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続・樹の散歩道
  種子が裸出するという植物
  果実なのか種子なのかは図鑑で学んだ上で
  何とか目で確認したいもの
   


 ヤブランユリ科ヤブラン属の多年草で、公園やビル周辺などで非常に多く植栽されていて、ごくありふれた風景となっている。どちらかといえば斑入りの品種(斑入りヤブラン)の方が多いような印象である。グランドカバーとして多用されるタマリュウと違って、花茎が高く立ち上がってそれなりのきれいな薄紫色の花をつけるから、地味ではあるが季節を感じさせる生活空間の植物となっている。
 さて、このヤブランについて別項こちらを参照で「スーパーボール」の例として採り上げた中でも触れたように、種子がむき出しとなってつくことが植物観察会的常識となっているところである。つまり、黒色の果実としか見えないものは果実ではなくて種子であるというのである。ところが、このことを実感できる写真を見たことがないし、もちろん現物を見てもさっぱりわからない。つまり、多くの人はよくわからないままにこれを受け入れて、ときに自らも講釈しているのであろう。【2016.12】
 


 
       普通のヤブランの様子
他に葉が斑入りのフイリヤブラン、白花のフイリヤブラン等が見られる。自生のヤブランなど見たことがない。
              ヤブランの花
   花は総状につき、花被片は6枚、雄しべは6本。 
 
     
 
       ヤブランの花
    白花の斑入りヤブラン
 
    ヤブランの “ 成熟種子 ”
 写真図鑑の中にもこれを果実としている例を見る。 
 
     
 図鑑における説明事例  
 
 改めてこのことに関する説明事例を掲げて確認してみる。  
 
・   ヤブランは子房は上位で3室。各室に2個ずつ計6個の胚珠があり、そのうち1個()が子房を破って黒色球形の種子となる。【世界大百科事典】
:この説明では結実数の仕組みがよく理解できないため、後で実際の観察結果を記す。 
・   ヤブラン属の果実は刮ハだが、果皮が薄くて脱落しやすくて成熟する前に落ち、種子がむき出しになって果実のように見えるのが特徴。種子が果実のように見えるのはユリ科のなかでヤブラン属ジャノヒゲ属だけに見られる特徴。
【野に咲く花】 
・   ヤブランは果皮は薄く、種子は肥大すると果皮を破って露出し、果実のようにみえる。このようなものは、他にヒメヤブラン、ジャノヒゲ、オオバジャノヒゲ、メギ科のルイヨウボタンなどがある。【植物観察事典】 
 
 
 これらの記述を見ると、種子がまだ小さいうちにペラペラの子房壁(果皮)が破れて種子がむき出しの状態となり、その後に種子はさらに大きく成長し、成熟すると種皮の表面が黒くなるということのようである。

 ということは、こまめに観察して、例えば果皮が破れかけた証拠写真を撮れば納得感が得られるということになる。
 
     
 現物のヤブランでの観察結果  
 
 この件に関しては参考となる教科書的記述が見られないため、以下は素人的な推定である。  
 
@  目にする若い球体は果皮をまとっているのか  
 
 これは言い換えると、いつの時点から種子状態となっているのかという見極めである。
 ヤブランの黒い球体はもちろん成熟した種子であることは周知の事実であるが、この前段の緑色の球体の状態、またこれ以前のサイズがはるかに小さい黄緑色の球体の状態、さらにはそれ以前の白色の球体の状態は何なのかを逆順に遡りながら確認する。
 
 
(緑色の球体)  
 
     緑色の若い種子 1
 果実に見えるが、種子とのことである。
     緑色の若い種子 2
 表面に薄皮の残滓が見られる。 
     緑色の若い種子 3 
 種皮を半分取り除いた状態であるが、感覚的には表面は内側に果肉をもった果皮に見えてしまう。
 
     
 緑色の球体は黒色の球体と同様に薄皮(果皮)をまとっているものなどはないく、しばしば薄皮の破片がついている程度であるから、若い種子と理解できる。  
 
(黄緑色の球体)  
 
