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樹の散歩道
  グリーンゲーブルズの裏庭で見られたロンバルディとは何か


  ロンバルディ Lombardies(ロンバルディーズ)の名の樹木が「赤毛のアン」(第1章)に登場している。カナダに軸足を置いた国内企業のホームページで、これに触れていて、その内容を見て「絶望のどん底に突き落とされた」(赤毛のアン第3章 掛川恭子 訳)とまではいかないが、別項(こちらを参照)で思い知ったある特定の樹木群の疲労感さえ覚えるややこしさに輪を掛けた展開となり、目まいを催すこととなった。【2012.8】


 
   
       ペーパーバックによる原書
 グリーンゲーブルズのアンは1908年に出版され、2008年には100周年を迎えている。(PUFFIN BOOKS版 )
     村岡花子訳の赤毛のアン
 翻訳の元祖的存在で、2008年に何とお孫さんの手で改訂されている。(新潮文庫版) 
 
   
   冒頭で触れた内容の要旨及び引用されていた写真は以下のとおりである。(WCC Books , wccpress.com) 
   
 
 作品中のLombardiesロンバルディーズ)は、セイヨウハコヤナギではない。 
   
 セイヨウハコヤナギ Populus nigra ‘Italica’は、17世紀にイタリアのロンバルディアでつくられたヨーロッパクロヤマナラシ Populus nigra の栽培品種で、ロンバルディーと呼ばれたもので、暑くて乾燥した土地に適合しているが、カナダの気候には適していない。 
   

 カナダに育つロンバルディーポプラは、ヨーロッパクロポプラの亜種 Populus nigra subsp. betulifolia とセイヨウハコヤナギの交雑品種群の1つである Populus nigra ‘Plantierensis ’(ヨーロッパクロポプラ・プランティエーレンシス)である。この品種は1884年にフランスのメスの近くで開発された。
   

 上記品種が後にできたため、従来 Lombardy と呼ばれていたセイヨウハコヤナギは、true Lombardy (本物のロンバルディー)と呼ばれるところとなった。
   
1: 文中の「ヨーロッパクロヤマナラシ」の呼称は「ヨーロッパクロポプラ」に改めた。 
2: ②から③の内容の情報は英語版ウィキペディア(Populus nigra の項)に記述されている。    
注  3: 上記のウィキペディア中の記述では、Populus nigra ‘Italica’を true Lombardy poplar としていて、Populus nigra ‘Plantierensis ’ については、英国とアイルランドで Lombardy poplar として、最も一般的に生育しているとしている。
4: true Lombardy poplar の呼称に一般性があるのかについてであるが、特定の文献に依拠した先の英語版ウィキペディアのコピペ情報が多数ヒットするのみで、一般性があることをうかがわせる情報は見られなかった。 
   
       (引用されていた画像)
 
 
セイヨウハコヤナギ Populus nigra ‘Italica’として紹介されている写真 (WIKIMEDIA COMMONS)
なんじゃこりゃ?・・・
ヨーロッパクロポプラ・プランティエーレンシス  Populus nigra ‘Plantierensis’として紹介されている写真 (WIKIMEDIA COMMONS)
   
   写真左のセイヨウハコヤナギとしているものと同様の樹型の写真を目にすることはあるが、国内で目にするセイヨウハコヤナギと果たして本当に同一クローンなのか確信が持てない。 
 これらの写真を見たら、真実が何かわからなくなり、人によっては「奈落の底に突き落とされたような気持ち」になるかもしれない。

 そもそも、ここまで細長く、まるで極細樹型のイトスギ(糸杉)の品種のようなものがセイヨウハコヤナギであるとする一方、セイヨウハコヤナギのことをかつてはロンバルディポプラと称したが、現在ではロンバルディポプラは別物を指しているとして、見慣れたセイヨウハコヤナギ風の樹形の〝別物〟の写真を紹介しているのである。やはりセイヨウハコヤナギは次に掲げた写真のような見慣れた姿でなければ安心できないし、変なことを言われても迷惑である。
 
(注)セイヨウハコヤナギの基本種たるヨーロッパクロポプラには雄木品種の‘Italica’イタリカのほかに‘Thevestina’セヴェスティナ(‘Afghanica’アフガニカとも)の名の雌木品種も存在する。
   
 
 
  広大な敷地を擁する北海道農業研究センターの構内でゆったりと育っているセイヨウハコヤナギと信じられている個体である。背の低い樹型の異なるものはトドマツである。(札幌市内)
   
