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続々・樹の散歩道
  都会の片隅のカキノキの仲間の素性を探る
   
ビルの谷間の謎の樹木 その2


 今回の課題は、都内の運河沿いのビルの脇の薄暗い半端なスペース(道路あるいは運河の附属地か?)で見られた樹木である。葉は艶やかで、何よりも若い果実が多数ついており、その形態からは明らかにカキノキ科カキノキ属の樹木である。胸高径は16センチで、一般に見る各種カキノキ類であれば、この程度の径でも樹皮がそれらしいゴツゴツした割れがあるのがふつうであるが、この樹では樹皮が荒れていないのが不思議である。果実や樹皮の図鑑情報からは、リュウキュウマメガキの可能性を示しているように思えるが、これだけで、しかも果実がまだ若い時点で結論を出すことはできないため、特に果実の生育あるいは成熟の様子も経過観察することにした。 【2019.12】 


 謎のカキ類の様子  
 
      リュウキュウマメガキらしき樹の様子
 こうした半端な空間には例えばアカメガシワ、センダン、エノキが勝手に生えることはあっても、この樹が存在するのは奇妙である。
     リュウキュウマメガキらしき樹皮の様子
 この程度の太さ(胸高径16センチ)であれば、例えばふつうに目にする甘柿、渋柿、マメガキなら樹皮が不規則に割れるはずである。
   
     リュウキュウマメガキらしき葉の様子
 葉は甘柿や渋柿などのカキノキとは印象が異なっていて、葉先が細く尖っている。
    リュウキュウマメガキらしき葉表の様子
 
   
    リュウキュウマメガキらしき葉裏の様子 
 葉裏はやや白い。
           葉裏の拡大写真 
 脈上に毛が多く、他はまばらな伏毛が見られる。
   
  リュウキュウマメガキらしき若い果実(6月下旬)
 若い果実には褐色に乾燥した花冠と花柱がしばらくの間残る。 
  リュウキュウマメガキらしき若い果実(8月上旬)  
 
 
 図鑑「樹に咲く花」では、リュウキュウマメガキの樹皮について、「灰褐色。なめらかで皮目がある。成木では縦に浅く割れる。」とあり、本図鑑で掲げた若い樹の樹皮の様子は、課題のカキ類とそっくりである。なお、リュウキュウマメガキは小石川植物園に大きな樹があって、この段階では樹皮はゴツゴツとして割れている。(写真は後出)
「成木」の定義はないが、ここでは幹がかなり太く育った樹木として理解しておく。

 しばらくして、ふつうのカキが色づく頃に様子を見ると、そのままの大きさでやや橙色となっているから、これ以上大きくなるものではないことがわかった。植物園で目にしたマメガキや中国産の小粒種のカキよりも少々小さい。ただし、果実の大きさは個体差もあるであろうから、決め手とはなりにくい。引き続きリュウキュウマメガキの可能性を感じるが、結論を急ぐ必要もないから、図鑑による学習を進めるとともに、都内で見られる複数の小粒のカキ類の開花の様子や時期も比較しながら判断することにした。
 
 
 謎のカキ類の成熟果実と花の様子  
 
 リュウキュウマメガキらしき豊かな果実(10月下旬) 
          果実の様子(10月下旬)
   
    リュウキュウマメガキらしき果実の形態
 
     リュウキュウマメガキらしき種子の形態
  
   
       リュウキュウマメガキらしき雌花 1
 リュウキュウマメガキは雌雄異株であるから、雌株ではもちろん雌花しか見られない。花は小さいが、形態はふつうのカキノキ属と同様で、一般に萼と花冠は4裂、雌花では4個の花柱は下部で合着、退化雄しべは8個。 
       リュウキュウマメガキらしき雌花 2
  萼と花冠は4裂以上のことも多く、この写真のものでは5裂となっている。柱頭の奧に見えるのが退化雄しべである。
 
   
 
      リュウキュウマメガキらしき雌花 3
 手前の花冠裂片を取り去った状態で、4個の花柱と、毛に覆われた退化雄しべ(仮雄しべ)が確認できる。 
        雌花の花冠を展開した様子
 退化雄しべは花冠の内側に張りついている。
 
 
   リュウキュウマメガキとマメガキの比較   
     
   ここで、リュウキュウマメガキとマメガキについて、図鑑情報や植栽樹の情報を比較してみる。   
 【リュウキュウマメガキとマメガキの比較参考情報】  
 リュウキュウマメガキ マメガキ 
 カキノキ科カキノキ属の落葉高木
 Diospyros iaponica 
 日本、中国、台湾に分布
 樹皮は灰褐色、成木では不規則に割れる。
 葉身は7.5〜17.5センチ葉裏は無毛又はまばらに貼状柔毛。
 花は雌雄異株で、萼、花冠は4裂。雄花は集散花序でふつう葉腋に2〜3個つき、花冠裂片の先は赤みがあり、雄しべは16個。雌花は単生又は2〜3個叢生・腋生し、雄花よりやや大きく、花冠裂片の先は淡黄色(帯黄色)、雌しべ1個、退化雄しべ8個。
 果実径は1.5〜2(3)センチで、未熟果は柿渋の材料となる。食用柿の台木となる。
 カキノキ科カキノキ属の落葉高木
 Diospyros lotus
 中国、インド、西アジア、ヨーロッパ南部原産
 樹皮は暗灰色で不規則に割れる。
 葉身は5〜13センチ葉裏に軟毛があり特に脈上多いか、又は無毛。
 花は雌雄異株で、萼、花冠は4裂。雄花は1〜3個腋生・叢生、花冠裂片の先が淡橙色〜濃桃色(帯紅色又は淡黄色)で、雄しべは16個。雌花は単生で雄花よりやや大きく、花冠裂片の先は淡黄色(淡緑色又は帯紅色)、雌しべ1個、退化雄しべ8個。 
 果実径は1〜2センチ、熟果は食用となり、未熟果は柿渋の材料とされる。カキノキの台木とされている。
 植栽地の表示は、
    小石川植物園 → 小石川
    赤塚植物園 → 赤塚   
  以下の植栽樹は、都立薬用植物園
 