   黄緑色の小さな球体は、基部や周囲に萎びた花被片や雄しべがまとわりついている場合もあってわかりにくいが、淡褐色の古い薄皮の破片(たぶん果皮と思われる。)が一部に付着しているのがしばしば見られる。しかし、全体が薄皮で覆われているようではないから、これも既に若い種子であろう。  
     
     黄緑色の若い種子 1
 果皮の残滓と思われる薄皮が見られる。 
     黄緑色の若い種子 2
 果皮の残滓と思われる薄皮が一部に残っている。 
      黄緑色の若い種子 3
 種子が大きくなり色が濃くなるにつれて、残滓は剥離するようである。
 
     
(白い球体)  
 
   さらに目を凝らすと、萎びた花被片に包まれたごく小さな白い球体が見られる。これにも淡褐色の古い薄皮の破片(たぶん果皮と思われる。)が部分的に付着しているが、これも若い種子であろう。これは成長するにつれて次第に緑色になるようである。    
     
      白色の若い種子 1
 萎びた花被片と花柱が残っている。  大小の格差が生じた種子の一部に果皮の残滓が付着しているようである。
      白色の若い種子 2
 花被片を除いたものでこちらも果皮の残滓が付着していて、特に上方奥の種子では、薄皮に薄紫の色が残っている。 
     白色の若い種子 3
 これも花被片を除いたもので、生育から取り残された種子は薄皮を被っている。 
 
     
 A  果皮をまとった若い果実の所在   
     
   ここまで見た結果、普通に目視できる大小の球体はすべて裸出した種子と思われることから、先のものより若い状態のものを確認する必要があるため、花後に花被片が閉じた状態となっているものに目を転じることにした。

 花後に花被片を閉じた状態の花について、萎縮し始めてやや小さくなっている花被片と雄しべを剥ぎ取ったのが以下の写真である。
 
 子房部分は花柱と一体となった淡紫色で、擦れば薄皮が剥がれて、中は白色である。この淡紫色の薄皮が自信はないが子房壁(果皮)と思われる。 
 
     
 
    受粉後の子房の様子 1
 子房壁(果皮)に覆われた状態。この時点では6つの丸い膨らみがある。 
    受粉後の子房の様子 2
 一部が自然に破れて剥離している。果皮の破れ始めということか。ただし、この時点で果皮と言うには早過ぎか。 
    受粉後の子房の様子 3
 表面を針で擦ると薄紫色の子房壁(果皮)が剥がれて、白色の若い種子が露出した。 
 
     
   ということで、たぶん花後に閉じた花被片の中で子房壁(果皮)が破れているものと理解した。
 
 なお、 以上のことを踏まえると、例えば「早くに果皮が破れて落ちる。」という表現は、種子が発育を開始した直後のこの状態にあっては少々なじみにくく、子房壁の語の方がふさわしいと思われる。
 
     
 3  ヤブランの結実数   
     
   ヤブランの種子(成熟やや手前)をつけた茎を観察すると、以下の写真に掲げたとおり1つの花で1〜5個の種子をつけているのを確認した。理屈の上では1つの花で最大6個の種子が出来ることになるが、前出の写真のとおり、最初は6つの種子の膨らみを確認できるものの、その後は6個がすべて成熟するのは難しいようである。   
     
 
 
   :写真撮影の都合で、周辺の種子は除去している。   
     
  <参考:食い荒らされたヤブランの葉>   
     
 
         食害を受けたヤブランの葉         食害を受けた斑入りヤブランの葉 
 
     
   しばしば上の写真のように、葉をひどく食害された状態を目にする。犯人の素顔は確認できないが、特定の昆虫の仕業であろう。随分行儀の悪い食べ方で、これだけ葉を見苦しい状態にするとは、けしからん虫である。調べた範囲では、ヤブヒョウタンゾウムシの仕業である可能性がある。