   グリーンゲーブルズの裏庭から見えたロンバルディとは何なのか

 実はあまり真剣に考えても意味がない。作品中の存在はあくまで作家の実生活の経験と創造力が産んだものであるからである。したがって、厳密な植物学的講釈(もとよりできないが)はなじまないことを承知しつつも、現地であり得るとすればどのように理解するのが妥当であるのかについては多少の関心事である。
 
   呼称としてのロンバルディ

 そこで、呼称としての Lombardies は、一般的に何を指していたのかであるが、これがよくわからない。一般に和名でセイヨウハコヤナギと呼んでいるヨーロッパクロポプラの品種であるPopulus nigra ‘Italica’は、英名として Lombardy poplar の名が広く認知されているところであるが、これを単に Lombardy あるいは Lombardies と呼んだのかは確認できない。会話で複数回登場して縮めることは考えられても、突然登場する文字表記を縮めるとはやや考えにくい。しかし、原文の prim Lombardies の prim(きちんとした、 整った)の形容詞と、他に該当するものがないせいか、多くの翻訳では一致して「ロンバルディアポプラ」又は「西洋箱柳(セイヨウハコヤナギ)」と訳出していている。単に Lombardies とする表現は一般性はないと思われるが、作家の感性を優先した呼称と思われる。原文は以下のとおりである。

Very green and neat and precise was that yard, set about on one side with great patriarchal willows and the other with prim Lombardies.

(注)米国農務省(USDA)のホームページでは、 Lombardy poplar を Populus nigra ‘Italica’(セイヨウハコヤナギ)の英語の一般名として説明した解説を掲載している一方で、分類等の説明では Populus nigra (セイヨウクロポプラ)の英語の一般名として扱っていて、一貫性がなくわかりにくい。詳細の事情はわからない。 
   
 2  現地にセイヨウハコヤナギは存在したのか

 これに関して、次のような記述例が見られる。 
   
 
 ・  ロンバルディア・ポプラをここにもってきたのは、モンゴメリの独創である。当時のプリンスエドワード島では、この木はあまり一般的ではなかった。しかしモンゴメリはプリンスエドワード島を舞台にしたほとんどの長編、短編にこの木を配している。この木がかもしだす地中海的雰囲気を好んだのだろう。【赤毛のアン:山本史郎訳 注釈】
   
 ・  (グリーンゲーブルズのモデルになったいうモンゴメリの祖父のいとこのデイヴィド・マクネイルの家を思い返して)「わたしは事実にはぜんぜんこだわらなかった。確か庭に柳があったと思うが、ロンバルディア・ポプラはなかった。」【日記The Selected Journals of L.M. Montgomery, Vol. II Wendy E Barry 山本史郎訳赤毛のアン付録掲載 】
(注)モンゴメリの日記の原書でLombardies , Lombardy poplar のいずれの語を使用しているのかは未確認。 
   
 ・  小説「赤毛のアン」の中のグリーン・ゲーブルズは、「果樹園に囲まれた大きな家で、(略)片側に、堂々としたヤナギの大木が何本もならび、反対側には、とりすましたポプラ(注)が立ちならんでいた。」と描写されている。しかし、実際には、庭にヤナギの木とサクランボの果樹園はあったが、ポプラやリンゴの果樹園は、モンゴメリが創作したものだと記されている。ここに登場するポプラは、イギリスから持ち込まれた種類で、地域的にはイングリッシュポプラとも呼ばれている。枝が直立し、全体がほっそりとした独特の形をしている。平原地方では通りの並木や防風林として植えられているが、プリンスエドワード島では観賞用の庭木として好まれている。成長は速いが短命である。【赤毛のアンの生活事典:テリー神川】(注)小説の引用部分は掛川恭子訳によるもので、Lombardies を単に「ポプラ」と訳出している。著者はプリンスエドワード島在住である。 
   
   当地でセイヨウハコヤナギが存在したのか否か、現在存在するのか否かもよくわからないような展開であるが、北海道で育つものがカナダで育たないはずはないと思われ、現にカナダ国内では苗木生産業者がセイヨウハコヤナギたるPopulus nigra ‘Italica’を生産・販売している。 
   
   Populus nigra ‘Plantierensis ’とは何か

 冒頭に登場した「ヨーロッパクロポプラ・プランティエーレンシス」Populus nigra ‘Plantierensis ’に関して、以下の説明例が見られる。

Populus nigra f. 'Plantierensis' :Cross between P. nigra subsp. nigra 'Italica' and P. nigra subsp. betulifolia. Raised at the Plantières Nursery at Metz in northern France in about 1880; now very common as a cultivated tree in N Europe, where it is by far the most abundant fastigiate poplar. Both male and female clones are in commerce. 【globaltwitcher.com】

 もちろん、プリンスエドワード島での本種の利用実態は行ってみなければ・・・というより、現地で見ても同定できないからわからない。わかる人だけがわかるのか?

