2次苞の反対側に近い角度で見たものである。 
 
     
 
 
    アカシデの雌花の2次苞
 2次苞を背側から見たもの。これを見ると堅果成熟時の果苞が左右不相称であることと一致している。
   アカシデの雌花の2次苞
 2次苞を腹側から見たもので、背側で見られるような長い毛は見られない。 
 アカシデの雌花の子房部分の様子
 雌花では花被が子房に合着しているとされ、写真でも何かが見えるが、これが花被なのかは不明 
 
     
 
          成長途中の果苞 1
 主として2次苞からなる2個の若い果苞が葉状に大きくなっている。裏側には3脈がある。1次苞はまだ脱落していない。
                  成長途中の果苞 2
 若い果苞を分解して展開したものであるが、これを見ても3次苞がどのように2次苞に合着したのかは確認できない。花柱を残した子房が若い果苞に抱かれているが、まだごく小さい。
 
     
   ということで、アカシデの花のおおよそを理解することができた。   
     
 ★ シラカバの雌花の様子についてはこちらを参照  
     
【追記 2018.11】 クマシデの果苞の様子  
   参考としてクマシデの果苞を観察してみた。「日本の野生植物」によれば、シデ属の花の構成要素は皆共通としており、したがって、クマシデの雌花も先のアカシデと同様ということになる。具体的には繰り返しとなるが、「各1次苞ごとに2個の雌花をつけ、雌花には1枚の2次苞と2枚の3次苞ががあり、1次苞は脱落性で、2次苞は花後に伸長増大し、3次苞とともに葉状の果苞となる。」とある。

 そこで現物のクマシデの果苞を確認してみると・・・
 
 
 
             クマシデの果苞 1
 雌花の2次苞に由来すると思われる2個の果苞がセットになっていて、それぞれの基部に1個ずつの種子を抱いているが、各種子の手前側には小さな鱗片が見られる。
          クマシデの果苞 
 左の写真の1個の果苞を分離したもので、暗褐色の種子の手前側に小さな(鱗片)小苞ある。アカシデの場合とは明らかに様子が異なっており、雌花の2個の3次苞が合着・成長したものなのであろうか?
   
            クマシデの果苞 2
 2個の果苞が合着している。
           クマシデの果苞 3
 2個の果苞で構成されているが、一見すると3枚あるように見える。
 
     
   念のためにクマシデの果苞を確認してのであるが、小さな鱗片の形成の経過が謎である。