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箒状のポプラは、しばしば学校の周囲等に防風垣として、あるいは公園等の並木として植栽されていて、最もポプラらしいポプラとしておなじみの景観を形成する。北大のポプラ並木も同様のイメージで、現物を見たことがなくても写真のイメージは多くの人の記憶にとどめられているはずである。
一方、やや丸い樹冠のポプラは、前者に比べれば個性に乏しいが、特に北海道では公園での単木植栽や街路樹としての利用も見られ、都内でも街路樹として激しい刈り込みに耐えている同様の樹形のポプラが存在するとのことである。
日常の中でポプラの樹を目にした場合、残念ながら樹名板が整備されていないことが多く、名前を現物で覚えるきっかけも少ない。そこで簡便な写真図鑑で確認すると、ほうき状の細長い樹冠のポプラは「セイヨウハコヤナギ」で、樹冠の丸いものは「カイリョウポプラ」であるとする説明が多く見られた。 |
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セイヨウハコヤナギ(ポプラ) 北海道内
「ポプラ」とした手書きの表示があるだけであった。世に言うセイヨウハコヤナギと理解してよいと思われる。(♂)
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改良ポプラ(カイリョウポプラ) 北海道内
何も表示がなかったが、いわゆる改良ポプラと理解してよいと思われる。人によっては、イタリアポプラ、カロライナポプラ、ユーラメリカポプラ・・・等々となるのであろうか。(♂) |
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セイヨウハコヤナギの樹名板の例(既製品)
北大のポプラ並木も本種であるとするのが通説である。 |
改良ポプラの樹名板の例(既製品)
学名表記とカタカナ表記が微妙に異なっている。この学名に従えば、ユーラメリカポプラか?。学名としては、Poplus x euroamericana としている場合もある。この樹名板には記されていないが、いわゆる「改良ポプラ」を指している。 |
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そこで、さらにこれらの素性も知りたく、少し調べてみると、学名が色々あり、北大のポプラの種名でも異なる説明があったりとややこしく、また外来種であることから、和名も一定していないなど、厄介なテーマであることが判明し、やや、あきらめに近い心境となるに至った。しかし、こうした現実を直視する必要性も感じるため、目にした情報のポイントを以下に整理してみる。 |
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1 |
セイヨウハコヤナギとカイリョウポプラ等の周辺情報の理解 |
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@ |
ポプラと呼んでいるのは外国産のヤナギ科ヤマナラシ属(Populus ポプルス属 英名: Poplar )の多くの交雑種を含む導入樹種の総称であるが、ほうき状の樹冠となる種類のみを指すことも多い。ポプラの名は属名のポプルスに由来するとされる。ヤナギ科の樹木はすべて雌雄異株である。
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A |
同属には国内でヤマナラシ、チョウセンヤマナラシ、ドロノキが存在する。外観はこちらを参照。
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B |
枝が上方を向き、樹冠がほうき状となる樹形のものはセイヨウハコヤナギの名が定着していて、学名はヨーロッパ原産の ヨーロッパクロポプラ Populus nigra の変種、品種又は栽培種としている。
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C |
北大のポプラ並木を構成する細長いほうき状のポプラの種類に関して、北大ホームページを含めてセイヨウハコヤナギであるとしている場合が多い。その延長線で、「ほんとの植物観察(地人書館)」では「セイヨウハコヤナギは雌雄の株で樹形が異なります。北海道大学の有名なポプラ並木はセイヨウハコヤナギの雄株で、竹ぼうきを立てたような円柱形のスマートな樹形が人気です。」としている。
一方、「札幌市ホームページ」及び「東芝ゑれきてる」ではヨーロッパクロポプラ(変種ではなくて基本種そのものを指している。)であるとしていて、別の見解を示している。札幌市のホームページでは、さらに、「ほうき状の樹形となるのはヨーロッパクロポプラの雄の木で、雌の木はやや広がる。」としている。
→ DNA鑑定でも何でもいいから、早いところ決着をつけてもらいたいものである。
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D |
樹冠がやや丸く、北海道内の各地に植栽されているほか、街路樹として各地(都内を含む)で利用されているのはカイリョウポプラ(カロライナポプラ、カロリナポプラとも)の名で総称される交雑種であるという。
注:カロリナポプラの呼称については混乱が見られる。(後述)