 なお、プリンスエドワード島では、導入種とは別に、自生のヤマナラシ属(ポプルス属)の樹種として、オオバヤマナラシ Large Toothed Aspen ( Populus grandidentata ) とアメリカヤマナラシ Trembling Aspen ( Populus tremuloides ) が見られる(gov.pe.ca)という。
   
 4  別名で登場するポプラの正体は何か

 赤毛のアン第2章の最後に、マシューがアンを連れてグリーンゲーブルズの裏庭に帰ったときの情景が描かれている。

The yard was quite dark as they turned into it and the poplar leaves were rustling silkily all round it.

 Lombardiesが登場したときと同じ裏庭からの情景で、今度はpoplar である。葉がサラサラと音を立てているから、葉柄が扁平な三角葉のいわゆるポプラ類となる。単にポプラでは先のロンバルディポプラなのか別物なのかが気になるところであるが、前項に掲げた自生のポプラ類をイメージしたものなのかも知れない。残念ながら著者の意識はその有無を含めて、想像してもわからない。 
   
   ロンバルジイ杉とは何か

 数ある訳書の中で、中村佐喜子訳(角川書店)では、Lombardies をロンバルジイ杉と訳出している。
 Lombardy poplar とあれば、即迷うことなくセイヨウハコヤナギとなるが、Lombardies とされていた場合に、これをどう理解するかはだれでも迷うところであろう。この件は先の「呼称としてのロンバルディ」の項で触れたとおりで、率直に言えば著者が半端な呼称を使ったために生じた混乱であろう。こうした中で「ロンバルジイ杉」の呼称は興味深い。なぜなら、ゴッホの絵でも知られるイトスギの仲間ヒノキ科イトスギ属)でセイヨウハコヤナギと同様の、あるいはさらにスマートな樹型を示すものがあるからである。しかもロンバルディ地方(州)を擁するイタリアの名前が使われたイタリアン・サイプレス Italian Cypress (ホソイトスギイタリアイトスギとも。Cupressus Sempervirens )の名前がある。

 ひょっとすると、著者自身がセイヨウハコヤナギとイタリアンサイプレスをごちゃ混ぜにイメージしていた可能性があるかもしれない。なお、ロンバルディ杉(ロンバルディ・サイプレス Lombardy cypress )の呼称自体の存在は一般に確認できない。


 とにかく多数の選抜・交雑品種が存在するとされるポプラである。総論的にも理解することは容易ではない。何しろ日本はポプラ導入後進国でもある。見た目で同定などできるわけがない。こうした現実に身を置く限りは、いかなるポプラを目にしても、無理をしないで素直に、そして謙虚に「ああ、ポプラの樹かあ・・・」とつぶやき、多分植えた当人も訳がわからなくなっているのであろうポプラの一種を心穏やかに見やることにした。 
   
   赤毛のアンに登場する多くの植物の訳語

 ついでなので、あくまで興味本位に「赤毛のアン」に登場する樹木や草本類がどんな具合に翻訳されているのかを、事例的に確認してみた。

 植物の標準的な名称をすべて心得ている作家はいないから、掲載された名称で必ずしも学名まで行き着けるものではないし、また翻訳家は異国の生活・文化をすべて承知してるわけではないし、もちろん植物学者ではないから、曖昧な、あるいは地域的な、ときに個人的な呼称に対しては、大変な試練に直面するであろうことは想像できる。あるいは、感情の機微をとらえた表現のための言葉の選択に投入されるエネルギーに比べたら、意外や植物名など二の次となっている場合もあるのかも知れない。

 決して重大なこととは考えていないものの、個人的な興味もあり、少々無粋ではあるが複数の翻訳を並べて、苦闘の軌跡を追ってみた。 
   
   
  赤毛のアンに登場する植物名の翻訳例
原文での呼称 ①赤毛のアン ②完訳クラシック
 赤毛のアン
③赤毛のアン ④赤毛のアン ⑤完全版 
 赤毛のアン
⑥「赤毛のアン」の
 生活事典
メ モ
 
