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続・樹の散歩道
  キョウチクトウ科の仲間の特異な個性


 キョウチクトウについては別項(★ こちらを参照)で採り上げたところであるが、そもそもキョウチクトウ科の植物は南方系のものが多く、科としては分類の基準にもよるが250属2,000種余も存在するとされ、さらにAPGでは旧ガガイモ科の大所帯も加わっている。このグループの木本類や草本類で興味深いのは多くがアルカロイド類を含有する有毒植物で、その一部は矢毒にも使われたという一方で、花の美しいものが多いため、国内でも園芸的な利用も多く、同時に毒性と紙一重の薬用としての利用例が多いという強烈で多様な個性を持っていることである。残念ながら、国内での自生種で普段目にできるものはテイカカズラくらいのみで寂しい限りであるが、薬用植物園の温室では、しばしば鮮やかな色の花や、きれいな果実を目にすることができる。数は限られているが、改めて、以前に見たこれらの仲間の花等の画像を抽出して並べ、まとめて復習・鑑賞しつつ、関係情報を調べてみることにした。【2016.9】 


 ストロファンツス・ディバリカツス Strophanthus divaricatus  
 
 和名:ヤギツノキョウチクトウ(山羊角夾竹桃)・・・この名の認知度は高くない
 中国名・生薬名:羊角拗 ヨウカクオウ
 中国、ラオス、ベトナムに産するキョウチクトウ科ストロファンツス属(キンリュウカ属)の高さ2mになる低木で、乳状があり、葉は薄く紙質、花は黄色、5深裂する花冠裂片は黄色外湾、頂端は帯状に伸びて10cmに達する。果実は楕円状長円形で頂端部は次第に尖り、基部は大きく膨らみ、長さは10-15cm、径2-3.5cm、外果皮は緑色で、乾燥すると黒色(注:見たものでは褐色であった。)となる。種子には白色の長毛がある。花期は3-7月、果期は6月-翌年2月(中国植物誌、中国本草図録)
 
 
 
   ストロファンツス・ディバリカツスの花 1          ストロファンツス・ディバリカツスの花 2
  
 花冠の喉部には赤色の条が入っている。 
 
     
 
    成熟前(裂開前)の果実
 巨大な果実の付き方は個性的で、2個が花軸に直角について一直線となる。 
       裂開した果実 
 綿毛をつけた種子をたっぷり出す。果皮は驚くほど厚く頑丈で、乾燥に伴い木質化して非常に硬くなる。
      冠毛をつけた種子
  種子は紡錘形で、扁平。
 
     
 ・  種子には、強心配糖体ストロファンチン(Strophantin ステロイド配糖体)が含まれ、強心剤として、また血管硬化、打撲、捻挫、風湿性関節炎、蛇咬傷等の症状を治す。(中国植物誌ほか) 
 ・  大毒があり、通常は外用されることが多い。(中国本草図録) 
 ・  同属の似た花をつけるStrophanthus kombe ストロファンツス・コンベ の種子から得られるストロファンチン(K‐ストロファンチン)は、かつては日本薬局方の生薬として収載されていた。 
 ・  属名はギリシャ語 strophos (ねじれたひもの意)とanthos (花の意)に由来し、花蕾時、花冠裂片が旋回していることにちなむ。(園芸植物大事典)  
 
 
   日本語の属名として、キンリュウカ(金竜花)が登場しているが、これはインド、ベトナム、ラオス等に分布する同属の灌木又は藤状灌木の Strophanthus caudatus (syn. Strophanthus dichotomusで、先の植物と似た花をつけ、この種子も地域的に強心剤として利用され、乳液又は樹皮は伝統的に矢毒として使われた。ベトナムでは魚毒として知られている(Useful Tropical Plants Database ほか)。中国名は卵萼羊角拗 であるから、「金竜花」の名は純粋の和名と思われる。日本には明治以前に渡来したものとされる。