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E |
カイリョウポプラとは、米国産のアメリカクロポプラがヨーロッパに導入された後に、天然交雑種や多数の組み合わせによる人工交雑種から盛んに選抜された優良品種を指している。特にアメリカクロポプラとヨーロッパクロポプラの組み合わせで多くの系統の優良品種が確認されていて、日本でも昭和30年代から早生林業樹種として導入試験が実施されたものも、多くはこれらの品種であったという。「カイリョウ」の語は、育種上の「品種改良」の「改良」の語に由来するものと思われる。呼称としてはやや無骨で情緒に欠けた印象がある。
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F |
ポプラはその樹形や鋸歯を含む葉の形が個性的であれば、その限りで違いを認識できるようであるが、本当の素性を知るためにはDNAの分析がない限りは正確な識別は困難と思われる。
英国 Roslin の Forest Research では1サンプル当たり35ポンド(2011年単価)でDNAによる鑑定を受け付けている。
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G |
ポプラの交配親とされる種及び交雑種に係る和名、英名は、定着した統一名が存在しないために沿革的な呼称が多数存在し、時に混乱が見られ、このことが、ポプラの呼称をわかりにくいものとしているようである。(多数の呼称は後に紹介)
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H |
そもそもポプラ類は極めて種間交雑を起こしやすい性質があるため、ポプラ類が自生する地域では、多くの野生種に対して、導入されたハイブリッド種の花粉による遺伝子浸透が生じていて、種の同定自体を難しいものにしているようである。 |
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2 |
ポプラに係る各樹種の名称と属性等の情報メモ
各種図鑑、文献等を参照すると、例えば以下に掲げるような多数の名称(呼称・名前)を目にした。
注: |
学名は命名者の表記の有無でも重複掲載した。
身近な既存情報を列挙したものであり、学術的な整理ではない。
【 】書きは名称登載資料の例。 |
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A |
ヨーロッパ、アジア西南・中央アジア、北西アフリカ原産の nigra ポプラ(交雑ポプラの親となる) |
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学名 |
和名・英語名 |
Populus nigra |
ヨーロッパクロポプラ |
ヨーロッパクロヤマナラシ |
クロヤマナラシ |
クロポプラ |
ニグラポプラ |
セイヨウヤマナラシ |
アメリカヤマナラシ【樹木大図説】 * |
Black Poplar |
theves poplar |
Italian poplar 【CRC PLANT NAMES】 |
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・ |
明治初年渡来し、日本の各地に栽培される。日本には雄株が多く、雌株はまれといわれる。nigra は黒いの意味。幹の中心に黒色のものがあること、または皮が黒いことによる。【原色樹木大図鑑】
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・ |
樹形は変化に富み、ときに円柱形になる。【朝日百科】
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・ |
生長の早い枝の広がる落葉高木。【A-Z園芸植物百科事典(翻訳書)】
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・ |
キュー植物園植栽の本種の画像を見ると、スリムなセイヨウハコヤナギよりわずかに枝が広がっているように見える。 |
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・ |
マッパ・バール Mappa Burl と呼ばれる単板(ベニヤ板)はこの木の凸凹のある幹からつくる。【樹木(新樹社)】
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* |
アメリカヤマナラシの名は樹木大図説にもあるが、ヨーロッパ等原産であるから、さすがにこの名は適当ではない。名前の沿革は、明治の末期にアメリカ経由で日本に導入れたことから、ヨーロッパ原産にもかかわらずこの名がある。 |
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B |
米国東部原産の deltoides ポプラ (交雑ポプラの親となる) |
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学名のシノニム等 |
和名・英語名 |
Populus deltoides |
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Populus carolinensis *(?)
