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続・樹の散歩道
  クスノキの周辺
    郷愁の樟脳の現在 そしてクスノキのよろず情報


 日本の統治下にあった台湾は、日本本土よりもはるかにクスノキの資源が豊かで、専売制度の下で世界最大の樟脳生産量を誇っていた時代があったとされる。しかし、いつしか合成樟脳、化学防虫剤の出現、セルロイド代替品の登場で一気にその生産を減らし、国内でも現在ではクスノキに由来する天然樟脳の生産は小規模なものが一部に見られるのみである。その匂いを体感しようとすれば、これらの製品を通販で取り寄せるか、クスノキの木片に鼻をすりつけてクンクンやるか、一部に見られる合成樟脳を代替品とするなどして過去を忍び、郷愁に浸るしかない。 【2013.5】 


    神社ではおなじみのクスノキの巨木の例。どちらもしめ縄(注連縄)が巻かれている。
 
 
       宇佐市 宇佐神宮のクスノキ        大分市 春日神社のクスノキ 
   
   以下は、1918(大正7)年に政府主導による大合同で成立した日本樟脳株式会社の輸出向けの商標の例である。
 神戸は明治以来樟脳精製の拠点で、台湾産、日本産の樟脳を精製して、神戸港から輸出していた。このため、以下のいずれの商標にも KOBE JAPAN の表示を確認できる。
 (いずれも「精製樟脳史」(昭和13年4月30日、日本樟脳株式会社
)より)
 
 
           輸出向け商標 その1           輸出向け商標 その2
   
 
           輸出向け商標 その3                     輸出向け商標 その4
   
 天然樟脳は存在するのか

 現在でも九州方面で、わずかながらもクスノキ材を水蒸気蒸留して得られる樟脳が生産されている。化学防虫剤(ナフタリン、パラジクロルベンゼン、ピレスロイド系)に対して天然成分であることによる安心感が売りとなっていて、以下の天然樟脳の製品、事業者の存在が確認できた。
 
   
 
① 内野樟脳  製造:内野樟脳 福岡県みやま市瀬高町長田1863-1
販売:ぎんなん工房 みやま市瀬高町長田2265-1
 
② 日向しょうのう(宮崎県産クスノキ)
  阿蘇しょうのう(阿蘇山クスノキ)
 
製造・販売:フジヤマスライサー
宮崎県日向市大字財光寺 2104-7
 
③ 屋久島クスノキしょうのう
  (KUSUNOKI CAMPHOR POWDER)
製造・販売:工房屋久島 鹿児島県熊毛郡屋久島町一湊675-1 
   
 
          内野樟脳の製品例(個包装の表と裏の表示) 
 紙パックで個包装となった天然樟脳の製品である。大きさは化学防虫剤のパックと同程度である。刺激のない穏やかな香りである。
   
   クスノキの樹体の部位別の樟脳の含有量に関しては、「全木(葉を含む)に樟脳を含み、特に根部に多い。樹齢が高いほど樟脳含有量は増加する。」(「クスノキと樟脳」)とした記述が見られる。  
   
 合成樟脳の現在

 天然樟脳(d-カンファー)成分と同様のもの(dℓ-カンファー)をテレピン油から化学的に合成する技術は古くに確立されていたが、化学防虫剤の登場で衰微してしまった。しかし、一部でしっかりと生き残っているのを確認した。
 防虫剤としてこの合成樟脳の製品が現在でも販売されていて、かつての天然樟脳の古典的なブランドである「藤澤樟脳」の名の製品が合成樟脳に置き換わって生存している。
 
   
 
     藤澤樟脳の登録商標
 かつては製造元が日本樟脳株式会社、発売元が藤沢薬品工業株式会社となっていた。
            藤澤樟脳の現在のパッケージ
 現在の製品は製造元が日本精化株式会社(社名変更)、販売元が第一三共ヘルスケア株式会社(会社統合で藤沢薬品の名は会社名からは消失)で、左記の商標は両社の共有となっている。
   
   商標のキャラクターは、決してオリジナルのものではなく、中国伝承の疫鬼を退け魔を除く鍾馗(しょうき)と呼ばれる神様である。日本では、縁起物として江戸時代に武者人形に取り入れられたほか、関西方面では瓦製の鍾馗像を屋根に載せる習慣がしばしば見られるなど民衆文化に融合していて、「鍾馗さん」と呼ばれている。
   
   
 
     合成樟脳であるが、パッケージには「植物生まれの防虫剤」としている。
 これは、松脂等に由来するテレピン油を原料としていることによる。

 説明書きを見ると、主として着物用の需要を期待した製品と思われ、化学防虫剤との差別化を図っているようである。
 上記のパッケージにはこの包装(2段12個入り)が3個入っている。
       製品の外観
 独特の照りがある。これをティッシュ等で包んで使用する。 
 
