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木あそび
   線香遊び   気紛れに香りを楽しむ 


 新聞で桃の香りの線香〟が商品開発され、販売されているとの情報を目にした。岡山市内の仏具店「三香堂」扱いで、「岡山県特産の白桃の繊細で優美な香りを再現したお香で、納得のいく香りにたどり着くまで、5年掛かりで試行錯誤を繰り返したという自信作」(山陽新聞)とのこと。香立てがミニサイズの備前焼製であるなど、ローカルカラーがあって興味をひかれ、ちょっと試してみようという気になって早速電話注文した。【2010.2】


 天然の果実の香りを利用することは難しいから、他の果物系の香りの商品・食品と同様合成香料に頼ってはいるが、ほんのり甘い落ち着いた香りである。


京仏具 三香堂
  岡山市北区表町2丁目6-61
 
 
 線香で香りを楽しむのは、香木(白檀、沈香については別項で扱った。)で遊ぶのと同様におもしろい世界であるが、やや難しい点もある。それは次に掲げる事情からである。
 ★ 白檀についてはこちらを参照。沈香についてはこちらを参照。
 
 線香はその経歴と日常感覚から、どうしてもお墓線香仏壇線香のイメージが先に立ってしまう。日本へは16世紀に中国から伝来し、17世紀には国内生産が始まったとされるが、上流階級が楽しんだ香の系譜とは別に、専ら「仏の供養」に使われてきた歴史がある。現在は香りを楽しめるとする上質の沈香、白檀等の含有量を高めた高級線香があるものの、やはり香りのベースが仏壇線香と共通するものを感じてしまうという宿命がある。基材のタブ粉に重い責任があるわけではないが、共通イメージの要素ではある。
 あるアジアン雑貨の店で多種多様なインドのインセンススティックを品定めしていたカップルの会話を耳にしたことがある。次々と製品の香りを確認し、ある製品を手にした女性、「うーん、これは線香・・・いなかの家の匂いと同じだ・・・」
 香りを楽しむ目的で、仏壇線香とは一線を画し、インセンスの名称の下に、短いスティック型、三角錐状のコーン型、ミニ蚊取り線香といった風情の渦巻き型などの形態で、多様な香水系の商品が存在する。しかし、現在では多くの香りが合成できることから、トイレの芳香剤に始まり、これら合成香料を使用した各種家庭用品に囲まれていると、ジャスミン、ラベンダー、ローズと聞いただけでげっぷが出てしまう。本物の香りをほとんど知らなくてもである。こうした事情にあって、できれば天然系を選びたいが、香料系の原材料表示がほとんどないのが普通であるのは残念である。一方、インド・アジアン雑貨の店の濃厚な香りの線香(天然香料を使用を謳ったものもあるが、個々にはよく分からない。)はやや文化の違いもあって、好みは分かれるかもしれない。
 最大の問題は、家族持ちには利用しにくい点である。一人暮らしであれば、その日、そのときの気分でいろいろの香りを楽しむのもいいが、家族がいればひんしゅくを買うこと必定である。オヤジの気まぐれに巻き込まれることを好む者はどこにもいないからである。かつて、オフィスの個室の主が何を思ったか突然インセンススティックを焚いて、大いに周囲の(正確にはその階の住人の)ひんしゅくを買った例があった。

 
 古くは日本でも上流社会で香りを生活の中で取り入れる習慣があったとされる。現在では香りを楽しむ素材としては、エセンシャルオイル、沈香や白檀などの香木を含むお香、アロマキャンドル、線香(インセンスを含む)、等々いろいろな商品があるほか、小道具としてのアロマポット、ディフューザーの種類も豊富で、気の向くままに遊ぶのは楽しい。  

強めの個性的な香りで、好みは分かれると思われる。
   国産の香木系線香の例

 国産の沈香だちの線香とされるものである。(鳩居堂製 金鳩)
 