 なお、矢毒としては同属、アフリカ産の S.gratus Franch.(注:次に登場) ,S. hispidus DC. ,S. preusii Engl. et Pax. ,S. sarmentosus DC. ,S. kombe Oliver (前出)などが使われ、アジア産のものも有毒植物として有名(世界大百科事典)とされる。 
 
 
   ストロファンツス・グラツス、ニオイストロファンツス(匂いストロファンツス) 
 ニオイキンリュウカ(匂い金竜花)
  Strophanthus gratus
 
     
   中国名:旋花羊角拗 (台湾には明治43年に渡来し、栽培もされている。)
  アフリカ中西部(リベリア、ブルキナファソ、コートジボワール、ガーナ、ナイジェリア、カメルーン、赤道ギニア、ガボン)原産で、高さ25m、径10cmになるキョウチクトウ科ストロファンツス属のつる性常緑木本で、香りのある5cmほどの花の花冠は白色、裂片の先端は赤又は紫色で、ピンク色の細く10本に裂けた副花冠をもつ(Wikioedia ほか)。花期2月(中国植物誌)。
 
     
 
 花が美しい上に芳香を放つ(バラの香りとも)ことから、熱帯においては庭園植物として観賞用に栽培されるほか、国内でもしばしば温室栽培されている模様である。

 ピンク色のとげ状に突き出た副花冠がいかにも異国の怪しい雰囲気があってよい。

 国内ではポリネーターがいないのか、果実は見られないようである。 
    ニオイストロファンツスの花
 
枝先に穂になって咲く。花冠の外側は紫紅色を帯びる。
  ニオイストロファンツスの葉   
 
     
 
 ・  種子に由来するウアバインouabain は心不全の治療に使用されている。また、矢毒としても使われてきた(Wikipedia)。
 その他、アフリカの原産地では、驚くほど多様な利用例があるとする情報を目にする。(plants.jstor.org ほか)
 ・  本種の種子に含まれるストロファンンチンはG‐ストロファンチンの名があり、現在強心薬として用いられている。
(世界大百科事典)。
 
     
 インドジャボク(印度蛇木)Rauvolfia serpentina (属名は Rauwolfia とも綴る)  
 
 中国名:蛇根木
 英語名:Indian snakeroot , Devil-pepper , Snake-root
 中国(雲南省)からタイ、マレー半島、インド、ジャワに分布するキョウチクトウ科インドジャボク属の常緑小低木。インドジャボクは印度蛇木の意で、根の形が蛇に似るとの説があり、英語名も同様の意味合いとなっている。一方、根部を蛇咬みに使用されたことに由来するとの見解もある。属名はドイツの医師、植物学者レオンハルト・ラウヴォルフ(Leonhard Rauwolf または Leonhart Rauwolff、1535 - 1596)への献名とされるが、属名として Rauvolf の綴りの方が多く用いられている事情は不明。
 
 
 
 高さ50-60cm となる。葉は上部で集生、3は又は4葉輪生で、稀に互生、花梗、花萼、花冠筒は紅色で、花冠裂片は白色、果実(核果)は紅色、完熟して黒紫色となる。

 花期は第一次2-5月、第二次6-10月、果期は第一次5-8月、第二次10月-翌年春季。(中国植物誌ほか) 
      インドジャボクの花      インドジャボクの果実   
 
     
 ・  根部は高血圧治療の主要薬物レセルピン reserpine の原料で、民間では根、樹皮、葉を解熱、抗てんかん、昆虫・蛇咬み等の薬とする(中国植物誌ほか)とされるが、現在では合成品が使用されている(武田薬品)という。 
 ・  根は降圧、鎮静、鎮痛作用があり、活血・清熱解毒し、高血圧症、めまい、不眠、てんかん、毒蛇の咬傷などに用いる。(中国本草図録) 
 ・  印度伝統医学のアーユル・ヴェーダに伝えられる重要な薬用植物で、古くはヘビやサソリの噛み傷のほか、マラリアや精神病の治療に用いてきた。また西洋医学でもかつては血圧降下剤としても多用された。(植物の世界) 
 