   
 樟脳油の現在

 「樟脳油」の名前でテレピン油と同様の用途を想定した瓶入りの製品が多数見られる。この製品固有の需要がそれほどあるとは思えないが、ホームセンターの塗料コーナーでも見かけた。これは、樟脳油のうちの白油(後出)と思われる。樟脳油に関しては、以下の資料にあるような区分がなされている。
   
  <参考資料: 樟脳油とは> 
   
 
【広辞苑】樟脳油:
 樟脳を蒸留・分取した残余の精油。帯黄色ないし帯褐色。これをさらに分留して白油・赤油・藍油を製する。白油は防臭・殺虫用、赤油は石鹸香料・サフロール製造原料、藍油は防臭・殺虫などに用いる。

【平凡社世界大百科事典】ショウノウ油 camphor oil :  
 クスノキなどを水蒸気蒸留したときにショウノウとともに留出する精油。 この液体を分留して、白油(160~185℃で留出)、赤油(210~215℃)、ラン(藍)色油(220~300℃)に分ける。白油は片脳油ともいい、テルペン炭化水素(α‐ピネン、リモネンなど)、シネオールを含み、防臭用や
テレビン油の代用として用いられる。赤油はサフロール,オイゲノールを含み、これらの製造原料、あるいはセッケン、防腐剤の原料とされる。ラン色油はセスキテルペン、セスキテルペンアルコールなどから成り、防虫・防腐剤や医薬の原料とする。  
   
 クスノキ由来のエッセンシャルオイル
 
 クスノキ材由来の精油「樟脳オイル」「カンファーオイル」又は「カンフルオイル」の名でエッセンシャルオイルとして生産、販売されていて、国産のほか輸入品(中国産)も見られる。これが先の樟脳油(白油)の成分と何が違うのかについて、その詳細はわからない。 

  一般的なクスノキに対して、樟脳成分が少ない代わりに、 ℓ-リナロール( ℓ-linalool)成分が多い固体(国内ではクスノキの変種又は亜変種とされる。)が台湾等に存在し、これを芳樟(ホウショウ)と呼んでいて、この精油(エッセンシャルオイル)こついても同様の呼称があるほか、特に葉由来の精油(エッセンシャルオイル)をホーリーフ(国内産、中国産)、材由来の精油(エッセンシャルオイル)をホーウッド(中国産)とも呼んで販売されている。→こちらを参照
 
 また、同様に樟脳成分が少ない代わりに、18,8-シネロール(18,8-cineole)成分が多いクスノキの個体(一般にケモタイプとされている。)が、やや唐突ながらマダガスカル島で植栽・栽培 (中国から導入されたものとされる。)されていて、現地名のラヴィンサラ(Ravintsara)の名が精油(エッセンシャルオイル)の呼称にもなっている。 →
(後述)
   
   クスノキ、芳樟、その他類似種の呼称

 クスノキは江戸時代から続く樟脳採取の歴史、台湾を含む専売制度の下での歴史、資源造成の取組みの歴史の中でいろいろな細分した呼称があるものの、必ずしも植物学的な整理がなされているものでもないため、よくわからない。そこで、あくまでも参考として以下に掲げる。
 
   
(1)  専売制度の下での呼称(台湾産)
   
 
旧専売法上の台湾の樟樹の種類 香りの百科(日本香料協会) メモ
① クスノキ 本樟 クスノキの別名で、真樟香樟内地樟脳樟とも 日本国内でも見られる普通のクスノキ。中国名は樟樹香樟烏樟など
台湾名は栲樟山烏樟
芳樟 臭樟 ホウショウ 
油樟 油樹。クスノキの中で樟脳含有量の少ないもの。 ユショウ 
陰陽樟 単一の植物ではなく、クスノキとホウショウの混在した群 インヨウショウ 
② クスノキダマシ (栳樟又は山烏樟) クスノキモドキ、山臭樟島樟  
③ ギュウショウ (牛樟或いは樟牛若しくは黒樟) サフロールSafrole を主成分とする種類の中で、4-Terpineol を主成分の1つとする種類  
④ アツバクスノキ (オオバグス、オオバクスノキ、冇樟(パアチュウ)) Safrole を主成分とする種類  
  ①、②は樟脳又は樟脳油を含有するも③、④は之を含有せず。別に一種の貴重なる芳香性揮発油を含有し、且つ其の形成「クスノキ」に酷似する関係より、専売法上樟樹として取扱をなすものなり。 
   
