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続・樹の散歩道 キョウチクトウの乳液が有毒とされるが
そもそもキョウチクトウが乳液を出すのか?
キョウチクトウは多くの公園では定番の植栽樹種であり、また厳しい環境にも耐えることから、高速道路の沿線の緑化木としてもウンザリするほど植栽されていて、ごくふつうに存在する樹木として広く知られているころである。一方で、キョウチクトウは植物体全体に強い有毒物質を持っていることでも有名であるが、食べられる何らかの植物と間違えて口にする(誤食する)危険性はまず考えられないことから、一般市民も特に恐ろしい存在として見ることもないし、行政もこの植物の誤食の防止に神経質になる必要もないのは幸いである。結果として、キョウチクトウは街のあちこちで実に穏やかに存在している。【2016.3】 |
キョウチクトウの毒性を示す例としては、かつてこの枝を箸に使って中毒者が出た史実があることや、セイヨウキョウチクトウの生枝をバーベキューの串にして死者が発生した海外の事件が有名であるが、有毒植物を解説した本によれば、キョウチクトウは切ると白い汁液(乳液)を出し、これ自体も有毒であるとしている。トウダイグサ科の植物であれば、毒性のある乳液を出すものが多いことが知られているが、それ以外の樹木で乳液を出すというのは実際に見た経験もなく、どうもピント来ない印象があって、図鑑類でもその様子を示した写真は見たことがない。有毒植物は大好きなので、しっかりこれを確認してみることにした。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
1 | キョウチクトウのあらまし (解説資料:日本の野生植物ほか) | |||||||||||||||||||||||||||||||
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2 | キョウチクトウの樹液(乳液)の様子 | |||||||||||||||||||||||||||||||
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キョウチクトウは吸水の圧が高いのか、葉を折り曲げても主脈から樹液が滴り落ちるほどである。小枝でも、葉を採った跡の着生部位でも同様で、ほぼ透明の樹液がすぐに滲出して滴り落ちた。次に、株立ちとなった1.5センチほどの径の幹を切断してみたところ、期待していた白い汁液(乳液)の滲出を確認することができた。ということで、どこからでも乳液を垂れ流すというわけではないことがわかった。 この樹液は透明であっても危険を感じるため、一切指に取ったり、もちろんなめたりしていないため、残念ながらこれ以上の報告はできない。 ところで、キョウチクトウの仲間にセイヨウキョウチクトウがあることがしばしば紹介されており、多数の園芸品種があって植栽もあるようであるが、現物は確認したことがない。そもそも毒性を含めてどんな違いがあるのであろうか。 *乳液を出す植物の例についてはこちらを参照 |
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3 | キョウチクトウ、セイヨウキョウチクトウの毒性 | |||||||||||||||||||||||||||||||
(1) | 一般論の例 日本の有毒植物(学研) | |||||||||||||||||||||||||||||||
キョウチクトウ: Nerium oleander var. indicum 毒性成分:強心配糖体のオレアンドリンを含み、開花期に含量が多くなる。 有毒部位は全草、とくに種子と乳液。誤食すると頭痛、めまい、嘔吐、けいれん、意識障害を起こし、ときに死に至ることもある.枝の切断面から生じる乳液も有毒、生木を燃やした煙も有毒。 |
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(2) | 有名な事例 (個々のオリジナルの出典は明らかではない。) | |||||||||||||||||||||||||||||||
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4 | キョウチクトウとセイヨウキョウチクトウの違い | |||||||||||||||||||||||||||||||
前項で、突然セイヨウキョウチクトウ Nerium oleander が登場したが、セイヨウキョウチクトウを観察したことがないため、英語サイトで検索すると、国内でキョウチクトウの学名としている Nerium indicum あるいは Nerium oleander var. indicum の何れもがセイヨウキョウチクトウの学名 Nerium oleander のシノニムとして一般に整理されている(KEW Royal Botanic Garden , The Plant List ほか)ことが確認できた。翻訳本の「フローラ」でも日本国内での実態を踏まえて正確に取り扱っていて、Nerium oleander の和名としてセイヨウキョウチクトウとキョウチクトウの両方の名前を併記している。 つまり、日本ではキョウチクトウはセイヨウキョウチクトウの変種または別種として扱っているが、欧米では同一種として解釈しているということである。また、日本ではキョウチクトウはインド原産と頑なに信じているが、おもしろいことに、当のインド国内のホームページでも、Nerium indicum は Nerium oleander (インド、地中海沿岸原産)のシノニムとして記述しているのを確認した。したがって、キョウチクトウがインド原産で、セイヨウキョウチクトウが地中海沿岸原産として区別して理解しているのは日本を含む非常に限られた国だけである可能性が高い。 今後、仮に国内で1本化された場合は、和名は「キョウチクトウ」で統合すればわかりやすいと思われる。その際は、どういった変異があるのかも整理願いたいところである。 なお、 Nerium oleander の起源は南西アジアが示唆されている(wikipedia)ともいわれるが、原産地に関しては、例えば北アフリカ、南ヨーロッパ、西アジア、インド、中国西部としていて、当然ながら、日本ではキョウチクトウのみに充てている「インド」を含めて整理されている。 |
