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木の雑記帳
 
  年輪盤いろいろ
             


 森林関係の地方出先機関の玄関ホールにはしばしば巨大な年輪盤(円盤)が展示されている。多くの場合は、これほどのものは滅多にお目にかかることはないであろうとの思いから、記録としてとどめているものである。あるいは、自然の貴重な恵みの恩恵に浴しつつ、とどめを刺してしまったことを深く反省しながら懺悔の気持ちを込め、あるいは自慢話のネタとして、あるいは資源豊かな時代のノスタルジーとして・・・・  【2008.8】

1 北海道のミズナラ  宮島のアカマツ 
 山口県の滑松   魚梁瀬スギ 
 宍粟スギのコブ   立山スギ
 大内神社のヒノキ   伊豆の神代ヒノキ 
 奈良 春日山原始林の春日杉  10 米国産セコイアオスギ(レッドウッド) 
11 米国産セコイアメスギ(センペルセコイア)  12 黒柿(衝立) 
13 屋久杉  14 米国産インセンスシーダ   
15 四国のトガサワラ  16 北海道のアカエゾマツ 
17 北海道のハリギリ  18 北海道のエゾマツ 
19 北海道のエゾマツ その2  20 北海道のクリ 
21 北海道のヤチダモ  22 モミ 
23 都内のスダジイ   24 中国産タモ(中国タモ) 
   
   



1 北海道のミズナラ

 看板にあるとおり、樹齢は385年、直径148センチのミズナラの大木である。かつてはこの程度のものは珍しくなかったはずであるが、広葉樹材の大供給基地であった北海道も、資源状況は次第に厳しくなってきており、昔を懐かしむ声が聞こえてきそうである。

空知森林管理署
  北海道岩見沢市三条東17−34


 宮島のアカマツ

 広島県の宮島産の263年もののアカマツである。西日本は松枯れでこてんぱんにやられているから、マツがめっきり減ってしまった。現在でも山肌に枯れた松が点々と認められる。かつては国内の各地から銘木級の大径材が産出されていたが、現在では優良材の生産は見られなくなって、各地の知名を付したマツ銘木の名前だけが残っている。なお、焼き物はアカマツを炊かなければとの声に変わりはなく、この場合は良材である必要はないが、これすら手当に苦労していると聞く。
 
広島森林管理署
  広島市中区吉島東3丁目2−51

 山口県の滑松 【2009.2追加】

 滑松(なめらまつ。滑マツ、なめら松とも表記の名前で知られるアカマツの銘木で樹齢約240年としていている。説明板では次のように解説している。
「古くから良質の長大材を産出することで有名な徳地町滑(なめら)国有林に産するアカマツで、標高600m以上にあって、イヌブナ、ブナ、ミズナラ、ミズメなどと混生している。樹幹は、通直・完満で、樹皮は淡赤褐色を呈する。材は偏心がなく、年輪が整一であるほか、心材の部分が多く、樹脂の含有が甚だ少ない。材色は鮮やかで、ヒノキ材に見合うものとして賞賛され 、新皇居の造営に使用されている。」
 山口営林署(現在の山口森林管理事務所)から寄贈されたものである。(写真は、野村 実氏の提供による。)
なめら松についてはこちらを参照。)
山口県林業指導センター 木や森の展示館
  山口県山口市宮野上1768-1

 魚梁瀬スギ

 高知県馬路村魚梁瀬(うまじむらやなせ)産の有名な天然スギで「魚梁瀬スギ」の名で広く知られている。樹齢227年、樹高40メートル、胸高部の直径108センチとの記録がある。展示品は一定間隔で年輪盤を採取したものである。

 写真の「精英樹」とは、林業的視点で生長等が優れていることを確認して選抜したもので、これらを無性繁殖して採種園を造成し、優良な林業用種苗を生産するための種子を生産している。

関西育種場
  岡山県勝田郡勝央町植月中1043


 宍粟スギのコブ

 スギにできた巨大なコブを盤に挽いたものである。樹種を問わず幹の途中にまれに大きなコブができることがあり、これを挽くと必ずいい(もく)が出て珍重される。巨大なものは貴重品である。
 宍粟(しそう)スギとは兵庫県北部のウラスギ系のスギで、優良な人工林が存在する。