*  出現の章は事例で、他の箇所で複数回登場しているケースが多い。  
*  原文の底本にはいろいろなバージョンがある模様。 
村岡花子ほか 訳
新潮社
2008.2.25
現在の改訂版では村岡花子女史の孫娘が補訳している。
掛川恭子
講談社
1995.5.20
中村佐喜子
角川書店1957.11.30
谷詰則子
篠崎書林1990.3.10
翻訳に当たり①と③を参考としたとしている
山本史郎
原書房1999.11.25
翻訳に際し過去の翻訳は一切参考にしなかったとしている。
テリー神川
講談社
1997.1.20
著者はプリンスエドワード島在住
翻訳には、その他石川澄子、茅野美ど里、松本侑子、前田美恵子によるもの等多数が存在する。
1 Alder 榛の木 ハンノキ はんの木 ハンノキ 榛の木 プリンスエドワード島に一番多く見られるのは、スペックド・オールダー(Speckled Alder)とよばれる、木肌に反転のあるところからその名前がついたハンノキである。
(注)Alnus incana (Alnus rugosa)
alder の発音はオールダであるが、北米産の Red alder レッドオルダー(Alnus rubra)の輸入材に対して、国内では慣用的にアルダーと呼んでいる。 
1 Ladies' Eardrops 釣浮草
レディーズ・イア・ドロップスのふりがな
フクシア さくらそう サクラソウ 鳳仙花
Impatiiens capensis 「宝石草」とも。
リンド婦人の家のまわりにあったもの。野生の種類のフクシアと思われる。  
1 Willow ヤナギ (プリンスエドワード島では)観賞用にはホワイトウィロー(White Willow)が多い。  
1 Lombardies ロンバルディポプラ ポプラ ロンバルジイ杉 西洋箱柳
ふりがなで「ロンバルディア・ポプラ」
ロンバルディア・ポプラ 原書でロムバルディポプラになっている。枝が直立し、全体がほっそりとした独特の形をしている。
(注)原文は「ロムバルディポプラ」ではなく、単に Lombardies となっている。
別に Poplar ポプラも登場している。グリーンゲーブルズのモデルとした家にはロンバルディは見られなかったという。
なお、ロンバルディアはイタリア語綴りの発音。
2 Wild Cherry 桜の木 サクラ 桜の木 山ザクラ 野桜の樹 プリンスエドワード島でよく見られる野生のサクラにはチョークチェリー(Choke Cherry)Prunus virginiana とピンチェリー(Pin Cherry)Prunus pensylvanica の2種類がある。
 当時、果実栽培用としてプリンスエドワード島で最もよく育った種類はサワーチェリー (Sour Cherry)Prunus cerasus とされている。
wild cherry は野生のサクラ又はサクランボの原種のセイヨウミザクラを指すとする説明例を見る。 
2 Apple りんご リンゴ りんご リンゴ りんご リンゴは北米でも広く栽培され、多くの品種が創り出されてきた。  
2 Wild Plum 1 すもも プラム 野生のすもも 野生のスモモ 野生のスモモ 一般にワイルドプラムとよばれる種類はカナダの南に分布し、プリンスエドワード島では見られないため、ここでいう Wild Plum は栽培種の野生化したものと思われる。 同じ英名に対してスモモとプラム(スモモの英名)が登場している事情は不明。
2 Wild Plum 2 野生のすもも スモモ 野生のすもも 野生のスモモ 野生のプラム  
4 Lilac ライラック ライラック ライラック ライラック ライラック ライラック(ムラサキハシドイ)は古くから庭木として植えられ、特に農家のまわりによく見られた。  
4 White Birch 白樺 シラカバ 白樺 白樺 白樺の樹 プリンスエドワード島に見られる3種類のカバノキのうちの1種、Betula papyrifera のこと。 Betula papyriferaは、和名として種小名をそのまま使ったパピリフェラカンバの名がある。日本の白樺(シラカンバ)とは別種。
*写真は最後に紹介
4 Apple Scented Geranium りんご葵(あおい) リンゴのにおいのするゼラニウム りんごあおい リンゴアオイ アップル・ゼラニウム リンゴのにおいのするゼラニウム
ニオイゼラニウム
 
