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続々・樹の散歩道
 カキノキの仲間たち
 目にするカキ類のさまざまな表情


 カキノキは市街地を除く庭のある住宅では、かつては普通に見られた生活密着型の果樹であったが、最近は庭があっても新しい住宅地ではカキノキがたわわに実を着ける風景はまず見られないであろう。ただし、農山村部ではカキノキは今でもふつうに見られ、日本のなつかしい風景を残している。個人的には甘柿が身近な存在であったことから、渋柿の渋抜きをしたり、干し柿を作ったりしたことはないが、あまりにも当たり前のカキ類について、ちょっとだけ学習してみると、知らないことだらけであったことに気づかされた。 【2019.12】
ここでは、カキノキ属のうち、甘柿や渋柿が含まれる種である Diospyros kaki を和名としての「カキノキ」と呼ぶことにする。


                    カキノキのあるふつうの風景
 かつては日本のふつうの風景であったが、現在でも都市部以外であれば見られる。品種は確認していないが、たぶん渋柿類と思われる。12月上旬
 
               カキノキの豊かな実り(四溝・よつみぞ・完全渋柿)
 10月下旬の風景で、厚手の緑色の葉がまだ残っている。この品種は完熟させて生食するか、干し柿にするそうである。 
 
 
 
       カキノキ(四溝)の美しい紅葉 
 これだけ鮮やかで美しいから、料理の添え物になりそうである。 (11月中下旬)
       カキノキ(四溝)の成熟果実
 落葉すると、目に眩しいほどの柿色の成熟果実は人だけでなく、野生動物も引き寄せられる。(12月上旬) 
 
     
 カキノキ等に関して不勉強状態で、ふと感じた素朴な疑問点等を以下に掲げて、可能な範囲で整理してみる。  
 
 食用のカキノキは中国原産なのか  
 
   カキノキの原産地については、この名前だけを見れば、中国名が「柿(柿科 柿属)」であることを確認しただけで、中国原産なのであろうと想像できる。さらに、和名のカキノキ(柿の木。単にカキ(柿)とも。)自体が、中国名の「柿」をそのまま踏襲したものであろうことがわかる。

 そこで、念のために国内の図鑑を見ると、 
 
 
【牧野新日本植物図鑑】
カキノキは日本の西南部の山中に自生するが、広く栽培される。
【樹に咲く花】
中国原産といわれる。
【植物の世界】
(カキノキは)日本からは地質時代の化石が知られておらず、有用な樹木であるのに奈良時代より前には遺跡からの出土もない。最近では中国原産説が有力である。
【世界大百科事典】
日本へは、最近の研究では奈良時代(8世紀)に中国より渡来したとする説が有力である。
【改訂日本の野生植物】
古く中国から移入され、本州、四国、九州にふつうに栽培され、また各地で野生化している。中国に自生する。 
 
 
 山中に自生するとする記述も見られるが、近年は中国原産説が優勢となっている印象である。そこで中国植物誌を見ると、

【中国植物誌】
カキノキ(中国名:柿)は中国長江流域原産で、中国各地、朝鮮、日本、東南アジア、オセアニアほか世界各地で栽培される。


と淡々と記述されている。中国以外で自生があるとの決定的な証拠がないことによる見解と思われ、まずは中国原産地説を受け入れることにしたい。

 なお、日本語のカキの音の由来については、諸説あって収束していないが、例えば果実の色を意識した「アカキ(赤木)」がなまったものとするという説も見られて興味深い。
 
 
 そもそも食用のカキノキ(甘柿、渋柿)の原種は何なのか  
 
 ここで素性がよくわからない存在としてのヤマガキが絡んでくる。堂々とヤマガキであるとして展示植栽されている例が少ないが、和名だけをとらえれば、ひょっとするとこれがカキノキの原種ではと思わせる。図鑑では次のように記述が見られる。  
 
【樹に咲く花】
ヤマガキは葉がやや小形で毛が多く、子房にも毛がある。本州、四国、九州、済州島、中国に分布する。日本のものはもともとの自生かどうか不明。
【植物の世界】
中国、朝鮮半島、日本には野生状態のヤマガキ Diospyros kaki var. sylvestris があるが、もともと日本にあったものかどうかわからない。
【改訂日本の野生植物】
ヤマガキDiospyros kaki var. silvestrisカキノキからの野生化と見られる。中国中部から南西部に自生する。若枝、葉柄、葉身に褐色毛が密生し、果実は径2-5センチ。
【APG原色牧野植物大図鑑】
カキノキ Diospyros kakiヤマガキを原種とし、改良されて広く植栽される落葉高木。
【中国植物誌】
ヤマガキ Diospyros kaki var. silvestris (中国名:野柿)は山野の自生柿で、小枝と葉柄は黄褐色の柔毛に覆われ、葉は栽培柿に較べて小さく、葉の下面は毛が多く、花や果実も小さい。中国中部、雲南、広東・広西北部、江西、福建等省区の山地に産する。 
 