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キョウチクトウとセイヨウキョウクトウの表現の比較 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
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5 | キョウチクトウ類の結実に関する諸説 | |||||||||||||||||||||||||||||||
外来種であるキョウチクトウは、国内ではこの花の構造に適合した花粉媒介昆虫がいないために結実しない、あるいは結実しにくいというのが定説になっていて、以下のような記述例を見る。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
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一方で、以下のような少々異なった見解が見られる。 【ミクロの自然探検(抄):矢追義人(文一総合出版)】 「キョウチクトウは、日本では適切な授粉昆虫がいないため結実しにくいという話がかなり流布しているようだ。しかし、キョウチクトウは日本でも結実する。白色一重のものが最も結実しやすい。完全な八重咲き以外はどれも結実し(?)、種子の発芽率も非常にいい。観賞用に栽培されるのは八重咲きの品種も多いので、それが「結実しない」といわれる一因だろう。(注:この見解には疑問がある。) キョウチクトウには蜜がなく(セイヨウキョウチクトウでも同様)、花の構造から同花受粉は不可能であり、昆虫が騙されて花筒に口を差し込み、蜜を探すという行動を取ってくれる、わずかなチャンスを待つことになる。(このことから)結実率は低い。自生地でも特別なキョウチクトウ専用のスペシャリストの昆虫がいるわけではない。」 |
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6 | キョウチクトウの果実探し(キョウチクトウの果実と種子) | |||||||||||||||||||||||||||||||
普段よく目にする桃色(赤色、紅色)八重のキョウチクトウでは特に果実を意識して見たような記憶はない。資料を見た限りでも一重のキョウチクトウで結実の可能性が高いような雰囲気があることから、特に赤と白の一重のキョウチクトウに重点を置き、ついでに桃色八重のキョウチクトウについても念のために観察することにした。 (注:ここでいう桃色八重のタイプは、しべが完全に花弁化したものではなく、雄しべ、雌しべを有するタイプを指す。) それぞれの複数の個体について、9月中旬に様子を確認すると、以下のとおりであった。 @ 白一重では結実個体は見られなかった。 A 赤一重ではわずかな結実があるものと全くないものの両方が見られた。 B 桃色八重ではわずかな結実があるものと全くないものの両方が見られた。 限られた個体数での観察であるが、注意して見れば果実は別に珍しいものでもなく、バニラビーンズのような形態の袋果が日当たりのよい高い位置でつんと上向きに所々についていることを確認した。 果実は細長いために、成熟して褐色になる前の緑色の状態では、果柄や細長い葉に紛れて、見過ごしていることが多いものと思われる。成熟が進んで次第に赤みがかった褐色となれば、ポツポツと普通に存在していることを確認できる。さらに、都内であれば、1月下旬〜2月にかけて、褐色の果実が二又になって裂開し、種子を放出している状態となると、一層確認しやすくなって、意外や結構結実していることがわかった。ただし、受粉に貢献した昆虫の素性は全くわからない。 |
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キョウチクトウの果実は裂開する時期に幅があり、ちょうどよいタイミングで観察しにくい。そこで、赤味が生じた果実を2本採取してコップに水挿しして、裂開するのを待ち受けてみた。10センチほどの長さの短めの果実であるが、風で飛散して消失する前の状態を知ることができた。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
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念のために植木鉢に種をまいて様子を見たところ、ちゃんとと発芽して、現在スクスクと成育中である。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
7 | キョウチクトウの袋果はなぜ1本だけなのか? | |||||||||||||||||||||||||||||||
キョウチクトウ科の植物の果実は草本類と木本類とを問わず、目にするものでは二又状の袋果となっているのがふつうであるのに対し、キョウチクトウでは袋果が1本だけツンと立っているのは異質な印象がある。 裂開した袋果は変形していて少々わかりにくいが、豆の莢が二つに割れるのとは明らかに異なっているように見え、形態的には割れた莢のそれぞれから種子をだしているように見える。そこで、念のためにキョウチクトウの若い果実の断面を見るなどして、その点を確認してみることにした |