【European Environment Agency】 |
Populus canadensis *(?)
【European Environment Agency】 |
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ヒロハハコヤナギ |
ナミキドロ |
アメリカクロポプラ |
アメリカクロヤマナラシ |
アメリカヤマナラシ |
carolina poplar 【USDA , CRC PLANT NAMES】 *(?) |
cottonwood 【CRC PLANT NAMES】 |
common cottonwood【USDA】 |
Eastern Cottonwood 【USDA】 |
Southern Cottonwood 【USDA】 |
Eastern poplar 【USDA】 |
Necklace poplar【USDA】 |
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・ |
生長の早い枝の広がる落葉高木。若葉のとき強いバルサムの香りがする。【A-Z園芸植物百科事典】
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・ |
若い枝が角ばる特徴がある。【朝日百科】
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* |
米国のUSDAではPopulus deltoidesのシノニムとして Populus carolinensis 、Populus canadensis のいずれも掲げていないが、英語名のひとつとしてカロリナポプラの名を掲げている。カロリナポプラの名は、一般には次項のCを指すことが多い。
(この件は後で整理する。) |
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C |
よく見るほうき状の樹冠のポプラ(いわゆるセイヨウハコヤナギ) |
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学名のシノニム等 |
和名・英語名 |
Populus x canadensis 【朝日百科】 (誤り) |
Populus nigra L. var. italica Duroi
【CRC PLANT NAMES】 |
Populus nigra var. italica * |
Populus nigra cv. Italica |
Populus nigra ‘Italica’ *
【Kew Garden , ESSEX BOTANY AND MYCOLOGY GROUPS】 |
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Canadian poplar
【CRC PLANT NAMES ,A-Z園芸植物百科事典(翻訳書) 】 |
hybrid poplar (ハイブリッドポプラ)【CRC PLANT NAMES】 |
black poplar【CRC PLANT NAMES】 |
Italian poplar 【CRC PLANT NAMES】 |
pyramidal poplar 【CRC PLANT NAMES】 |
Lombardy poplar (ロンバルディポプラ)【Kew Gardenほか】 * |
ポプラ |
セイヨウハコヤナギ |
イタリアポプラ【A-Z園芸植物百科事典(翻訳書)】* |
イタリアクロポプラ(北大) |
イタリアヤマナラシ【木の大百科】 |
ホウキポプラ【鑑定図鑑】 |
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・ |
枝が垂直に立ってほうき形といわれる独特の樹冠をもち、大きなものは高さ40メートルになる。【朝日百科】
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・ |
雄株でせまい円柱形となる。【A-Z園芸植物百科事典(翻訳書)】
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× |
セイヨウハコヤナギ P. x canadensis は、ヨーロッパクロヤマナラシ P. nigra とナミキドロ P. deltoides の交雑種で、以前は起源がはっきりせず、学名もヨーロッパクロヤマナラシの変種や栽培品種とされていたが、現在はポプルス・カナデンシスを使い、国際植物命名規約によって種小名の前に雑種であることを示す。【朝日百科】
注:この記述は、改良ポプラに関する内容と錯綜してしまっていて、訳のわからない内容となっている。
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・ |
通名にイタリアとあり、ロンバルデー(北イタリア地方の古名)とあるも、イタリアが原産地ではなく、同地方のものが他国に輸出された理由による。【樹木大図説】
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・ |
日本に渡来したのは明治10年前後であるといわれるが明治19年田代安定氏がロシアのピータースブルグ園芸博覧会事務官として滞泊中同国政府より多数の種子を貰い受けこれを当時訪露した大山陸軍大臣一行に託して日本への送付を依頼した。その上この材を原木とした炭は火薬の原料となるとの説から陸軍官衙機構に内に播種することをすすめた。今日でも旧陸軍関係の兵営、要覧、官衙構内、国有地に相当の大木を見るのはそれが理由で増殖した遺物である。【樹木大図説】