 
   見解は見事にバラバラで、ヤマガキに関する記述を整理すれば、①日本に分布するが、自生か否かは不明。 ②ヤマガキはカキノキが野生化したものである。 ③ヤマガキはカキノキの原種である。 ④ヤマガキ(中国名:野柿)は中国山野の自生柿である。
 

ということになる。カキノキがヤマガキを原種として改良したものとする見解が広く支持されているという印象はなく、ヤマガキの学名もとりあえずはカキノキの変種扱いである。ナツメの場合(こちらを参照)と同じで、栽培の歴史が長い植物の系譜はよくわからないのであろう。 
 
 
 目にする小粒の柿は雌雄異株なのに食用柿はなぜほとんどが雌雄同株なのか  
 
 庭にカキノキがあっても花の性型について注意したこともなかったが、カキノキ属の性型はややこしい。加えて図鑑によって記述内容にも違いが見られるから悩ましい。カキノキの仲間及び目にするその他のカキノキ属樹種の花性に関する情報の概要は以下のとおりである。  
 
 カキノキの場合

 甘柿品種(完全甘柿)の富有柿次郎柿、渋柿品種の平核無(ひらたねなし・不完全渋柿)、市田柿(完全渋柿)など、特定のカキノキでは雌花だけをつけるとされ、受粉樹がなくても一定の結実(単為結果)がみられるという。

 その他の多くの品種は雌雄同株の印象があり、現物で検証すると、例えば完全渋柿の祇園坊(ぎおんぼう)、四溝(よつみぞ)、堂上蜂屋(ドウジョウハチヤ)、不完全甘柿の禅寺丸(ぜんじまる)、豊岡(とよか)のいずれも雌雄同株で、雄花と雌花の両方が同居していた。

 こうして、雄花と雌花の両方をつける品種でも、木や枝の栄養状体や生理条件によって雌花と雄花の比率が変化したり、両性花をつけたりすることがあるという。
 
     
    【参考:カキノキ果実の横断面の例】  
 
   
           富有柿(市販品)
富有柿は単為結果性は低いため、受粉樹の混植が必要。種子のない果実は扁平で小型、頂部がくぼみ、色が淡い(原色果実図鑑)。 果実は総じて丸っこい。
        富有柿の横断面(同左) 
 種子は平均3個程度とされ、人工授粉をした場合には5~6個の種子ができるという。上の写真の例ではひとつは種なし、もうひとつは種子が4個であった。その他、種子が6個のものも見られた。子房は8室。
 
     
 
 
           次郎柿(市販品) 
 次郎柿の果実は扁円形で、頂部に浅く広い8条の溝があり、4条は蔕部に及ぶ。富有より大果。単為結果性は富有より強い(原色果実図鑑)。果実は総じて扁平で四角い。
         次郎柿の横断面(同左) 
 果肉はやや硬め。商品としては従前から種子が少ないことで知られ、近年は種なしのものの流通が多いようである。上の写真の例では完全な種なしである。子房は8室。
 
     
 
     次郎柿の横断面(親戚の庭先の単木) 
 子房は8室より多いということになるのか、変則的で理解が難しい。単木であるが、どこかの花粉をもらうのか、0から3個の種子が入っていた。
   五角形の次郎柿の外観と横断面 (浜松産販売品)
 たまたま五角形の次郎柿を見かけた。変則的な子房を期待して割ると、やはり種なしであったが、子房が10室であった。
 
     
 
   
            平核無(市販品) 
 平核無は偽単為結果性があって、受粉しても胚乳の発育が停止するために種子形成が阻害されて、種子ができないという。子房は8室。
     比較用: リュウキュウマメガキ 
 リュウキュウマメガキは雌雄異株である。上の写真は雌株単独の個体の果実の例で、子房は8室とされるが、これは変則的で11から12室となっていて、種なしである。別の年には不思議なことに種子が入っているのを確認している。こうした生理はよくわからない。
   
