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樹の散歩道
滅び行く国内固有種 トガサワラ
地球上の動植物は長い間の環境の変化、進化、競争の歴史の中で、環境の変化に適応できずに、あるいは競争に負けて絶滅状態に至るものが数多くあったとされている。滅びるものはその必然性があったということである。その一方で、人為的な圧力がそれ以上の要因となったケースも知られている。 トガサワラは普段身近では目にすることのないマツ科トガサワラ属の常緑高木であるが、競争に敗れ、追い立てられて数を減らし、人為的な圧力でさらに数を減らして絶滅危惧状態に至った、悲しい黄昏の種である。【2009.4】 |
トガサワラはその学名から不遇である。属名の Pseudotsuga の“Pseudo”は、悲しくも「偽の」の意の接頭語である。「偽のツガ」の意となる。北アメリカに分布する同属のダグラスファー(米マツ、ダグラスモミ、ダグラススプルース、オレゴンパイン、アメリカトガサワラとも)は樹高が何と百メートにも達し、明治時代から日本に大量輸出されてきた歴史がある。この元気さに比べると、トガサワラは実にひ弱な存在に見えてしまう。 このトガサワラの認知に関しては、1893年(明治26年)7月、紀州北牟婁郡尾鷲町より大和国吉野郡川上村大滝にいたる途中で土井八郎衛門氏所有の林内で白沢保美博士が初めて確認したという。【樹木大図説】 |
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トガサワラの名の由来は、全体がトガ(ツガの別名)に似ていて、材はサワラに似ていることによる【樹に咲く花】という。 このサンプル材を見る限り、率直に言って、材がサワラに似ているとの印象は全くない。サワラはやや褐色味を持った軟らかめのヒノキといった印象で、色の濃い晩材がこうして幅広であることはない。特に木口面の印象はむしろマツ類に近い。柾目面はほんのり赤味があって非常にきれいである。 (*年輪盤の様子はこちらを参照。) |
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<参考比較:ダグラスファー> | ||||||||
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ダグラスファー Pseudotsuga menziesii 輸入材に対して明治時代はメリケンマツと呼び、現在ではベイマツの呼称が一般的である。樹木としてはダグラスモミと呼ばれたり、分類を尊重してアメリカトガサワラとも呼ばれる。米国では Douglas-fir のほか Red-fir, Oregon-pine, Douglas-spruce の呼称がある。トウヒ、マツ、モミのSPFが全て登場するという自由奔放な呼称で、利用する立場では実は分類などどうでもいいことなのだ。 |
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トガサワラは紀伊半島の中南部と四国の高知県東部の魚梁瀬地方のみに分布していて、その生育環境は、追い立てられた衰退種だけに、深山の尾根筋や急峻は斜面等の立地条件の厳しい場所が主体となっているという。 個体数は非常に少なく、環境省では絶滅危惧U類(VU)に区分し、総計約1000個体と推定している。 木材として安定的に供給されるものではないため、材及び材の利用に関する情報は少ないが、次のような記述が見られる。 |
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以上の諸資料の記述を見る限りは、決して優良材として評価が高かったということはないようである。(もちろんヒトの勝手な都合による評価である。)記述情報の中で、サワラの用途と同様に桶材にも利用されたという点は興味深い。 |
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トガサワラは既に保護の対象となっていて、一部は天然記念物として指定されているほか、国有林にあっては各種の保護林を設定して、その保護に努めている。それぞれ現地には案内看板が設置されている模様である。 |
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トガサワラ自生林の説明板 (奈良県吉野郡川上村設置 関西育種場 玉城 聡氏提供) |
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<奈良県> 1 三ノ公川トガサワラ原始林(国指定天然記念物) (「三之公トガサワラ原始林」の表記が広く使用されている。) 奈良県吉野郡川上村(所有者:川喜田山林事務所) (役場が設置した案内看板は前掲のとおり。)
2 大杉谷ツガ・常緑広葉樹植物群落保護林 7.10ha 三重県多気郡宮川村 大杉谷国有林(三重森林管理署管内) 3 大又トガサワラ植物群落保護林 7.10ha 三重県熊野市 大又国有林(三重森林管理署管内) <和歌山県> 4 大塔山(おおとうさん)モミ・ツガ・ブナ植物群落保護林 19.19ha 和歌山県東牟婁郡本宮町 大塔山国有林(和歌山森林管理署管内) <高知県> 5 西ノ川山林木遺伝資源保存林(トガサワラ保護林) 7.88ha 高知県安芸市大字古井(安芸森林管理署管内) 6 魚梁瀬林木遺伝資源保存林(トガサワラ保護林) 16.02ha 高知県安芸郡馬路村大字魚梁瀬(安芸森林管理署管内) 7 安田川林木遺伝資源保存林(トガサワラ保護林) 4.31ha 高知県安芸郡馬路村大字魚梁瀬(安芸森林管理署管内) |