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この正体は、国内でその材が「ベイスギ(米杉)」あるいは「ウェスタンレッドシーダー」と一般に呼ばれている北米西部に産するヒノキ科ネズコ属(クロベ属)の常緑高木である。葉を付けたこの樹木を見るのは初めてであった。「アメリカネズコ」とも呼ばれるが、「プリカータネズコ」の呼称はそれほど一般的ではない。 |
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ベイスギの外観 |
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ベイスギの樹皮 |
ベイスギの葉(葉表)
葉はヒノキよりやや大きい。 |
ベイスギの葉(葉裏)
気孔帯はあまり白くない。 |
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ベイスギの材 その1
心材はこうして赤味があり、しばしばさらに赤味が濃い部分や、黄色い部分が斑状に現れる。 |
ベイスギの材 その2
左の材よりやや淡色なサンプル材で、年輪幅は左の材と同様にスカスカに広い。 |
ベイスギの材 その3
木目が非常に細かい材のサンプルで、経年変化で材色が暗色となっている。このため屋久杉のようにさえ見える。 |
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米国農務省(USDA)の資料によれば、その概要は以下のとおりである。 |
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米国での標準的な名称は western red cedar (ウェスタンレッドシーダ)で、このほかに giant arborvitae (ジャイアント・アーボヴィタイ、ジャイアント・アーボヴァイティ), western arvovitae (ウェスタン・アーボヴィタイ), giant red-cedar (ジャイアント・レッドシーダ), Pacific red-cedar (パシフィック・レッドシーダ), shinnglewood (シングルウッド), canoe cedar (カヌーシーダ)等の名がある。
しばしば樹齢が800年から1000年に達するものがあって、ワシントン州のある個体は胸高径592センチ、樹高が54.3メートルある。 |
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レッドシーダーの最も重要な用途はシングルとシェイク(参照)である。その魅力的な外観、耐久性、軽さ、優れたインシュレーション性能から、屋根葺き素材として人気があるのであろう。また、材は電柱、フェンス支柱、杭、パルプ、衣類用のクローゼットやチェスト、棺材、工芸、箱、蜜蜂の巣箱、定置網の浮きにも利用される。さらに葉の精油(Cedar
leaf oil )からは、香料、殺虫剤、調剤、動物用石けん、靴磨き、消臭剤が製造される。ロッキー山脈北部では、その葉は大型野生動物の冬期の主要な食糧となり、シカは海沿いの地方で通年的にレッドシーダーの葉を食べている。
なお、ブリティッシュコロンビア州(カナダ)の樹となっている。 |
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元々ベイスギは高価格となっていた国産の天然杉の代替品として明治期から輸入されているもので、その経過からスギ科スギ属ではないのに「ベイスギ、米杉」の名が定着してしまったようである。ベイスギの名は誤解されやすいから、アメリカネズコ、プリカータネズコの方がまだましであるが、既に手遅れである。
現在でも天然杉の代替としてベイスギの天井板が生産・販売されているところであるが、一般的にはむしろ水湿に強いデッキ材としてポピュラーな存在となっている。英語名にカヌーシーダーの名があるのは、水に強く腐朽しにくいため、カヌー作りに利用されたことによるという。
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2 |
国産のネズコの外観 樹皮、葉、材
アメリカネズコが登場したついでに、今度は同属の純国産のネズコ Thuja standishii と比較してみる。 |
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ネズコの樹皮 |
ネズコの葉(葉表)
葉はヒノキよりやや大きい。 |
ネズコの葉(葉裏)
気孔帯はやはりあまり白くない。 |
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ネズコ(別名クロベ)の樹木やその材は一般には目にする機会はないが、木曽五木のひとつであるから、長野県の木曽地方では広く認知されている。
正調木曽節にも木曽五木が歌い込まれていて、ヒノキ、サワラの次に「ネズ」の名で登場している。
材の利用としては、神代スギに似た色合いから和室の化粧材、建具への利用が見られる。 |
ネズコのサンプル材
色はやはり暗色である。柾目が非常に美しい。
(森林総合研究所木材データベースより) |
木曽産ネズコのタヌキ
ネズコの製品としては、木曽地方では下駄が有名であるが、おいらの出番と、このタヌキが割り込んできた。年数経過でいい色になっている。(ミニタヌキは別項で紹介)) |
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古い書籍には、ネズコの利用に関して次のような記述がある。 |
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【大日本有用樹木効用編】
材は淡黒色を帯びて雅美なるを以て天井板,欄間などの用材及煙草盆,机,茶箪笥,書箱,戸障子等を制作し,又柾目材を以て男下駄を作り,板目材を以て婦人用の下駄を作る。又此材は水に浸すときは能く曲ぐることを以て日光地方に於ては枌板(そぎいた)となして曲物を作る。此材にて作りたり桶は能く水を保つものなり,而して下野国栗山村より出る桶を粟山桶と云ふ。又屋根板に賞用せらる。樹皮は火縄に用ゆ。 |
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これを見て面白いのは、かつてネズコがベイスギと同様に屋根板に利用されたという点が共通していることである。いずれも水湿に強くて腐朽しにくい上に、へぎ板加工が容易であったからであろう。
なお、ベイスギの学名の種小名 plicata の意味については、ラテン語 plicatus (ひだ・折り目のある、扇畳みの、褶畳の)に由来するとされるが、日本人の感性では馴染みにくい語感で、適訳もないためわかりにくい。たぶん、十字対生する鱗片状の葉のうち、側方の葉が表裏の葉を被う形態(重なった状態)となっていることを指しているものと思われるが、別に本種に固有のものではなく、ヒノキ科の多くの樹種の葉で見られる属性である。 |
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<参考 1:ベイスギとネズコの葉の比較> |
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両者の葉はよく似ているので、並べてみると若干の違いが認識できる。 |
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葉表 |
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ベイスギ(葉表) ネズコ(葉表) |
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葉裏 |
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ベイスギ(葉裏) ネズコ(葉裏) |
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<参考 2:木曽の五木> |
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木曽五木の現物柾目の薄板を貼付した普及用のリーフレットがかつて製作されていた。言うまでもなく、ネズコは木曽五木のひとつである。こうした手の込んだものは現在では考えられない。 |
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長野営林局互助会が昭和32年2月に発行したもの(当時の長野営林局(現在の中部森林管理局)が監修)で、木曽の五木の現物の柾目の美しい薄板が標本として貼付されている。
この中にも「ネズコ」の様子を見ることができる。長い年月を経過していて、落ち着いたいい色に変化している。
なお、標本の右側半分は、塗装による色の変化を確認するため、当方が勝手にウレタン塗料を薄く塗ったものである。 |
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