トップページへ   刃物あそび目次へ
刃物あそび
   鉛筆削り調べ


  日常生活に密着した刃物で、安定した切れ味を求められるのとして、お母さんにとっての最たるものはもちろん包丁で、お父さんにとってはシェーバーであろう。これらに並ぶものは他にないが、鉛筆削りもまだ広く使われている。
 包丁の切れ味如何はお父さんの責任である。シェーバーは予算とひげの質・癖を勘案して相性のいい製品に出会うことができれば幸いである。しかし、刃は研げないから適時替刃を購入しなければならない。
 さて、鉛筆削りとなると、購入のためにあれこれ選ぶ機会はほとんどないし、そもそも一般の文具店ではわずかな製品しか置いていない。そのうちポケットタイプは基本的に使い捨てで、そんなに神経を使う対象ではない。また、卓上型タイプは刃がひどく痛むこともなく、昔から一定の水準にあると思われ、切れ味に不満を感じさせるようなことは考えにくく、一般には一度買えば多分そのままであろう。
 最近は鉛筆削り自体にあまり関心が向かなかったことから、久しぶりに見回してみることとした。 【2010.10】


 鉛筆の総需要量が減少傾向で推移しているとしても、おちびちゃんたちは毎日鉛筆を使っているし、調べてみれば鉛筆削りも実にカラフルで驚くほど多様なデザインの製品が見られることがわかった。加えて欧米の極めて趣味性の高い、とんでもない価格の製品まで存在するのには驚いた。
 以下に概況をメモする。 (注:価格は事例である。 エンピツ用材のはなしはこちらへ)
 切出し小刀

  鉛筆を削る作業の原点はやはり切出し小刀によりきれいに鉛筆を削る技を身につけることである。高度な技術が必要なのではなく、要は慣れである。刃渡りの長いナイフや肥後守よりも、刃渡りが短くて研ぎやすい切り出し小刀が一番である。この作業に慣れれば、卓上型の鉛筆削りにかからないチビた鉛筆も手で削って補助軸でとことん使い切ることも可能となる。本当は子供のうちに鍛えることが重要である。(参考
 
 クランクハンドル回転式鉛筆削り その1 

  古くからのハンドルを回す卓上タイプ手動鉛筆削り)で、価格も千円を割るものから2千円程度のものが一般的で、本体は樹脂製、刃はロータリーシェーバーの内刃のように、円柱に螺旋状の刃を切った形状で、これを鉛筆を挿す軸に対して削り角の傾斜を付けた外来の発明品である。国内の製品は螺旋刃を1本使用しているが、海外の製品ではこの刃を向かい合わせに2本使用した贅沢な仕様の製品(エグザクト X-ACTO社)も見られる。高額の製品は総じて金属の使用割合が増加し、例えばスイス・カランダッシュ CARAN d'ACHE の国内名「メタルシャープナー」は小振りの割りにずっしり重く、いかにも堅牢であることが実感できる。ただし、価格が高いから切れ味が特別に優れているとは聞かない。    
         刃部の様子

 刃物としての形態、メカニズムは非常にすばらしい発想で、ネジを生み出せなかった日本人にはこうした三次元のメカニズムは苦手だったのかもしれない。昔は刃の固定部品は金属製であったが、現在は刃部周辺はすべてプラスティック製となっていた。 (三菱鉛筆 KH−20)
 国内外の多数のメーカーの豊富な色彩、デザインの製品が見られ、芯の尖り具合の調整機能の有無で若干の価格差がある。
 なお、独特の鉛筆削り用の刃(カッター)の製造は、神奈川県川崎市に工場を持つ「株式会社カニエ」(本社は東京都目黒区)が国内メーカーとして唯一で、国内占有率は100%とされる
  <参考:古いタイプの製品>  【2012.2追記】

 オフィスのがらくた置き場で、打ち捨てられていた古い手動鉛筆削りを発見し、復活登場させた。躯体の素材はたぶん亜鉛合金ダイカスト製で、がっちりしていて、ずっしり重く、昨今の製品が貧相に見えてしまう。金属躯体の重量感のある製品としては、先にも触れたスイス・カランダッシュの Caran d'Ache Pencil Sharpening Machine Item #: 37006 が今でも存在するが、価格は1万ウン千円もする。 
   
 
 現在のプラスティック製のふにゃふにゃした製品とは随分印象が違う。芯調節はネジ式である。

 昔の製品を見直して感心してしまうのは変な気分であるが、これは永久ものである。

 マックス株式会社
 MAX ACE  PS-A
   
 
 先の製品とは異なり、刃部周辺はオール金属である。
 現在は強度のあるプラスティックで置き換えることができるようになったのであろうが、明らかにかつての製品の方が上質に見えてしまう。
   