 
 ホウライアオキ(蓬莱青木)Rauvolfia verticillata   
 
   中国名:萝芙木(蘿芙木)、萝芙藤(蘿芙藤)
 中国、台湾、ベトナムに分布するキョウチクトウ科インドジャボク属の灌木。  
 
 
 
 高さは3メートになり、葉は3-4葉輪生で稀に対生、花は小さく白色、核果は緑色から暗紅色に、さらに紫黒色となる。

花期は2-10月、果期は4月-翌春。(中国植物誌) 
     ホウライアオキの花     ホウライアオキの果実   
 
     
 ・  根と葉は薬用となり、民間で高血圧症、高熱症、胆嚢炎、急性黄疸型肝炎、頭痛、不眠、めまい、てんかん、マラリア、蛇咬傷、打撲傷の治療に使用されるほか薬用原料となる。(中国植物誌) 
 ・  根は風熱を冷まし、肝火を降ろし、炎症性腫脹を治し、感冒の発熱、咽喉の種痛、高血圧、頭痛、めまいに用いる。(中国本草図録) 
 
 
 マライジャボク(マラヤジャボク)Rauvolfia perakensis  
 
 中国名:霹雳萝芙木(霹靂蘿芙木)
 マレーシア、タイに分布し、中国でも生産される。 
 
 
 
 葉は対生又は3輪生。花冠淡紅色、核果紅色、花期2-11月、果期9月-翌年2月。(中国植物誌)

 本学名は一般に前出 Rauvolfia verticillata(ホウライアオキ)のシノニムとされるが、別種としている場合(中国植物誌、中国本草図録)も見られる。

 別種としている情報は以下のとおり。 
     マライジャボクの花     マライジャボクの果実   
 
     
 ・  根は各種のアルカロイドを含み、風邪を除き、熱部を発散し、高血圧症、めまいなどに用いる。(中国本草図録) 
 
     
 ヨツバジャボク(四葉蛇木)Rauvolfia tetraphylla (syn. Rauvolfia tomentosa  
     
   中国名:四叶萝芙木(四葉蘿芙木)
 南アメリカ(メキシコ、中央アメリカ、西インド諸島、南アメリカ北部)原産で、中国、アジア各地で栽培される。
 灌木で高さは1.5m、葉は4輪生、大小不同で膜質。花冠白色、果実(核果)は緑色から紅色となり、成熟して黒色となる。花期5月、果期5-8月。 
 
     
 
      ヨツバジャボクの花     ヨツバジャボクの葉の様子
  輪生する4枚の葉は不ぞろい。 
     ヨツバジャボクの果実 
 
     
 
 ・  根は鎮静、降圧、鎮痛作用があり、活血し、清熱解毒し、嘔吐、頭痛、咽喉腫痛、高血圧、高熱に用いる。(中国植物誌、中国本草図録) 
 
     
 オオバナアリアケカズラ(有明蔓)ほか   
     
    オオバナアリアケカズラ(中国名:軟枝黄蝉 ナンシコウセン)アリアケカズラAllamanda cathartica と同種とされているが、この変種 Allamanda cathartica var. hendersonii 又は品種 Allamanda cathartica ‘hendersonii ’としている場合もある。    
   
 
   オオバナアリアケカズラの花      ヒメアリアケカズラの花    アリアケカズラ属の一種の花 
 
     
 
 ・ アリアケカズラは、ブラジル原産のキョウチクトウ科アラマンダ属(アリアケカズラ属)つる性低木で、葉を民間で皮膚の湿疹、化膿症、疥癬に適量を外用する。樹液は有毒でうじ、ぼうふらの駆除に用いる。(中国本草図録)   
 ・ オオバナアリアケカズラは、キョウチクトウ科アラマンダ属(アリアケカズラ属)の半つる状常緑低木で、アリアケカズラの花径(5-6cm)より大きい。  
 ・ ヒメアリアケカズラ Allamanda neriifolia は、木立性で全体がやや小さい。
 
