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オニユリの場合 |
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オニユリの個性 |
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オニユリのジャングル
ユリ科ユリ属の多年草 Lilium lancifolium
国内で見られるものは、古くに中国から食料として伝来したものが野生化したものとする見解がある。中国名は巻丹(百合科百合属)。 |
強烈な色合いのオニユリの花
部分的なドアップ写真を撮ろうとすると、カメラや手にしつこい花粉が付着して、ひどい目に合うことになる。 |
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オニユリのむかご(珠芽)
葉腋にむかごを付ける。 |
根を出したむかご
胎生種子を思わせるような挙動である。 |
オニユリの牽引根(収縮根)
鱗茎の下方の根には横皺が見られ、牽引根(収縮根)と呼ばれている。 |
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むかご(零余子)は珠芽(しゅが)ともいい、地上のシュートの腋芽が肥大したものとされ、落下して新たな個体を作ることが知られている。植物体についたままで根を出した姿をふつうに目にし、まるでイヌマキで見られる胎生種子に似た印象がある。植物学的講釈としては、葉原基が肉質となり幼茎を取り巻いたものは鱗芽、茎が肥大し球状になったものは肉芽とい呼んでいて、オニユリのむかごは鱗芽、ヤマイモのむかごは肉芽とされる。
牽引根(収縮根)はユリ科やアヤメ科のほか、双子葉植物でも見られるとされ、オニユリでも新たにできた鱗茎が地上に浮き出るのを防ぐために、土壌に固着した根が収縮して鱗茎を地中に引き込むという。特徴的な横皺は、根の中心部が収縮するのに対して表面はそのままであるために形成されるという。 |
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なお、オニユリは目にするもののほとんどが3倍体で、ふつうは結実せず、むかごと鱗茎で増えるという。 ただし、ときに二倍体のオニユリが存在するとか、九州北部のオニユリは二倍体であるともいわれ、結実が見られるという。ところが、中国植物誌ではこれが3倍体であるとはしておらず、「蒴果は狭長卵形で、長さは3-4センチ、果期は9-10月」としているだけであるから、中国では3倍体は極めてマイナーな存在である可能性がある。 |
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★ 果実をつけたオニユリの様子 |
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以下はたまたま目にしたオニユリの果実である。種子に発芽能力があるかは試験中である。コオニユリを花粉親とするオニユリは結実するといわれているが、本個体はむかごをつけているから、オニユリであることは間違いない。 |
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オニユリの果実 |
オニユリの種子 |
果実をつけたオニユリのむかご |
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オニユリの葯と柱頭の様子 |
オニユリの葯 |
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脂っこいユリの花粉は厄介者で、手についた場合に、屋外で落とすのは難儀で、服についたらもう悲劇である。
ユリの花粉の粘着性の強烈さは、例えば鱗粉におおわれたチョウの翅にも粘り着くほどであるという。
このしつこい粘りが一体どんな成分に由来するのかが気になるところであるが、その主成分は脂肪質であろうと言われている。
服についたときの対応策については、さすがというか、花屋さんの「日比谷花壇」が自らのホームページで詳しく紹介していて、無水エタノールとアセトン(除光液にも含まれる。)が効果的であるとしている。
ところで、結実することをやめたオニユリがなぜ相変わらず無用で嫌われ者の花粉を作り続けているのか、さらにはそもそも花も不要なのではないかと思われるが、今後どのように進化するつもりでいるのか、気が知れない。
ひょっとすると、オニユリの花は人間界で生き延びるための小道具として特化したものなのかも知れない。
あるいは単に中国からマイナーな存在の3倍体がたまたま日本に導入されただけなのかも知れない。 |
オニユリの柱頭についた花粉
オニユリの柱頭は花粉と同じような色であるが、粒状の構造が柱頭の表面の様子で、一方、麦の穀粒のようなもの(筋状の凹みのあるラグビーボール形のもの)が花粉である。 |
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(2) |
オニユリの蜜腺(蜜溝) |
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オニユリの花被片下方の蜜溝の入口
オニユリの6個の花被の内側中央下方に蜜溝の入口(白矢印)が見られる。形態的には筒状であるが、2列のひだの上端が接した構造であるため、蜜溝の名がある。 |
オニユリの蕾の断面で確認できる蜜溝
オニユリのつぼみの横断面で、個々の花被の蜜溝(黄矢印)の存在を確認しやすい。中央にあるのが子房で、そのまわりの6個の柱状の断面が雄しべの花糸である。 |