4 Dandelion たんぽぽ タンポポ たんぽぽ タンポポ タンポポ ヨーロッパ原産であるが、島じゅうに自生している。  
4 Spruce えぞ松 トウヒ えぞ松 エゾマツ
*同章の別の箇所ではトウヒの木としている。
トウヒ(類)はプリンスエドワード島の針葉樹の中では代表的なもので、当時の生活で大いに利用されていた樹木である。ホワイトスプルースWhite spruce(Picea glauca)、レッドスプルースRed spruce(P. rubens)、ブラックスプルースBlack spruce(P.mariana)がある。 エゾマツは「蝦夷松」であり、北米には存在しない樹種名であるから、やはりスプルース(トウヒ)とでもすべきであろう。
3種のスプルースはこちらを参照。
4 Fir モミ もみ
*同章の別の箇所では樅(モミ)としている。
モミ属ではバルサム・ファー(Balsam Fir)が最も知られる。
(注)学名は Abies balsamea
Fir はマツ科モミ属であり、マツ属ではないからに「松」の訳語は合わない。
5 Wild Rose ばら 野バラ 野ばら 野バラ 野バラ 現在のプリンスエドワード島では何種類かの野バラが咲く。  
5 Honeysuckle 忍冬
「すいかずら」のふりがな
スイカズラ すかずら スイカズラ スイカズラ スイカズラは半常緑のもの、落葉のもの、つる性とそうでないものと、種類も多く、花は大きく分けて黄色系と赤紫系の2種類がある。  
5 Lily of the Valley 鈴蘭 スズラン すずらん スズラン 鈴蘭 庭の花として書かれているところから、ドイツスズランに代表される Convallaria majalis のことらしい。ユリ科の多年草。  
9 Maple カエデ かえで カエデ プリンスエドワード島の代表的なカエデは、シュガーメイプル(Acer saccharum)、レッドメイプル(Acer rubrum)、ストライプドメイプル(Acer pensylvanicum)、マウンテンメイプル(Acer spicatum)の4種類。 カナダの自生カエデの種類についてはこちらを参照。 
9 Mountain Ash ななかまど ナナカマド ななかまど ナナカマド ナナカマド ナナカマドは島じゅうに分布している。Ash とあるが、モクセイ科トネリコ属ではなく、バラ科ナナカマド属。 北米のナナカマド属としては、葉がやや大型のアメリカナナカマド Sorbus americana など約10種が分布する。(朝日百科植物の世界)
9 June bell 釣鐘草
「つりがねそう」のふりがな
ツリガネソウ つりがね草 ツリガネソウ リンネ草 June bell は正式名ではなく、モンゴメリーがつけた呼び名であったと思われる。スイカズラ科のツインフラワー(Twinflower)Linnea borealis のことであることを本人が明らかにしている。日本でも同種のものが存在し、リンネソウ、またはメオトバナとよばれる。  
9 Starflower スターフラワー スターフラワー 星形さくらそう ツマトリソウ サクラ草
(小さなサクラソウ科の草花 Trientalis bolealis
スターフラワーは日本のサクラソウ科のツマトリソウに類似している。  
10 White June lily
白水仙
ジューン・リリーのふりがな
白いスイセン 白水仙 白いユリの花 白水仙
(いわゆるラッパ水仙の一種。Narcissus sp.)
「白いスイセン」は正式の名称ではなく判然としない。 別にNarcissus (スイセン)の語も登場している。
11 Fuchsia 釣浮草 *
レディーズ・イア・ドロップスのふりがな
フクシア フクシャ フクシア フクシア グリーンゲーブルズのフクシア は原文とふりがなが一致していない。先に登場したLadies' Eardrops と同じ訳語となっている。
11 Buttercup きんぽうげ キンポウゲ きんぽうげ キンポウゲ キンポウゲ キンポウゲは島じゅうに分布する。キンポウゲ科の多年草。  
12 Tiger Lily 鬼ゆり オニユリ 鬼百合 オニユリ オニユリ オニユリは中国、日本が原産だが、北米でもよく知られ、人気のあるユリ科の多年草。  
12 Bleeding Heart ばら色のブリーディング・ハート ケマンソウ あらせいとう ケマンソウ フジボタン
(またの名ケマンソウ)
ケマンソウはケシ科の多年草。英語名はこの花の形から。  
12 Peony 牡丹 シャクヤク しゃくやく シャクヤク シャクヤク シャクヤクは(おなじみの)中国、朝鮮原産のキンポウゲ科の多年草。 ボタン(低木)とシャクヤク(多年草)が登場している。いずれもボタン科ボタン属で、Peony は両方を指すから仕方がない。 
12 Scotch Rose スコッチ・ローズ スコッチローズ スコッチばら スコッチ・ローズ スコットランドバラ
(バーネットロース、スコッツブライアーなどと呼ばれるイギリスで創られたバラ。Rosa spinosissima
スコッチローズはRosa spinosissima のことと思われる。  
12 Columbine おだまき オダマキ おだまき オダマキ オダマキ オダマキは(おなじみの)キンポウゲ科の多年草。  
12 Bouncing Bet シャボン草 シャボンソウ (訳出なし) シャボンソウ ナデシコ
(シャボンソウともいわれるナデシコ科の多年草 Sapanaria officinalis
シャボンソウで、ソープワート Ssapwort とも。ナデシコ科の多年草。葉や茎から出る泡汁にはサポニンがふくまれ、開拓者たちはこれをせっけん代わりに使ったといわれる。 和名はサボンソウとも。「サボン」はポルトガル語由来の「シャボン」に同じ。
12 Southernwood よもぎ ニガヨモギ (訳出なし) ニガヨモギ ニガヨモギ
(茂みをなす落葉性の植物。Artemisia abrotanum)