リュウキュウマメガキの樹名板(小石川)   マメガキの樹名板
   
 
   リュウキュウマメガキの成木の樹皮の様子 
      マメガキの成木の樹皮の様子
 薬用植物園には雄株雌株が1本ずつ植栽されていて、この写真は雄株である。雌株は若い。
   
 
       若い樹の樹皮の様子(赤塚)
 若い木の樹皮は平滑。
             マメガキの葉
 薬用植物園のマメガキの葉はやや小型であった。図鑑で、リュウキュウマメガキより葉柄が少し短いとしているが、目にした個体ではそういった印象はない。
   
     リュウキュウマメガキの葉表(小石川) 
 葉裏は無毛又はまばらな毛が見られる。
 先のビル脇の個体の葉裏ではまばらな毛が見られた。
 葉先が細く尖った様子は、先のビル脇の個体と同様である。
 
            マメガキの葉裏
 国内の図鑑では葉裏に軟毛があるとしていることが多いが、この個体では脈上に毛が見られるものの、その他には見られない。
 なお、都内の別の個体では、脈上以外にもまばらな毛が見られた。
   
    リュウキュウマメガキの雄花(小石川)
 雌花より小さいが、赤味がある。この写真では、雄花の小さな萼は花冠の基部に張りついている。
          マメガキの雄花
 雌花より小さいが、赤味がある。雄花の花色には幅がある模様で、さらに赤味の強いものがある。 
   
    リュウキュウマメガキの雄花(小石川) 
 リュウキュウマメガキの雄花の雄しべはマメガキ、一般の食用のカキノキと同様に16個あるとされているが、そんなにあるようには見えず、どうにも確認できない。
 写真をよく見ると、この雄花では小さな萼が開いている。
          マメガキの雄花 
 マメガキの雄花では、小さな萼は花冠の基部にぴったり張り付いている。
   
    リュウキュウマメガキの雌花(小石川)
 受粉期をやや過ぎた雌花で、色がやや濃くなっている。雌花の開花期間は雄花の場合よりも短い。先のビル脇の個体の雌花は受粉期のものである。 
          マメガキの雌花
 退化雄しべ8個とされているが、実際にはそれよりも多いのがふつうであった。 
   
 リュウキュウマメガキの果実(赤塚)  マメガキの果実
   
 小石川植物園には比較的大きなリュウキュウマメガキがたぶん4本あり、うち2本にだけ樹名板がついている。
 樹名板の学名は、Diospyros iaponica としたものと Diospyros iaponicus としたものが見られるが、一般的には前者が使われている。

 4本のうち、2本が雄株で、1本が雌株、あと1本は枝が高くて、確認していない。 
            マメガキの種子 
 
 
4   謎のカキ類の検討   
     
 さて、再び謎のカキ類についての検討である。

 先の謎のカキノキ属について、成熟果実の大きさは、直径で約19ミリ、種子は長さ約12ミリほどである。以前に見かけたマメガキでは、果実の直径が約25ミリ、種子の長さが約14ミリほどであったが、そもそも個体差があるであろうから、決め手にはならない。

 話がそれるが、 謎のカキ属について、雌株単独で結実するのは、論理的には一般には単為結果と理解され、この場合種子はできないはずであるが、実際に種子が入っているのは不思議で、これまた謎である。

 謎のカキ属を翌年の5月下旬に様子を見ると、前年の豊かな果実の付き方を考えると、花の付きがかなり少ないように感じた(注:これは、単にカキ類の結実の多寡は隔年で変動することが反映しているものと思われる。)が、雌花のみがついているのを確認した。リュウキュウマメガキとマメガキのいずれもが雌雄異株とされるから、雌花だけがついていることが何ら判断材料とはならないが、開花時期についてもチェックする必要があろう。

 都内の別の複数の観察地点でマメガキの花を確認すると、まだ花は開花の素振りもない堅いつぼみの状態であったことからこれ幸い、課題のカキ類はマメガキより、わずかに花が早いようにも見えたが、個体差、季節の変動もあり得るから、これも参考情報程度に受け止めざるを得ない。

 また、葉裏の毛に関しても、先に学習したとおり、変異が認められている模様であるから、これも決め手にならない。

 ということで、根拠が極めて薄弱であるが、謎のカキ類については主として樹皮の様子及び葉先の尖り具合から、リュウキュウマメガキと結論づけることにした。 
 
     
 リュウキュウマメガキと結論づけた果実由来の種子の芽生えの様子   
 
  リュウキュウマメガキの
  芽生え 1

 しわしわの葉は子葉である。
  リュウキュウマメガキの
  芽生え 2 
    リュウキュウマメガキの芽生え 3 
 前年の12月に芽生え、本年には収拾がつかないほどに大きくなってしまった。