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木の雑記帳
  イスノキの花と果実をじっくり観察する         


 イスノキは好きな材の一つで、唐木を思わせるような材色と重硬な材質に特徴があり、初めて床材として利用されてた様子を見たのはなぜか主たる自生地からは遠く離れた長野市内のあるオフィスあった。現在ではイスノキの床材は九州でも入手が難しくなっている模様であるが、かつては利用が低位にあった各種広葉樹材の需要拡大を図りたいとする国有林が自ら製品加工をしていたことがあり、長野市の例はその時代の製品の名残であった。(その証拠は後ほど)
 イスノキはある程度自然度が維持された九州の山でみることができるほか、都内の公園でもしばしば植栽されている姿を見ることがある。ただし、何の特徴もない常緑広葉樹であり、その花もあまりにも地味であるために気付かないのがふつうで、自分もその花をじっくり観察する機会がないままとなっていた。 【2016.10】 


 イスノキの花の様子  
 
 イスノキは一般に庭や公園、庭園で使われることはほとんどなく、緑化木としても積極的に使われることがないため、あまり話題にされることのない樹木で、その花も花弁を持たないこともあって、ほとんどの人はその存在に気づかないほどである。しかも、この花が花粉を出す時期はソメイヨシノが咲きそろう時期と重なるのは気の毒である。非常に地味な花であるが、日当たりがよい枝が低い位置にあれば、案外豊かに花を付けているのを目の高さで確認することができる。  
 
               開花期のイスノキ(花粉放出前) 3月下旬
 非常に花付きのよい個体の例であるが、これでも人目を引いていなかった。紅い色は花粉放出前の葯の色に由来するもので、やはり花弁を持たない花は花と見なしてもらえない。 マンサク科イスノキ属の常緑高木(Distylium racemosum)で、ユスノキ、ヒョンノキとも。
 九州では生垣として利用されているのを普通に見かけた。
 
 
 
             イスノキの花 1
 この時点ではまだ花序軸が伸びきっておらず、紅い葯が集合した状態にある。雌しべもまだ出ていない。
           イスノキの花 2
 花序軸が少し伸びて、先端部で淡紅色の雌しべが少し頭を出している。
 
 
        イスノキの花 3
 花は雌雄同株で、花序の上部に両性花、下部に雄花がつくが、全体がごちゃごちゃしていて、1つの花の単位が確認しにくい。。
        イスノキの花 4
 鮮やかな赤色の二又状のものが両性花の雌しべである。花粉を飛ばし始めた状態で、葉の上にもこぼれている。
       イスノキの花 5
 両性花の雄しべの葯がランダムに爆ぜて花粉を放出している。見たものでは総じて両性花が多かった。 
 
 
          イスノキの両性花 1
 子房には星状毛が密生している。
           イスノキの両性花 2
 イスノキは植物体が星状毛だらけで、若枝、花序軸、苞葉、萼片、子房、花柱、蒴果で見られるとされる。
   
         イスノキの両性花 3
 雄しべは5-8本とされるが、この花ではもっと多い。
          イスノキの両性花 4
   
        イスノキの両性花 5
 
        イスノキの両性花 6
 葯は裂開すると鮮やかな紅色を失って暗褐色となり、淡黄色の花粉を放出する。 
   
         イスノキの両性花 7 
  花粉はサラサラと流れ落ちる。こうなると、花が成熟時期にもかかわらず益々目立たない姿となる。
      イスノキの両性花の花柱(部分)
 
花柱の外側には星状毛が見られる。内側の鮮紅色の部分は柱頭に相当する部分である。
   
            花粉を出した葯
           イスノキの雄花 1
 雌しべは退化していて、わずかな痕跡が見られるだけである。 
           イスノキの雄花 2
 
           イスノキの雄花 3
  雄しべの葯が花粉を出し始めている。  
 
 
2   イスノキの果実と種子の様子    
     
   イスノキの果実は毛に覆われ、先端には2裂した花柱が残る。果実が裂開すると2室からそれぞれ1個の暗褐色の艶のある種子を出す。種子の外観はマンサク科のマンサク属やトサミズキ属の樹種の種子と共通した印象がある。いずれも種子のへその部分が斜切形で白いのが特徴である。   
     
 
            イスノキの果実
 
果実の先端部に2個の花柱の基部を残している。
 果実は先端部が開くかたちで裂開する。その際、2つの残った花柱も縦真っ二つにきれいに割れる。
         イスノキの裂開果実と種子
 イスノキの果実では裂開後に内果皮の発射装置によって種子を飛ばす。コクサギの発射装置とは異なり、種子を挟んで飛ばす方式である。
 