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・ |
ポプラ(セイヨウハコヤナギ)にはオスの木とメスの木がある。枝が幹から広がらず、上に向かって突っ立っているほうき状のものはオス、枝が横にも伸びているのがメスだ、というのが通説になっているが、ポプラ研究の権威、千葉茂博士に確かめたら「ほうき状の形をしたものの中にも、まれにメスの木がある」と訂正受けた。【北方植物園(朝日新聞社)】
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・ |
セイヨウハコヤナギは広く利用されているが、雌株は綿毛のある種子をまき散らすため、一般に雄株を接ぎ木増殖したものが植栽されている模様である。ただし、「セイヨウハコヤナギの雌株」の語自体に疑問があり、別項(参照)て再検討する。
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* |
Lombardy poplar ロンバルディ ポプラ
@ |
‘Italica’は真正のロンバルディポプラで、17世紀に北イタリアのロンバルディで選抜された。【scientific-web.com】 |
A |
ロンバルディポプラは1758年に北イタリアのロンバルディ地方から英国に導入された。【Kew Garden】 |
B |
ロンバルディポプラは、背が高く細い樹冠の形から、鑑賞樹として植栽されてきた。【LandOwner Resource Centre】 |
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* |
Populus nigra var. italica の呼称はかつての表記で、最近では、Populus nigra ‘Italica’と表記している。これはおそらく Populus nigra typica の遺伝子突然変異と思われる。【ESSEX BOTANY AND MYCOLOGY GROUPS】
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* |
イタリアポプラの呼称については次項で記述。 |
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D |
よく見る樹冠の丸いポプラ(いわゆる改良ポプラ) |
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学名のシノニム等 |
和名・英語名 |
Populus x euramericana 【forestry.gov.uk】 * |
Populus x euramericana Rerd
【アボック社の既成品看板】 |
Populus x euramericana (Dode) Guin
【京大生存圏研究所】 |
Populus x euroamericana Rehd. *
【北海道樹木図鑑、北海道の樹】 |
Populus euramericana cv.
【北海道における林木育種と森林遺伝資源】 |
Populus x canadensis *
【A-Z園芸植物百科事典(翻訳書)、フローラ(翻訳書)】 |
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Hybrid (black) poplar |
Carolina poplar * |
Canadian poplar 【A-Z園芸植物百科事典(翻訳書)】 * |
エウロアメリカポプラ【北海道樹木図鑑】 |
ユーロアメリカポプラ【アボック社樹名板】 |
ユーラメリカポプラ |
カイリョウポプラ(改良ポプラ) |
カロライナポプラ(カロリナポプラ)* |
イタリアポプラ【北海道の樹】* |
カナダポプラ(英語名より) |
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・ |
多くのクローンはピラミッド形又は円柱形を呈する。【ノースダコタ大】
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・ |
種間雑種。(P. deltoides x P. nigra )【A-Z園芸植物百科事典(翻訳書)】
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・ |
ヨーロッパクロポプラとアメリカクロポプラの雑種の総称で多くの系統がある.高さ20〜30メートルの落葉樹。道内各地に植えられる。【北海道樹木図鑑】
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・ |
ヨーロッパクロポプラ P. nigra とアメリカクロポプラ P. deltoides の雑種のことを、A. Rehder が P. canadensis と命名したが、1950年の国際ポプラ委員会において、ユーラメリカポプラ P. euramericana と呼ぶように統一された。日本ではこれらの雑種ポプラを総称して改良ポプラと呼んでいる。改良ポプラの品種の識別はきわめて困難である。【道立林業試験場】
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・ |