兵庫県立農林水産技術総合センター森林林業技術セ ンター
  兵庫県宍粟市山崎町五十波430


 立山スギ

 説明看板の内容は次のとおりである。

立山杉は富山県立山地方の高山多雪地に生育している天然スギです。これは富山営林署管内国有林(富山県中新川郡館山町)の通称「ぶな平(たいら)」と呼ばれる海抜1,100米の学術参考林から伐り出し、昭和11年に博覧会へ銘木として出品したのを記念して円盤に採って残した標本です。樹齢450年、当時高さ27メートルもあり、木挽12,3名かかって伐り倒し、人の肩で約7キロメートルを運んだものといわれています。」

近畿中国森林管理局
  大阪府大阪市北区天満橋1丁目8番75号


 大内神社のヒノキ

 鳥取県智頭町大内の大内神社にあった大ヒノキである。神社のシンボル的存在であったが、裂け目が入って危険な状態になったことから昭和59年に惜しまれながら伐採されたもの。伐倒後に年輪を数えたところ、486年まで確認したという。

関西育種場山陰増殖保存園
  鳥取県八頭郡智頭町穂見406


 伊豆の神代ヒノキ

 銘木でアタマに「神代」の字が付くものは、一般にはスギ、ケヤキ、タモ、ニレなどが知られている。いずれも土中に長期間にわたって埋もれている間に独特の渋い色合いになったものを指す。
 伊豆では約2800年前に天城連山の活動で火山灰に埋もれたスギやヒノキは古くから専門の業者により掘り出され、貴重材として賞用されてきた歴史がある。写真のヒノキは土木工事の際に発見され掘り出されたもので、年輪はなんと1067年を数えたという。途方もない時間の流れの中の存在である。平成10年12月出土。この「神代ヒノキ」は独特の香りがあって、例えるとコーラのような匂いであった。

伊豆森林管理署
  静岡県伊豆市牧之郷546−5



 奈良 春日山原始林の春日杉

 奈良県奈良市の春日神社の後背地である春日山は現在財務省の管理下にある国有地で、春日山原始林として国の特別天然記念物となっている。古くから銘木で知られる「春日杉(春日スギ)」はこの地から風倒・枯損木などに限って伐出されたものである。
 樹齢数百年にもなると、先端部に衰弱が見られ、レンコン状(蜂の巣状)に数センチほどの腐れが生じることが多いと言われる。これがまんべんなく発生していると却って模様と化して衝立等に加工されると実に趣のあるものとなる。「レンコン腐れ」(蓮根腐れ)の名称もあるが、「腐れ」は商品とした場合は別の名前が欲しい。【2008.12追加】

近畿中国森林管理局
  大阪府大阪市北区天満橋1丁目8番75号

10 米国産セコイアオスギ(レッドウッド)

 米国内に世界最大(体積最大)の木が存在することで知られている。
→ 「樹の散歩道〜スギの兄弟たち」の項を参照。

 この年輪盤(輪切り)は、米国カリフォルニア州マウンテンホーム州政府保護林の自然倒木から州政府の特別の許可を得て切り出したものとしている。直径は約5メートル、樹齢は1900年余と推定されている。
【2009.10追加】

神戸市立森林植物園 森林展示館
  神戸市北区山田町上谷上字長尾1−2

11 米国産セコイアメスギ(センペルセコイア)

 米国内に世界最大樹高の木が存在することで知られている。
→ 「樹の散歩道〜スギの兄弟たち」の項を参照。

 説明板には次のようにある。 
 産地 アメリカ合衆国カリフォルニア州クレセント
 樹齢 800年
 寄贈 株式会社ティムバーフォームジャパン
株式会社 根津商店
【2009.10追加】

神戸市立森林植物園 森林展示館
  神戸市北区山田町上谷上字長尾1−2
12 黒柿(衝立)

 これは、衝立(ついたて)として加工された製品である。黒柿(クロガキ)はあくまで柿類で、そんなに巨大にはならないが、これはまあまあである。黒柿のこうした利用は始めて見たが、やはり超高価格材は存在感がある。
【2010.5追加】