(2)  育成の観点での呼称

 かつて樟脳生産が盛んであった時代、樟脳の収量がより多い品種を選んで植栽し、クスノキ林を造成した経過があって、実用のための知識として、以下のような記述が見られる。
   
 葉柄の赤きものを赤樟と云ひ、青きものを青樟と云ふ。赤樟は、樹膚率ね縦に割れ、木皮粗糙にして、其の樹幹は隆肉突起して瘤状をなし、芽状亦稍円くして小なり。青樟は、葉柄青くして樹皮滑らかなるも、赤樟に比すれば材に光沢なく、其の葉の香も亦赤樟の葉より薄し。然れども青樟は赤樟より其の生長の度速かにして、且つ赤樟に比すれば、能く寒気にも堪ふる性を有す。赤樟の実は青樟より小なり。根は太く長くして鬚根少し。
【精製樟脳史:日本樟脳株式会社】
 
 わが国ではクスノキが幼木の際に(樟脳の収量に係わるため)、新芽で赤クスノキ(アカグス)青クスノキ(アオグス)と、さらに(樟脳油の含有量の多い)山クスノキに分けることがある。青クスノキは赤クスノキよりも樟脳油の含有量が40%も多く、樟脳も多い。また、青クスノキで新芽が黄味を帯びているのは樟脳が特に多い。山クスノキという種類は樟脳含有量が赤クスノキよりも多い。【クスノキと樟脳:服部 昭】
(注)結局のところ、青クスノキと山クスノキではどちらが樟脳が多いのかわからない。
 
   
<参考1: クスノキのの変わり者> 
   
   以下は目にしたクスノキの変わり者である。詳しいことはわからない。 
   
 
    根際部分が肥大したクスノキ
 クスノキは接ぎ木増殖はしないから、「台勝ち」ではないし、クスノキの「トックリ病」も聞いたことがないから、原因はよくわからない。 
            特大のクスノキの葉
 ある施設の植栽樹で、葉身(葉柄を除いた長さ)は17センチもあった。
   
  <参考2:ラヴィンサラとラベンサラ>

 先のエッセンシャルオイル調べ(こちらを参照)の中で、マダガスカル島産のクスノキ(クスノキ科クスノキ属)に由来するエッセンシャルオイルが市販されていることがわかった。製品の名称は「ラヴィンサラ」 Ravintsara で、現地の呼称とされる。
 これには前段の話がある。マダガスカル島にはクスノキ科ラベンサラ属のラベンサラ Ravensara aromatica の名の樹木が存在し、これに由来すると思われていた精油が「ラベンサラ」 Ravensara の名で従前市販されていたところであるが、実は近年これが前出のラヴィンサラであることが判明したというのである。業界ではあわてて従来使用していたラベンサラの名をラヴィンサラに改めたとのことである。こんなことが実際にあったとは驚きである。

 以下は両者について説明したウェブサイトの例(materiaaromatica.com 抄訳)である。
 
   
 
 Ravensara aromatica はオーストラリア、タスマニア、マダガスカル原産で、樹高は20mに達し、下部には複数の板根を持つ。樹皮は赤味がかっている。マダガスカルの人々は伝統的に樹皮と幹を強壮剤や抗菌剤として利用している。
 この木からは二つのタイプのオイルが生産される。葉を水蒸気蒸留することで得られるオイルは ‘ravensara aromatica’(ラベンサラ・アロマティカ)と呼び、メチルカビコール等を含むが1.8シネオールは僅かで、一方、樹皮から生産されるオイルは‘ravensara anisata’(ラベンサラ・アニサータ)と呼び、前者よりもメチルカビコールが高く(90%以上)、こちらはアロマテラピーでは使用しない。
 
 クスノキ(Cinnamomum camphora)は現地でラヴィンサラ Ravintsara と呼んでいる。ラヴィンサラの木はマダガスカル原産ではなく、19世紀初期に中国から導入されたものである。これはマダガスカルの気候の下で樟脳の生産能力を全く失ったクスノキのケモタイプchemotypeである。ラヴィンサラは ‘ the good leaf ’(よい葉っぱ)の意で、マダガスカルの人々は葉と精油の治療的価値を認識し、高く評価するようになった。このいずれもが民間薬として腹痛、頭痛、風邪、胸部感染症の治療に盛んに利用されてきた。ラヴィンサラオイルは葉を水蒸気蒸留することで得られ、少なくとも45%~55%の1.8 シネオールその他を含む。

(注)植物が隔離分布することで長い間に遺伝的な変位が生じる例は知られているが、近年の導入植栽によって生育環境が変化することで、材中の成分が激変するなど、にわかには信じ難い。むしろ、こうした特性を持った系統が導入されたと解釈した方が腑に落ちる。
 
