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続・樹の散歩道
  乳液を出す植物たち


 乳液といえばすぐにニベア・スキンミルクを連想し、お肌しっとりの家庭用スキンケアクリームの定番となっているところであるが、植物が出す白い乳液となると事態は一変して、危険物質の象徴となっていて、多くがかぶれなどの皮膚炎症を引き起こす厄介な存在として知られている。これらは、ある程度は生活の知恵として承知しておくべきであるが、例によって、網羅的にカバーした情報が得られないのはもどかしいことである。やはり有害・有毒物質を含む植物に関する知見の集積は、積極的に体を張るなどということが困難であることが壁になっているのであろう。【2015.8】 


   そもそも、人にとって食べると有毒で危険な状態に陥ったり、汁液でひどい皮膚炎症を起こしたりする植物は無数に存在している模様である。よくよく考えてみれば、植物にとって人間を含む動物が、種子散布に貢献してくれれば大変ありがたいことであろうが、植物体自体を損い、あるいは根こそぎ採取されるような扱いを受けることは個体の存続そのものに係わることになる。したがって、何とかこれを避け、あるいは思いとどまらせるようなシステムを身に付けたいとするのが、植物自身の切実な思いであろうから、毒や最悪の味、トゲなどによって被害を抑制するというのは植物の進化としては至極当然の成り行きであろうことは理解できる。結果として、動物の採餌を阻害する物質などの何らかの防衛手段を有するのがむしろふつうなのかも知れない。仮に、見かけ上は何ら防御手段をもたない植物は、動物が辟易するほどの繁殖力で勝負しているのかも知れない。

 植物の白い乳液は一般的にラテックスと呼んでいる。天然のものはゴムの微粒子その他多数の成分が水に分散し、コロイド状の安定した懸濁液となったもの理解されていて、通常はゴム成分が特に意識されている。生活感覚では、白い乳液については決して情報が十分ではない中で、とりあえずは十把一絡げで「かぶれの恐れがあるやっかいなものもの」として理解されているから、手に付けば急いでズボンなどで拭い取るのがふつうの行動となっていると思われる。

注:かつてはラテックスの語はゴムの木から採れる白色乳状の樹液を指していたというが、現在ではその他の植物由来のもののほか、合成ラテックスも含んだ呼称となっている。

 乳液を出す植物が多いことで知られてきた科の筆頭はトウダイグサ科の植物で、かつては乳液を出さないコミカンソウもこの科に属していたが、新分類ではこれがコミカンソウ科となったため、乳液を出す、出さないという観点では交通整理されてわかりやすくなった印象がある。

 その他の科のものを含めて、断片的な記憶を整理すると共に、生活情報を得るため、一般的な書籍で触れられている情報を、以下に拾い上げてみることにした。なお、こうした観点の情報は体系的に理解するに十分な種毎に統一的・同質水準の知見が得られていないために、事例的な情報に止まるのは残念であるが仕方がない。
 
 
     
   とりあえずは、一部の写真を掲げる。実は、乳液が手に付くのがいやなため、乳液を垂れ流した写真がわずかしかないことに改めて気付いた。   
   
  <乳液・汁液を出す植物の例>   
 
注1:  かぶれや皮膚炎症に関する記述を赤字とした。ただし、種(しゅ)により原因成分の濃度差があると思われるほか、人の側の感受性にも個人差があると思われる。こうした中で、かぶれの発生しやすさの強弱に関する情報は得られない。  
注2:  有害とする情報のないものでも、検証が不十分なだけで、何らかの炎症を引き起こすものがあると思われる。  
 
     
 
 コニシキソウの乳液(ラテックス)
 細い茎でも一丁前に乳液を出す。手に取るとやはりゴム質に由来するベタつき感がある。 
    フウセントウワタの
    乳液(ラテックス)

 フウセントウワタの乳液は分泌量が豊かで、とりわけベタつき感が強い印象がある。(写真は果柄部分)
  クサノオウの橙黄色の乳液
 見るからに毒々しい色であるが、かつては各種の薬用に供されたという。  
     
  タケニグサの橙黄色の汁液   クサノオウと同じケシ科であるが、クサノオウの乳液とは違って透明感のある汁液である。この液で服を汚すと落ちにくいと聞いたことがある。     ヌルデ(生木)の断面の乳液
 樹皮の直下から滲み出ている。乳液は黄白色で,時間の経過とともに赤褐色となる。    
  ヌルデの乳液を乾燥させた膜
 意外や乾燥すると全くの透明の膜となる。いかにも樹脂といった印象で、ゴム質の存在は感じさせない。塗膜として特に優れているとも思われない。
 
     
     
 (乳液・汁液を出す植物の事例リスト)
属  種  学名  メモ 
トウダイグサ科   - - Euphorbiaceae ・ 茎や葉を切ると浸出する乳液にはサポニンなどの有毒成分を含むが、殺虫剤や解熱剤、利尿薬などに利用されることもある。(植物の世界) 
乳管をもち、茎や葉の切り口から乳液を出す。(日本の野生植物)

