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樹の散歩道
   有毒でもないのに危ない実


 コクサギのタネはバシッ!! と飛ぶ? (コクサギの種子散布)
 

 葉が特殊な互生で、左右交互に2個ずつつく「コクサギ型葉序」で知られるコクサギ。果実が乾燥すると白っぽい木質の内果皮がバネのような役目をして、種子を勢いよくはじき出すという。危険防止のため、果実に目を近づけない方がよいとされる。自動散布型の種子散布をする植物の典型的な例として知られている。 


 コクサギの特徴的な悪臭はカンフェンリナロールで、茎葉にはアルカロイド類のオリキシンコクサギンを含有し、中国では根、茎、葉を薬用とし、日本の民間では茎葉を牛馬のシラミを殺すのに外用する(世界大百科事典)という。
  
 名前は、葉をちぎると強い臭気があほか、全体に臭気があることと、本家のクマツヅラ科のクサギより小型であることから、小臭木の名がついたとされる。ミカン科コクサギ属の落葉低木 Orixa japonica 

 残念ながらバシッと飛ぶ瞬間はまだ見ていない。動画サイトでもコクサギの種子散布をネタにしたものは見つからない。弾けるタイミングが図りかねる事情があると思われるが、是非とも高速度カメラで撮影した映像を見たいものである。

1 コクサギ及びその果実の様子 
 
           コクサギの雄花 1
 雌雄異株で、雄花は小さいが総状に多数つけるため、開花期は目につく。
       コクサギの雄花 2
 花弁は4個、雄しべも4個。写真では雄しべの基部周辺に蜜が粒状になって見える。 
   
           コクサギの雌花 1
 雌株の雌花は地味で数も少ないため目立たない。こうして短い柄の先に1個ずつつける。水滴のように見えるのは蜜と思われる。
        コクサギの雌花 2 
 花弁はふつう4個であるが、ときに写真のように1個の萼が花弁状となって、5弁花状となったものが見られた。子房の心皮は4個、柱頭は4裂する。退化した4つの小さな雄しべが萼片の内側に確認できる。 
   
     コクサギの特徴のある葉
 左右交互に2個ずつ葉が付く変則的な形態。
 
        コクサギの果実
 若い果実。果実の分果は3個の場合と4個の場合があり、4個の方が多い。
        コクサギの果実
 この写真の果実では既に抜け殻となっている。
      観察用としたコクサギの果実
 成熟寸前の果実を放置しておいたところ、目を離したすきに、まずは1発が発射済みとなってしまった。外果皮の内側の内果皮が発射装置である。
 結局のところ、知らない間にすべて発射済みとなっていた。種子の砲弾1個は行方不明、発射装置4基は回収した。
 
 この高性能バネ発射装置による実際の飛距離を確認することは出来なかった。

 種子を飛ばす仕組みは、外果皮が一定程度開くことがきっかけとなって、種子を抱くように折りたたまれていたバネのような硬い内果皮が勢いよく伸びきって種子もろとも吹っ飛ぶものであることがわかる。目で追跡することなどできないが、内果皮はこの際に反転()しているという説明を目にするが、どうも反転しているようには見えない。

 内果皮のバネのパワーは乾燥に伴って生じるものと理解されている。
   
 コクサギ種子の散布距離について、狭小な住宅内で調べることは困難であるが、1つの調査事例が「種子はひろがる 種子散布の生態学」(中西弘樹)に紹介されていて、カーペットを敷いた広い部屋での実験結果として、コクサギでは何と最大9.3メートル(転がり距離を含む)を記録したとしている。 
 

2 コクサギの内果皮の様子 
 
 コクサギ種子の発射装置である内果皮の様子、特にその展開の展開の様子については、発射後の様子を見てもなかなかイメージをつかむことができない。そこで、成熟前の果実をサンプルとして、内果皮の様子を確認した。本当はコンピューターグラフィックスによるアニメで表現することができればよいが、これは簡便な代替手段である。

 以下の写真は、若い果実の外果皮を取り除いた状態の種子を覆う内果皮について、乾燥に伴う変化を捉えたものである。乾燥した果実では内果皮は一瞬で弾けるが、未熟果実では徐々に乾燥する過程でその形態的な変化のおおよそを理解することができた。

 内果皮の形態的な変化を指して、反転する≠ニ表現している例が見られたが、カタバミの種子の膜の挙動とは異なり、表現としては適当ではなく、3次元的に伸張するといったイメージである。  
 
 

          コクサギの内果皮の形態的な変化の様子(若い果実をサンプルとしたもの)
   コクサギの内果皮      NO.1
 内果皮が一部がわずかに開き始めた状態で、内果皮は種子の全面を覆っているものではないことがわかる。
(以下種子の右方向が果軸側である。)  
  コクサギの内果皮 
  NO.2 