   
   ラベンサラ・アロマティカに関して目にした国内の書籍での記述例は次のとおりである。 
   
 
 ①  マダガスカル丁香(Madagascar clove , Clove nutmeg)はRavensara aromatica G(クスノキ科)から得られるものでマダガスカル原産である。.本樹はツボミのみでなく樹体全部が芳香を有している。実は球形で丁香とニクヅクを合わせたようであるから Clove nutmeg (クローブ・ナツメグ)といわれるのである。【熱帯の有用樹:飯塚肇】 
 ②  マダガスカル島においてはラウェンサラ・アロマティカ Ravensara aromatica の果実が香辛料として用いられた。
 【朝日百科植物の世界】
 
   
   結局のところ、現在流通しているラベンサラとラヴィンサラが正確に仕分けられているのかはよくわからない。一方、真正のラベンサラオイルはマダガスカル島内で小規模生産されている模様(佐々木薫のアロマテラピー紀行)であるが、これが一般のエッセンシャルオイルとしてどれだけ流通しているのかは情報を見ない。 
   
  <参考3:クスノキ(ニッケイ)属、クスノキのあらまし> 
   
 
 ①  樹皮・枝葉・材などに含まれる芳香物質は種類によってその成分が違っており、シナモン油(cinnamon oil)、丁子油(clove oil)、樟脳、サフロール、リナロールなどが得られ、香味料、香料、薬用、工業製品原料などに用いられる。【木の大百科】 
   
 ②  日本では本州・四国・九州の暖地に見られるが、これが野生かどうかはわからない。中国江南地方の原産とも言われるが、これもはっきりしない。【日本の野生植物】 
   
 ③  成長が早い上に、丈夫で公害にも強く、かつ長命なので、暖地の街路樹としてもよく用いられる。また、樟脳を採取するために、かつては九州や台湾を中心に植林された。日本の関東地方以西、韓国の済州島、台湾、中国南部、インドシナ半島に分布するが、古くから植えられてきたので自生の範囲は明確ではない。
葉には樟脳を含むので揉むと強い芳香がする。樟脳は根をはじめ幹や枝葉を蒸留して得られ、英語で「カンファー (camphor)」、医薬上はカンフルという。殺虫剤、医薬、工業原料となり、明治36年から昭和37年まで重要な輸出産品として樟脳の生産・販売が専売法で制限されていたが、今日では合成樟脳に取って代わられた。
【朝日百科植物の世界】
 
   
   (薬用では)クスノキのの樹皮を除いた材を樟木しょうぼく、Camphorae Lignum)と呼び、中国の民間では1日5~10グラムを煎じて、胃痛、脚気による関節痛、痛風に用いている。日本では主としてカンフル(樟脳、Camphora , (英)camphor )の原料にする。
約1%含まれる精油は細片にした材を水蒸気蒸留すると得られ、その50~60%が camphor である。液状物質として得られる樟脳油は camphor のほか、多くの多くのモノテルペン化合物を含み、 pinene,(ピネン) camphene(カンフェン), phellandrene(フェランドレン), cineole(シネオール), dipentene(ジペンテン), terpineol(テルピネオール), safrol(サフロール), eugenol(オイゲノール) などが知られている。粗製のカンフルである樟脳は防虫剤とし、以前はセルロイドの製造に大量に消費された。カンフルは局所刺激作用があり、軟膏に配合されて神経痛、打撲、しもやけその他の皮膚病によく使われ、また強い強心作用を示し、注射剤の形で呼吸、血管、心臓の興奮薬として心臓衰弱などに用いた。
【原色日本薬用植物図鑑】
 
   
  <参考4:国内図鑑等掲載のクスノキ属樹種>   
   
  1 クスノキ 
Cinnamomum camphora (L.) Presl
日本に見られるものが野生なのか不明。

2 ヤブニッケイ
Cinnamomum japonicum Sieb. ex Nakai
日本では本州、四国、九州、琉球に分布。(日本の野生植物)

3 コヤブニッケイ 
C. pseudo-pedunculatum Hyata (オガサワラヤブニッケイ)
小笠原に分布。(日本の野生植物)

4-1 ニッケイ(日本の肉桂)
Cinnamomum okinawense Hatusima
沖縄島北部、久米島、徳之島などに分布。江戸時代から栽培され、原産地は中国とされていたが、沖縄島自生のものがこの栽培種と同種とされた。なお、Cinnamomum siiboldii Meissner は、ときにニッケイと同種とされるが、別種で、おそらく中国産の1種であろう。(日本の野生植物)