キク科の多年草ニガヨモギ(Wormwood)の一種で、Artemisia abrotanum をさす。  
12 Ribbon Grass リボン草 リボングラス リボン草 リボングラスグサ リボンクラス
(イネ科の植物。Phalanus aruninacea
リボングラスは花壇のふちどりによく使われる、昔から人気のあるイネ科の多年草。  
12 Mint ハッカ ハッカ はっか ハッカ 薄荷
ミントのふりがな。(緑葉ハッカ属のガーデンミントもしくはスエアミント。)
ハッカはハーブとして知られるシソ科の多年草。  
12 Purple-Adam-and-Eve 紫色のらん フジ色のラン 紫の糸らん 紫のラン 紫色のラン
(アメリカ原産のラン。プティルートとも。Aplectrum hyemale
英語名からはランと判明しない。ムラサキ科の多年草 Pulmonaria saccharata か。  
12 Daffodil らっぱ水仙 ラッパズイセン らっぱスイセン ラッパ水仙 ラッパ水仙 Narcissus の名と同様にスイセン全体をさしていう場合があるが、正確には副花冠の長い一重の大きな花をつけるスイセンをさす。  
12 Sweet Clover クローバー クローバー クローバー シロツメグサ スイートクローバー (白い花をつけた)クローバーとは日本のコゴメハギ Meliptus aiba と同じものと思われる。  
12 Musk Flower じゃこう草 ジャコウソウ じゃこう ジャコウの花 麝香の香りを発散するミゾホオズキ
(これは多分白のジャコウアオイ Melva moschata alba のことだろう。)
現在のところ不明。  
12 Scarlet Lightning 緋色の花 アメリカセンノウ 緋色の花 緋色の花 紅カノコソウ
(鮮やかな赤い花を咲かせる植物で、17世紀に北米に移植された。花の形状から「マルタの十字架」、「エルサレムの十字架」などとも呼ばれる。Lychnis chalcedonica
アメリカセンノウはナデシコ科の多年草 Lychnis chalcedonica  
12 Rice Lily さゆり 野生のラン まだら百合 カノコユリ 野生の鈴蘭
(これはいわゆる「谷間の百合」すなわちドイツスズランのことかもしれない。)
地域的な名称あるいはモンゴメリーの名付けたものであると考えられる。 チョコレートリリーとする見解がある。
14 Madonna Lily 庭の白ゆり ニワシロユリ 庭の白百合 フランスユリ フランス百合
(白百合 Lilium candidum のこと。聖母マドンナはこの白百合とともに描かれることが多い。)
ニワシロユリは聖書に登場するところから、多くの芸術家が宗教画の中に描いており、純潔のシンボルとされている。  
14 Water Lily すいれん スイレン すいれん スイレン 睡蓮 スイレンはスイレン科の多年生水草。  
15 Fern しだ シダ しだ シダ シダ Bracken Fern はワラビ、Flowering Fern はゼンマイ。   
15 Wild Lily of the Valley 鈴蘭 スズラン すずらん 野生のスズラン 野生の鈴蘭 このスズランは、ドイツスズランに代表される園芸種のスズランではなく、同じユリ科の多年草 Maianthemum canadense で、日本には同じ仲間にマイヅルソウが存在する。   
15 Pigeonberry 草の実 ゴゼンタチバナ かずらの実 アメリカヤマゴボウ ヤマゴボウ
(アメリカに自生する多年草。Phylotacca americana
ゴゼンタチバナはミズキ科の多年草。日本にも同種の Cornus canadensis が存在する。  
20 Mayflowers さんざし
以下の注釈あり。
「さんざし」は、原文ではMayflower となっており、カナダでは、ツツジ科イワナシ属の植物で春に淡いピンクや白の香りのよい花をつけ、地面を這うように生える常緑低木ですが、(原翻訳を)訂正せず「さんざし」のままにしました。
メイフラワー メイフラワー
以下の括弧書きあり。
(サンザシに似た花もいうが、ここでは春に咲く野の花々のこと)
メイフラワー 五月花
イワナシのふりがな。
(ヒース科の植物 Epigaea repens 。シャクナゲやアメリカシャクナゲに近いこのイワナシはノヴァスコシア州の花で、「雪の中に花咲く」という銘句がついている。 )
メイフラワーはサンザシと訳される場合もあるが、カナダ東部ではトレイリング・アービュータス(Trailing Arbutus)という別名を持つ Epigaea repens のことをさす。ツツジ科の常緑の多年草。  
20 Violet すみれ スミレ すみれ スミレ
「すみれ」のふりがな。
プリンスエドワード島に咲くスミレの中で、最もよく見られる種類はブルーバイオレット(Blue Violet)Viola cuculata である。  
23 Virginia Creeper the tangle of Virginia creeper beneath
=下草の茂み
ツタ 木蔦 アメリカヅタ アメリカ蔦
Vitis quinquefolia もしくは Ampelopsos quinquefolia 。ブドウ科の蔓植物。)
グリーンゲーブルの外壁に生い茂っていたとされる。プリンスエドワード島ではバージニア・クリ-パー(Virginia Creeper)が vine の代表格として知られている。 在来種の和名のツタは落葉のつたで、キヅタは常緑のつた。Virginia Creeper は落葉のつた。
28 Blue Ilis 青いアイリス 青いアイリス 水色のアイリス 青いアイリス 青アイリス ブルー・フラッグ・アイリス(Blue Flag Iris)がプリンスエドワード島では、最もよく見られる種類。  
29 Elm にれ ニレ にれ
「にれ」のふりがな

