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刃物あそび 「肥後守」の商標の今
別項で絶滅危惧種としての肥後守を採り上げたが(こちらを参照)、現在に至っても、永尾元佑氏のナイフ生産が打ち止めになったとは聞かない。それどころか、引き続き更なるコレクターの需要に支えられているのか広く製品を目にすることができる。氏の製品は多分従前のように酷使されることもなく大切に保管され、今や日本中に溢れるほど存在しているのではないかと思われる。さらに、海外の通販サイトを見れば、例えば
“Higonokami knife Motosuke Nagao”の表記で、国内の通販サイトよりも多種・多様な氏の肥後守が販売されていることが確認できて、もうビックリである。欧米の伝統的なデザインのナイフに比べると、随分個性的・異質なデザインであり、海外でも興味を持つ人がいるのかも知れない。 さて、この有名な肥後守であるが、改めて鞘に打ち込まれた製品名を見ると、何か読みにくい文字が挟まっていて、恥ずかしながらどのように読むのが正しいのか全くわかっていないことに気付いた。【2014.4】 |
1 | 商標の登録状況 早速ながら、特許庁のサイトで現在の商標の登録情報を確認すると、面白いことに「肥後守」の語の検索で次の5件がヒットした。(以下表示リストの順) |
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@ | 肥後守秀 分銅(ふんどう)カネ宮 | |||||||
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これは「肥後守秀」で、「肥後守」に「秀」の文字がプラスされたものである。かつて肥後守の組合員であったとされるこの事業者が、秀の字を付加して別途商標登録したものと理解される。登録上の指定商品の種類はナイフに止まらず広汎にわたっているが、事業者(宮本製作所)の本業は左官鏝の製造である。 この製作所によるこの商標を使用した製品は現在は見当たらず、実は、別の名称「登録商標 劍聖宮本武藏」の刻印を入れた肥後守型の高価格帯のナイフを生産していることで知られている。この商標の権利者も同じく宮本博介氏である。現在の製作の継承者である宮本博文氏(三代目?)は昭和38年生まれとされるから、しばらくは大丈夫な印象である。永尾氏と同じ三木市の近隣の事業者であるが、組合を離脱した事情、背景等については特に聞いていない。 |
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A | 肥後守 | |||||||
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これはズバリ「肥後守」そのものであるが、指定商品が各種の酒類である点が異なっている。権利者は熊本市の酒造会社で、本家肥後国からの逆襲のように見えて楽しい。「肥後守」の名は、数ある商品のうちの焼酎の一製品に使用されている。 | ||||||||
B | 肥後守定カネ駒 | |||||||
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真打登場である。この商標は一般に「かねこま」の部分を仕方なく例えば「カネ駒」などとして表記しているが、製品の刻印は「肥後守定 」で、事業者の名称も「永尾 製作所」としている。こんなフォントは存在しないから、記述の上ではやっかいである。 永尾氏はこの商標とともに、「肥後守」の商標の権利者でもある。ということは、従前は同様の事業者で構成する組合が保有していたとされる「肥後守」の商標を、唯一生き残った組合の事業者である永尾氏が単独で継承しているものと理解される。一方、「肥後守定 」の商標は、元々永尾氏が組合員として使用していた「肥後守」プラス製作所固有の屋号の表記を、別途商標登録したものと理解される。 したがって、@と同様のパターンであろう。 |
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C | 肥後守 | |||||||
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現在では永尾氏が権利者となっている元祖「肥後守」の商標である。指定商品として、手動利器以外に「魚ぐし」、「針類」も掲げているが、こうした商品の存在は確認していない。 | ||||||||
D | 肥後守 | |||||||
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これもズバリ「肥後守」そのものであるが、指定商品が各種の食品類である点が異なっている。事業者はさすがに肥後国(熊本県)である。 | ||||||||
2 | 肥後守定 の「定」の文字は一体何なのか | |||||||
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課題は上の写真左の製品の刻印の読みと意味である。 「肥後守」の読みがこれほど一般的でなければ、「ひご・もりさだ」と読んでも別に問題なさそうな気もするが、現実はこれでは教養がないといわれてしまいそうである。となると、「ひごのかみ・さだ」と読むのかとなると、どうにも違和感があって、「定」の意味が何なのかさっぱりわからない。しかし、考えて分かることではないし、仕方がないので、当人に電話で聞いてみることにした。 <電話による聞き取りの結果> 早速電話すると、おばあちゃんが出たため、突然の電話を詫びつつ、旦那さん(永尾元佑氏)に代わってもらった。 本人の声を確認し、質問の趣旨を話し始めたところが、ご高齢で、やや耳が遠くなっているとのことで、電話での会話が困難であったため、息子さんが代わりに対応してくれた。 伺った内容の要旨は以下のとおりである。 「定」の文字の件はしばしば聞かれている。製作所は明治以来の歴史があって、古い習慣として名称に「流行り文字」を入れて格好をよくすることが行われていた。「定」の文字はそれに相当するもの。読みは「ひごのかみ・さだ・かねこま」としている。 ということで、聞いてみればスッキリである。「定」に特別の意味があるのではなく、名称をおしゃれに飾る(格調を高める)ための文字であった。したがって、商標データの「呼称」の「参考情報」として掲げられている記述は特に気にすることもない。 これが分かると、1の@の「肥後守秀」の「秀」についても同様であろうことが推定できて、したがって、その読みも「ひごのかみ・ひで」となろう。 ところで、この「肥後守 定 」については、特に意識はなかったが、かつての「暮らしの手帖」の商品テスト(こちらを参照)でも、「肥後守 定(さだ)」として登場しているのを追って確認した。 |
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