     
8   カリッサ Carissa (カリッサ属)   
     
 
  カリッサ属はアフリカ、オーストラリア、アジアの熱帯から亜熱帯に分布する灌木又は小木。園芸に利用されるほか、熟した果実は生食でき、料理や民間療法にも利用される。(Wikipedia) 
 カリッサの一種の花 カリッサの一種の花   
 
          
   Carissa carandas に関しては、以下のような利用情報を見る。   
 
 インド原産の高さ4~5mのキョウチクトウ科カリッサ属の常緑低木で、トゲを利用して生け垣にもされ、果実は赤熟し、さらに熟すと紫黒色となり、生食できる。(世界大百科事典) 
 中国名 刺黄果。果実はビタミンを含み、清熱し湿邪を除き、咳嗽や胃病に用いる。(中薬本草図録) 
 
     
   チョウジソウ(丁子草、丁字草) Amsonia ellipticaAmsonia sinensis   
     
 
 チョウジソウの花  チョウジソウの果実        チョウジソウの種子
 
   
 日本を含む東アジアに分布するキョウチクトウ科チョウジソウ属の多年草。和名の丁子草(丁字草)の由来に関しては、「花の形がフトモモ科のチョウジの花に似ていることによる(野に咲く花)。」としている例を見るが、これは誤りで、名前の「丁字」は「丁の字」(T 字といえば誤解がない。)の意味で、花の形が日本人には馴染みのないチョウジの花に似るのではなく、横から見れば丁型であることによる。中国名は水甘草
 細長い袋果を一般に大きく開いた二又状につける。花が小さい割りに袋果は長く、5~7センチほどであった。日本にも分布する種であるためか、結実は良好である。種子は袋果に1列におさまっていて、その形態は個性的で、無着色の杉葉線香を短く折ったもののような質感と色合いである。種子の両端は斜めになっていることが多い。  
 
 
 ・  チョウジソウは古くから有毒植物として知られていたが、現在薬用には用いられていない。
(原色牧野和漢薬草大図鑑) 
 ・  全株薬用となり、味は甘く無毒、甘草と同様に小児風熱、丹毒瘡に効ある。(中国植物誌ほか) 
 ・  花用として栽培されることがあり,この属の北アメリカ原産のホソバチョウジソウ A. angustifolia Michx. やヤナギバチョウジソウ A. tabernaemontana Walt. なども園芸植物として栽植される。(世界大百科事典) 
 
     
10   ニチニチソウ(日日草)Catheranthus roseusVinca rosea   
     
   マダガスカル原産のキョウチクトウ科ニチニチソウ属のやや木本性をおびた多年草。園芸種が多く、薬用植物園で果たして原種が植栽・管理されているのかはさっぱりわからない。結実は良好で、2本の細長い袋果を二又状に伸ばしている姿を見る。袋果の長さは3センチ前後であった。二又の袋果の先端部が最初に接合しているのはツルニチニチソウと同様である。園芸用の種子がふつうに販売されている。   
   
 
 
ニチニチソウの花 1  ニチニチソウの花 2 ニチニチソウの花 3
     
     
     ニチニチソウの果実     ニチニチソウの裂開した果実      ニチニチソウの種子 
 
     
 
 ・  ビンクリスチン vincristine などのアルカロイドを含有し,細胞分裂阻害剤となり,臨床医学では抗癌剤として用いている。(世界大百科事典) 
 ・  薬用部分は全草、ビンクリスチンなど(白血病他の抗ガン剤)の製造原料とされる。(都立薬用植物園) 
 ・  主要成分はインドールアルカロイド (vincamine)、茎葉を止血(腸出血、子宮出血)、催吐に(武庫川女子大学) 
 ・  有毒。全草降圧、抗癌作用があり、急性リンパ性白血病、リンパ肉腫、濾胞性リンパ芽球腫、高血圧症に用いる。(中国本草図録) 
 ・  園芸的に改良されたニチニチソウは有効成分が少ないので、薬にするには原産地の野生種が栽培利用される。(植物の世界) 
 
