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木あそび
   かんじきの話 その1

   現役のかんじき

       輪かんじきはまだまだ健在 


 かんじき輪かんじき)はもちろん雪上歩行補助具で、昔から雪深い地域での生活用具であり、とりわけ山林労務、狩猟には必需品であった。平場では普段お目にかかることはないが、現在でも降雪地帯の山林踏査では条件、雪質によって山スキーとかんじきを使い分けている。また、これを自作するハンターもいた。
 一般の人とのおつきあいが全くないかというと、実はそうでもない。積雪期の体験型森林散策で、歩くスキーと並んでかんじきを付けて歩く演出を目にすることがある。。同様の需要で、外来型のかんじきであるスノーシューも利用されている。なお、登山用のかんじきはアルミ製が主であると聞く。
 こんなかんじきであるが、現役バリバリのかんじきの作り手が北海道新聞(2007年1月29日夕刊)に紹介された。 【2007】
 

 新聞によればその作り手は、北海道は後志(しりべし)支庁管内蘭越(らんこし)町吉国在住の宮武良雄(みやたけよしお)氏(89歳!)で、農業の傍ら、冬の間の収入源としてかんじきを作るようになって60年以上。年間約4百足を札幌市内の問屋などに卸しており、掲載時も多くの注文が入っていたとのこと。材料は粘りのある木材のヤマグワイヌエンジュで、一足2千円で直接販売もしているそうで、これは随分安い!!仮に体験型アウトドアの利用が主であれ、地域の伝統的な民具の作り手がいて、需要があって、しっかり生きていることは喜ばしいことである。  

さて、そもそも「かんじき」の素材として何が使われるのか?

 基本的には地域で手に入れ易いネバリのある木が使用されている。各地で様々な材が使用され、マンサクマユミグミクロモジオオバクロモジリョウブヤマボウシクマヤナギアブラチャンオオカメノキエゴノキタケのほか、北海道ではヤマグワイタヤカエデコクワ(サルナシ)イチイヤチダモが使用されてきたという。

 
 店頭のかんじき  

 

 
 北海道でも岩見沢市は豪雪地帯として知られている。市内の店先にもさりげなくぶら下がってた商品である。素材はヤマグワのようである。北海道における標準的な複輪型で、左右それぞれの対が色を合わせたセットになっている。

高橋馬具・靴・鞄店
 北海道岩見沢市1条西3丁目1
 
 


 右の写真は白川郷(岐阜県大野郡白川村)で見かけたものである。観光地化しているため、価格にはびっくりするが、複数の素材が使われているようである。店番のばあ様に材料の木の種類を聞いたところ、たぶん地方名で2種類を挙げていたが、1分後には忘れてしまった。この地域ではクロモジを使用するとの情報がある。
 なお、このかんじきは、滑り止めの堅い木のツメを付けたタイプである。
 

 左の写真はスポーツ店で扱っていた希少種となっているの輪かんじき(複輪型)である。
 「立山かんじき」の名で現在でも製作されていて、ネット通販もしている。上のものより価格は手頃である。

 説明文には、「立山かんじきは、立山町芦峅寺に今から約1,200年前から雪上歩行、熊狩り、林業者、炭焼き、材木切り出し等、部落民に深く愛用されてきました。」とある。素材はマンサク(ネソ)で、爪はナラとしている。本当は爪はカシの木を使いたいところであるが、立山にはたぶん自生はないであろうから、従前からの仕様なのかもしれない。(札幌市秀岳荘扱い)

立山かんじき
  富山県中新川郡立山町
 
       
 現役のかんじき 1(北海道の国有林での事例)  
 素材はいずれもヤマグワである。写真のように曲げ方の異なった2つのタイプが見られた。長靴への固定は、そのために供給されている頑丈な固定バンド(右側の製品を参照)が使用されていた。
 
 
        ヤマグワのかんじき(複輪型)
 冒頭で紹介したヤマグワのかんじきとデザイン的には同様であるが、こちらは素材の横幅が広く、軟雪ではより沈みにくい印象がある。
      ヤマグワのかんじき(単輪型)
 板の曲げ方が3D調で、優美な形態である。曲げ木としてはこちらの方が加工しやすい形態のように思われる。 
 ヤマグワ材の単輪型は全体としては少数派である。
 