 クランクハンドル回転式鉛筆削り その2

 同じハンドルを回す卓上タイプで、一部に鉛筆を縦に差す方式の製品が見られる。スペインのこだわり文具メーカー「エルカスコ(EL CASCO)」のややマニアックなメカニズムを持つ製品が存在し、プロペラのような6枚の刃が回転しながら、何と回転する鉛筆を素直にナイフで削るようなアクションで削る仕組みとなっている。小窓からこの様子が見えるというこだわりで、おもしろさはあるが、日本での小売価格は5万円以上という、恐るべき価格の特殊な遊び道具である。
 電動式鉛筆削り

 ハンドルを回す機械式の動力をモーターに置き換えたもので、当然その分価格は高くなる。交流式と電池式がある。自宅で使う分には問題はないが、ガガガーという音が大きくて、昔からオフィスの静寂を破る事務機器として知られている。特に電動の鉛筆削りは、子供用に買っても買い換えることはないから、最新の機種の様子を知らないが、静寂性を売りにした商品の存在は耳にしない。
 携帯(ポケット)タイプ鉛筆削り(シャープナー)

  実にシンプルな構造で、一部を欠いた円錐形の穴を持つ台座に鉛筆を桂剥き(かつらむき)するように削るのに必要な最小限の小さな直刃を1〜2個のビスで固定したものである。これを基本形にして、2穴式も多く、この場合は、@削り角度を変えたものと、A普通の鉛筆と太軸の鉛筆に対応できる2種類が見られる。国内の複数メーカーの製品のほか、ドイツの鉛筆等のメーカーであるスタビロ(STABILO)ステッドラー(STAEDLER)リラ(LYRA)ファーバーカステル(FABER CASTELL)や 同じくドイツのアイゼン(EISEN)クム(KUM)ダックス(DUX)など、ドイツのメーカーが非常に多いことに驚かされる。ビスをはずして刃を研いでも位置調整ができない構造で、切れ味が悪くなれば買い換えることが前提となっている。実用本位の簡素なものから、ファンシー文具調のもの、更には本体の質を高めて遊び心を刺激するものまで製品のバリエーションは非常に多いが、基本的な機能には大差はないと思われる。
 シンプル故に価格も安いため、タイプの異なる手近な数種類の製品を試してみた。
@  アイゼン(EISEN) 125円〜150円
  ドイツ・バイエルスドルフのメーカー アイゼン
(EISEN)
の製品で、ドイツ製の刃を使って中国国内で製造しているものである。刃には“Made in Germany”とあり、裏のアルミ部には“MADE IN CHINA”とある。削りクズの収納コンテナのない解放タイプで、最小限の大きさとすればこうなると言わんばかりのコンパクトな製品仕様である。本体はアルミ合金。国内の取り扱い会社が「ドイツ削器」と命名・表示している。刃物に「ドイツ」の文字を付すことは依然として効果的である。削り角度は鈍角である。同社の製品がどの程度国内に入っているのかは不明であるが、製品リストではその他亜鉛製、樹脂製、木製、削りクズを溜めるカバー(コンテナ)付きなど、驚くほどの種類の製品を主として中国で生産している。替え刃付きのものもある。
 
A  クム(KUM)400-5L Long Point 231円
 上の製品とほとんど同じデザインの製品で、ドイツ・エアランゲンのメーカー クム(KUM) の製品である。本体に Made in Germany としている。上の製品との違いは、こちらの本体の素材はマグネシウム合金であることと、削り角度が鋭角である点で、穴の径は同じであるが、本体も刃部も長くなっている。 この会社の製品バリエーションもアイゼン社と同様に信じ難いほど多様で、低価格の鉛筆削りでここまでこだわる理由は理解を超えている。 
B  クム(KUM)410 262円
 クム(KUM)の2穴タイプである。刃部に Germmany 、本体に MADE IN GERMNY の刻印がある。上の製品と同じマグネシウム合金製である。
 ドイツ製の2穴タイプは、標準サイズと太軸サイズの鉛筆に対応したものが普通で、削り角度はいずれも鈍角である。二つの刃の長さが同じであるから、太軸の削り角度は自ずとさらに鈍角となる。

 なお、こうしたカバー(コンテナ)のないタイプでこだわり派向けとしては、ダックス(DUX)の真鍮製で芯先調製のネジが付いた製品が有名である。革製のケース付きで2千円余の価格である。他の製品を凌駕する特性があるものではないと思われ、趣味性の強い製品である。
 C  カランダッシュ(Caran d` Ache) 
 