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上の左の写真で、花被の模様を見ると、全体的に暗紫色の斑点があり、下方の蜜溝の両側には頂部が同色の乳頭状突起が見られる。さらに、蜜溝の入口にも頂部が暗紫色の短い乳頭状突起が見られる。これらの乳頭状突起が長いストロー(口器)を持った昆虫を蜜溝の入口に誘導するための蜜標になっているものと思われる。2倍体のオニユリであれば役に立つ存在である。
上の右の写真で、内花被の外側の中肋部に竜骨構造が見られる。この形態から考えると、長い花被の構造的な補強であるとともに、成長過程で長い蕾の形態を保持する(外果皮の位置を安定させる)ための構造と思われる。 |
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オニユリの花被の蜜溝付近の様子 1
蜜溝の入口では、両側のひだに頂部が暗紫色の短い乳頭状突起が並んでいる。 |
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オニユリの花被の蜜溝付近の様子 2
蜜溝を形成する2列のひだは次第に閉鎖していて、ひだの上端部には短い毛が密生している。 |
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外花被の蜜溝の断面
蜜溝の断面形状は三角形で、ひだが接する部分は毛が密生して閉鎖されている。 |
内花被の蜜溝の断面
内花被、外花被のいずれの蜜溝でも、その両側には長い乳頭状突起が見られる。 |
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オニユリの蜜溝の内壁面の様子
蜜溝を形成するひだの上端には短い毛が密生していて、これがシールの役割を担っている。 |
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オニユリの蜜溝の蜜
写真は蜜溝を少々開いた状態のもので、左側(花の基部側)で蜜が溜まっていて、光っている。 |
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ヤマユリの場合 |
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ヤマユリの花の花被の中肋部、基部付近をのぞき見たところが、蜜溝は全く見当たらず、単に蜜が点状に盛り上がっていた。 明らかに溝状の構造が形成されていないから、蜜溝があるとする表現は適当ではない。 |
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ヤマユリの花の様子
ユリ科ユリ属の多年草 Lilium auratum
赤褐色の斑点はオニユリよりも小さくて控えめである。 |
花被の内側、中肋下部の蜜腺から滴状に分泌された蜜はむき出し状態で、写真ではアリが1匹蜜で溺れていた。アザミウマ類も見られた。蜜腺の周りには細長い黄色の突起が見られ、これが蜜標となっているのかも知れないが、見てのとおりで、誰でも簡単にペロペロなめることができる。 |
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ということで、ユリ属では図鑑での記述のように、いずれにも蜜溝(の構造)があるというわけではないことを確認した。
ヤマユリは草丈が高い割りに茎が軟弱で、そのくせ分不相応な大きな花を付けるために、花期には茎は大きく湾曲し、花が地面すれすれに下向きとなっていることが多い。明らかに著しくバランスを欠いており、一体何を考えているのかよくわからない。
なお、ヤマユリの送粉昆虫に関しては、昼間のアゲハチョウ類と夜間の大型スズメガ類の両方が送粉に寄与しているのであろうとする見解(中嶋・加藤・村上)がある。 |
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3 |
ユリ属の蜜溝の有無はどのように整理できるか |
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こういった視点でユリの花を見ていないため、過去に撮影したユリ属の花の写真を復習してみた。
写真で確認できた範囲で整理すれば、次のとおりであった。 |
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ユリ属の蜜腺における蜜溝の有無 |
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亜属 |
例 |
蜜溝の有無 |
ヤマユリ亜属 |
ヤマユリ、カノコユリ |
蜜溝の構造なし |
(ヤマユリを交雑親♀とするオリエンタルリリー) |
ソルボンヌ、イエローウィン |
蜜溝の構造なし |
テッポウユリ亜属 |
タカサゴユリ |
蜜溝の構造なし |
カノコユリ亜属 |
オニユリ |
蜜溝あり |
スカシユリ亜属 |
スカシユリ |
蜜溝あり |
(名称不詳の多数の小型の園芸種のユリ |
名称不詳 |
蜜溝あり |
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4 |
ユリ属以外で蜜溝等の名が使われている例はあるか |
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調べた範囲では、リンドウ科センブリ属の植物で、花被片の中央又は基部に存在する蜜腺に「腺溝」又は「蜜腺溝」の名を使っている事例が見られた。ただし、アケボノソウに限って単に「腺体」としている事例が見られた。 |
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センブリ属の蜜腺の呼称例 |
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区分 |
アケボノソウ |
センブリ |
ムラサキセンブリ |
イヌセンブリ |