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以上のとおりで、キョウチクトウの果実では、果実が十分に成熟するまでの間、2本の莢が接合状態のままになっているものであることが確認できた。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
8 | キョウチクトウ類の蜜に関する見解 | |||||||||||||||||||||||||||||||
先に引用した書籍で、キョウチクトウとセイヨウキョウチクトウは共に蜜を待たないとする記述が見られたところである。 セイヨウキョウチクトウ(ここではキョウチクトウを含む呼称)が蜜を持たないことに関しては英語版の Wikipedia でも説明が見られほどであるが、キョウチクトウの蜜の有無に関しては科学的な裏付けを持った国内における記述を目にできないのは不思議なことで、一般にファジーな認識のままである。こうしたなかで、科学者の手による記述でも、蜜が存在することを前提にした内容がしばしばあり、十分な知見が得られていないことを物語っている。先の書籍での出典は明らかではないが、一般には両種が同一種として扱われているところであり、キョウチクトウも蜜を持たないと理解して間違いないと思われる。 念のために白花一重と桃色八重の花の中を見たところ、蜜らしきのもは確認できなかった。 <参考:wikipedia 英語版 Nerium oleander> 「この花は結実するためには昆虫の訪問を必要とし、昆虫を欺く仕組みを通じて授粉しているようである。華やかな花冠は花粉媒介者に対しては遠くからでも極めて効果的な宣伝となるが、花には蜜はなく、訪問者には何も報酬を提供しない。したがって、多くの無報酬の植物の花と同様に、この花の訪問者も極めて少ない。ということから、有毒なセイヨウキョウチクトウの蜜が蜂蜜に混入するなどという心配には根拠がない。」 |
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9 | キョウチクトウを巡るかつての事件 | |||||||||||||||||||||||||||||||
かつて(2009年)九州の某市内で、キョウチクトウの毒性をたまたま初めて知るころとなったと思われるピントのずれた者が、市内の学校に植栽されたキョウチクトウの撤去を要求したことがあるそうである。これに対して、さらに輪を掛けてピントのずれた教育委員会が、自らの無知を恥じてあわてて市内の学校に植栽されたキョウチクトウをすべて伐採することを決定したところ、案の定、世間の物笑いとなり、またあわてて方針を撤回するというお粗末な経過が広く知れ渡るところとなってしまった。 このことが恥ずべき事例、他山の石として各自治体も認識を深めるきっかけとなり、たぶん対処方針が明確となったのか、同様の混乱は見られないようである。 |
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10 | キョウチクトウの剪定枝の扱い | |||||||||||||||||||||||||||||||
多くの自治体が家庭からでる剪定枝を無料で回収してチップや堆肥にするリサイクル事業を実施している。しかし、各自治体とも共通して、毒性のある樹木の枝は受け入れできないものとして明記しているのはおもしろい。ただし、具体的に掲げられている樹種は自治体毎に少々異なっていて、手探りの苦労が伝わってくる。 有毒な樹種として一般的に掲げられているものは、キョウチクトウ、アセビのほかに、ウルシ、シキミ、イチイの名前まで見られる。 行政としては「もし万が一」を考えて、自らの安全を第一に考えるものであり、こういった実態となっているものと思われる。ところで、イチイは雌株の果種皮の中の小さな種子が有毒とされているが、神経質になればきりがない世界である。 さて、市民は受け入れてもらえない剪定枝をどのように処理すればよいのであろうか。たぶん可燃物(時に有料)として出せばそれまでのことと思われる。しかし、庭先で燃やすのはそもそもよろしくないこととなっていて、しかも、キョウチクトウやウルシは煙も危ないといわれているから、気をつけなければならない。 |
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11 | セイヨウキョウチクトウの利用に関する参考メモ | |||||||||||||||||||||||||||||||
セイヨウキョウチクトウに関する情報は豊富で、利用に関して以下のような記述情報見られた。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
【Plants For A Future(抄訳)】 植物体全体が極めて毒性が強い。植物が皮膚に接触した場合に皮膚炎を起こすことがあり、子供の場合は、一枚の葉を摂取しただけで死に至る。この植物の材を肉串に使えば死につながることが知られている。 葉と花は強心薬、発汗薬、利尿剤、吐剤、去痰剤、くしゃみ誘発剤である。 葉のせんじ汁は疥癬の治療や腫脹の軽減に外用されてきた。この植物は毒性が非常に強く、強力な心臓毒を有し、最大限の注意の下でのみ利用されるべきである。根部は強力な溶解剤となる。度の強い毒性から外用のみの使用である。水でペーストにしてペニスの下疳と潰瘍に処方される。根皮から製したオイルはハンセン病や鱗状性の皮膚病に使用される。植物全体が抗癌の特性があるといわれている。 この植物は殺鼠剤、寄生虫駆除剤、殺虫剤として利用されている。葉や樹皮を粉にしたものは殺虫剤として利用されている。花からは緑色の染料が得られる。地中海方面では一般に簡易な垣根仕立てとして利用されるが、英国ではこうした利用をするには柔すぎる。葉にはゴムとなるラテックスを少量含んでいるが、量が少なくて商業的な利用はできない。また、広く広がる根系を有するため、暖地ではしばしば土壌を安定化するために利用される。 |
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