ニレのふりがな。
ホワイトエルム(White Elm)Ulmus americana が大きく優雅な姿のニレとしてよく知られる種類。  
29 Beech ぶな ブナ ぶな
「ぶな」のふりがな

ブナのふりがな。
ブナは島じゅうに分布。 American beech とも。和名はアメリカブナで、学名は Fagus grandifolia
の「樗」は誤植か。この漢字は「おうち」で、センダンの古名。
34 Sweet Pea スイートピー スイートピー スィートピー スイートピー スイートピー スイートピーはマメ科の一年生のつる草。  
35 Chestnut クリ 栗の木 栗の樹 原書ではチェスナット(食用のクリ)となっているが、プリンスエドワード島では見られないため、ホースチェスナット(Hourse Chestnut)Aesculus hippocastanum (マロニエ)のことをいっていると思われる。 マロニエの和名はセイヨウトチノキ
実態論からのの指摘はおもしろい。
セイヨウトチノキ自体は北米の自生種ではない。
36 House rose 室咲きのばら
「むろざき・・」のふりがな
バラの花 ばら バラの花 家薔薇
ティーローズのふりがな。
ハウスローズHouse roseとして登場するのは、当時は室内咲きのものが、ほとんどだったからだと思われる。  
36 Tea rose こうしんばら バラ こうしんばら コウシンバラ 家薔薇
ティーローズのふりがな。
ティーローズは現在のハイブリッドティーローズの原種。  
38 Hollyhock
「あおい」のふりがな
タチアオイ たちあおい タチアオイ 立葵
タチアオイのふりがな。
中国、南ヨーロッパ原産のアオイ科の植物 Althaea rosea
タチアオイはアオイ科の二年草。  

<参考メモ> 
 プリンスエドワード島にはカバノキ属では ①Yellow birch イエローバーチ(Betula alleghaniensis)、 ②White birch ホワイトバーチ (Betula papyrifera)、 ③Gray birch グレイバーチ (Betula populifolia)、④Bog birch ボグバーチ (Betula pumila) の4種の樹種が自生する(The Macphail Woods Ecological Forestry Project )という。 (写真は林木育種センター北海道育種場植栽樹) 
 
Yellow birch イエローバーチ(Betula alleghaniensis , Betula lutea
  北米中部・東部原産
和名はキハダカンバアメリカミネバリアレガニーカンバルテアカンバ(仮名)
その他の英語名は gray birchグレイバーチsilver birchシルバーバーチ、swamp birchスワンプバーチ  
   
