トップページへ  木の雑記帳目次

木の雑記帳
 
  幻の「滑松(なめらまつ)」
             


 「滑松」「滑マツ」とも)とは「なめらまつ」と読み、これでは一般に読めないため、「なめら松」、「ナメラマツ」とも表記される山口県産のアカマツ優良材である。皇居新宮殿にも使用されたことで知られているが、既に激減して新たに生産されることはない。
 こうしたものは幾ら講釈を聞いても面白くも何ともないため、やはり実際に使用した施工事例を見なければ駄目である。機会あって大阪の市内のあるオフィスで本物を拝見させてもらった。【2009.1】  


         滑マツの利用例 
 腰板部分が滑マツである。ぺらぺらの化粧張りではない。こうした仕様は、もう新たなものは見られない。
(大阪市内)
             同左
 スギの銘木に見られるような例えば笹杢のような木目が出るものではないから、見方によっては「ただのマツではないか!」といわれれば、そのとおりである。
 滑マツは山口県山口市(旧佐波郡徳地町(さばぐんとくぢちょう))の「滑山(なめらやま)国有林」から主として産された高齢のアカマツ優良材である。滑山の地名自体は古くから滑石(かっせき。タルクのことで、ベビーパウダーや釉薬原料となる。)を産することに由来するという。

 樹齢200年以上の良質のもので、原木(丸太)状態で滑マツとしての一般的な評価の視点を具備していれば「滑マツ」として流通したようである。したがって、必ずしも国有林のもののみを指していたわけではないとされる。

 昭和39年には岩国の錦帯橋の修理用材に使用され、さらに昭和40年には皇居新宮殿「石橋の間」「松風の間」にも使用されて知名度を上げた。しかし、現在ではマツ枯れの打撃も受けて、山口森林管理事務所によれば名前に値するものは20本余を残すのみとなっており、しかもこれらは禁伐となっているため、被害木の伐採によるもの以外は出材されない。

 材の特徴としては以下の諸点が挙げられている。【銘木史:全国銘木連合会】
@ 材が通直でうらごけが少ない。
A 枝下が高く枝が少ない。
B 樹皮が極めて薄く、赤色が鮮明である。
C 年輪幅が狭く均等で直円である(偏心がない)。
D 辺材(白太)が少ない(心材率が高い)。
E 心材(赤身)は樹脂が少なく、しかも赤色鮮明で光沢に富む。
 多くは既に伐採され、さらにマツ枯れが追い打ちをかけ、僅かに残っている国有林の滑マツは現在、「滑山林木遺伝資源保存林」に指定されて保存されており、併せて天然生の残存木の後継樹を育成する取り組みも実施されている。(滑マツの年輪盤の写真はこちら)
 滑マツは現地での保存の努力の一方で、遺伝資源としてつぎ木増殖した複数の系統が関西育種場に保存されている。増殖されたものは国有林にも還元されて現地への植栽にも活用されている。
    林木育種センター関西育種場内(岡山県勝央町)   

 

 なお、国内では、古くから優良な高齢級のマツ(銘木)として高い評価を得てきたものが各地にあり、

 アカマツでは、

青森県の「甲地松」(かっちまつ)、岩手県の「南部松」(なんぶまつ)と総称される「御堂松」(みどうまつ)・「矢櫃松」(やびつまつ)・「東山松」(とうざんまつ)等、宮城県の「仙台松」(せんだいまつ)、山形県の「白旗松」(しらはたまつ)、福島県の「津島松」(つしままつ)、会津の「見禰山(みねやま)の松」、長野県の「霧上松」(きりうえまつ)、奈良県の「宇陀松」(うだまつ)、山口県の「滑松」(なめらまつ)、高知県の「大道松」(おおどうまつ)・「芹川松」(せりかわまつ)、宮崎県の「日向松」(ひゅうがまつ)、鹿児島・宮崎県の「霧島松」(きりしままつ)等が良材(銘木)として知られていた。

 クロマでは、

茨城県の「水戸松」(みとまつ)、神奈川県の「道了松」(どうりょうまつ)、静岡県の「沼津松」(ぬまづまつ)、愛知県の「三河松」(みかわまつ)、鳥取・島根県の「山陰松」(さんいんまつ)、宮崎県の「穆佐松」(むかさまつ)、熊本県の「茂道松」(もどうまつ)等が良材(銘木)として知られていた。

 しかしながら、これらの多くはほとんどが伐採された上にマツ枯れがとどめを刺した状態となって、残念ながらいずれも幻の銘木と化しており、継続的に供給されているものは見られない。