あすなろ工芸
  岡山県津山市高野本郷1258-26


13 屋久杉

 説明看板の内容は、以下のとおりである。
   西暦545年生まれ! 1430歳
鹿児島県屋久島で1975年(昭和50年)に伐採したことが、(独)国立文化財機構・奈良文化財研究所の調査で確認されました。ヤクスギの中心部分が残っていることは大変珍しく、伐採年、樹齢が確認されたヤクスギでは、日本で2番目に古い材です。一番古い材は、屋久島森林管理署にある樹齢約1900年の材です。

 屋久杉の命である樹脂分が表面で失われて、見苦しく斑状に白くなっているのは残念なことである。木材用のオイルで押さえておけば、こうはならなかったはずである。これは感性の問題である。(屋久杉関連ページはこちら。)【2010.6追加】

独立行政法人森林総合研究所 
  茨城県つくば市松の里1

14 米国産インセンスシーダ  

 都内にある鉛筆工場の展示品である。インセンスシーダインセンスシーダーオニヒバとも。)は米国産のヒノキ科の樹木で、鉛筆軸木の主要材料となっている。日本には薄板(スラット pencil slat)に加工された状態で輸入されている。写真の大きい方の年輪版の径は60センチ弱である。手前左にある薄板がスラットである。
 この会社では、有料で工場見学を受け入れていて、親子連れにも好評のようである。自社の各種鉛筆のほか、インセンスシーダを利用した小物も割引価格で販売していた。【2010.8追加】

北星鉛筆株式会社 東京ペンシルラボ
  東京都葛飾区四つ木 1-23-11

15 四国のトガサワラ

 既に絶滅危惧種となっているため、製材品や使用例を見る機会がほとんどない。木口面は年輪の晩材部分の色が濃く、強めに出るためマツ材のように見えるが、柾目面では別の印象となる。(詳しくはこちらを参照。)
 説明板には次のようにある。
「トガサワラは日本では紀伊半島の大台ヶ原山系と四国の魚梁瀬地方のみに自生する極めて稀少なマツ科の樹種です。暖帯から温帯にかけての尾根筋、急峻な斜面に生育し、モミ・ツガ林と混生しています。」
 1994年、かつての魚梁瀬営林署管内で産したものとされる。年輪は178年を数えている。
【2010.10追加】

森林総合研究所 四国支所
  高知県高知市朝倉西町 2−915
16 北海道のアカエゾマツ

 北海道の主要な針葉樹といえば、トドマツ、エゾマツ、アカエゾマツとなるが、材質的にはアカエゾマツは格上で、特に大径材は別格の評価がなされてきた。一般材は建築用材とされるが、高品質材は古くからピアノの響盤、鍵盤、さらには経木に利用されてきた。北海道では遠軽町丸瀬布の北見木材株式会社が古くからヤマハ専属工場としてヤマハにアカエゾマツの素材、半製品を提供してきた歴史がある。
 写真のアカエゾマツの年輪盤は、何と樹齢が434年としている。変なものが貼り付けてあって邪魔であるが、かつてこうした大径材が存在したとは驚きである。【2011.6追加】

森林総合研究所 北海道支所
  北海道札幌市羊ヶ丘7番地
 

17 北海道のハリギリ


 標準的な和名は「ハリギリ」であるが、木材関係では「セン」、「センノキ」が一般的で、この年輪盤の表示も「センノキ」となっている。ハリギリは上品な印象の淡色の環孔材で、内装材として利用することで上質な空間が演出できる。かつての資源豊かな時代は、はフリッチ材として海外にも輸出され、高い評価を得ていたという。この年輪盤も立派で、以下の表示がある。
【2011.6追加】

 樹種 センノキ
 産地 木古内営林署 大川国有林179林班
 樹齢 310年
 樹高 約31m
 胸高直径 約1m   

森林総合研究所 北海道支所
  北海道札幌市羊ヶ丘7番地

18 北海道のエゾマツ

 
北海道の木は「エゾマツ」ということになっている。他の都府県と同様にかつて投票で選定されたものである。北海道庁のホームページではアカエゾマツも含んだ説明をしている。果たして、投票した人がそこまで意識していたのかは疑問であるが、蝦夷地のエゾマツであるから、多くの道民は親しみを持っていたかどうかは別にして、その名称から選定したのであろう。
 北海道で植林されている樹種はトドマツ、カラマツ(雑種を含む)が主で、条件の厳しいところにアカエゾマツといった感じで、実はエゾマツの植栽は微々たるものである。苗木生産が難しい事情もあって、相対的に資源量が減少している。【2011.6追加】