     
 
   外果皮を取り除いた果実
 果実は2室に分かれた構造で、薄くて硬い内果皮に種子が1つずつ包まれている。 
   内果皮が開き始めた状態
 この状態では写真のとおり2室の内果皮は簡単に引き離すことができる。 
  種子を放出した後の内果皮 
 シンプルで合理的な種子発射装置である。
 
     
   イスノキの果実は成熟すると、外果皮の先端部の側が大きく開くと同時に種子を収めた2室の非常に硬い内果皮もくちばし状に開き、次いでこのくちばし状の個々の内果皮の基部が種子を両サイドから挟むようにして乾燥・変形することで、種子をバシッと飛ばす(自動散布する)。非常にわかり易いメカニズムで、要は硬い内果皮が平滑な表面をもった硬い種子をギュッと挟んでツルッと飛ばす方式である。(1つの果実に含まれるはずの2個の種子のうちの1つが発育不良のしいなであることがしばしば見られる。)
 同じマンサク科のマンサク(マンサク属)やトサミズキ(トサミズキ属)などでも種子の自動散布のメカニズムは同様である。

 これらの果実はイスノキも含めて非常に地味な存在で、普段は全く見向きもされず、種子を飛ばす瞬間を目にすることも困難であるが、プラスチック製のふた付き保存容器に成熟した果実を多数入れておくと、間もなくパチン、パチンと容器の壁に種子を強く打ち付ける小気味よい大きな音を楽しむことができる。種子の飛距離は確認できないが、相当飛ばしそうな印象である。このようにかなりのパワーを秘めているから、裂開した果実には目を近づけないのが賢明である。とりわけマンサク、マルバマンサク、シナマンサクなどはイスノキやトサミズキよりも種子がひとまわり大きいから、さらに危険度が高いと思われる。

 ★ コクサギの種子発射装置についてはこちらを参照  
 
     
 イスノキの虫こぶと樹皮の様子  
 
 外観として、イスノキが最もイスノキらしく見える姿は、葉に虫こぶ(虫えい)が多数できた状態である。逆に、葉の虫こぶが、特徴のないイスノキの目印、証明になっている。しかし、イスノキの虫こぶは葉に止まらず、葉柄、小枝、果実にまで及び、それほどまでにイスノキは虫こぶをつくる多くの虫たちの格好の餌食となっている。
 さらに、大径材であれは、その樹皮も個性的で、識別の目安になる。
 なお、イスノキの中国名は傑作で、蚊母树(蚊母樹)である。多数の虫こぶから虫が放出されることからきた名前と思われる。
 
 
(1)  イスノキの虫こぶ  
 
   日本原色虫えい図鑑にはイスノキで見られる11種の虫えいが示されている。ふつう目にするのは、以下のように葉表にできる虫こぶ、枝にできる小さな丸い虫こぶと、やや大きめのイチジクの果実型の虫こぶである。   
 
 
   イスノキハタマフシ(表- 
 住人の素顔はこちらを参照
  イスノキエダコタマフシ(表-   イスノキエダナガタマフシ(表- 
 
     
   次は目にする機会は多くないが、イスノキの虫こぶでは最大とされるイスノキエダチャイロオオタマフシである。形状は球形に近いものから、やや扁平なもの、不整形なものと色々で、実際に見たものでは6.5~7センチ程度の長さがあった。   
     
 
 イスノキエダチャイロオオタマフシ 1   イスノキエダチャイロオオタマフシ 2   イスノキエダチャイロオオタマフシ 3 
 
     
   たまたまイスノキの小さな果実にできた虫こぶを目にした。しかも虫こぶの下半分にアブラムシとアリが多数見られた。アリはたぶんアブラムシの甘露が目当てで引き寄せられたのであろうが、これだけのためにわざわざ木を登ってきたアリの探知能力と根性には脱帽である。この虫こぶはたぶん、シイコムネアブラムシによって形成されるイスノキハグキタマフシ(表-と思われる。   
     
 
     イスノキの果実の虫こぶ
 イスノキハグキタマフシと思われる。一般に果実は生育不良となっている場合と少数の種子を含んでいる場合が見られた。
  イスノキの果実の虫こぶ・同左 
 虫こぶの表面がアリとアブラムシで賑わっている。
 イスノキ果実の虫こぶの中の様子 
 虫こぶの中はアブラムシの幼虫(たぶんシイコムネアブラムシ)で満員御礼状態であった。
 