個人的には沈香・白檀系は線香になるとすべて仏壇線香のイメージとなるため、他用途は考えにくい。面倒ながら、やはり香木は香木として楽しんだ方がよい。
 線香、インセンススティックは上質な香料を多く使用しているほど高額となっている模様であるが、香料等の製品組成は一切表示していない。しかし、日常用仏壇線香の場合は原材料としてのタブ粉、白檀等の表示が見られる。

農耕民族にとっては総じてやや濃厚な印象である。
 インド産のインセンススティック の例

 パッケージデザイン自体に異国を感じる。悠久、神秘、混沌の国の製品で、製品はバラエティーに富んでいる。原材料の表示は一切見られない。最下段の製品には懐かしい「サイババ」の文字が見える。
 ここに紹介したものはすべて細い竹ひごが芯になっていて、国産、中国産には見られない仕様である。また、これらは全て輸出用としての表示がある。

 基本的にはインド系である。竹ひごの仕上げはインド産よりきれいであるが、太さ等の外観はインド産と同様である。日本の慎ましやかな住環境では、1本焚くと部屋は煙が充満してしまう。

 米国産のインセンススティック
 の例


 Goneshガーネッシュ)は米国のGenieco社のブランドで、インドの製品を思わせる竹芯構造である。それもそのはず、会社はインド系企業が母体で、名称もヒンズーの幸運の神である the Hindu Elephant Boyに由来するという。製品には Charcoal Incense Sticks の表示があり、主成分として「竹、木炭植物性接合剤、香料」の表示がある。植物性接合剤が何であるかは確認していない。
 
  次に紹介するもの以外に手持ち在庫なし。     中国産の線香の例

 悠久、混沌ぶりではインドに負けない壮大な歴史を有するお国柄で、製品も上質のものから怪しいものまで幅広に存在するものと思われる。
     
    チベット香の例
 これも形式的には中国産であるが、市場では一般の中国産とは異なるチベットの個性を期待する向きがあって、複数のチベット香が流通している。必ずしもチベット自治区内で生産されているわけではないが、チベット自治区内での生産品はその旨が特に強調されている。
 なお、「藏」(日本の新字体では「蔵」)の文字は、「西藏(チベット)自治区」の略称でもある。
 チベット香は他に手元にはないが、これは違和感のない香りでタラタラと焚くには悪くない。
 箱の裏には説明書きがあって、原料について説明しているほか、この香の効用についても説明していて、その内容が面白いので以下に紹介する。薬草系は実に興味深い。直感重視で簡体字は繁体字に改めた。〔〕内は補足注釈。
                       藏香説明書

  藏香-西藏〔チベット〕特産、選用西蔵三宝:
藏紅花〔サフラン〕、雪蓮〔キク科植物〕、冬虫夏草〔菌類〕及二十多種名貴中薬、精心篩選、手工研製而成、以“藏紅花”為主要成分、(雪蓮可治療風湿〔リュウマチ〕及類風湿、腰酸背疼、肩周炎、四肢麻木〔しびれ〕)、此香可拝仏、消災延寿、還可放置家中浄化空気、予防感冒、駆除蚊虫。此香是西藏精品、曽由十世班禅〔パンチェン・ラマ10世〕親自配方、主産于西藏布日喀則〔シガツェ。チベット第二の都市。〕和拉薩〔ラサ。チベット自治区の首府〕。

河北古城香業集団股份有限公司 河北省清苑曇建設路580号
 補足説明
藏紅花(サフラン) Crocus sativus
アヤメ科クロッカス属の多年草。血行促進、生理不順、生理痛等に効くという。
雪蓮(セツレン) Saussurea trydactyla
キク科トウヒレン属の草本。古来から関節炎、リュウマチ、婦人病、貧血症などに効果があるといわれるほか、腎虚を鎮める薬草としての評価が高いとも。
冬虫夏草
(トウチュウカソウ)
Cordyceps sinensis
中国ではバッカクキン科冬虫夏草属の菌類の一種がコウモリガ科の蛾の一種の幼虫に寄生したものだけを冬虫夏草と呼んでいるという。生薬、健康食品として古くから有名。日本にも別種が多数生息する。
注:上記3品は、いずれもチベット自治区の特産品目に含まれるものとして知られている。
 