   
         比較用: マメガキ A
 マメガキは雌雄異株で、子房はふつう8室である。写真は雌株が2本植栽されていたものの1本の果実で、どこからか花粉をもらったのか、種子が1~4個みられた。  
          比較用: マメガキ B
 もう1本のマメガキの果実で、こちらは全くの種なしであった。しかも、写真の例では子房が8~9~10室となっている。 
 
     
  中国植物誌では、カキノキ属では子房は2~16室あり、室ごとに胚珠が1~2顆存在するとしている。   
     
 
カキノキ・豊岡(とよか・不完全甘柿)の雄花  カキノキ・豊岡(とよか・不完全甘柿)の雌花 
   
 カキノキ・禅寺丸(ぜんじまる・不完全甘柿)の雄花 
 本種は受粉樹して広く利用されている模様である。
カキノキ・禅寺丸(ぜんじまる・不完全甘柿)の雌花 
 
     
   しかし、カキノキの性型に関しては、雄花と雌花に加えて両性花が存在するとして、一般論の説明をしていることが多く、以下のような記述例が見られる。   
     
 
カキノキの花は雌雄同株(樹に咲く花) 
カキノキの花は雄花、雌花、両性花があり、株によっては雄株・雌株に見えるものもある。(世界大百科事典) 
カキノキの花は両性花と単生花が混在する雌雄雑居性(植物の世界) 
カキノキの花は雌雄雑居性(改訂日本の野生植物) 
カキノキの花は雌雄異株であるが、時折雄株に少数の雌花があり、雌株には少数の雄花がある。(中国植物誌) 
 
 
注1  雌花しかつけないとされる品種でも、ときに雄花をつけることがあるという。 
注2  雌雄同株の品種では、樹勢が弱い枝には雄花がつき、樹勢の強い強い枝には雌花が着生することが経験的に知られている。(果実の事典) 
 
     
   両性花については見極めたことがない(そもそも眼で見ても、雄しべが本当に機能しているのか否かはわからない。)ため、これについてはよくわからない。さらに、原産国の中国植物誌の記述については、まったく異なる構図となっており、別世界のようであり、もはやコメント不能である。   
     
 その他のカキノキ属樹種の場合    
     
   その他の目にするカキノキ属樹種では、雌雄異株が多いようである。   
     
 
種名 学名 分布・花の性型
ヤマガキ Diospyros kaki var. silvestris 中国に自生。中国名:野柿。国内の山中で見られるものは素性不明。学名上はカキノキの変種であるが、カキノキの原種とする見解も一部にある。花は雌雄同株
マメガキ Diospyros lotus 中国、インド、西アジア、ヨーロッパ南部に分布する落葉高木。中国名:君迁子(君遷子)。日本には古く中国から渡来したと考えられている。花は雌雄異株
トキワガキ Diospyros morrisiana 日本、台湾、中国、ベトナムに分布する常緑小高木。中国名:罗浮柿(羅浮柿)。花は雌雄異株
リュウキュウマメガキ Diospyros japonica 日本に自生し、台湾、中国に分布する落葉高木。中国名:山柿。花は雌雄異株
セッコウガキ
(リュウキュウマメガキ)
Diospyros glaucifolia
Diospyros japonica
(中国に分布。近年リュウキュウマメガキと同一種とされた。旧中国名は粉叶柿(粉葉柿)
シセントキワガキ Diospyros cathayensis 中国四川西部ほか各地に分布する常緑又は半常緑小高木。中国名:乌柿(烏柿)。花は雌雄異株
ロウヤガキ Diospyros rhombifolia ツクバネガキ(衝羽根柿)とも。中国原産の落葉小高木。中国名は老鸦柿(老鴉柿)で、和名は中国名の日本語読み。花は雌雄異株
アメリカガキ Diospyros virginiana アメリカマメガキとも。北アメリカ原産。花は雌雄異株
 
 
リュウキュウマメガキ及びマメガキについてはこちらを参照
セッコウガキについてはこちらを参照
シナノガキの名はいろいろな捉え方があるため、ここでは使わない。
 
     
 
 
    ヤマガキ(成熟前) 
 なんと、横浜市こども植物園に植栽されていた!!
耳柿(ヤマガキの変わり品種) 
(横浜市こども植物園展示品)
トキワガキ 
     
 シセントキワガキ ロウヤガキ 1  ロウヤガキ 2 
     
マメガキ  リュウキュウマメガキ  アメリカガキ(落果) 
 
     
 