 スイス・ジュネーブに本社を置く高級筆記具メーカーで、日本では上質で多様な色鉛筆でも知られている。太軸と標準の2穴タイプで、ユニークなカバーに遊び心を感じて楽しいが、削り角度は上記と同様の鈍角で、色鉛筆削り仕様といった印象である。
 実は中身のシャープナー自体はドイツ・クム社製であった。

 普通の鉛筆削りのつもりで購入して、この削り角度を見ると、なーんだ、ということになってしまう。できればお試しができるとよいのだが・・・
 
 
   
D  三菱鉛筆・1穴鉛筆削り(uni Palette ポケシャ DPS-101 PLT) 89円〜94円
 
 三菱鉛筆(株)扱いの国産刃の製品である。小さな箱形で、鉛筆の挿入口のヒンジキャップ部、刃を固定した削り部本体、削りクズカバー部からなり、分解できる。刃部にはおなじみの“KAI”のデザイン化されたロゴがあり、貝印株式会社製の刃である。変な気負いのない実用本位のシンプルなデザインで、試した中では最安である。削り角度は鈍角である
E  トンボ鉛筆・2穴鉛筆削り(ippo SM-200WN) 165円〜185円
 (株)トンボ鉛筆扱いの国産・2穴のカバー付きで、それぞれの穴に対して「えんぴつ用」、「いろえんぴつ用」とした表示がある。もちろん前者の削り角度は鋭角で、後者の削り角度は鈍角である。シンプル、オーソドックスな製品で、キャップのフィット感も最適であり、機能的な問題は全くなく、今回試した中では最も使いやすい製品であった。 刃部には “NJK”の刻印がある。(後述)
F  コクヨ・2穴鉛筆削り(ツインタイプ GY-GCC100) 200円〜210円
 コクヨS&T(株)扱いの中国製である。鋭角・鈍角用の刃のそれぞれに円筒形のカバーを付けて、これらを連結できるようにしたデザインである。なぜこうした形としなければならないのかは、包装紙のキャッチコピーが答えている。「鉛筆削りを回せば削る力約30%」とある。細い鉛筆回しを何本かやれば少々指が痛くなるが、直径が太い鉛筆削り本体の方を回せば楽であろうということである。確かに理屈はそのとおりであるが、この提案による方法はちょっと馴染みにくい。
(本製品はその後生産終了)
G  クツワ・ダイヤル調製式鉛筆削り(K’ZOOL ケズール) 250円〜300円
 クツワ(株)扱いの国産で、Gマークを取得している。芯のストッパーをダイヤルで前後させることができて、これにより芯の尖り具合を5段階調製できるというメカニズムが特徴である。またプッシュボタンで折れた芯を排除できる点もユニークで、意外性がある。ただし、鉛筆挿入口のシャッターがゆるいこと、本体が比較的平たいことから、削りクズが少々排出しにくい点は改善が必要であろう。削り角度は鈍角である。刃部にはトンボの製品と同じ“NJK”の刻印がある。
  【追記 2013.6】

“NJK”の刻印のある製品の素性に関して、ある方の情報で以下の事業者であることを知った。

  株式会社 中島重久堂(なかじまじゅうきゅうどう)
  大阪府松原市三宅中7-3-28

 日本唯一の樹脂製小型鉛筆削り器製造の専業メーカーで、昭和8年(1933年)創業という。
 国産の色鉛筆やクレヨン、ペンシルケース付属の鉛筆削りでおなじみとのことで、さらに文具メーカー、鉛筆メーカーに対してもOEM生産(相手先ブランドによる受託生産)を広く実施しているとのことである。ということは、国産品に占める同社の製品シェアはかなり高い可能性がある。
 なお、委託者の意向で、刻印のない製品も生産・出荷しているとのことである。
  
   
   