     
11  ツルニチニチソウ(蔓日日草) Vinca major   
     
 
 南ヨーロッパ、北アフリカ原産のキョウチクトウ科ツルニニチソウ属の多年草で、斑入り品種もあり、グランドカバーとして多用されている。

  花の中心には五角形の付属体が見られるが、その奥はまるで蓋がされているようで、構造らしきものは何も見えない。

 二又状または1本だけの袋果をしばしばつけているのを見る。
果実、種子は後出
ツルニチニチソウの花 1  ツルニチニチソウの花 2    
 
      
 
 ・  主要成分はインドールアルカロイド (vincamine)、茎葉を止血(腸出血、子宮出血)、催吐に(武庫川女子大学) 
 ・  同属のヨーロッパ原産のヒメツルニチニチソウ Vinca minor では、全草 vincamine を含み、老人の脳内血行を促進し、記憶力増強に用いる。(中国本草図録)  
 
     
12
 テイカカズラ(定家蔓) Trachelospermum asiaticum   
     
   日本(小笠原,本州,四国,九州),南朝鮮に分布するキョウチクトウ科テイカカズラ属のつる性常緑低木。
 果実は袋果で細長く双生して長さ15~18cm、銀白色の種髪をつけた種子を出す。(世界大百科事典ほか)  
 
     
 
      テイカカズラの花
 中心に見えるのは合着した葯で、雌しべは上からは全く見えない。
   テイカカズラの個性的な葉裏   テイカカズラの裂開果実と種子 
 果実は二又状の袋果で縦に裂開する。種子の冠毛は絹毛風で実に艶やかである。
 
     
 
 ・  花が小さい割りに果実は長く、目にした裂開前の袋果では、長さが16センチであった。一般に25センチほどにも達するという。 在来種でありながら、どういうわけか結実はよろしくない。
 ・  茎や葉を乾燥し、煎じて解熱や強壮などの薬用にする。(樹に咲く花) 
 ・  茎葉のトラチエロシドは弱い強心作用がある。解熱、鎮痛、活血薬として、リウマチ症の疼痛、咽喉痛、関節痛などに用いられる。解熱薬として煎用されるが、毒性が強いため、民間での使用は危険。地方によっては牛馬の冬期飼料にする。(原色牧野和漢薬草大図鑑) 
 
     
13  マンデビラMandevilla   
     
 
 熱帯アメリカに産するキョウチクトウ科マンデビラ属(チリソケイ属) Mandevilla のつる性植物の総称。

 マンデビラ属は乳液を出す有毒植物で、食べれば低い毒性を示す(North Carolina State University)とされるが、詳しい情報はみられない。

*薬用情報は未確認  
 マンデビラの一種の花 マンデビラの一種の花   
 
     
 
 ・  茎に乳液があり、接触すると皮膚刺激を起こすことがあり、植物のあらゆる部分を摂取すると胃が悪くなる。(A-Z園芸植物百科事典) 
 
     
14  トウワタ(唐綿)、アスクレピアス Asclepias curassavica   
     
 
 南アメリカ原産のキョウチクトウ科(旧ガガイモ科)トウワタ属の多年草で、日本では切花や鉢物としても栽培される。配糖体を含有し、有毒であるが民間薬として世界各地で利用される。(世界大百科事典) 

 紡錘形の袋果は絹毛をつけた種子を出す。 

★ トウワタの花の構造の詳細についてはこちらを参照
      トウワタの花 1 
 中心の蕊柱をツノのある5個の橙黄色の副花冠が取り囲んでいる。
       トウワタの花 2 
 副花冠は蜜で満たされていて、輝いて見える。
 