           柿の盆栽(千成柿)
 「千成柿」の名は、盆栽界でのマメガキの別名である。 展示販売品で、3万8千円としている。  
          柿の盆先(姫柿)
 説明札には「姫柿 20年」としている。「姫柿」の名は盆栽界でのロウヤガキの別名である。
(皇居東御苑展示品)
 
     
   さて、この項で掲げた疑問の「食用柿はなぜほとんどが雌雄同株なのか」についてであるが、雌雄同株のヤマガキをカキノキの原種と考える見解が正しければ、多くの食用柿が雌雄同株であることと矛盾がないような印象がある。また、いくつかの品種で雌花しかつけないものがあることについては、人為的な選抜過程で登場したものと解される。   
     
 カキノキの雄花では本当に雄しべが16個あるのか   
     
   カキノキの花に関して、雄花では雄しべが16個あり、雌花では退化した雄しべが8個ある(改訂日本の野生植物、原色日本植物図鑑、樹に咲く花、)としている。そこで、念のために身近にあった渋柿でその様子を見ると、雌花の仮雄しべはそのとおりであるが、雄花の雄しべについては16個あるようには見えない。
 そこで原産国の中国植物誌を見ると、「カキノキでは雄花の雄しべは通常16~24個(中国植物誌)」としている。
 これだけ幅の広い数字となっているのも意外であるが、目にしたものは、そもそも16個の半分しかないように見える。つまり、短い花糸自体が8個しか見当たらないのである。 
 
     
 
            渋柿の雄花 1
 雄花の萼は小さく、中心に淡褐色の葯だけが見える。
           渋柿の雄花 2 
 花冠の手前側を除いたもので、長い線形の葯とごく短い花糸を持った雄しべが姿を見せている。  
   
            渋柿の雄花 3
 雄花の縦断面である。
            渋柿の雄花 4
 雄花の雌しべは退化していてごく小さい。
   
           渋柿の雄花 5
 花冠を展開した状態で、一見すると雄しべは8個に見えるが、実は倍の16個あるとされているから、2個の雄しべの短い花糸が合着しているということなのか。このことに関する講釈事例を目にしない。
             渋柿の雌花 1
 雌花では萼が大きく、4個の花柱をもつ。
   
 
            渋柿の雌花 2
 雌花の雄しべは退化した仮雄しべで、小さくペラペラである。
            渋柿の雌花 3 
 雌花の仮雄しべは写真のとおり8個あるとされている。決して、2個の仮雄しべが合着して16個あるなどとはいわれていないのであるが、キッチリ見た場合にはひょっとすると16個というのが正しいのかも知れない。
 
     
   そこで、改めて、図鑑のカキノキ属及びカキノキの通性を確認すると、   
     
 
【改訂日本の野生植物】
カキノキ属では雄花には8~16(~60)個の雄しべがある。雄しべは花冠筒部の基部に着生して、2室で内側に縦裂する長い線形の葯があり、花糸は葯より短く、ときに合着することがある雌花では仮雄しべとなる。
カキノキでは雄花には16個の雄しべがある。雌花には退化した8個の雄しべがある。
【中国植物誌】
カキノキ属では雄花の雄しべは4個から多数で、通常は16個、ふつう2個が連生して対を成して2列となり雌花では退化雄しべが1~16個又は無雄しべ
カキノキでは雄花雄しべは16~24個で、花冠管の基部に着生し、連生して対を成す雌花には退化雄しべが8個あり、花冠管の基部に着生する。 
 
     
   これらの説明から想像すると、カキノキの雄花では、たぶん2個の雄しべが合着した状態になっているものと思われる。現物ではわかりにくい。   
     
5   渋柿の品種は多数存在するのに なぜ甘柿の品種が少ないのか   
     
   国内で栽培されている甘柿は、国内の渋柿の突然変異に由来するものとされ、わずかな系統のものに限られていて、これらの種の交配では近交弱勢が生じ、これが新たな品種開発の壁となっていた模様である。   
     
6   中国には甘柿はないといわれてきたが・・・   
     
   かつては甘柿は日本のみで発現したものと信じられていたところであるが、中国の湖北省羅天県にもタイプの異なる甘柿(完全甘柿)が 存在していることが確認されて、「罗田甜柿(羅田甜柿)」と命名されている。このため、国内ではこの柿を利用した新たな甘柿品種の育成の取組も見られるという。   
     