 この年輪盤の樹齢は260年としている。

石狩森林管理署 昭和の森 野幌森林の家 
  北海道江別市西野幌
19 北海道のエゾマツ その2

 エゾマツの第2弾で、上記のものより年数では上回っている。表示の「クロエゾマツ」の名称はエゾマツの別名であるが、アカエゾマツと区別するためにクロエゾマツの名を積極的に使用する世界もあったのであろう。旧単位表記であるため、換算したメモが貼り付けてある。【2012.2追加】 

 生産地   定山渓営林署
 伐採年月 昭和25年2月
 推定樹齢 315年
 胸高径   4尺4寸5分(約135cm)
 樹 高   18間3尺(約34m)
 立木材積 73石525(約13立方メートル) 
 生産材積 61石950(約11立方メートル)

北海道森林管理局
  札幌市中央区宮の森3条7丁目70番
 
20 北海道のクリ

 こうして年輪盤を壁に固定しているのを見るのは初めてであった。クリは九州から北海道まで分布しているが、北海道では石狩・日高地方以南が分布域とされ、野幌森林公園(昭和の森野幌自然休養林)は 自生北限に近いものの、クリの巨木が存在する。
【2011.6追加】

生産地 北海道札幌郡広島村 札幌事業区47林班
伐採した時 昭和33年12月
推定樹齢 260年
胸高直径 147cm
樹高 24m
立木材積 14立方メートル

石狩森林管理署 昭和の森 野幌森林の家 
  北海道江別市西野幌
21 北海道のヤチダモ

 業界では単に「タモ」と呼んでいる。北海道ではヤチダモほど大径となるタモ類は存在しないから、混乱する心配は全くない。家具用材として好まれ、また、上質の木製サッシの素材にもなっている環孔材で、北海道では沢沿い等にすくすくと真っ直ぐに伸びたこの木がよく見られる。しかし、製品では中国産タモが多くなっているようである。【2011.6追加】

 写真の年輪盤のヤチダモは、樹齢340年としている。

石狩森林管理署 昭和の森 野幌森林の家 
  北海道江別市西野幌
  
22 モミ

 北海道ではモミ属のトドマツは天然木がエゾマツと同様に建築材として普通に利用されてきたほか、人工造林の主体ともなっているのに対して、本州以西に分布するモミは造林樹種ではなく、天然木の供給自体も非常に少なくなっていると思われる。

 昔から、ヒノキの優れた材質には遠く及ばず、気の毒ながら棺桶や卒塔婆の木材としてしてのイメージが定着している。 その他匂いがないことから茶箱や蒲鉾板にも利用されたようである。

 写真のモミ年輪盤は巨大であるが、残念ながら素性に関する情報が全く記されていない。
 樹齢は432年としている。【2014.4追加】

森林総合研究所 多摩森林科学園 森の科学館
 
東京都八王子市廿里町1833-81
23 都内のスダジイ 

 都内には意外やスダジイの大径木があちこちに点在している。庭園、公園、社寺はもとより、住宅地でも生き残ったものを見ることができる。このうちのいくつかは都指定の天然記念物や市区の保存樹木等に指定されている。

 写真のスダジイは、めまぐるしい沿革を有する都内の白金自然教育園内で、2000年10月20日に枯損・倒伏し、250年の命を閉じたもので、当地が下屋敷時代の宝暦年間前後に土塁上に植栽されたものと推定されている。【2014.6追加】

国立自然博物館 附属自然教育園
 教育管理棟内 (白金自然教育園)
 東京都港区白金台5-21-5
24 中国産タモ(中国タモ)
 
 
近年、タモ材の家具は国産のヤチダモ材の出材量の減少に伴って、中国やロシア産のタモ材を利用するのが普通になっているようである。植物学的には日本のヤチダモと同一種と見る見解とヤチダモを変種と見る見解等がある。
 材の印象はヤチダモと同様であるが、加工者に聞くと、若干の違いを指摘するコメントも耳にする。

 写真の中国タモは家具メーカーの手によるもので、仕上げが丁寧である上に、まだ日焼けしていないため、環孔材の年輪が美しい。樹齢は1749年生まれの260年としている。【2014.9追加】

IDC 大塚家具新宿ショールーム 企画展示
東京都新宿区新宿3-33-1