 
     
 
 ・  有効成分はアスクピジン、花は止血、生葉は駆虫、発汗、根は催吐に(星薬大植栽看板) 
 ・  全草消炎、鎮痛と止血の作用があり、乳腺炎、月経痛に用いる。概要では骨折、切り傷、湿疹、たむしに用いる。(中国本草図録) 
 
     
15  フウセントウワタ(風船唐綿)Gomphocarpus physocarpus   
     
   アフリカ南部原産のキョウチクトウ科(旧ガガイモ科)フウセントウワタ属の一年草(本来は低木)。全草から分泌される乳液は家畜に対する毒性があるほか、眼に入ると角膜炎を引き起こすともいわれる。卵形の袋果は絹毛をつけた種子を出す。 
果実や種子の様子の詳細はこちらを参照 
 
     
 
    フウセントウワタの花 1
 数個ずつ下向きにつける。
    フウセントウワタの花 1
 
中心の蕊柱を取り巻く5つの副花冠にはトウワタと同様に蜜を貯める。
  フウセントウワタの副花冠の蜜
 副花冠の蜜が盛り上がっている。中心部は蕊柱の柱冠と呼んでいて、柱頭ではない。真の受粉部位たる柱頭は中の花柱に見える部位にある。 
 
     
 
 ・  フウセントウワタ Gomphocarpus physocarpus は、南アフリカでは広く伝統的な薬として利用されている。根は腹痛に使用される。葉は乾燥して粉とし、頭痛の鼻吸入剤とされる。乳状ラテックスはイボに使用される。茎は繊維として利用される。生の茎と葉をモグラの穴に詰め込めば効果的な抑止となるといわれる。この植物は摂取すれば有毒で、ヒツジが大量に食すれば死に至る。(plantzafrica.com)
   
 
     
16  ガガイモMetaplexis japonica   
     
   キョウチクトウ科(旧ガガイモ科)ガガイモ属のつる性多年草。茎は白い乳液を大量に出す。ガガイモの名前の由来は不明。
 紡錘形の袋果は絹毛をつけた種子を出す。 
 内服で滋養強壮に、種子の綿毛は止血の効果があると言われている。これに対して、中国での適用例を見ると、その多彩な活躍振りにはびっくりポンである。 
 
     
 
  
      ガガイモの花 1
 花には両性花と雄花があるという。写真では見えないが、蕊柱の基部の周りには蜜を貯える副花冠が存在する。 
      ガガイモの花 2 
 一見柱頭に見える部分は受粉機能はなく、真の柱頭は蕊柱の柱冠の直下の花柱の側面に存在するという。 
      ガガイモの若い果実 
 種子には種髪と呼ぶ絹状光沢のある豊かな毛があり、止血の効果が認められてきたが、イメージしにくい。
 
     
 
 ・  中国名は蘿摩 ラマ全草腎虚によるインポテンツ、遺精、乏乳に用いる。丹毒、ねぶと、虫さされや蛇の咬傷に外用する。腎虚によるインポテンツ、疲労、脱力感、無職の帯下、乏乳、小児の栄養不良に用い、できものや毒蛇の咬傷に外用する。(中国本草図録)  
 ・  全株薬用となり、果実は労傷、虚弱、足腰疼痛、乏乳、白色帯下、咳嗽を治すことができ、は打撲、蛇咬、固根、瘰癧、インポテンツを治し、種子毛は血を止めることができる。(中国植物誌) 
 
     
17  アコン(カロトロピス・ギガンテア) Calotropis gigantea   
 
   和名カイガンタバコ ・・・ この名の認知度は高くない
 中国名牛角瓜、羊浸樹、断腸草、五狗卧花心
 英語名:Crown flower クラウンフラワー  
 
     
 
