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木の雑記帳

  都内にあった屋久杉の巨大看板

             


 屋久杉はもちろん現在では新たに伐採することはあり得ないわけで、供給されているのはかつて伐採された木の根株や倒木で、現地ではこれらをまとめて「土埋木(どまいぼく)」と称している。特に脂をたっぷり含み、年輪幅が狭くうねった屋久杉は小物類から家具類まで高級材として広く利用されてきた。価格的には比較的手に入れ易い茶托は定番製品で、塗装されていない状態であればその独特のいい香りをいつまでも放つ魅力がある。
 さて、巨大看板はわが国初の国立の児童書専門図書館とされる「国立国会図書館 国際子ども図書館」の入り口横にどっしりと構えていた。【2007】 


 建物の方は明治39年に帝国図書館として創建されたもので、ルネッサンス様式の代表的な明治期洋風建築で、平成14年に現在の図書館として大改装の上で開館の運びとなったものである。(当初の設計は文部省技師の久留正道らによる。)

 歴史的建築物だけに格調の高さも大変なもので、とても子ども一人では近寄りがたい存在である。さらに、図書館としては内部空間の機能性もイマイチ、利便施設たる図書館としてのロケーションもイマイチといった印象で、特定分野の博物館とした方がよかったのではと感じる。道を誤った一つの例と言える。
   
 看板の全体像。

 無機質な建物に対してアクセントにはなっているのであるが・・・

 (写真は2007.3 時点)
   
 さて、この看板であるが、結論を言えば屋外に設置する看板としての素材選定を誤ったと思われる。当初から無粋な塗装を避けて屋内環境で利用するのであれば何ら問題はなかったはすである。しかしながら、長い年月に耐えてきたものだけに全面に点在していたと思われる弱った部分の劣化が進行している。これは、塗装の剥離が水の滞留を招き、さらに事態を悪くしているように見える。

 せっかくの屋久杉の使い方として何とももったいないことである。透明塗料をダブダブに塗った状態でこの有様を見るのは切なくなる。
   
 看板の木口部分。年輪がビッチリ細かくて、屋久杉の特徴が見て取れる。あーもったいない、もったいない。


国立国会図書館 国際子ども図書館
東京都台東区上野公園12-49 http://www.kodomo.go.jp
   
 看板が残念な状態なので、建物の内装の一部を紹介する。

 創建時のもので残存している内装の例として、このケヤキの扉がある。

   
 表示プレートがたまらなくいい。「おすあく」とある。「」の読みは「と」で「登」に由来する変体仮名である。
   
 手すりが鋳鉄製で、米国カーネギー社製。

 白い壁に対するこの色合いと質感が美しい。
   
   明治時代の帝国図書館時代の普通閲覧室の風景である。(館内展示写真)

 格調高い洋風建築に不釣り合いな着物姿の多くの青年が勉強している姿が記録されている。欧米列強と肩を並べるべく、あるいは日本の将来を背負って立とうとする当時の若者の並々ならぬエネルギーを感じてしまう。

 現在は人があまり寄りつかない閑古鳥状態のぜいたく施設と化しており、残念なことである。
   
【追記 2015.3】   
 屋久杉看板の劣化の進行状況には興味を感じていたが、上で紹介した後8年経過したものである。

 案の定、無粋な塗装の剥離と劣化が進行して醜悪な状態と化していた。 
   
【追記 2015.9】   
   たまたま前を通りかかったところ、屋久杉の巨大看板は既に撤去され、コンクリート塊の看板に置き換えられていた。

 聞くところによると、従前の屋久杉看板は補修して館内に展示する予定とのことである。

 気付くのが遅すぎた印象であるが、元々湯水の如く莫大な税金を投入してきた施設であり、こんなところでも無駄遣いを続けているようである。 
   
<参考: オーソドックスで健全な屋久杉の利用例>   
 屋久杉の天井板とされるものであるが、残念ながらこれはあまり屋久杉っぽくない。この程度であればむしろ春日杉や霧島杉の笹杢の天井板の方が魅力がある。

 金に糸目をつけずにかき集めれば、もう少し上質のもが手に入るかも知れないが、やはりとことん屋久杉っぽい製品は既に入手困難となってきているのであろう。

 屋久杉の感触を楽しむのであれば、天井板のように眺めるものではなく、やはり日常使いの丸盆か角盆(貼りはだめである。)がよい。ただしきれいな杢の出た製品は驚愕の価格となる。