     
 ところで、広く定着している線香であるが、その原料に関してはあまり意識されていない。詳細を把握することは困難であるが、次に概略を整理してみた。  
     
 線香の原料

 製品により各種の香木や香料(合成香料を含む)の構成が異なることは当然であるが、基材は粘結剤でもあるタブの木の樹皮の粉である「タブ粉」が共通して利用されている。ただし、墓参用に利用される杉線香に限っては、杉の葉の粉末のみでも製造が可能とされる。これは杉の葉の脂(ヤニ)成分のおかげで粘りが確保できることによるという。 (★ 茨城県石岡市の杉線香はこれに該当するようである。)

 以下は線香の原材料等に関する説明例である。
 
 線香は香を練って線状にしたもので、仏事や葬送、供養に用いられる。はじめはニレの木の皮ふのりをまぜたものに種々の香木の粉末をまぜて、そこに穴の開いた管に圧力をかけて線状に押し出す方法で作った。江戸で売られていた安物に、杉線香といって杉の葉を乾燥して粉末にしてふのりで練ったものであった。【日本民俗大辞典:吉川弘文館(抄)】
注1:  ハルニレの「ニレ」は「滑(ぬ)れ」の意で、その皮を剥ぐと粘滑であることによるという。【牧野新日本植物図鑑】
注2:  ハルニレは各地の方言でニレ、ネレ、ネリなどといわれて、トネリコ類、ノリウツギ、トロロアオイの方言と同じものがある。樹皮を剥がすとぬるぬるしており、またこの粘液を和紙の糊にしたからである。【木の大百科】
 線香は白檀(びゃくだん)、丁字(ちょうじ)、沈香(じんこう)、安息香など香料の粉末をタブなどの繋ぎ松やになどの糊料で練り固めて棒状に練り固めたもの。【小学館日本国語大辞典】
 線香は白檀、丁字、沈香、安息香などを松脂などの糊料で固めて棒状にしたもの。火を点じて仏前に供える。【広辞苑】
 
     
 販売されている製品の原材料表示を見てもタブ粉成型に必要な粘結基材となっていることは確認できる。
 一方、関連して蚊取り線香の原材料に関しては次の説明例がある。
 
     
 蚊取線香は、有効成分であるピレスロイドを木粉などの植物成分に混合し、更にタブ粉澱粉等の粘結剤を加えて練り、渦巻状に打ち抜いて乾燥させたものです。線香が燃焼する時の熱によって有効成分が揮散し、煙と一緒に広がり、蚊を駆除します。【日本家庭用殺虫剤工業会】
 蚊取線香は、粕粉(除虫菊の有効成分を取り去った後の粉)、木粉などの植物性粉末や粘結剤としてタブ粉澱粉を混合し、有効成分のピレスロイド系殺虫剤「アレスリン」を加えたものから構成されております。それらを混合すると茶色系統の色になり、これを染料を使って緑色にしています。
【大日本除虫菊株式会社】
 
     
 これを見ると通常の線香でも蚊取り線香でもタブ粉粘結基材となっていることが分かる。ただし、線香作りでの松脂の利用に関しては個別の製品の原材料表示では確認できなかった。また、安い価格帯の製品は中国製、マレイシア製の製品シェアが高まっている模様で、さらに中国製品の中には原材料として、珍しい例として「ヒノキ」「ニレ」のみを掲げているものが見られた。
 ニレに関してはかつては日本でも樹皮を線香の基材に使用したとされるから、この符合は興味深い。粘結剤としてはタブ粉以外の新しい多様な素材が使用されていても不思議ではない。
 
