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ザクロ果実の外部形態の理解 |
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米国産のザクロの果実の例
シールにある「防ばい剤(フルジオキソニル)使用」の表示は、果実表面に防黴(ばい)剤=防かび剤を使用しているという意味である。 |
ザクロ果実に宿存する萼
萼片の内側には多数のひからびた雄しべがそのまま残っていて、奥には乾いた雌しべも残っている。 |
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切る前のザクロ果実の形態
果実の外観はいろいろで、左は四角形、右は7箇所が出っ張っている。 |
左の果実の横断面
外観に応じた内部構造となっていることがわかる。 |
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五角形の果実の横断面
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六角形の果実の横断面
このサンプルだけは都内某所の産の果実である。 |
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取り出した食用のザクロの種子
果実から種子を取り出すには、水の中でポロポロ落とせば水に沈み、白いパルプのクズは水に浮くため分別しやすい。 |
仮種皮に包まれたザクロの種子
不規則な多面体状態である。 |
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ザクロ果実の頂部の複数の尖った出っ張りはもちろん宿存した萼片で、その形態からヨーロッパの一部ではこれを王冠に見立てたともいわれる。
商品として目にするザクロ果実は米国産かイラン産のいずれかであるが、萼片部は割れて落ちやすいため、通常6個(5〜7個)ある萼片がキッチリ残っていることは少ない。
さて、店で販売されていたザクロ果実の本体の形態を改めてしげしげと眺めてみると、横腹が四角に出っ張ったものや五角になったもの、さらに六角、七角に出っ張ったものが存在することに気づいた。たまたま価格が安かったことから、教材として数個を調達して中を観察してみることにした。
まずはこれらの果実をザックリ横に切って横断面を見てみると、果実の横腹の出っ張り部と内部構造との関連がはっきりした。結論を言うと、出っ張り部の頂部の内側には必ず縦に白色の薄い隔壁が存在することがわかった。つまり、果実の内部には、出っ張りの数に応じた隔壁が存在する。
なお、四角の果実は総じてやや小振りな上に、先の写真でわかるとおり、可食部の種子が少ない印象があり、購入に際しては避けた方がよいと思われる。 |
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ザクロ果実の内部構造の理解 |
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隔壁に包まれた部分には白いスポンジ状の胎座が存在している。赤い仮種皮に包まれた種子はこの胎座にキッチリとすき間なく一層になって付いている。種子がむっちり成長する過程で、仮種皮は押し合いへし合い状態となることから、その仮種皮部分の断面が多角形となる。
サンプルとした果実の中間部の横断面を見た限りでは種子を付けた胎座が4〜7個存在し、これらの間に薄い隔膜が存在して仕切られていた。
そこで、果実が角の取れた多角形となっている理由であるが、先に触れたとおり出っ張りの頂部の内側には隔壁があり、この隔壁は隣り合った胎座についた種子が隣接して集中している部位であり、種子の仮種皮がむっちり成長する過程で果皮を外に押し出しているものと思われる。その一方で、胎座が存在する部分は外に果皮を押し出す力は強くないから、結果として四角状の果実では果皮の平らな面となり、また多角形の果実では相対的に果皮が凹んだ部分となるのであろう。
統計的に胎座の数が何個の場合が一番多いのかは何とも言えないが、図鑑でしばしば「隔膜で仕切られた6室(子室)がある」としているのは、この中間的な数(平均的な数)を掲げているものと思われる。
ただしである。果実を縦に割ると、胎座と隔膜の存在形態が単純ではないことに気づいた。つまり、単に隔膜で仕切られて、標準的に6室があるというだけでは済まないようである。 |
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ザクロ果実の縦断面 1
果実には個体差があるほか、切った面の位置により、この写真のようによくわからないこともある。 |
ザクロ果実の縦断面 2
こちらの断面の方がわかりやすい。胎座が果実上半部の果皮側(写真では左右)から張り出している一方で、果実基部の果皮側から山形に張り出している様子が確認できる。そこで、次に隔膜で隔てられた果実の子室(小室)の一部を取り出してみる。 |
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果実の上半部の胎座の様子(横断面) |
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ザクロの果実上半部の子室を横に切った上側の部分の様子
左は隔壁に包まれた状態、中は隔壁を剥がした状態、右は種子を取り除いた状態である。
右の胎座で見られる赤い点は種子が付いていた部分である。 |
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果実の基部の胎座の様子 |
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隔壁に覆われた果実基部の子室 A
表面で立った状態の隔壁は、果実上半部の子室の隔壁の一部である。 |
左の隔壁を取り除いた状態
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左の種子を取り除いた状態
胎座が2つに分かれたようになっている。赤い点は種子が付いていた部分。 |
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隔壁に覆われた果実基部の子室 B |
左の隔壁・種子を取り除いた状態
これも基部の胎座が2つに分かれたようになっている。隔壁が適宜存在していて、子室の形態を厳密に把握することは難しい。 |
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果実内の子室の存在形態には色々あるようである。左の写真は果実上半部の子室が7つに区切られていたが、これがそのまま基部にまで達していた。したがって、基部固有の胎座は見られなかった。 (軸から放射状に出た隔壁が、子室が7室存在したことを示しているいる。)
果実の縦断面で見ると、その様子は一様ではないが、一般に果実の基部にも胎座が存在していることが多いようである。多数の果実をサンプルとして調達するのは困難であるため、総論的な記述は困難であるが、果実の基部に1〜2個の胎座が存在しているものと思われる。 |
果実子室が上から基部までつながっていた例
上の写真は基部の果皮の一部で、果実側内面の胎座についた種子を取り除いた状態である。隔壁は極力残している。 |
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<ザクロ果実の形態、構造に関する参考情報> |
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ザクロの果実は球形で径6cm 内外。先端に6裂した萼が残存する。9〜10月に熟すと紅色の外果皮が不規則に裂開し,薄膜でくぎられた小室内に存在する多数の種子が露出する。【世界大百科事典】 |