H  ダイソー・ダイヤル調整式鉛筆削り 105円
 ダイソー扱いの台湾製で、印象は上の製品に近いが、色彩・デザイン的にはこちらの方が美しい。上の製品と同様に5段階の芯仕上げの調製ダイヤルがあるが、仕組みが異なっている。こちらは、鉛筆が収まる円錐形の収納部分自体をダイヤル操作で前後させ、固定したストッパーとの距離を調整するというもので、低価格の製品にもかかわらず、いろいろ工夫している点には感心する。鉛筆挿入口のシャッターは曲面部にあり、これにより適度な抵抗があって、ゆるいということはない。ただし、削りクズ排出口のスライド式のフタが少々開けにくい点は改善が必要であろう。また、芯の尖り具合が不足気味で、百円とは思えない見た目の印象がよい製品であるだけに惜しい点である。削り角度は鈍角である
I  ダイソー・キャップ兼用鉛筆削り 105円
 ダイソー扱いの中国製である。これは驚きのアイディアで、鉛筆のキャップと鉛筆削りを一体化してしまった製品である。3個セットでこの低価格であることによって初めて成立し得る製品である。使いやすさは多少犠牲になっているが、間違いなく削れる!! 削り角度は鈍角である

【追記】
 クツワ(株)でもこれに類する製品を販売しているのを目にした。2個88円であった。同一品か?
 確認した点及び気づきの点

 限られた数の製品について観察しただけであるが、以下のとおりである。
(卓上型鉛筆削りによる鉛筆材の切削方向はどうなっているのか)

  木をきれいに削るためには、本来は繊維方向に素直に削るのがよいことは言うまでもなく、この方法は刃物も痛めにくい。このため、切出し小刀で削れば削り面は最も平滑で艶が出る。では、卓上型の鉛筆削りの螺旋状の刃では、実際にどのような方向に削っていることになるのであろうか。
 これはインセンスシーダーの材を使用した鉛筆の削り面を観察すると何とかわかる。さすがに軸方向に真っ直ぐの刃物痕にはなっていない。先端に向かってわずかな角度で螺旋を描きつつ、次第に軸方向に流れている。このため、螺旋状に巻いた削りクズを伸ばすと一直線ではなく湾曲した形状となっているが、おおむね繊維方向に削られていることになる。
      何の変哲もない削りクズ         伸ばせばこんなかたちに
<追記>
 たまたま見かけたステッドラーの木粉と樹脂を混合した軸材の鉛筆である WOPEX を卓上型鉛筆削りで削ると、刃物痕がクッキリ確認できた。 
 この鉛筆は卓上型の鉛筆削りを使うと、写真の状態となるが、ポケッとタイプの削り器を使うと、驚くほど削り面がツルツルに仕上がる。
(ポケットタイプの鉛筆削り選びの問題点)

 複数の製品を試してわかったことであるが、サンブルとした国産の1穴の製品では削り角度がすべて鈍角で、トンボ鉛筆の2穴タイプの「えんぴつ用」としている側の鋭角の削り角度(=卓上型鉛筆削りの削り角度)と同じ削り角度が得られるものがなかった。個人的にはこれらは色鉛筆用といった印象がある。ドイツの製品は1穴タイプでも削り角が選べる品揃えとなっている。削り角度は好みもあるであろうから、国産品でも購入時にこの点がわかるようになっていればありがたいのであるが・・・。現実的な判断の目安としては、刃が短いタイプは鈍角の削りとなることを承知しておけばよいであろう。
 なお、卓上型の国内定番商品、三菱鉛筆のKH−20の削り角度はもちろん鋭角である。 
(ポケットタイプの鉛筆削りの刃の品質と替え刃)

 品質に関して結論を先に言えば、厳密に確認はできないが、すべて量産品であり、決して特殊なものではないから、普通のカッターの刃と同等の炭素綱と思えば間違いないであろう。したがって、本体が真鍮製だから別格の鋼材が使用されているとは考えられないし、切れ味比べをしても意味がないであろう。要は新しい方が切れ味がいいことを実感するだけと思われる。

 どんな刃物でも使っていれば切れ味が次第に低下することは避けられない。これら製品は、基本的には切れ味が悪くなったら買い換える製品である。替刃が別途用意されている製品があるが、これは本体価格が高くて使い捨てとするわけにはいかない事情によるもので、特殊な例である。それも、主要都市の店舗でなければ手に入らないし、通販も面倒である。
 安い製品でも替刃がついていればありがたいが、実は保存管理が面倒である。また、店舗が低価格品の替刃をメーカー別、製品別に常時ストックして管理するなどあり得ないことである。したがってネジ止めとなっているものの、替刃などは一般的に販売されていない。
 トンボのMONO鉛筆をトンボの携帯タイプの鉛筆削りで桂剥き≠オたものである。貼り合わせたペアの軸木の木目の違いが美しい。この模様だけで、鉛筆が6回転したことがよくわかる。

 適度な柔らかさのインセンスシーダ製の軸木を小刀でサクサク削ったり、削り器でシュルシュル削るのは心地よいものであり、ほんのり漂う針葉樹系の芳香もいいものである。