 
 タブ粉にはどの程度の粘りがあるのか

 タブノキはクスノキ科タブノキ属の常緑高木。別名の「イヌグス」の名は気の毒である。樟脳が採れたクスノキに及ばないとの意であるか思ったが、クスノキより材質が劣るからとする説があるそうである。
 
 
    タブノキの葉
 浜離宮恩賜庭園では元気なタブノキの巨木をたくさん見ることができる。大きな混芽が目立つ。

   タブノキの混芽
 大きな混芽から葉と花序がモコモコとたくましく展開する。   
   タブノキの花
 花披は6裂、雄しべ9個、仮雄しべ3個、内側の雄しべの両側に柄のある黄色の腺体がある。花式図で理解しないとよくわからない。
 
     
 
 
  タブノキの若い果実
 果実は時間の経過とともに黒紫色となる。赤い果柄がよく目立つ。
 
   タブノキの落下果実
 紫黒色に熟すとされるが,ふつうはこの状態で落果する。基部に6個の花披片を残している。
    タブノキの種子
 偏球形で写真のような模様がある。
 
     
     
 インセンスは趣味性の高い製品であるから、案の定、自分で作りたくなる欲求に応える製品が販売されている。各種香料の単体のほか、タブ粉、乳鉢、押し出しポンプもあり、これらがセットになったキットも販売されている。
 タブ粉にどの程度の粘性があるのか、その感触を確認するだけのために製品を購入するのはもったいないから、タブ粉を自作するお遊びを通じて見極めることとする
 
  タブノキの樹皮 1
    (小径木)
 若いうちは皮目が目立つ。
  タブノキの樹皮 2
    (大径木)
 採取したチップ状態の樹皮。(外皮を取り除いた内皮
 家庭用の電動ミルで粉砕した自家製「タブ粉」。ほのかな芳香がある。
 
 
試験の経過  
(1) タブノキの内皮をミルで粉砕して、タブ粉らしきものを調製。
(2) A:そのままお湯を加えて乳鉢でこねくり。
  → 粘りが不十分であるほか、粒度が荒く、押し出しも困難。
B:改善のため、タブ粉を乳鉢で十分擂った上で、お湯を加えて、さらに乳鉢でこねくり。
  → 必要な粘りの確保に成功!!
(3) Aは包丁で短冊切り。ついでにコーン型作成。(写真:試作品A)
Bは針なし注射器で押し出し。(写真:試作品B)
(4) 燃焼試験実施。
→ 継続燃焼を確認。煙は癖のある匂いではないが、焦げ臭いだけである。
 
 
  純正タブ粉の線香もどき:試作品A
 表面はぶつぶつ状態である。
  純正タブ粉の線香もどき:試作品B
 情けないくらいヨレヨレの線香となったが、ガイドを使ってスライドさせればきれいにできるであろう。
 
 
 結論的には家庭用のミルで粉砕したままでは必要とされるであろう細かい粒度のタブ粉は得られず、十分な粘性がでないが、これを乳鉢で丹念に擂り、お湯を加えてこねくれば十分粘性が出ることが分かった。お湯でゆるく溶かせば糸を引くとろみが確認できる。なお、お湯を入れすぎた場合は電子レンジで水気を飛ばすことで簡単に水分量を調整できる。
 なお、市販のタブ粉は10グラム63円(税込み)の価格で販売されている例がある。生産国は日本又はインドネシアとする情報を目にする。東南アジアにはタブノキそのものはないから、同属他樹種の可能性はあるが、何の粉をタブ粉を称しているのかは不明である。
(注)  タブノキの葉の粉末も使われることがあるとする情報もあるが、粘性が少ないという。念のためにタブノキの小枝や葉柄の皮を剥がしてくちゃくちゃやれば、糸を引くネバリを確認できるが、葉そのものは手でつぶして揉んでみた限りでは粘性を確認できず、トチュウのように糸を引くこともなかった。 