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果実は花托の発達したもの、果皮厚く、果肉を形成せず、可食部は多汁の外種皮(?)である。【果樹園芸大事典】 |
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ザクロの果実は花托の発達したもので、ほぼ球形となり、宿存する萼がある。果皮は厚く、中に薄い隔膜で仕切られた6個の子室(?)があり、多数の種子が隔膜に沿って配列する。熟果は不ぞろいに開裂し、多汁な外種皮(?)をもった種子を現す。【日本大百科全書】 |
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果実は熟すと果皮が不規則に割れて、多汁の外種皮(?)に包まれた種子が露出する。
果実の中は6室(?)に分かれ、薄い膈膜で仕切られている。【園芸植物図譜】 |
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果実は球形で頂部に6裂した多肉性の宿存萼がある。果皮は厚革質で不斉に裂開する。内部に6子室(?)あり、薄い隔膜で区分され、これに沿って多数の種子が配列している。【果樹園芸大事典】 |
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ザクロの種子は多汁の外種皮(?)をもち、通常紅色、時に白色のものあり、これを水晶榴という、花の色と種皮の色とは同調する。種皮を境する障壁状のものは内果皮に相当し、外部の厚い部分は外果皮、中果皮に相当する。【樹木大図説 |
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赤紫色のザクロ果実の皮は2種類の部位があり、外側はかたい果皮で、内側はスポンジ状の中果皮(white "albedo"アルベド=果肉と皮の間の白い繊維質の組織)となっている。中果皮は仮種皮が付着した果実内壁から成る。中果皮の膜組織は、仮種皮に包まれた種子を含んだ不整形の房で構成されている。房は中果皮に付着部位なしで埋め込まれている。汁を含んだ仮種皮は、種子の表皮細胞に由来する薄い膜組織として形成されている。ザクロの種子の数は200から1,400位まで幅がある。【英語版ウィキペディア(抄)】 |
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注:?マークは当方で付したもの。 |
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【追記 2018.5】 |
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ザクロの果実の個性的な内部構造について、花の子房段階をとらえて、園芸植物大事典で以下のように植物学的講釈をしているのを確認した。 |
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「花は多心皮が合成した子房がある。子房内の心皮の並び方が独特で、上下2層に輪生し、上層では側膜胎座に、下層では中軸胎座に多数の倒生胚珠がついている。この特徴がそのまま果実に現れ、多汁の外種皮に包まれた種子が上下2層に分かれて並んでいる。」
注:本書に掲載されたザクロのイラストには、子房の断面の標準的な?模式図が掲載されていて、子房上部の横断面図では6胎座、子房下部の横断面図では3胎座が表現されている。 |
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<ザクロに関するよろずメモ> |
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わが国ではザクロは花木として改良され、果樹としては改良されずに終わった。明治時代に品質優秀な大果品種が栽培された記録があるが、これも普及に移されなかった。【果樹園芸大事典】 |
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果汁はグレナディンgrenadine とよばれる甘さや赤みの主成分からなり、グレナディン・ジュースの原料となる。【植物の世界】 |
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スペインの都市グラナダの名は、そこでできるザクロにちなんだものである。【植物の世界】 |
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わが国には10世紀の平安朝の頃、中国から(経由して)伝来し、果実は食用や薬用にされ、種子は鏡磨きに用いられた。【食品図鑑】 |
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果肉が鮮やかな赤色であることから、アメリカではシロップ(グレナデン・シロップ)を作り、カクテルやケーキの飾りに用いられる。種子の中に女性ホルモンの一種であるエストロゲンが含まれているとの情報がある。【地域食材大百科】 |
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ざくろぐち(石榴口)とは江戸時代の銭湯の湯ぶねの入口。湯のさめるのを防ぐために、湯ぶねの前部を板戸で深くおおったもの。からだを屈(かが)めて中に入る。ザクロの実の酢は鏡の金属面をみがく料となるから、「屈み入る」と「鏡要る」とをかけた名という。【広辞苑】 |
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ザクロの果汁は古鏡をみがくに用いられた。昔の鏡(古鏡)金属である、からかね(鉄と亜鉛の合金)しろめ錫(鉛と錫との合金)の二者を混和し型にはめて丸い形の鏡につくり、ホオノキ炭を使って磨き、これに梅酢を少し入れ粉末の鉛と水銀を少しつつ使って手指でこれをみがくのである、弘化年間の歴世女装考に「昔は鏡をとぐにかたばみの汁を用い、又その代わりに石榴子の酢にてもみがきしと見えて」とある。【樹木大図説(抄)】 |
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【追記 2018.5】 |
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遅ればせながら、実ザクロの花の様子を改めて観察してみた。 |
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実ザクロの花
花弁はふつう6個ある。雄しべに取り囲まれた雌しべはよく見えない。 |
多数の雄しべに埋もれた雌しべ
中心部の雌しべの花柱は先端が横を向いていて、多数の雄しべに埋もれているから、自家受粉以外にないように見える。 |
花弁を落とした実ザクロの花
萼の先端はふつう6裂し、肉厚で果実となってもそのまま残る。 |
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実ザクロの花の縦断面 1
中心を避けて縦に割った状態で、1個の雌しべと多数の雄しべの配置状体がわかる。花は子房下位で、萼の基部が漏斗状となって子房と癒着していると表現されている。 |
実ザクロの花の縦断面 2
雌しべを含まない断面側で、上下2段の胎座に多数の胚珠がついている。 |
実ザクロの花の縦断面 (同左部分)
子房の内部の構造は果実の構造と同じである。 |
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