7   甘柿と渋柿の違いは何に由来するのか   
     
   「果実の事典」では以下のように説明している。

 カキノキは大きく甘柿と渋柿に分けられているが、甘柿でも渋柿でも幼果期の果実は強い渋みを呈する。これは渋味成分であるタンニンを特異的に蓄積するタンニン細胞とよばれる異形細胞が多数存在するためである。渋柿では収穫後の二酸化炭素等による人為的脱渋処理によって生じる揮発性物質(アセトアルデヒド)との反応で、この縮合型タンニンをより高分子化し、水に不溶とすることで渋味を消失させ、食することを可能としている。
 
 なお、従前からカキノキについては渋の抜け方によって、次のような4分類が採用されている。少々めんどくさいが、横浜市のこども植物園では95種のカキノキの品種が植栽されていて(2019年現在)、何と個々の樹名板にはこの区分が明示されていることもあり、仕方なく学習することにした。 
 
     
 
甘柿 完全甘柿 種子の有無にかかわらず、樹上で堅いうちに完全に渋が抜ける。果肉に多少の褐斑ができる。(富有次郎、御所など)
受精の良否に影響されない面から「完全」と表現される。
PCNA(Pollination Constant and Non-Astringent)
不完全甘柿 種子が多くなるほどその周辺部の果肉に褐斑(果肉中のタンニン細胞が凝固・不溶性となって褐変したもの)がふえ、渋抜けがよくなる。渋抜けの度合いが高いものを甘柿と呼ぶ。種子が少ない場合は渋柿となってしまう。(禅寺丸、甘百目、久保、水島、西村早生、筆柿など)
PVNA(Pollination Variant and Non-Astringent)
渋柿 不完全渋柿 種子の周辺のわずかな褐斑部分のみ渋が抜けるが、果実は渋柿となる。平核無はふつう種なしで褐斑もない。(平核無、甲州百目、利根早生など)
PVA(Pollination Variant and Astringent )
完全渋柿 種子の有無にかかわらず、軟熟するまで完全に渋が抜けない。果肉には褐斑ができない。(堂上蜂屋、四ッ溝、愛宕、西条、市田柿など)
PCA(Pollination Constant and Astringent)
 
  (世界大百科事典、植物の世界ほかより)  
     
   果実の事典では、不完全甘柿と完全甘柿の甘さの発現のメカニズムに関してはおおよそ次のように説明している。

 不完全甘柿では、種子から揮発性成分(アセトアルデヒド)を多量に放出する形質を有していることにより種子周辺が脱渋し、完全甘柿では果実内でのタンニンの合生・蓄積が生育初期に停止し、果実肥大に伴ってタンニン濃度が希釈によって減少することによる。 
 
     
8   渋柿を簡単に渋抜きする方法は   
     
   自分の家の庭に渋柿があれば、渋抜きをする方法を選択するか、干し柿とするかを考えるかも知れないが、いずれも面倒であるから、まったく想定もできない。放置すればしっかり熟して甘くなると思われるが、鳥の餌となる可能性も高い。

 参考のために渋抜きの方法を調べてみると、オーソドックスなのは、湯に浸す「湯抜き」エチルアルコールを噴霧、密閉する「アルコール脱渋」ポリ袋にカキとドライアイスを入れて密封する「炭酸ガス脱渋」が知られている。
干し柿も一種の脱渋で、乾燥によってタンニン物質が不溶化されるという。 
 
     
 
                     メジロがカキノキをついばむ風景 
 完熟した柿は、鳥たちにとっては腹一杯食べられる極上のご馳走のようである。食べかけの果肉が露出した果実には、ときにチョウがとまっていることもある。
 
     
9   柿渋の作り方   
     
   柿渋の原料は未熟なカキノキやマメガキなどの果実を使うようである。柿渋はホームセンターの塗料コーナーでも置いているが、さて、これをだれが何のために購入するのであろうか。かつてのように渋紙を作ったり、漁網に塗ったりすることなどはあり得ないし、素人が漆器の下塗りをしたり、清酒製造時の濁りをとる清澄剤とすることもあり得ない。人に優しい自然塗料であることは確かであるが、現在の基準で見ると、機能性に優れているともいえない。考えてもわからないが、伝統的な塗料であることから、参考として柿渋(中国では柿漆と呼ぶ)の作り方を調べてみた。この手の話は樹木大図説に詳しい。   
     
 
【柿渋の作り方:樹木大図説】
品種は小型で渋の強いもの、必ず未熟で堅いもの(1個でも熟柿が混ずると醗酵して渋は腐る)をよしとし、これを石臼に入れ、百数十回つき砕き、これに水を少し加え樽に移し、毎日1回かき廻す、蓋をして日の当たらぬ冷所に1週間貯える、次に麻袋に入れて漉し、その液を桶に入れて密閉し冷所に置く、半カ年後に透明な澄液をうる、これが一番渋である。カキの実10貫から1升の渋がとれる、何年でも貯えられる。 
 