1700年代に、アメリカクロポプラの諸品種がヨーロッパに導入され、その結果ヨーロッパクロポプラの諸品種との多くの雑種がまれ、その中には従来のヨーロッパクロポプラより成長や形質の優れた雑種が出てきたので、それらをカナデンシスという総称で呼んで植栽されたが、中には単一の品種でカナデンシスがあったので、混同を避けるため、国際ポプラ委員会で、この種のヨーロッパとアメリカのクロポプラの雑種に対し、両方の名をとってユールアメリカーナ(Eur+americana)と統一した。イタリアで多くの品種が生み出された。【北海道におけるポプラの栽培:千葉茂】
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・ |
最初の人工交雑種は1912年にイギリスで創出された。以来、ヨーロッパ各国では育種とクローン選抜が活発になった。第二次世界大戦後の木材不足が深刻となった1940年代には、ポプラのクローン増殖園が造成された。【LandOwner
Resource Centre】
北部イタリアの小村カザーレ・モンフェラートには有名なポプラ研究所が設立されていた。【早生樹の養苗と造林の実際】
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・ |
ヤマナラシ節とクロポプラ節、ドロノキ節との節間交配の稔性は低く、まだ実用化された品種はない。【北海道における林木育種と森林遺伝資源】
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・ |
Populus x euramericana ‘robusta’ = Populus x canadensis ‘robusta’
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・ |
Populus x euramericana I-154号 = ムッソリーニポプラ
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(カロリナポプラに関する国内での記述例)
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@ |
東京の街路樹として植えられているのは、樹高が低くて暑さにも強いカロリナポプラで、つやのあるひし形の葉をもち、よく風に揺らぐ。【東芝・ゑれきてる】
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A |
北アメリカ原産のカロリナポプラは、明治初年にわが国に渡来し、街路樹としてよく植えられています・・・関西では暑さに強いカロリナポプラがよく植えられています。【ほんとの植物観察】
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B |
カロリナポプラは(箒立ちにはならない)一般的な樹型で直径1メートルを超える大木になる。北米東部に分布するアメリカクロヤマナラシの園芸品種。【花おりおり】
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注 |
カロリナポプラ(カロライナポプラ)は一般には改良ポプラと同義で使用されているところであるが、@の資料の一連の説明では改良ポプラとは別にこの呼称を使っている。特定の品種を念頭に置いているような印象があるが、敢えてこの名称を使っている理由及び具体的に何を指しているのかはよくわからない。さらに、Aの「北アメリカ原産のカロリナポプラ」となると、Bのアメリカクロポプラ Populus deltoides を指すことになるが、記述内容の利用実態があるのかはわからない。Bではカロリナポプラを Populus deltoides の園芸品種とする見解であるが、確認できない。このように、国内(外)でのカロリナポプラの呼称は、交通整理を要する印象がある。
なお、 Populus deltoides のシノニムとして、Populus carolinensis の学名を掲げている例(European Environment Agency)が見られた(Bで掲載)が、その詳細は不明で、疑問がある。
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* |
Carolina poplar カロライナポプラは、フランスで独自に選抜された自然交雑種で、特に防風用に利用されてきた。
【LandOwner Resource Centre】
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* |
種小名の euramericana , euroamericana は交雑親のヨーロッパ系とアメリカ系の両方を表現したものであろう。
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種小名や英語名に canadensis , Canadian とカナダの名が見られるが、この由来については未確認。
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* |
イタリアポプラの呼称は慣用的なもので、実態上改良ポプラを指している場合とセイヨウハコヤナギを指している場合があって、混乱が見られる。
改良ポプラを指す場合は、歴史的に特にイタリアで多数の品種が作出され、各地に伝播したことが背景にあるものと思われる。一方、セイヨウハコヤナギを指す場合(こちらの方がやや多い印象がある。)は、複数ある学名のうち、変種名の var. italica や、品種名の ‘Italica’ から「イタリア」の名を取り入れた呼称として使われるに至った可能性がある。これもイタリアから各地に広まったとする見解がある。(前出)