 タブ粉単体の線香で燃焼試験をしてみたのであるが、焦げ臭いだけであり、これを別の焦げ臭くない素材に転換すれば、香りがより生きると言えなくもない。しかし、仮にほとんど不完全燃焼せず、煙が出ない線香が技術的に可能であるとしたら、それもまた何か変な感じである。焦げ臭い臭いを排除するのであれば、エセンシャルオイルやアロマオイルの方が不快な不完全燃焼成分が飛ばないことで、圧倒的に優位な存在となってしまう。

 こうして線香タイプのお香を改めて考えると、その存在理由は、①簡便であることと、②少々の難はあるが煙をゆらゆらと燻らせること自体が一つの演出となっていることが確認できる。
 
     
 参考メモ  
     
 線香の原材料
 主役の香料、基材のタブ粉以外に名前を見るのは、前述の松脂(粘結材)のほか、蜂蜜(甘い香りの効果)、木炭(着火性を高める効果があると思われるが、最近は煙を抑制する目的で配合している。)、着色料等の名を見る。なお、手作り用の基材としてタブ粉と併せて、「支那粉」の名を目にするが、電話で確認したところ、タブ粉より粘りが強く、香りも少々強いものとしていたが、原料樹種は分からないとのことであった。
   
 原料としてのタブ粉の必要性
 線香の基材として特に癖のある匂いがあるわけでもなく、成型に必要な粘着性を有することから古くから使用されている。現在では代替となる粘着材(剤)はいろいろあると思われ、加えて何らかの木粉等の燃焼の特性が条件にかなえば、タブ粉にこだわる理由はないと思われる。調べた範囲では、澱粉のほかに、事務用の化学糊などにも広く利用されているCMC(カルボキシメチルセルロース)も利用されている模様である。
   
 タブノキの材
   
 色は異なるが、木目は同じクスノキ科のクスノキの材に似ている。
 九州ではかつてはフローリングとして需要開拓の取り組みがなされた経緯があり、古い事務所・事業所で使用事例を見ることがある。ワックスでメンテをしている場合はかなり色が濃くなって、少々わかりにくい。
タブノキの材面の様子   
 心材は紅褐色、ただし濃色のもの(ベニタブまたはアカタブ)と淡色のもの(シロタブ)とを区別し、前者の方が材質がよいというが、シロタブはアオガシを指す場合がある。
 根はしばしばこぶを生じ、その木目が美しいため喫煙パイプにも使われた。【朝日百科植物の世界
 根のこぶを「美欄(びらん)」といって、美観に優れ、装飾的目的に賞用するとされるが、なかなかお目にかかる機会がない。
 タブノキの老樹の木理が巻雲紋を呈するものを「たまぐす」と称する。【木材の工藝的利用】
 木理が錯綜しているため、乾燥の結果狂いの出るものがしばしば見られる。【木の大百科】
 樹皮は黄八丈絹の褐色の染料とされる
 衛生線香、消臭線香とは何か
 かつて激安の「檀香衛生香」の名の中国製の長い線香を試したことがある。壇香は中国では白檀 sandalwoodを意味する。ごく一般的な製品で、その他○○衛生香の名の製品が見られる。説明文の漢字を追うと、衛生に宜しいとする趣旨の講釈が記述してあるようである。白檀油 sandalwood oil の主成分であるサンタロール santalol には殺菌作用があるとされることによるものと思われるが、科学的なメカニズムはわからない。日本では強調されない効用を謳ったタイプである。
 また、国産で消臭線香の名の製品も見られる。備長炭や木酢液、カテキン等を使用している。このままでも消臭効果を感じてしまうが、消臭の意味が、燃焼に際しての線香臭さを減じたものとしている場合と、備長炭効果でタバコの臭い等を除去するとしている場合があり、科学的にどうなのかは分からない。
   