  (キハダカンバの様子) 
 
 キハダカンバの樹皮(中径木) キハダカンバの樹皮(小径木)  キハダカンバの葉 
   
 ・  北米のカバノキ類の大部分を占める。 
 北米北東部に分布し、米国では最も重要なカバノキである。名前は黄色がかった青銅色の剥がれる樹皮の色から簡単に識別可能で、イエローバーチの名はこの樹皮の色に由来する。内皮には芳香があり、ウィンターグリーン(冬緑油)の香りがする。【USDA】
 (島では)純林はほとんど見ないが、レッドスプルース、ホワイトスプルース、ヘムロック、バルサムモミ、ブナ、サトウカエデ、ルブルムカエデと混生する。【go.pe.ca】 
 ・  材と単板は家具、パネル、合板、キャビネット、箱、木製品、柄、室内ドアに使用される。【USDA】  
 材はフローリング、家具、合板、単板等に利用される。【go.pe.ca】 
 材は日本にも輸入されていて広くイエローバーチの名を見るが、単にバーチとしているものもあり、実態として樹種の内訳がどうなっているのか、よくわからない。 
White birch ホワイトバーチ (Betula papyrifera) 
  北米東部~西部原産
和名はパピリフェラカンバアメリカシラカンバペイパーバーチ
その他の英語名は paper birchペイパーバーチcanoe birchカヌーバーチsilver birch シルバーバーチほか 
   
  (パピリフェラカンバの様子) 
 
 パピリフェラカンバ パピリフェラカンバの樹皮  パピリフェラカンバの葉 
   
 (島では)山火事跡地で純林も見られるが、むしろホワイトスプルース、レッドスプルース、バルサムモミ、グレイバーチ、ルブルムカエデ、ヤマナラシと混生する。【go.pe.ca】 
 ・  春に得られる樹液からは,ビール、シロップ、ワイン、酢、薬用トニックが作られる。内皮は乾燥、粉末にして食用に利用され、根の樹皮と若い葉からは茶が作られる。全木のチップはパルプ、製紙に利用される。 【USDA】  
 島では材は主として製材用、燃材となるが、合板等に適している。【go.pe.ca】 
 ブリティッシュコロンビアのかつての多くの部族がこの木の樹皮をバスケット、揺りかご、カヌー(注:カヌーバーチの名の由来)に利用した。また、食べ物を包んだり保存したりしたほか、ピットハウスの屋根葺きにも利用した。木材は弓やスプーンを含む様々な小物に利用した。彼等は樹液を風邪薬として飲んだ。
 カバノキ類はカナダ東部ではパルプ、製材、単板用として伐採され、材はパネリング、舌圧子(ぜつあつし。ベロ押さえのこと)、チーズ箱などにされる。ブリティッシュコロンビアではペイパーバーチは薪として使われている。
 種小名 papyrifera は樹皮に関係して「紙を産む」 "paper-bearing" の意。【The province of Britsh Columbia】  
・   ブリティッシュコロンビアのインディアンはこの樹の樹皮を縫い合わせてカヌーをつくるとき、縫い目の防水用としてカナダに広く産するホワイトスプルース(Picea glauca)の樹脂を使用した。【大図説世界の木材(小学館)】 
   
Gray birch グレイバーチ (Betula populifolia
  北米に広く分布
和名はポプリフォリアカンバポプラカンバハイイロカンバ 
その他の英語名は Wire birchワイアーバーチほか
   
  (ポプリフォリアカンバの様子)  
 
ポプリフォリアカンバの樹皮  ポプリフォリアカンバの葉   ポプリフォリアカンバの雌花序(上方) と雄花序(下垂)
   
 ・  多様な日照条件、土壌条件に耐える小木で、樹高は10メートル以下。 ワイアーバーチの名は多数の細い枝に分岐することによる。小枝は垂れる傾向がある。【USDA,go.pe.ca ほか】
 (島では)山火事跡地でいち早く成立する樹種の一つで、純林も見られるが、一般にスプルース、バルサムモミ、カラマツ、ホワイトバーチ、ヤマナラシと混生する。【go.pe.ca 】 
 材は市場価値はあまりなく、地域的に燃材や樽のタガとして利用されている。 【go.pe.ca 】 
 
Bog birch ボグバーチ (Betula pumila
   
  北米に広く分布
和名(仮名称)はボグバーチプミラカンバ
その他の英語名は Swamp birchスワンプバーチ 
   
 ・  低木で灌木に近く、高さは3メートル以下。