4-2 ニッケイ(日本の肉桂)
Cinnamomum okinawense Hatusima は以前インドシナ原産の Cinnamomum loureirii Nees がわが国に入って栽培されたものと考えられていたが、近年になって沖縄島ほかの山地で野生が発見されて上記の学名が当てられるようになっている。また、Cinnamomum sieboldii Meissner の学名が当てられることもある。したがって中国でいう肉桂 Cinnamomum cassia Presl とは全く異なっており、
ニホンニッケイ(日本肉桂)とでも呼ぶべきであろう。(木の大百科)

5-1 ニッケイ
Cinnamomum sieboldii
・中国南部、インドシナ半島原産と考えられる。根皮が桂皮(キンナモムム・カッシアの樹皮)の代用とされ、芳香性健胃剤として、また、発熱、頭痛などに用いられた。食品の香料としても用いられる。(朝日百科)

5-2 ニッケイ
Cinnamomum sieboldii Meisn.
古く中国南部あるいは熱帯アジアから渡来して日本にも栽培されるようになったものと考えられるが、その時期や経路は明らかではない。和歌山、高知、熊本で栽培されるが、現在は著しく減少している。
15~30年ぐらいになったものを伐採し根の皮を採る。この
根皮日本桂皮にほんけいひ、Cinnamomi Sieboldii Cortex)と呼び、中国産桂皮の代用として芳香健胃薬とし、漢方で発汗、解熱、鎮痛薬にするほか、食用品の香料として用いることができる。また、ひげ根は肉桂根として同様に用い得るが、そのまましゃぶると美味なので、赤い紙で巻いて束にしたものを縁日などで駄菓子として売っている。(注:遠い昔のお話である。)
幹皮や葉にも同様の成分を含んでいて、それぞれ桂辛(けいしん)、桂葉(けいよう)と呼ばれるが、現在はほとんど使われない。(原色日本薬用植物図鑑)

(注)ニッケイに関しては、上に紹介したように同定に関して見解の相違が見られる。

6 マルバニッケイ 
Cinnamomum daphnoides Sieb. et Zucc.
九州の一部から沖縄の海岸の波蝕崖上の樹叢中に生育する。(日本の野生植物)

7 シバニッケイ 
Cinnamomum doeberleinii Engler (ヒメニッケイ、クスノキモドキ)
沖縄等に分布。

8 ホウショウ(芳樟)
Cinnamomum camphora var. nominale subvar. hosho
・台湾から中国南部に分布。(朝日百科)
・精油の採取を目的に国内でも導入植栽された歴史がある。

9 セイロンニッケイ 
Cinnamomum zeylanicum Nees ,Cinnamomum verum
・スリランカをはじめ熱帯各地で栽培される。樹皮を乾燥したものがシナモンで、最も高貴な香りを持つシナモンとして古くから珍重されてきた。(朝日百科)。
・食品香料として賞用されるセイロン桂皮はスリランカで栽培される本種の枝の皮である。(原色日本薬用植物図鑑)
・本種の樹皮をセイロン肉桂といい、本樹はセイロン原産で各地で栽培されているが、品質ではセイロン産に優るものはない。樹高7~12m、多くの枝を分岐し、樹皮は厚く灰褐色である。栽培は小林作業で、樹皮は幼いものほど香気が強く、ふつう2年目の萌芽を切り取る。樹皮は外皮の青い部分を除いて乾燥し、市場に出す。香料、薬用とされ、葉、根及び実からも油がとれ、香料に用いられる。(熱帯の有用樹)
・乾燥した樹皮はセイロン肉桂(cinnamon bark)でこれから得られる精油がシナモン油肉桂油、cinnamon oil)である。主成分は桂皮アルデヒドでこれらは香味料としてカレー、紅茶その他に多く用いられる。(木の大百科)

10 キンナモムム・カッシア(シナニッケイ、トンキンニッケイ)
Cinnamomum cassia
・インドシナ半島に分布。樹皮を桂皮といい、薬用やシナモンの代用とする。(朝日百科)
・中国南部で多く栽培されている。樹皮を桂皮といい、精油(桂皮油、主成分は Cinnamic aldehyde)1~1.5%を含み、芳香薬、健胃薬とするほか、香味料、桂皮油原料とする。(熱帯の有用樹)
・漢方などで用いる薬用の桂皮(けいひ、Cinamomi Cortex)は広東、広西からベトナム北部にかけて自生または栽培されている C.cassia Presl. (中)肉桂 を基原とするものがよく、この方面から多量に輸入されている。漢方ではこの植物の若枝の桂枝(けいし)を使うことが多い。(原色日本薬用植物図鑑)
・インドシナ原産の高木。樹皮を乾燥したものが桂皮(広南桂皮、cassia bark)で桂皮アルデヒド(cinnamic aldehyde)を含み、これを水蒸気蒸留して得られる精油が桂皮油(cassia bark oil)である。桂皮は健胃、解熱、鎮痛その他の薬用になり、また桂皮油とともに菓子(例「八つ橋」)、飲料などの香味料及び石鹸香料その他に用いられる。その目的で支那、ベトナム、ジャワなどで植栽されている。(木の大百科)
・ジャワ桂皮はこの樹を主とするものである。(原色日本薬用植物図鑑)