     
  <日本原色虫えい図鑑に掲載されたイスノキに係わる虫えい(抜粋)>    
 
イスノキエダコタマフシ
イスノキタマフシアブラムシ Monzenia globuli の寄生によって、イスノキの芽の基部に緑色、球形で直径9.0~15.5mmの虫えいが形成される。中には直径23mmに達するものもある。壁は薄くて柔らかい。 
イスノキエダチャイロオオタマフシ
モンゼンイスアブラムシ Sinonipponaphis monzni の寄生によってイスノキの小枝に形成される虫えいで、淡黄緑色で表面は光沢なく、褐色の微細な毛状物で被われ、長径35~86mm、側壁の厚さ3.4mmとなり、日本産イスノキ虫えいのうち最大のものである。イチジクの果実状あるいは球形に近く、成熟すると木質化して甚だ堅い。 
イスノキエダナガタマフシ
イスノフシアブラムシ Nipponaphis distyliicola の寄生によって、イスノキの小枝にできる虫えいで、緑色、光沢があり、不整卵形あるいは不整形、先端部が膨大してイチジク果実のような形となる。先端部にとげ状突起を有するものがある。長さ36~40mm、直径16~25mm。側壁の厚さ1.2mmで堅い。
イスノキエダホソナガタマフシ
シロダモムネアブラムシ Nipponaphis litseae (イスノオオムネアブラムシ、イスノキオオムネアブラムシとも)の寄生によって、イスノキの小枝にできる虫えいで、黄緑色、光沢あり、中央部がわずかに膨らみ、丸味のある先端部と基部は細くなる。長さ44~50mm、中央部直径12~20mm、側壁の厚さ約1mmで堅い。シロダモが二次寄主となる。 
イスノキハグキタマフシ
シイコムネアブラムシ Metanipponaphis rotunda の寄生によって、イスノキの葉柄及び果実に、長さ17.5~28mm、直径8~8.5mm、側壁の厚さ0.5mmの細長い虫えいが形成される。有翅胎生虫はスダジイの葉裏で仔虫を産下する。 
イスノキハコタマフシ
イスノアキアブラムシ Dinipponaphis autumna の寄生によって、イスノキの葉裏に細長く突出した長さ4.5~10mm、直径4.2~6.3mm、壁の厚さ約0.4mmの堅い虫えいが形成される。黄緑色で多少赤みを帯びるものがある。葉の表面には円錐形に突出し、壁が薄くわずかに開口する。 
イスノキハタマフシ
ヤノイスアブラムシ Neothoracaphis yanonis の寄生によって、4~6月にイスノキの葉の表面に直径5~10mm、長さ7~8mmで半球形の虫えいが形成され、裏面には円錐形に突出する。虫えいは黄白~黄緑色を普通とするが、日照のよいところや樹の性質によっては、赤~赤紫色を呈するものがある。7月上旬に有翅胎生虫が脱出した後には、虫えいのできた葉はほとんどすべて落葉する。 
イスノキミコガタフシ
イスノキハリオタマバエ(=イスノキミタマバエ)Asphondylia sp. によって、が正常に大きくならず、直径約4.4mm、高さ約4.6mmの順球形~楕円体になる虫えいで、先端には1.8mm前後のとげ状突起が1~3本見られる。表面はやや粗く、淡緑褐色。 
イスノキエダオオマルタマフシ
シイムネアブラムシ Metanipponaphis cuspidatae の寄生により、イスノキの小枝に作られる柔らかい虫えいで、ほぼ球形、直径30~35mm、表面に葉脈状の模様が見られる。
イスノキエダイボフクロフシ
ヨシノミヤアブラムシ Quadratus yoshinomiyai の寄生により、イスノキの小枝に作られる柔らかい虫えいで、表面には不規則な、たくさんのイボ状突起のある大型の虫えいである。直径20~50mm、高さ15~25mmで、中央部はとげ状に突出する。 
イスノキエダオオナガタマフシ
イスノキオオムネアブラムシ Nipponaphis distychii の寄生により、イスノキの小枝に作られる虫えいで、長さ55.6mm、直径23mm、表面平滑であるが、葉脈状模様が見られる。 
 
     
(2)  イスノキの樹皮の様子  
 
   イスノキの樹皮は個性的で、樹齢を重ねることによる変化が見られるが、目を慣らせばすぐにピンと来る。   
     
      イスノキの樹皮 1
 
若い樹ではやや赤味があるか、全く特徴がないかのいずれかである。
      イスノキの樹皮 2
 太い樹になると樹皮がうろこ状に剥がれる。小さな皮目が目立つ。
イスノキの樹皮 3
      
      イスノキの樹皮 4
 
ムクノキに似たような剥がれ方をしている。 
      イスノキの樹皮 5
 
こうした赤味があると、最もイスノキらしい。 
イスノキの樹皮 6
 
 
 