     
10  中薬としての柿   
     
   中薬としてのカキノキ等の利用は植物体のすべてに渡っていて興味深い。これらの一部の知見は漢方民間療法に取り入れられている。   
     
    カキノキ等の中薬としての利用(中薬大辞典より抜粋)  
 
中薬名 基原 薬効と主治
柿根(シコン) カキノキの根あるいは根皮 血を涼め止血する効能がある。血崩、血痢、痔瘡を治す。
柿子(シシ) カキノキの果実 清熱する、肺を潤す、止渇スルの効能がある。熱渇、咳嗽、吐血、口瘡を治す。
柿漆(シシツ) カキノキ及びその同属植物の未熟な果実を加工して得られる漆状の液
(日本でいう柿渋と同様と思われる。)
高血圧を治す。
柿霜(シソウ) カキノキの果実を柿餅にするとき表面に生ずる白色の微粉末
注:中国語の柿餅は日本語の干し柿の意。日本では柿餅とは米粉と練って蒸した菓子を指す。
清熱する、燥を潤す、痰を化すの効能がある。肺熱燥咳、咽乾喉痛、口舌生瘡、吐血、喀血、消渇を治す。
柿皮(シヒ) カキノキの外果皮 疔瘡、無名腫毒を治すにはこれを貼る。
柿木皮(シボクヒ) カキノキの樹皮 下血およびやけどを治す。
柿餅(シヘイ) 柿の果実を加工し餅状の食品にしたもので白柿、烏柿の2種類がある 肺を潤す、腸を渋らせる、止血するの効能がある。吐血、喀血、血尿、腸出血、痢疾を治す。
柿蒂(シテイ) カキノキの宿存萼 逆気を降ろす。強度のおくび、嘔吐を止める。
 
     
  <雑件メモ>   
     
 
 ・   カキノキの属名Diospyros はdios (神)と pyros (穀物)のギリシャ語が語源で、「神の食べ物」の意である。また、種小名にはカキ(kaki)がそのまま使用されている。(果実の事典)
 ・  カキノキ属は日本には6種が自生する。(改訂日本の野生植物)
 南の島々でみれるのがヤエヤマコクタン(常緑)、ヤワラケガキ(常緑)、リュウキュウガキ(常緑・果実は有毒)、オルドガキ(落葉)で、本州等でもみられるのがトキワガキ(常緑)、リュウキュウマメガキ(落葉)である。 
 ・  カキノキ属は中国には57種、6変種、1変型、1栽培種が存在する。(中国植物誌) 
 ・   京都大学の田尾龍太郎 農学研究科准教授と赤木剛士 同助教は、Luca Comai カリフォルニア大学ディビス校教授、Isabelle M. Henry 同研究員とともに、マメガキを研究材料として植物で初めて雌雄異株性の性決定因子を発見したとされる。(2014年発表) 
 
     
  <参考: 店頭で見かけた法外な価格のカキノキの例>   
     
 店舗の果物コーナーでは、主として贈答用を意識したものと思われる気合いの入った大玉の柿がふつうに見られ、それなりの価格となっているのは承知していたが、ある店の前を通りかかったときに、とんでもない価格で販売されている柿を目にした。  
     
なな何と! 1玉680円(税抜)の甘柿である!

 福岡県産「秋王(甘柿)」としている。

 大きさは、ひとつ百円程度で販売されている種なし柿、次郎柿、富有柿などと変わりはない。毎年繰り返す市場関係者による初競りの八百長入札なら、ウンザリするほど見ているが、これも市場評価とは無関係な価格設定と思われる。
 
 調べてみると、「秋王」の名の柿は、平成13年に福岡県農林総合試験場が甘柿の富有太秋(たいしゅう)を交配して育成したもので、平成24年に品種登録した柿の新品種(品種名:福岡K1号)で、「秋王」の名称で商標登録を行い、平成27年10月に販売を開始したものとされる。

 本種は糖度が富有柿より1~2度高く、サクサクした食感で、種がほとんどないことをウリとしている。

 とりあえずは、苗木の供給も福岡県内に限定した扱いとしている模様である。果実がカボチャほどの大きさであれば、この価格はあり得なくもないが、今後、どの程度の価格に落ち着くのか、しばし静観である。