11 ジャワニッケイ(キンナモムム・ブルマンニイ) 
Cinnamomum burmannii Blume 中国名:阴香
・インド、ビルマ、支那南部、インドシナ、フィリピンインドネシア産の高木。樹皮油に桂皮アルデヒドを含む。ジャワ桂皮、広東桂皮として知られる。(木の大百科)
・スマトラとジャワでは最も広く栽培されるシナモン類の代表的な植物で、外皮を除いた樹皮はシナモンとしてヨーロッパやアメリカに多く輸出されている。(世界有用植物事典)
・中国南部から東南アジアにかけて広く栽培される。(朝日百科)
・ジャワその他のインドネシア諸島に自生する。樹皮をジャワ皮といい桂皮と同様に用いるが芳香が少ない。(熱帯の有用樹)

12 インドグス(ガンジスグス)中国名:黄樟
Cinnamomum porrectum (Roxb.) Kosterm.
Cinnamomum parthenoxylon Nees
・インド、パキスタン、ビルマ、タイ、支那中部・南部、インドシナ、マレーシア、インドネシアに広く分布する坑木。樹皮、葉、熟果をスパイスに用い、樹皮油の主成分はサフロールである。(木の大百科)

13 ヒマラヤニッケイ(アンナンニッケイ、オオサマニッケイ、大王肉桂(熱帯の有用樹)
Cinnamomum Obtusifolium
・ヒマラヤ地域、バングラデシュ、ビルマ、インドシナに分布する小高木。安南肉桂(サイゴン肉桂)がとれる。(木の大百科)

14 タマラニッケイ(タマラグス) 中国名:柴樟、三条筋樹
Cinnamomum tamala Nee
・ヒマラヤ地域、ビルマ、雲南省産の高木。葉にオイゲノール、樹皮に桂皮アルデヒドを含み薬用とされる。(木の大百科)
→ 中国樹木誌には掲載なし。

15 ニッケイモドキ 中国名:土肉桂、土玉桂、仮肉桂
Cinnamomum osmophloeum Kanehira
台湾産の高木(木の大百科)→ 中国樹木誌には掲載なし。
 
   
  <参考5:クスノキ属の中国樹木誌掲載樹>

樟科樟属
複数の学名掲載がある場合は原則として筆頭名のみを掲げた。
中国にはクスノキ属(樟属)では約46種が南方各地に分布(栽培を含む)するとしていて、本図鑑では中国及び台湾の39種・1変種及び栽培されている外来の1種を掲載している。
それぞれの種の説明文中、樟脳、芳香油、薬効に関する記述を抽出し
た。
なお、「芳樟(ホウショウ)」の名は分類種名としては掲載がなく、その学名も掲載されていない。また、Cinnamomum sieboldii の学名の種も掲載されていない。
 
   
  組1.樟組 Sect. Camphora (Trew)Meissn

1 尾葉樟(植物分類学報)
Cinnamomum caudiferum Kosterm
小喬木、高約5米。

2 菲律賓樟樹
Cinnamomum philippinense C. E. Chang
喬木、高達15米。

3 細毛樟(植物分類学報)
Cinnamomum tenuipilum Kostern
喬木、高達25米。

4 闊葉樟(植物分類学報)
Cinnamomum platyphyllum (Diels) Allen
喬木、高5.5米。

5 銀木(四川) 香棍子(四川)
Cinnamomum septentrionale Hand.
喬木、高達25米。
根部樟脳含量較高、可蒸留提取樟脳。

6 毛葉樟(植物分類学報) 香茅樟、毛葉芳樟(雲南経済植物)
Cinnamomum mollifolium H. W. Li
喬木、高達15米。
枝葉含芳香油、可蒸留提取樟脳及樟油。

7 猴樟(湖南) 香樹(四川)、猴挟木(湖南)、大胡椒樹(貴州)
Cinnamomum bodinieri Levl
喬木、高達16米。
根、幹、枝、葉均含芳香油、根部含油率最高、約2.9%、葉含油率0.46-0.6%、供香料和医薬工業等用。