なお、英語では、学術的な記述で Italian poplar (tree) の名はほとんど見ないが、慣用的には日本と同様に、改良ポプラ又はセイヨウハコヤナギを指して使用されている事例が存在するほか、ヨーロッパクロポプラを指している事例(前出)もあることを確認した。 |
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(イギリス国立生物多様性ネットワーク(NBN Gateway)の整理)
カイリョウポプラのシノニムが以下のとおり多数整理されている。
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Populus nigra x deltoides = P. x canadensis Moench |
Well formed name(s) |
Populus x canadensis Moench
Populus deltoides x nigra
Hybrid Black-poplar
Populus x canadensis var. serotina (Hartig) Rehder
Populus x serotina Hartig
Hybrid Black-poplar
Populus x canadensis (P. deltoides x nigra) Moench
Poplysen Ddu Ffrengig
Poplysen Ddu yr Eidal
Populus x deltoides auct., non Marshall
Populus x euroamericana nom. illegit. (Dode) Guinier ex Piccarolo |
Badly formed / unverified name(s) |
Populus serotina Hartig
Populus x euramerica
Populus x euramericana (Dode) Guiner
Hybrid Black Poplar
poplysen ddu groesryw
Populus x canadensis var. serotina (R.Hartig) Rehder
Populus x serotina R.Hartig |
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コメント |
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@ |
目にするポプラ類の素性を樹形と葉だけで識別するのは厳しい印象である。 |
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A |
ほうき状のものは、一般にヨーロッパクロポプラの栽培品種のクローンといわれるセイヨウハコヤナギ(雄株)として認識されていて、北大のポプラ並木もこの種であるといわれる一方で、これをヨーロッパクロポプラそのもの(母種)であるとする見解や、ヨーロッパクロポプラが一部に混植されていると見る者もある。 |
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B |
うした議論を終結させるにはDNA鑑定しかないと思われる。試験研究機関が系統管理しているものであれば、交雑による素性は明らかと思われるが、緑化樹等として一般的に増殖・利用されているものは、必ずしも厳格な管理がなされていないと思われる。しかし、こうしたものを調べたところで、興味深い成果につながるわけではないから、多分誰も調べないと思われる。 |
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C |
交雑ポプラについては、多数の組み合わせがあるほか、同じ組み合わせでも多数の選抜家系があるものの、日常生活の中で、これが識別できないと困ることはないから、特に気にすることもない。 |
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D |
ただし、ポプラに関する呼称がごちゃごちゃになっているのは迷惑な話である。日常生活での呼称としては、広く認知されているヨーロッパクロポプラの栽培種といわれるほうき状のセイヨウハコヤナギは、その名前が冗長で「ハコヤナギ」も一般的に認知度が低いから、「イタリーポプラ」とすれば簡便である。
また、多くの交雑種が存在する改良ポプラの名は、いかにも情緒に欠けるため、むしろこちらの方を単に「ポプラ」と総称すればよいのではないだろうか。 |
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3 |
ポプラ類の参考写真
ポプラ類は樹皮の表情も個性的である。 |
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(1) セイヨウハコヤナギ |
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札幌市福住・桑園通りのポプラ並木
とりあえずここに配したが、小さな手書きの表示板には「ニクロポプラ」とある。“ニグラポプラ”とするところを書き損じたのかもしれない。そうであれば、、ヨーロッパクロポプラとなる。全体を見ると、場所によって樹冠が狭くスマートなもの(セイヨウハコヤナギの雄株風のもの)と、枝が横に張ったものの両方が見られる。