乳管を持たないコミカンソウ亜科 コミカンソウ属は新分類でコミカンソウ科に移動。
トウダイグサ属 Euphorbia spp.   トウダイグサ属では茎や葉を切ると白い乳液をだすものが多い。(野に咲く花) 
トウダイグサ Euphorbia helioscopia  植物体を傷つけると白い乳液が出る。皮膚につくとかぶれる。誤食すると口腔内や喉の炎症のほか、嘔吐、下痢や重篤な胃腸炎を引き起こす。(日本の有毒植物)
ノウルシ Euphorbia adenochlra ・ この草の乳液でかぶれることがある。(植物の世界) 
・ 野漆の名は、その乳液が皮膚に
かぶれを起こすことからつけられたが、特にこの種類だけにはげしい刺激作用があるわけではない。(イワタイゲキにも同様の作用がある。)(日本の野生植物)
・ 茎を切ると出る乳液に触れるとウルシのように
かぶれたり、食べると下痢・胃腸炎を起こすことがある。(日本の有毒植物)
ナツトウダイ Euphorbia sieboldiana ・ 切れば白汁を出す。(牧野)
検証に基づく情報が不十分なのか、図鑑類でも自信を持って本種の乳液でかぶれると明言している記述はほとんどないが、たぶんかぶれることがあると思われる。
ミドリサンゴ Euphorbia tirucalli  茎から出る白色の乳液で皮膚がかぶれることがある。(日本の有毒植物)
ゴムサンゴ Euphorbia intisyi  乳液からは弾性ゴムをとる。(植物の世界)
パラゴムノキ属 パラゴムノキ Herea brasiliensis  ゴムの採取のために栽培される。(植物の世界)
ニシキソウ属 コニシキソウ Chamaesyce maculata  植物体を傷つけると乳液がでる。この乳液に触れるとかぶれたり、炎症を起こしたりするが、有毒成分はまだ特定されていない。(日本の有毒植物)
シラキ属  シラキ  Sapium japonicum   枝や葉を傷つけると白色の乳液がでる。(樹に咲く花) 
ナンキンハゼ Sapium sebiferum   枝や葉を傷つけると白色の乳液がでる。(樹に咲く花) 
ケシ科 - - Papaveraceae  黄色の汁液がある。(日本の野生植物)
タケニグサ属 タケニグサ Macleaya cordata ・ 高さ2メートル以上になる大型の多年草。茎や葉を切ると、有毒なアルカロイドを含むオレンジ色の乳液を出す。(植物の世界)
・ 茎は中空で、切ると赤色の乳液が出る。名は「竹煮草」ではない。(植物観察事典)
・ 汁液に触れると
皮膚炎を起こし,食べると嘔吐、下痢、酩酊状態、血圧低下、呼吸麻痺を起こすことがある。(日本の有毒植物)
竹と一緒に煮ても竹が軟らかくならないことが確認されている。
クサノオウ属 - Chelidonium spp.  橙黄色の汁液がある。(日本の野生植物)
クサノオウ Chelidonium majus  傷つけると黄色い乳液を流し、皮膚に触れると炎症を起こすことがある。(日本の有毒植物)
 かつては薬用としても用いられた。
ケシ属 - Papaver spp.  特定の種の若い果実の汁液(乳液)からアヘンを採取する。
ヒナゲシ Papaver rhoeas  完熟果実の種子以外の全草が有毒とされる。ケシ属のいずれの種も傷をつけると白い乳液を出すとされる。
ヤマブキソウ属 ヤマブキソウ Hylomecon japonica  植物体から出る黄色い汁に触れるとかぶれる。食べると吐き気や呼吸麻痺を起こす。(日本の有毒植物)
ウルシ科 ウルシ属 - Toxicodendron spp.  多くは樹皮にフェノール類のウルシオール又はラッコ−ルを含み、強いかぶれを起こさせる。(日本の野生植物)
ウルシ Toxicodendron vernicifluum ・ 樹皮を傷つけると白色の乳液を出し、すぐに褐色となる。
・ 樹液や葉が皮膚につくと,強い炎症(
かぶれ)を起こす。(日本の有毒植物)
・ 中国原産で,漆を採るため日本でも古くから栽培される。(日本の野生植物) 
ヤマウルシ Toxicodendron trichocarpum ・ 樹皮から漆液が採れるが、経済的ではない。(日本の野生植物)
・ 葉や茎などに触れると炎症を起こす(
かぶれる)。ことに燃料にしたときに煙を浴びるといっそうかぶれる。(植物観察事典)
ヌルデ Rhus javanica  幹を傷つけると白色の乳液が浸出し、これで物を塗るのでヌルデの名がある。(日本の野生植物)
注:名前及び塗料としての実用性に関して十分な検証がなされていないため、伝説の状態である。