8 八角樟(海南植物誌)
Cinnamomum ilicioides A. Chev
喬木、高達18米。

9 岩樟(植物分類学報) 米瓜、栲蜆(広西壮語)、香楠(雲南)
Cinnamomum saxatile H. W. Li
喬木、高達20米。

10 長柄樟(植物分類学報)
Cinnamomum longipetiolatum H. W. Li
喬木、高達35米。

11 沉水樟(広東新豊) 水樟(広東)、
冇樟牛樟(台湾)
和名:ギュウショウ、アツバクスノキ、オオバクスノキ

Cinnmomum micranthum (Hayata) Hayata
喬木、高達30米。
*台湾樹木誌では牛樟は
Cinnamomum kanehirae Hayataを筆頭に、上の学名を掲げている。

12 油樟(中国樹木誌略) 雅樟(中国樹木分類学)
Cinnmomum longepaniculatum (Gamble) N. Chao
喬木、高達20米。
樹幹及枝葉均含芳香油。

13 樟樹(本草綱目) 香樟(杭州)、烏樟(四川)、傜人柴(広西)、
栲樟山烏樟(台湾)、小葉樟(湖南)
和名:クスノキ(日本にも分布)
Cinnampmum camphora (L. ) Presl
Cinnamomum camphora(L. )Presl var. nominale Hayata (日本では芳樟を指す学名の一つとしている。)
Cinnamomum camphora(L. )Sieb. var. glaucescens Nakai (日本では芳樟を指す学名の一つとしている。)
喬木、高達30米。
根、幹、枝、葉可提取樟脳、樟油。

14 雲南樟(中国樹木分類学) 樟脳樹、樟葉樹(雲南)、白樟(四川)、香葉樹(西蔵)
Cinnamomim gladuliferum(Wall. ) Nees 
喬木、高達20米。
枝葉可提取樟油和樟脳、不同部位樟油、樟脳含量差別甚大、葉出樟脳3%、出油0.44%;枝出樟脳0.15%、不出油;根部不出樟脳、出油0.33%、故提取樟脳主要用葉。

15 黄樟(中国樹木分類学) 香湖、黄槁、山椒(海南)、大葉樟(江西)
和名:インドグス、ガンジスグス (インドほかアジアに広く分布。)
Cinnamomum porrectum (Roxb.) Kosterm.
Cinnamomum parthenoxylon Nees
喬木、高20-25米。
根、茎、枝、葉均可提取樟油和樟脳、葉含油率2-3.7%、主要成分為黄樟油素(注:サフロール)、可提製他種香精、供化粧品、香皂、食品工業等用。

組2.肉桂組 Sect. Cinnamomum

16 網脈桂  土樟(台湾)
和名:ハマグス。コマルバクスノキ
Cinnamomum reticulatum Hayata
小喬木。(台湾産)

17 野黄桂
Cinnamomum jensenianum Hand.
喬木、高6米。

18 卵葉桂  卵葉樟(海南植物誌)、硬葉樟(中山大学学報)
Cinnamomum rigidissimum
喬木、高達22米。

19 少花桂 岩桂、臭烏桂(四川)、土桂皮(広西)
Cinnamomum pauciflorum Nees
喬木、高14米。
樹皮及根入薬、有開胃健脾及散熱之効、可治胃腸病和腹痛;
枝葉芳香油含量高、油的主要成分是黄樟油素(注:サフロール)、含量達80-90%、為有発展前途的芳香油樹種。

20 天竺桂(開宝本草) 竺香(浙江)、山肉桂(福建)、土肉桂(台湾)、山桂皮(湖南)
和名:ヤブニッケイ(日本にも分布)
Cinnamomum japonicum Sieb.
喬木、高達15米。
枝葉及樹皮可提取芳香油、供製各種香精及香料。

21 粗脈桂
Cinnamomum validinerve Hance
喬木、小枝棱脊。

22 軟皮桂  向披桂(海南植物誌)
Cinnamomum liangii Allen
喬木、高達20米。

23 平托桂  景烈樟(海南植物誌)、烏身香槁(広東)
Cinnamomum tsoi Allen
喬木、高達20米。
葉入薬或作罐頭香料。

24 阴香(広東) 野玉桂樹、香柴(広東)、阿尼茶(雲南)、小桂皮(広西)、広東桂皮(中国樹木分類学)
和名:ジャワニッケイ
Cinnamomum burmanii (C. G. et Th. Nees) Blume
喬木、高達20余米。
樹皮、葉、根均可提製芳香油、用于食用、皂用、和化粧品香精;芳香油含檸檬醛(注:シトラール)、為合成紫羅蘭酮維生素甲(注:イオノンビタミン)重要原料;葉可作腌菜及肉類罐頭香料;種子可搾油、供工業用;樹皮入薬。
狭葉阴香
Cinnamomum burmanii (C. G. et Th. Nees) Blume F. heyneanum (Nees) H. W. Li