 イスノキの材の様子  
 
 生活用品としてイスノキの材を素材としたものはほとんど見ることはない。もともと西日本の特に暖地で見られる樹種で、硬くて加工が容易ではないことに加えて、現在では出材量が限られていて、販売されている製品としても、見つけ出すのが困難なほどである。ただし、ストックで生産しているのか、宮崎県の都城ではイスノキの木刀が生産されている。なお、イスノキの椅子も魅力を感じるが、見たことがない。  
     
   イスノキのナンコ珠(なんこだま 「なんこ棒」とも)   
     
 
 
            イスノキのナンコ珠(なんこ棒)
    いい色艶である。こだわる向きには、脚付きの台まで存在する。
 
     
   鹿児島県の飲んべえ達が、大好きな酒をもっと飲むためにゲーム的なお遊びの要素を取り入れて、「薩摩拳」などと称してこれを使うことがあるようである。ゲームのルールには関心がない(丁寧に説明しているサイトがある。)が、その小道具に使われるのがこのナンコ珠で、イスノキ製は一般的である。10センチほどのただの角棒であるが、イスノキだけにこの色と質感は魅力で、耐久性も完璧である。水に投入すれば完全に沈む重さである。九州で知り合いにもらったものであるが、当人はこれで肝臓を悪くしてしまったのかどうかは確認していない。   
     
    イスノキの床板(古材)  
     
   イスノキのフローリングは評価が高く、非常に魅力的であるが、既に幻に近い存在である。次に紹介するのはイスノキの床板の古材で、工作材料として保管しているものの端材である、   
     
 
                  イスノキの床板の古材サンプル 
 左のものは幅90ミリ、右側の2つは幅60ミリである。イスノキは暗色のものほど重く、この中では左の2枚は水に沈むが、右の1枚はやや淡色で、表面だけを見せた状態で水に浮く比重である。表面のキズは実際の利用に伴うもので、歴史を感じさせる。
 
     
 
 裏側には「いす床板」の表示とともに、別の箇所には規格が表示されている。

 表示の頭にあるマークは「營林」の文字をデザイン化した昔の国有林のマークである。国有林の直営工場での製品であることがわかる。 
            イスノキの床板の裏側(製品表示)  
 
     
  <イスノキ及びイスノキの材の利用に関する参考メモ>   
 
 ・  「イスノキ」の名前の由来は不明(琉球の方言説がある。)であるが、別名の「ヒョンノキ」の名前の由来については、大きな虫えいを笛にして吹くとヒョンと鳴ることに由来するという説明が定型パターンとなっている。感性の隔たりを感じるだけで、にわかには信じ難く、決してヒョンなどと聞こえない。したがって個人的には信じていない。
 ・  高知県高岡郡檮原町の町名は、「檮の木」(ゆすのき。イスノキの意。)が多く自生していたことに由来する(檮原町)としている。 なお、当町では、ふるさと納税のお礼として、檮原の地名の由来ともなった「梼の木」を使用した手作りの耳かきがセットの一つとなった「木工セット」がメニューの一つとなっているのを見かけた。   
 ・  材は建築(床板・縁板・柱・床柱)、器具(柄・箱・盆・桶樽ことに砂糖樽・ブラシ木地・算盤枠・櫛・茶托・ステッキ・寄木細工)、楽器(三味線の棹・琵琶の撥)、機械・薪炭(木灰は陶磁器製造用)などにし、シタン・コクタンの模擬材にもなる。樹皮からは鳥黐(とりもち)がとれる。【原色木材大図鑑】 
 ・  材は屋柱とし頗る佳致あり之を長く拭へば光沢を生ず又襖、障子の閾(敷居)に用いるときは其走り極めて軽く音を出さず又床板、縁板に供し又櫛、箸、楽器、煙草盆、箱火鉢、机等を作り又盆其他旋工材に供す又柴薪として上等なり又焼て灰となし陶器製造の用(注:釉薬)に供す他の木灰より上等なり又此樹の心材は腐朽せずして永く残存す之をスヌケと称し帯赤紫黒色にして堅し之を以て茶台等を作る 【大日本有用樹木効用編】
 ・  イスノキの櫛や箸は現在でも手に入れることは可能である。なお、イスノキの櫛は歴史があり、皇室とも関係が深いとされる。  
 
     
  <参考:イスノキの材の利用等に関連するサイト内記事>   
  イスノキの柄を付けた耳かき
イスノキの拍子木

イスノキの箸
イスノキのネクタイピン
イスノキのコースター
イスノキ材のサンプル
イスノキの伐倒木の木口の様子
イスノキの様々な虫こぶと有翅虫