 合成香料の氾濫
 生活の中の香りを改めて見つめ直してみると、食品から各種芳香剤まで、合成香料を使用した商品があふれている。エセンシャルオイルを別にして、果物や花の香りの商品はほとんどが合成香料と思った方がよいと思われる。本物の香りの主たる成分が合成されてしまえば、本物にこだわる意味がなんなのか分からなくなってしまう。例えばバニラでもハッカでも天然と合成の嗅ぎ分けなど誰にもできないであろう。白檀のサンタロールの香りに近い成分も合成されている。
 インセンス商品の香り成分は、建前としての企業秘密ということになるのか、比較的高額の製品では「天然香料配合」とか「天然香料をベースに使用」とした説明を見ることがあるが、消費者にとっては全体像は闇の中である。 
   
 煙の成分は何か
 線香でもインセンススティックでも、煙を燻らせて、一定量を肺に取り込んでいることになる。蚊取り線香については消費量が減っているものの、昔を思い返せば、専用の容器がヤニでべたべたになることをだれもが経験的に知っている。煙の発生は不完全燃焼に伴うもので、一酸化炭素、二酸化炭素、炭素、ヤニ(タール)等で構成されるとされ、吸引しない方がいいに決まっているし、この中でもヤニ成分は明らかに有害物質のひとつである。神経質になればきりがないが、有害性では勝るとも劣らないディーゼル粉塵等々、日々せっせと取り込んでいるのも事実である。現実対応としては、煙を部屋に充満させない方がよろしいことは間違いなさそうである。
 このように考えてみると、エセンシャルオイルを専用器具で蒸散させる方が間違いなく健全であり、神経質な人はこちらがおすすめであろう。
 
     
【追記】タブノキのある風景  
   暖地でふつうに存在するタブノキであるが、東京でも海岸近くはタブノキは本来的に存在していた樹種であるため、かつての痕跡として、大きな樹を現在でもあちこちで見ることができる。
 緑化樹としてもマテバシイと並んで多用されている。 
 
     
 
          山村のタブノキ
 大分県内の山村部の風景で、タブノキの巨木がシンボル的な存在となっていた。左側の幹のように見えるものは、農業用資材の大量の竹の束が立て掛けられているもの。
         街中のタブノキ
 東京都品川区指定天然記念物の「仙台坂のタブノキ」で、目通り幹囲4.5メートル、高さ20メートル、推定樹齢約3百年としている。街中に堂々と存在している。仙台藩の大井下屋敷の裏玄関に植えられていたものという。  
 
     
 
         芝公園のタブノキ
 支柱の助けを借りて頑張っている。
      浜離宮恩賜庭園のタブノキ
 ここでは元気なタブノキがたくさん見られる。旧芝離宮恩賜庭園にも大きなタブノキが存在する。 
 
     
   【2019.1 追記】   
   タブノキの葉が線香の粘結剤となるのか?    
   線香の粘結剤として古くから使用されてきたとされる「タブ粉」タブノキの樹皮が原料であることに疑問はないが、一部の記述で、タブノキの葉が原料となるとしている例が見られることは承知していた。

 まずは、伝統的な利用として、タブノキから樹皮を採取するということは、小枝では収量がわずかであるから、基本的には樹を伐採することが前提となるであろう。一方、仮にタブノキの葉だけを樹皮には及ばないものの、二級品の粘結剤の材料とするとなると、枝先だけを採取すればよいようにも思われるが、大きな樹の枝先だけを採取するなど、コスト的には全く耐えないであろうから、現実のものとはならない印象がある。

 しかしである。テレビ東京の例の番組(和風総本家 傑作選 お正月スペシャル 密着!日本の職人24時)で、再放送ではあるが、九州八女市の杉葉線香を採り上げていて、事業者自身の講釈に基づいて、その線香は杉の葉の粉(杉粉)とタブノキの葉の粉を混ぜて練ってつくっているとして紹介していた。!