 インドから東南アジアの乾燥した地域に分布するキョウチクトウ科カロトロピス属の高さ3メートルほどに達する低木。花果期はほぼ通年。

 フウセントウワタ風の毛のない卵形の袋果は絹毛をつけた種子を出す。

 観賞用として、世界各地で広く栽培されている。  
        アコンの花         アコンの花     
 
     
 
 ・  中国に産し、インド、スリランカ、ミャンマー、ベトナム、マレーシアに分布。
 直立灌木で高さは3mに達し、全株に乳汁をもつ。葉は倒卵状長楕円形又は楕円状長円形で、長さ8-20センチ、幅3.5-9.5センチ、頂端は急に尖り、基部は心形。集傘花序は傘形状。花冠は紫藍色(又は白色)、輻状、直径3-4センチ、花果期はほぼ通年。
 茎皮繊維は紙、ロープ、人造綿、織麻布、麻袋とすることができる。種子毛はベルベット原料や充填剤となる。茎葉の乳汁は有毒で、多種の強心配糖体を含み薬用となり、皮膚病、赤痢、風湿(リウマチ)、気管支炎を治し、樹皮は癫癣を治す。(中国植物誌) 
 ・  種子には長い絹状の毛があり、マットなどの詰物に利用される。茎からはじょうぶな繊維が採取され、釣糸や漁網が作られた。民間薬にも利用される。インドネシアでは Widuri と称し、根、乳汁、葉を手足の疥癬、蛇の咬傷などに用いられる。(世界有用植物事典) 
 ・  和名の「カイガンタバコ」の名は、タバコのような大きな葉を持ち、分布国では海岸近くの乾燥した硬い赤土に深く根を張って生えることによる。 
 ・  アコン(Calotropis gigantea)と同属のカロトロピス・プロケラ(Calotropis procera)は同様の利用が見られる。
 アコンはインドからの移民によって主としてアフリカや東南アジアで利用され、またこうして利用が広まった。植物体全体が皮膚病、はれもの、ただれに利用され、少量の服用で強壮剤や下剤に、多くの服用で吐剤に利用される。根皮の粉末は赤痢、象皮病、ハンセン病の治療に使用される。茎皮は発汗薬、去痰薬であり、また赤痢、脾臓病、けいれん、腰痛、疥癬、白癬、肺炎、分娩誘発に使用される。乳液は刺傷、歯痛、カリエス、白癬、ハンセン病、梅毒、リウマチ、腫瘍に使用されるほか、消毒薬、駆虫剤、吐剤、下剤や矢毒としても使用される。花の粉末は咳、風邪、喘息に投与される。つぶして温めた葉は、火傷、頭痛、リウマチ性の痛みに適用され、チンキとして間欠熱に適用される。(以下省略)(PROTA) 
 
     
   キョウチクトウ科の植物の薬用利用に関しては、その多様性に驚かされるが、これらの花についても、例えばキョウチクトウの花もちょっと見には雄しべも雌しべも上から見えないし、ここで採り上げた花もそれぞれ個性的である。一見シンプルに見えるものでも、花筒部の詳細の構造と受粉機構を学習しようとしたら、かなりの暇つぶしができそうである。 さらに、トウワタ、フウセントウワタ、ガガイモ、アコンの花もいかにもミステリーに満ちた奇妙な形態であり、人生は長いから、これらを理解する楽しみはしばらく取っておくことにしたい。 

 と言いながらも、野生化したツルニチニチソウはサンプルを採取しやすいことから、花としては地味でありふれた存在ではあるが、花筒を解体して、ちょっとだけ中をのぞき見てみた。
 
     
  <ツルニチニチソウの花の構造>   
     
 
   
        ツルニチニチソウの花筒の断面 1
 花筒の雄しべ1本分相当を取り除いた状態である。
 筒の内面は毛だらけで、途中から出た雄しべが雌しべの形に沿って屈曲し、雌しべの上方を覆っている。雌しべの一見柱頭部に見えるものは円盤状で中心に上方に向けた短い軸があり、先端部から毛を上方に放射状に伸ばし、下垂している。なお、円盤の上部及び側面はしっぽり濡れている。
    ツルニチニチソウの花筒の断面 2
 左写真の花筒から切り取った部分で、雄しべ一本の様子である。数の子の破片のような2つの花粉塊が確認できるが、やや上の葯の位置からは脱落しているようである。 
 なお、雄しべの花糸の基部では内側に、葯では外側に毛をもっている。
 