シノノメソウ |
改訂日本の野生植物 |
蜜腺溝 |
蜜腺溝 |
蜜腺溝 |
蜜腺溝 |
蜜腺溝 |
原色日本植物図鑑 |
腺体 |
腺溝 |
(言及なし) |
腺溝 |
腺溝 |
山に咲く花
野に咲く花 |
蜜腺溝
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蜜腺溝
楕円形の蜜腺 |
蜜腺溝 |
蜜腺溝 |
蜜腺溝 |
中国植物誌 |
半円形の大きな腺斑 |
(中国に自生なし) |
腺窩 |
(中国に自生なし) |
(中国に自生なし) |
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注:改訂日本の野生植物では、蜜腺溝の存在についてはセンブリ属の通性としても記述している。 |
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「山に咲く花」の「蜜腺溝」の語は多分、「日本の野生植物」における呼称に依拠したものと思われる。それよりも「原色日本植物図鑑」で、アケボノソウの蜜腺だけをごく一般的な用語である「腺体」として区別していることに目が止まる。さらに、中国植物誌では、アケボノソウ(中国名:獐牙菜)の蜜腺を「腺斑」として、その外観を反映した用語で表現している。 |
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(1) |
アケボノソウの蜜腺を呼び分けている場合の理由 |
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まずは、順を追って説明すると、腺溝と蜜腺溝は同義で使用されている。オニユリ等で見られる蜜溝は形態的には大いに異なっているが、字義としては同義と理解される。要は用語がまるで整理されていない。また、蜜を分泌する腺体は蜜腺、蜜腺体と同義である。 |
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ここで、アケボノソウの花被片を思い浮かべてみると、“溝”らしきものの存在は全く思い当たらない。単に緑色の斑紋が2個ずつあって、これが蜜腺として理解されている。全くの平らで凹みもない。そもそも、溝の構造がないものを「蜜腺溝」と呼ぶこと自体に違和感がある。
原色日本植物図鑑でアケボノソウの蜜腺を「腺体」と表現しているのは、明らかにアケボノソウでは蜜腺が溝状にはなっていないという単純明快な理由によるものであることがわかる。ということで、アケボノソウの蜜腺を「蜜腺溝」としている図鑑の表現は正確性に欠け、青少年の教育上も好ましくないと思われる。このことは、ユリ属で、蜜腺の溝がない種も十把一絡げで「蜜溝がある」としているのと同質である。
なお、中国植物誌でアケボノソウの蜜腺を「腺斑」と呼んでいるのは実際のイメージにも合致してわかりやすい呼称である。さらに、これを「蜜腺斑」としてもよいと思われる。 |
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アケボノソウの花序の様子 |
アケボノソウの花の蜜腺体(腺斑、蜜腺斑) |
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(2) |
例えばセンブリの蜜腺には溝の構造があるのか |
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センブリの蜜線部の形態は楕円形の凹みとなっていて、これに蜜が溜まる仕組みとなっている。イメージとしてはバイモの蜜腺と似た形態である。これをとらえて「溝」の文字を使った「蜜腺溝」の呼称がわかりやすいかは意見の分かれるところである。
中国植物誌ではムラサキセンブリの蜜腺は「腺窩」と呼んでいる。「窩」の字は凹みを意味し、一見馴染みが薄いが、頭蓋骨の目の部分の凹みを「眼窩」としているわかりやすい例がある。ちなみにバイモの蜜腺は中国植物誌では「蜜腺窩」としている。先の「腺窩」と同義である。
中国植物誌で、センブリ属の凹んだ蜜腺を「腺窩」としているのは、そもそも本属の蜜腺の凹みの形に色々ある中で、これを「腺窩」の語で包括的に表現できるからである。腺溝又は蜜腺溝の語では属全体を表現する語として適合しないということが理解できる。個人的には国内種であっても“溝”というよりは「窩」の字がより形態を反映してわかりやすく、ふさわしいと感じる。例えば、バイモの蜜腺を腺溝あるいは蜜腺溝としたら明らかに違和感がある。
なお、中国植物誌によれば、中国内にはセンブリ属植物が何と79種存在するとされ(注:日本国内では10種)、センブリ属の説明文中、花冠裂片の多様な腺に関しては、以下のように全体を概説していて、その上で79種について詳述している。 |
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センブリ属の腺体(中国植物誌より抜粋) |
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① |
腺体の数
(分類上の)節により異なり、Sect. Swertia,Sect. Ophelia,Sect. Heteranthos は花冠裂片には通常2個の腺体があり、その他の節では1個の腺体がある。 |
② |
腺体の類別
2種類に分類でき、腺窝 は凹んだ腺体で蜜嚢を形成し、辺縁は常に膜片又は流蘇(長い毛)が覆い、腺斑 は平坦で辺縁に毛はなく、花冠の色と異なり、蜜を分泌する。 |
③ |
腺窩の構造
腺窩の構造は多様で、主なものは嚢状、溝状、杯状、円盤状等である。 |
④ |
腺体の位置
多くは花冠裂片の基部に位置し、少数のものでは花冠裂片の中部に位置する。 |
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