25 鈍葉桂  假桂皮(雲南)、大葉山桂、山桂楠、山玉桂(広東)、鈍葉樟(海南植物誌)Cinnamomum bejolghota (Buch. )Sweet
喬木、高達25米。
葉、根及樹皮下提取芳香油;樹皮可搗碎作香料、並入薬、有消腫、止血、接骨之効。

26 蘭嶼肉桂
Cinnamomum kotoense Kanehira et Sasaki
喬木、高約15米。(台湾産)

27 斯里蘭卡肉桂
和名:セイロンニッケイ、シナモン
Cinnampmum zeylanicum Blume
喬木。高達10米。(斯里蘭卡(スリランカ)原産)
中国広東、台湾有栽培。
樹皮及枝、葉均含芳香油;樹皮可作香料、並入薬、有駆虫健胃等効。

28 刀把木 犬果香樟(雲南)
Cinnamomum pittosporoides Hand,
喬木、高達25米。

29 屏辺桂(植物分類学報)
Cinnmomum pingbienense H. W. Li
喬木、高達10米。

30 川桂(中国樹木分類学) 臭樟木、大葉子樹、柴桂(四川)、三条筋、官桂(陜西)
Cinnamomum wilsonii Gamble
喬木、高達25米。
枝葉和果含芳香油、可作食用或皂用香精;樹皮入薬、能補腎、又可治風湿筋骨痛、跌打損傷及腹痛吐瀉等症。

31 聚花桂(植物分類学報) 桂樹(西蔵)
Cinnmomum contractum H. W. Li
小喬木、高達8米。

32 大葉桂
Cinnamomum iners Reinw. ex Blume
喬木、高達20米。

33 滇南桂(植物分類学報) 野肉桂、假肉桂(雲南)
Cinnamomum austro-yunnanense W. W. Li
喬木、高達20米。

34 華南桂  大葉辣樟樹、野桂皮(江西)、華南樟(中山大学学報)
Cinnamomum austro-sinense H. T. Chang
喬木、高達20米。
樹皮入薬、功効同肉桂皮;果入薬治虚寒胃痛;枝、葉、果可蒸取桂油、作軽化工業及食品工業原料;葉研粉、作薫香原料。

35 辣汁樹(広東从化)
Cinnamomum tsangii Merr
小喬木。

36 銀葉桂 関桂、樟桂(四川)、銀葉樟(中国樹木誌略)、皮桂皮(中国高等植物図鍳)
Cinnamoum mairei Levl.
喬木、高達16米。
枝、葉、幹、根均可提取芳香油。称川桂皮油、可用于化粧品及食品香精。

37 爪哇肉桂 
Cinnamomum javanicum Blume

38 毛桂  山桂皮、香桂子(広西)、香沾樹、山桂皮(四川)
Cinnamomum appelianum Schewe
喬木、高達20米。
樹皮可代肉桂入薬。

39 肉桂(唐本草) 桂皮(広東)、玉桂(広西)、筒桂(神農本草経)
和名:シナニッケイ、トンキンニッケイ
Cinnamomum cassia Prestl
朝日百科ではインドシナ半島に分布するキンナモムム・カッシアで、その樹皮を桂皮というとしていて、ニッケイ(肉桂)Cinnamomum sieboldii は中国南部、インドシナ半島原産としている。
喬木。(インドシナ原産。中国各地、インド、ラオス、ベトナム、インドネシアに栽培有り。)
樹皮、枝葉、花果、根可製成多種薬材、統称 “桂品” ;樹皮称 “桂皮” 、枝条称 “桂枝” 、嫩枝称 “桂尖” 、花托称 “桂盅” 、幼果称 “桂子” ;有袪風寒、止痛、化瘀、活血、健胃、滋補、抗菌等功効;各部均可蒸製桂油、可作化粧品、糖果等香配料以及医薬工業的重要原料。桂皮、桂油為我国特産、占全世界総生産量80%、在国際市場上有盛名。

40 香桂  細葉月桂、香樹皮、香桂皮(浙江)、土肉桂、香槁樹(江西))、細葉香桂(中国高等植物図鍳)、假桂皮(雲南)
和名:ランダイニッケイ、ランダイグス、シマニッケイ
Cinnamomum subavenium Miq.
Cinnamomum randaiense Hayata
喬木、高達20米。
葉、樹皮可提取芳香油、称桂葉油和桂皮油、桂葉油主要成分是丁香酚(注:オイゲノール)、桂皮油主要成分是桂醛(注:桂皮アルデヒド)、故両者必須分別提取、不可混合加工。
桂葉油可作香料及医薬殺菌剤、還可提煉丁香酚、用作配製食品及烟用香精;桂皮油可作化粧品及牙膏的香精原料;香桂葉是罐頭食品的重要配料、能増食品香味。