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木あそび
   香木   @沈香(じんこう)


 沈香も焚(た)かず屁(へ)もひらず

  (特によいところもなければ悪いところもなく,平々凡々であることにいう。【広辞苑】)   
 沈香が香木の王者であることは,お香の店で鎮座する製品やその上級品である伽羅(きゃら)の塊の価格を見ると,即実感できる。白檀(ビャクダン)がその木の固有の香り(精油)であるの対して,沈香の香りは生木で自然に生成されるものではなく,外的な要因で生成された樹脂成分に由来するとされている。いろいろな説明がなされていることから,ポイントを整理してみる。


 樹種

 熱帯産のジンチョウゲ科アキラリア属の常緑喬木の幹から採取される香木。インドからインドシナに分布するジンコウAquilaria agallcha),ミャンマーからボルネオにかけて広く分布するマラッカジンコウA.malaccensis),タイのシャムジンコウA.crassana),中国南部のシナジンコウA.sinensis)など,多くの種類があるが,ベトナム産のAquilaria agallcha が最も評価が高い。
 この樹木を沈香樹と呼んでいる。沈香の名は,上質の樹脂分の多いものは水に沈むことに由来する。また,沈水木(ジンスイボク)又は沈水とも呼ばれる。
 貿易名で Eagle Wood の名がインド,ビルマなどで使用されているが,樹脂化したものは Agar wood と言っている。
   
 生成のきっかけ

 この樹木に傷,その他の原因で,ある種の刺激が加えられると,その部分に樹脂分が沈積して,沈香になると言われる。本来の材は黄白色ないし淡黄褐色であるが,病理的に樹脂分が沈積した部分は暗褐色あるいは黒色となる。このことに関して,バクテリア(真菌)が作用してできるとの説明がある。真菌といえば,確か,水虫の薬にも「抗真菌剤」とあり,水虫菌の親戚か?
   
 採取

 生木から採取する場合と枯れたあるいは土埋木から採取する場合がある。土埋木の場合は,抗菌性の含油樹脂のため腐朽菌に侵されないで残った部分であり,余分な部分が消失しているために品質がよい。一般には脂分を多く含む暗褐色から黒色で光沢に富み,比重の高いものほど名品とされる。
 なお,この樹木を栽培して,幹に人工的に傷をつけ,土中に埋めて沈香をとることも行っているという。
   
 利用

 沈香はそのままでは香気は弱いが,熱するか燃やすと強い芳香を放つ。古来薫香(くんこう)として賞用。沈香は,ベンジルアセトン,高級アルコール,テルペンなどからなる樹脂を約50%含み,燃やすと特有の芳香を発することから,仏教をはじめとする宗教儀式に用いられ,また日本の香道の主役とされる。薬用としては喘息,嘔吐,腹痛,腰やひざの冷えなどに用い。鎮静や疲労回復の効があるとされる。【百科】
   
 メモ
   
 伽羅(きゃら)は沈香の特に上質のものを区別して呼ぶ名称である。江戸時代には腹痛をなおし,精を増す薬にもされたという。東大寺正倉院御物の蘭奢待(らんじゃたい)はその最高品。日本では昔から珍重され,何であれ良質なものをさして,伽羅油伽羅下駄などと呼んだ。伽羅の語はサンスクリットのカーラーグルの語頭を音写した語とされる。
 蘭奢待は奈良時代に中国から伝来した香木。正倉院宝物。最上の伽羅で,香道では「東大寺」と称する。足利将軍の義満・義教・義政,織田信長,徳川家康らが小片を切ったとされる。なお蘭奢待の字画には東大寺が含まれている。
 沈香の香りを手軽に楽しむのであれば,お香を扱っている店で,沈香を正方形の木片に割ったものが販売されており,これに加熱用の板チョコ状の炭団(たどん),灰,直火を避けるための銀葉(方形の雲母製)があればOKである。お香の店の各種ホームページで説明されている。

 写真は沈香を割り加工した商品鳩居堂製)。
 沈香や伽羅の塊は都内では松栄堂青山工房で多数拝むことができる。店内では注文に応じた加工も行っている。伽羅は1グラム当たり1万円程度の相場である。(2006年)

 香老舗 松栄堂 青山工房
   渋谷区神宮前 5-47-1
   パインビレッジ2F
    TEL 03-5774-4406
   www.shoeido.co.jp

   

沈香木(東京鳩居堂銀座店展示品)
740グラムで27万1,950円也。


東京鳩居堂銀座店
東京都中央区銀座5-7-4
伽羅(東京鳩居堂銀座店展示品)
210グラムで154万3,500円也。
左の沈香木よりいかにも樹脂分が多いといった風情で,照りがある。