     
 
 
     ツルニチニチソウの花筒の断面 3 
 花粉塊の定位置がわかりにくいが、葯から出た花粉塊は柱頭の上方の毛のポケットに納まりつつ、円盤上にゴロリと載った状態になっているように見える。この様子を見れば、円盤の上面は受粉部位たる柱頭面ではないことがわかる。
       ツルニチニチソウの花筒の断面 4
 写真は花筒を少しだけ押し広げた状態となっている。花粉塊が左右に見られる。 
 
     
 
 
                        ツルニチニチソウの花筒を展開した様子
 雄しべは5個あり、たぶんそれぞれに葯から出て、緩やかに固まった状態の花粉塊が存在すると思われるが、写真では散らかってしまっていて、雌しべの柱頭の上方の毛の上にも付着している。そもそも雌しべの受粉部位たる真の柱頭部の位置がよくわからない(詳細の解説が見つからない。)。旧ガガイモ科と同様であれば、円盤の下、花柱の上部当たりということになる。筒の下部には甘い味の蜜を確認した。ただし、蜜の毒性に関しては不明。

 こんな毛だらけの、窮屈な構造で、だれが本当に期待される花粉運搬者(花粉媒介者、送粉者)なのであろうか。国内では滅多に結実しないとされるのは、最適な花粉運搬者が存在しないということであろうか。
 
     
   花が開いた状態では、葯は花粉をコロリと出しきっていて、葯に花粉が付着した状態を確認するのが困難であるため、次に蕾の状態のものを解体してみることにした。   
     
 
  ツルニチニチソウの蕾の雄しべ
 雄しべ1個分の花筒を切り取った状態である。緑色の小さな蕾の状態の花の雄しべで初めて裂開前の葯の姿を見ることができる。2個の半葯が確認できる。
 ツルニチニチソウの蕾の雄しべ
青色に色づいた蕾では、既に葯が花粉を出し切っているのが普通であった。 
 ツルニチニチソウの
 小さな若い果実

果実は2本のさや状で、先端部のみが接合していた。
 
     
  <ツルニチニチソウの果実と種子の様子>   
     
   ツルニチニチソウは、国内ではまれに結実することが知られている。そこで、グランドカバーとして植栽されている場所で目を凝らして見ると、それほど珍しいものでもないようで、次々と発見できた。要は果実は小さいため、葉が邪魔で見えにくいだけのことである。しかし、キッチリ管理されているところでは、果実を見つけやすい花後にザックリ剪定されてしまうから、果実探しのチャンスを失う可能性もある。果実と種子の様子を次に紹介する。    
     
 
         ツルニチニチソウの果実
 先端部が離れて、キョウチクトウ科の果実らしい2本の莢の状態となっている。長い莢には種子が2個入っている。
       ツルニチニチソウの果実 
 1本だけの莢のものもふつうに見られた。写真の場合は種子は1個だけである。
 
     
 
   
    人為的に開いたツルニチニチソウの果実 
 莢は緑色であるが、種子は既に成熟しているようである。自然状態でも袋果は青味がある状態で裂開する模様である。
          ツルニチニチソウの種子
 種子には縦に深い溝がある。背丈の低い植物であるから、落下傘用の冠毛は持たない。
 
     
     
   キョウチクトウ科の花の構造及び受粉のメカニズムに関する詳しい解説がどこかにないものか・・・。この科の花は一見してもわかりにくく、解剖してもさらにわかりにくいため、益々興味を惹くところとなり、観察のチャレンジ例を目にするが、十分理解できる情報は乏しい。