(注)後日、スマートなものは雄株で、枝の張ったものは雌株であることを確認した。 |
北海道庁前のセイヨウハ コヤナギとしているもの
典型的なセイヨウハコヤナギの樹形と思われる。
(注)後日これが雄株であることを確認した。 |
北海道庁前のセイヨウハコヤナギと しているもの
こちらはやや枝が張っていて、樹形が異なる。雌株であろうか。道庁前の植栽樹は、道庁がマップを作成・公表していて、セイヨウハコヤナギとカイリョウポプラを仕分けている。
(注)後日綿毛を大量に飛ばしていたことから、雌株であることを確認できた。 |
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北大ポプラ並木(セイヨウハコヤナギ)
知名度が高く見学者が絶えないが、残念ながら台風被害で現在は実に貧相となっていて、見学者はがっかりして帰る。 |
同左(奥から見通した写真)
左側のポプラは樹形が異なるが、雌株なのか、それともヨーロッパクロポプラなのかはわからない。 |
枝を張ったポプラのアップ写真 |
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セイヨウハコヤナギの樹皮 1
樹皮は網目状に深く割れていることが多い。 |
セイヨウハコヤナギの樹皮 2
幹の下部にしばしば瘤を生じる。 |
セイヨウハコヤナギの樹皮 3
多くは胴吹きの枝を上方に伸ばしてぐちゃぐちゃとなるため、近くで見ると美しくない。 |
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(2) 改良ポプラ |
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改良ポプラの並木
江別市大麻駅前通りの大径木
(江別市保存樹木 すべて雌株) |
北海道庁前の改良ポプラ
(3本とも同種)
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改良ポプラ(幹の様子)
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改良ポプラの樹皮 1
樹皮は特徴的で、縦に深く割れる。 |
改良ポプラの樹皮 2
左とは若干表情が異なる。 |
改良ポプラの樹皮 3
部分的に網目状に割れたものも見ら
れた。 |
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(3) ヨーロッパクロポプラ |
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左の写真は、ある樹木園で「ヨーロッパクロポプラ」とした樹名板がついていたものである。
セイヨウハコヤナギよりやや枝が広がった印象があるが、よく似ている。セイヨウハコヤナギの母種と考えればこんなものかもしれない。
といいながらも、セイヨウハコヤナギとの明確な識別点についてはわかりにくい。
ヨーロッパクロポプラについて、「日本各地に栽培されている」とする図鑑の説明例を見るが、どこにどの程度植栽されているのかについては、情報を目にしない。
(注)後日、これが雌株であることを確認できた。したがって、明らかにセイヨウハコヤナギではない。 |
ヨーロッパクロポプラ |
ヨーロッパクロポプラの樹皮 |
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ヨーロッパクロポプラの葉はミッドグリーンであるのに対し、この品種であるセイヨウハコヤナギの葉の色は薄く、幅がより広い(Kew Gaden)。またヨーロッパクロポプラの尾状花は雄株では赤く、雌株では緑色であるが、セイヨウハコヤナギの雄株の尾状花は深紅とされる。 |
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4 |
ポプラの材の様子
日本のヤマナラシ属のヤマナラシやドロノキもポプラの材と同様に軽軟な材で、かつてはマッチの軸木の適材として利用されていた。また、ヤマナラシにハコヤナギの名があるのは、キリに次ぐ材としてこの名があったという。
外来の改良ポプラは昭和30年代にパルプ用材の生産を目的として、積極的に導入試験が行われたほか、国内のヤマナラシ属も活用した交雑育種の取組も見られたが、残念ながら目指した造林の成果は上がらなかったようである。
ポプラ材の製品としては、中国からポプラの集成材や合板、LVLが輸入されている模様であるが、身近な木製品としては見かけない。
以下に紹介するのは、2004年(平成16年)の台風被害に遭った北大のポプラ等を利用した製品である。いずれも北大総合博物館展示品である。 |
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ポプラの年輪盤 |
ポプラ材の木工品
クラフト作家諸氏による被害ポプラ材を利用した作品である。なお、右側の暗色のペン立てだけはハルニレ材である。 |
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ポプラ材を利用したのチェンバロ
チェンバロ製作家の横田 誠三の手によるもの。 バロック時代にチェンバロの材料としてポプラ材も使われたという。 |
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同部分
譜面台はハルニレであろうか。もちろん、細部に至る百パーセントがポプラというわけではない。 |
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