ウコギ科 ウコギ属 コシアブラ Eleutherococcus sciadophylloides  樹脂からとる油を金漆(ごんぜつ)といい、美濃特産で金属の錆止めに使ったという。名はこれと関係するらしいがよくわからない。(日本の野生植物)
注;名前に関しては諸説があるほか、塗料としての実用性に関して、十分な検証がなされていない。
キク科 - - Asteraceae ・ キク科で白い乳液を出す植物はいずれも苦味があるが、ニガナと名がつく植物は特に強烈である。(校庭の雑草図鑑)
タンポポ属 タンポポ Taraxacum spp. ・ タンポポの茎や葉を切ると白い液体が出てきます。この液体をずっと触っていると、手がベタベタとくっついてきます。実はこの液体には「ラテックス」とよぶゴムの成分が含まれていて、酸素に触れると固体に変化します。つまり食べようとする虫の口を固めてふさいでしまうというわけ。ちなみにこのゴム成分、茎が傷ついたときには “水ばんそうこう” の役割を果たし、病原菌から身を守ります。(多田)
アキノノゲシ属 レタス Lactuca sativa  レタスの名は乳液を意味するラテン語のlacに由来し、属名 Lactuca も乳液 lac を出す仲間を意味し、この乳液には古くから鎮静効果や催眠効果があることが知られている。
ニガナ属 ニガナ Ixeris dentata  名前は茎や葉を切ると苦味のある乳液が出ることによる。(野に咲く花)
ノゲシ属 ノゲシ Sonchus oleraceus  茎葉に白汁を有する。(牧野)
アキノノゲシ属 アキノノゲシ Lactuca indica  茎葉を切れば白乳液を出す。(牧野)
クワ科 イチジク属  イチジク Ficus carica  枝、葉、果実の切口から分泌する乳液にフィシンとよぶタンパク質分解酵素があり、痔の塗布薬にもなる。(平凡社世界大百科事典)
インドゴムノキ Ficus elastica  かつてはゴムが採取されたが、現在は観賞用。
イヌビワ Ficus erecta  枝、葉を傷つけると出る白い乳液を民間療法としてイボ取りに使用したという。
ガジュマル  Ficus microcarpa   枝を切ると白い乳液を出す。民間療法として様々な利用があるらしい。 
クワ属 クワ(総称) Morus spp.  クワの葉の白い乳液は、カイコ以外の昆虫に対して強い毒性をもつ。(農生研)
キョウチクトウ科 トウワタ属 トウワタ Asclepias curassavica  乳液、全草に心臓毒である強心配糖体をを含み、誤食すると中毒症状として嘔吐や痙攣、不整脈を引き起こす。(日本の有毒植物)
皮膚炎症に関しては言及なし。
キョウチクトウ属 テイカカズラ Trachelospermum asiaticum  茎を折ると白い汁液が出るが、触れるとかぶれることがある。成分との因果関係は不明。
(日本の有毒植物)
キョウチクトウ Nerium oleander var. indicum  有毒部位は全草、とくに種子と乳液。誤食すると頭痛、めまい、嘔吐、けいれん、意識障害を起こし、ときに死に至ることもある。枝の切断面から生じる乳液も有毒。生木を燃やした煙も有毒。(日本の有毒植物)
キョウチクトウ及びその乳液についてはこちらを参照
ルリトウワタ属 ルリトウワタ Oxypetalum coeruleum  ブルースターとも。葉や茎を切ると白い汁(乳液)が出て、この汁が皮膚につくと人によってはひどいかぶれ(接触性皮膚炎)を起こす。(日本植物生理学会 みんなの広場)
アテツ科 サポジラ属 サポジラ Manilkara zapota  かつてはチューインガムの基材とされた。
ヒルガオ科 サツマイモ属 サツマイモ Ipomoea batatas  さつまいもを切ったときに出てくるヤラピン(白色の乳液)には糖化酵素の作用阻害や徴生物の生育抑制、さらには緩下作用がある。さつまいもが便秘に効くのはヤラピンの効果も1つの要因となっているとみられている。(日本いも類研究会)
パパイア科 パパイア属 パパイア Carica papaya  青パパイヤ、パパイヤの葉には三大栄養素を分解する酵素がすべて含まれていることで知られている。青パパイヤの表面を傷付けた時に出る白い乳液状の液体には、このうちパパインの名の酵素が豊富に含まれている。(石畑鹿児島大名誉教授)
キキョウ科 ミゾカクシ属 サワギキョウ Lobelia sessilifolia  傷をつけると白い乳液が出る。誤食すると嘔吐、下痢、血圧降下などの症状が出る。(日本の有毒植物)
ガガイモ科 フウセントウワタ属 フウセントウワタ Gomphocarpus physocarpus  乳液が目に入ると角膜に炎症を起こすといわれる。