 杉線香は、昔から安価な墓参用の線香として定着してきたもので、コストの圧縮は基本的な命題であるから、安価に入手できるのであれば、タブノキの葉の粉を真正のタブ粉の代替品として利用することもあり得るのかとも受け止めたところである。(注:地域によっては、先に言及したとおり、杉の葉のみで製造されているものもある。)

 しかし、 タブノキの葉のみで必要な粘性が得られるのか?  タブノキの樹皮由来のタブ粉自体が輸入に頼っている中で、タブノキの葉の粉など誰が生産しているというのか? という疑問がある。  
 
     
 タブノキの葉のみで必要な粘性が得られるのか?   
     
   これについては確かめてみるしかない。できればタブノキの葉の粉百パーセントの線香もどきができるのかを先のタブ粉の実験と同様に検証してみる必要がある。

 1月時点が採取時期として適当であるのかはわからないが、身近なところでタブノキの葉を採取して、ハサミと包丁で小さく刻んで乾燥した上で、ミルで粉末とした。(ハサミで生の葉を刻んだ際に、既にはさみの刃に少々粘っこい液がまとわりついたのは意外であった。)

 葉の中央脈がやや堅いため、これが完全な粉末には至らず、ややぶつぶつ感が残ったが、お湯を加えて擂り擂り、搗き搗き、コネコネしたところ、満足できる粘りを得ることができた。(参考に、水分を多い目にしてゆるく練ったサンプルでは、糸を引く粘りを発揮した。)そこで、注射器による押し出しで、タブノキの葉の粉百パーセントの線香もどきを製作することができた。乾燥後に点火してみたところ、安定的に燃焼した。 
 
     
 
     タブノキの葉の粉の線香もどき
 乾燥に伴って変形してしまった。もう一度濡らせば整形できるが、そのままとした。十分な硬さをもっている。
   同燃焼中の様子
 燃焼は安定していた。 
 タブノキの葉の粉のウンチ  余った材料で製作した芸術作品である。写真の発色が悪いが、わずかに緑色が残っている。
 
     
   タブノキの葉の粉をコネコネやっている際は、かなりの青臭い匂いがあったが、乾燥に伴って匂いは緩和された。 濡れている時は、生の葉そのものの濃い緑色であったが、乾燥に伴って緑色がかなり失われてしまった。
 手持ちのお茶挽き器を使えば、微粉末とすることができ、品質を向上させることもできたはずであるが、臭いが移る恐れがあるため見合わせた。なお、出来たてのウンチは緑色が残っていて、〝戦慄の緑便〟であったが、乾燥に伴って退屈なものになってしまったのは残念であった。ただし、タブノキの葉100%で、カチンカチンのウンチオブジェが製作できたことは驚きであった。

木粉を原料としたウンチ2種についてはこちらを参照 
 
     
 タブノキの葉の粉などを誰が生産しているのか?   
     
   先の八女市の杉線香の事業者の場合は、かつては杉粉とタブノキの葉の粉(当人はこれをタブ粉と呼んでいる。)を生産して、線香の生産者や卸業者に納品する立場であった模様である。

 近年は、タブ粉は東南アジアからの輸入に頼っていて(したがって、本当の樹種名は不明である。)、さらには安価な線香の生産自体を東南アジアにシフトしている実態がある(横山 聡)中で、この事業者が現在タブノキの葉の粉をどこから手に入れているのかは情報がないが、国内生産などあり得ない。仮に、九州の現地で聴き取りしても、輸入品であれば、本当はそれが何なのかは闇の中となる。

 自分があまり誠実ではない海外の生産者であったならば、タブノキの類似種の樹皮のタブ粉に同樹種の葉もごちゃ混ぜにして増量材として利用し、日本へはタブ粉として輸出する可能性がある。ということで、本件はジタバタしても真相を知ることは難しそうであるため、これにて打ち止めである。