 内果皮が次第に反り返ってきた状態。
  コクサギの内果皮 
  NO.3
 
 内果皮の下側が次第に深く裂けている。
コクサギの内果皮NO.4 −A 
 内果皮の形態的な変化がほぼ完了した状態である。
コクサギの内果皮NO.5 −A 
 内果皮が大きく変形して、種子が転がり出た状態である。
                  ↓ 裏側  ↓ 裏側
     
    コクサギの内果皮NO.4 −B  
 上の写真の裏側の様子である。
コクサギの内果皮NO.5 −B  



【2016.4 参考追記】 エニシダの送受粉の戦略
 
 エニシダの雄しべと雌しべはバシッ!! と跳ね上がる 
 
 特に危険性はないものの、エニシダの花でも バシッ!! とやる風景が見られることが知られている。
 こちらは、花にとまった虫たちを利用した花粉の送・受粉システムである。 
 
 
    エニシダの雄しべと雌しべが姿を表す前
 蜜の用意もしないで虫を待ち構えている。
 ヨーロッパ原産のマメ科エニシダ属の落葉低木( Cytisus scoparius )で、魔女の箒はこの枝を束ねてつくったものということになっている。
  雄しべと雌しべがバシッと跳ね上がった状態 
 ハナバチが蜜を求めて旗弁の下に頭を押し入れようと翼弁と竜骨弁に載ってふんばると、長い雄しべと雌しべが勢いよく跳ね上がってカールし、ハチの背中を打ち付けて、花粉まみれにするというシナリオが用意されている。
 
    エニシダの跳ね上がった雄しべと雌しべ 1
 雄しべは10本あり、このうちの長い4本とめしべが開いた竜骨弁から飛び出す。特に雌しべの花柱の巻き込むパワーは大きいと思われ、ぐるりと輪を描いている。(手前の翼弁と竜骨弁を取り除いた状態で撮影したもの。右写真も同様)
   エニシダの跳ね上がった雄しべと雌しべ 2
 カールしない短い雄しべが5本固まっていて、こちらはハチの腹にも花粉を付けようというのであろうか。なぜか、短い雄しべが1本だけ孤立して右側に見られる。
 
 バネのようなパワーを貯えた雄しべと雌しべが竜骨弁の中でどんな形でどんなかたちで納まっているのかは直接見ることはできないが、少々もどかしいものの日に透かしてみた。 
 
 
                      エニシダの竜骨弁を日に透かした状態
 竜骨弁は貝のように閉じていて、上から力がかかると上側のみが開き、下側は合着したままであるため船型となる。4本の長い雄しべの葯は頂部に納まっている。それより長い雌しべは、竜骨弁の底部に沿って伸びて納まっていると思われ、リング状のバネを引き延ばしたような緊張状態にあり、飛び出したくてうずうずしているに違いない。
 雄しべと雌しべが虫の上を回り込んで背中を打ち付けるのは合理的なシステムである。もし、虫の腹を直接打ち付けるような動きであれば、ハナバチなどはその勢いのすさまじさによって一気に吹っ飛んでしまうことであろう。
 
<エニシダを訪れていた花バチたち> 
 エニシダの開花時期にはハナバチが多数飛び交っていて賑やかである。しかし、蕊がバシッと反応する姿はなかなか見ることができない。しばらく様子を見ていたが、下の写真のハチたちは、専ら花粉集めに専念していたのか、蕊が露出した花を次々と訪れていた。 
 
  エニシダの花とハナバチ 1
 こうした小さなハチでは、蕊は跳ね上がらないであろう。 
  エニシダの花とハナバチ 2
 脚に花粉団子を付けている。 
  エニシダの花とハナバチ 3
 左とは別種であるが、これも大きな花粉団子を付けている。 
 
<メモ> 
 ・  和名のエニシダは、以前の属名 Genista のオランダ読みエニスタの転訛。(APG原色牧野植物図鑑) 
 ・  エニシダほどではないが、ヌスビトハギコマツナギの花もハナバチが訪れたとき破裂する。(花に秘められたなぞを解くために:田中肇) 
 ・  同じマメ科のフジゲンゲの花の場合は、ハチがとまると雄しべ雌しべが舟弁から飛び出してハチの腹にあたり、ハチが去ると舟弁の中に戻る。(花の声) 
 ・  茎や枝にはアルカロイド及びその異性体を含み、ヨーロッパでは強心、利尿剤として用い、わが国でもジギタリスの代用に利用した。(植物観察図鑑)  
 ・  エニシダは国内で法面緑化にも利用されるが、米国でははびこり植物として問題になっている。