       
 現役のかんじき 2(鳥取県での事例) 【2009.1追加】  
 以下の4点は鳥取県智頭地方で使用されていたものである。
 
 
 上の2点はいずれも実用の具としての手作りで、素材はシラクチカズラシラクチヅルサルナシコクワとも)とのことである。ワイルドな作りがいかにも日常生活に密着した印象があっていい。この素材は徳島県の「祖谷のかずら橋」の素材と同じである。
 
 
 
 こちらの素材はチシャノキ(標準和名のチシャノキではなく、地方名のチシャノキなので、「エゴノキ」であろう。)とのことである。これも手作り。
 これは竹製で、市販品とのことである。雪踏み用であろう。
 
       
 展示物となったかんじき 1
 
   
   
 
  日本はきもの博物館展示品(広島県福山市)
 素材はイタヤカエデシラクチカズラ(サルナシ)としている。爪付きのタイプである。岩手県盛岡市。
   北海道開拓記念館展示品(札幌市)
 実用に供された生活用具としての風格がある。素材はヤマグワであろう。古平町(大正期)。
 
 
 展示物となったかんじき 2 (国立民族学博物館展示品)
 
 
   
    国立民族学博物館展示品 1 (大阪府吹田市)
 この博物館には各地の多数のかんじきが収蔵されていて、一部が展示されている。 その多様性、個性には驚かされる。既に絶滅したものと現在まで継承されているものがあると思われる。
  国立民族学博物館展示品 2 (大阪府吹田市)
 この博物館の公開データベースには135点のかんじきについて、その個別写真(一部を欠く)と収集地(それぞれの素性)等に関する情報が整理されている。素材の種類に関しては同定が困難なのか、残念ながら具体的な情報は確認できなかった。 
 
     
 参考品(スノーシュー)

 
         その1


               その2
 
 
   これは外来種スノーシューの名を持ち、躯体はアルミパイプで、デッキ部はプラスティックシートである。アルミパイプは必要な強度を確保しやすいと思われるが、和のかんじきに比べると、重量は度はずれに重いし手にも冷たい。誇り高き日本のマタギはこうしたものの使用は必ずや拒絶するであろう。可動回転式の足先を載せる部分と、かかと部分の裏側にはギザギザのクランポンがある。   こちらは躯体がプラスティック製のスノーシューで、重量は前者よりはるかに軽い。癪に障るが半透明の青い色が美しい。裏側には足先のクランポンに加えてスチールのピンが12本取り付けられている。締め具を見るとやや旧式であることはわかるが、スノーシューはデザインの多様性があって面白い。   
       
    【2012. 1 追記】

 久しぶりにスポーツ店を覗いたところ、スノーシューの品数の多さには目も眩むほどで、色彩、デザインはますます多様化している。スノーシューツアーが盛んになってきたのであろうか。(札幌市内)

 構造的には躯体はアルムパイプかプラスティックのいずれかで、概ね半々の構成である。さらに、締め具は間違いなくより使い易くなっているようである。

 ところで、和の輪かんじきをこれまでこつこつと作ってきたおじいちゃんたちがやがてリタイアしてしまったら、伝統の木製輪かんじきは絶滅してしまうのであろうか。  
 
   スノーシューを概観すると、締め具はプラスティックベルトのラチェット式が多くなっている。
 ヒールフリーのタイプが主体であるが、斜面での機能性を高めるためにヒールをロックできるものや ヒールリフターのあるものも多く、一部はかかと部分が下に下がるものまで見られるなど、製品選びが楽しめそうである。
 スノーシューは、写真のように総じて前後に長い上にプラスティックのデッキ面で雪をとらえるため、平坦部での軟雪・新雪にはめっぽう強いが、実は斜面の下りは全く不得手である。また、マタギのように斜面を駆け回ったり、かん木が多い森林を踏査する利用などには取り回しがよろしくないといわれる。さらにトラバース等を伴う登山用には爪付きのかんじきが好まれているようである。 

  かんじきの話 その2はこちら  その3はこちら
 
     
  【2012.12 追記 】   
   冒頭で紹介した宮武氏の活動の動向について確認すると、残念ながら、ご高齢で既にかんじき作りは行っていないとのことであった。なお、最初に掲げたヤマグワのかんじきが、宮武氏の製品であることを確認した。札幌市内の別の店でもこの製品を確認した。もちろん現品限りである。