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続・樹の散歩道       
  悪魔の棘  鋭いトゲのある植物たち


 各種の植物で見られるトゲ(刺、棘)は、基本的には様々な草食動物から植物体を守るための戦略であることが多いと思われるが、中にはトゲが同時に他の植物に寄りかかって絡まる複合的な機能を有するものもあるようである。またトゲの形態は多様で、見るからに凶悪な印象のあるもの、人の行く手をときに阻む憎たらしくなるほどの強力な逆トゲを有するもの、一見トゲとして普段意識されていないものの、手に掛かる感触の原因が実は微細な鋭いトゲであることを知る場合もある。一般に人にとってはトゲはやっかいなものであるが、ときにそのトゲをしっかり利用してきたケースもある。そこで、改めて草本、木本植物のトゲの形態に着目して、その姿を楽しみながら鑑賞してみることにした。  【2016.4】 


 植物のトゲはあくまで専守防衛のための武器と見なされるが、目を凝らして見れば何れも凶悪・暴力的な形態で、敵を傷つけて撃退するためのものであることを実感する。
 まずは普段はトゲとしてあまり意識されていないものから見ていくことにする。
 
 
 イネ科及びカヤツリグサ科植物の葉の微鋸歯のトゲ  
 
         ススキの葉のトゲ(微鋸歯)
 トゲの基部はいかにも頑丈そうである。
 イネ科ススキ属 Miscanthus sinensis
      トウモロコシの葉のトゲ(微鋸歯)
 
トゲは鋭いが、基部は細くて強度に欠ける。
 イネ科トウモロコシ属 Zea mays 
   
       サトウキビの葉のトゲ(微鋸歯)
 
ススキのトゲに似るが、やや立ち上がっている。
 イネ科サトウキビ属 Saccharum officinarum 
       レモングラスの葉のトゲ(微鋸歯)
 料理のハーブとして、あるいは精油として利用される。
 イネ科オガルカヤ属 Cymbopogon citratus
   
   
       ベチバーの葉のトゲ(微鋸歯)
 根茎からベチバー精油が採取される。
 イネ科オキナワミチシバ属 Chrysopogon zizanioides
      ナキリスゲの葉のトゲ(微鋸歯)
 名前は「菜切り菅」の意とされるが、菜は切れない。
 カヤツリグサ科スゲ属 Carex lenta  
 
 
   これらの鋭いトゲは硬いガラス質であることが知られていて、土壌から吸収したケイ酸が細胞に沈着したもので、イネ科等の植物では葉の微鋸歯を形成するほか、葉の表面の筋にも存在して葉の剛性を高める機能を持っているとされる。これらは植物体が朽ちても長く残存することから、プラントオパール(植物珪酸体)と呼ばれていて、古い時代の特にイネ科植物の種類を知るための情報源として実際に活用されている。
 微鋸歯を形成するトゲは上方を向いており、このため滅多に手を切ることなどないから、その実質的な機能については少々理解しにくい。効果第一に考えれば、本当は逆トゲが望ましいところである。 
 
     
 葉に強力なトゲを持った例  
     
    チリマツの葉
 南アメリカ原産
 ナンヨウスギ科ナンヨウスギ属 Araucaria araucana
  ナギイカダの葉状枝
 キジカクシ科ナギイカダ属  Ruscus aculeatus
 これは正確には葉ではなく枝が変化したものとされる。
   コウヨウザンの葉 
 中国南部原産
 スギ(ヒノキ)科コウヨウザン属 Cunninghamia lanceolata
    ヒイラギの葉
 モクセイ科モクセイ属
 Osmanthus heterophyllus
       
   マリアアザミの葉
 地中海沿岸原産でオオアザミとも。キク科オオアザミ属
 Silybum marianum 
 アメリカオニアザミの葉
 名前と異なりヨーロッパ原産とされる。キク科アザミ属
 Cirsium vulgare
   カヤの葉(裏側)
 
腰が強い葉の先端に硬くて鋭いトゲを持つ。
 イチイ科カヤ属
 Torreya nucifera 
    イラクサの茎葉
 葉表ほか葉裏の脈、葉柄、茎に毒針(刺毛)を持つ。
 イラクサ科イラクサ属
 Urtica thunbergiana
 
 
 茎や幹・枝に強力なトゲを持った例     
 
   サイカチの樹皮
 マメ科サイカチ属
 Gleditsia japonica 
     トウサイカチ
 中国原産
 マメ科サイカチ属
 Gleditsia sinensis
  アメリカサンザシの樹皮
 北米原産
 バラ科サンザシ属
 Crataegus sp.
    サンザシの枝
 中国からの導入種
 バラ科サンザシ属
 Crataegus cuneata
       
    タラノキの樹皮
 ウコギ科タラノキ属
 Aralia elata
 カラスザンショウの樹皮
 ミカン科サンショウ属
 Zanthoxylum ailanthoides 
  セイヨウスグリの枝
  ヨーロッパ・西アジア原産
 スグリ科スグリ属
 Ribes uva-crispa
    ハリグワの枝 
 中国・朝鮮半島原産
 クワ科ハリグワ属
 Maclura tricuspidata
       
     サンショウ
 ミカン科サンショウ属
 Zanthoxylum piperitum
    フユザンショウ
 ミカン科サンショウ属
 Zanthoxylum armatum var. subtrifoliatum 
       メギ
 メギ科メギ属
 Berberis thunbergii 
  ホソバテンジクメギ
 中国原産
 メギ科メギ属
 Berberis sanguinea  
       
    カラタチの枝
 中国からの導入種
 ミカン科カラタチ属
 Poncirus trifoliata  
     クスドイゲ
 イイギリ科クスドイゲ属
  Xylosma congestum
      ノイバラ
 バラ科バラ属
 Rosa multiflora  
      ハマナス
 バラ科バラ属
 Rosa rugosa 
       
     ヒメウコギ 
 中国原産の導入種
 ウコギ科ウコギ属
 Acanthopanax sieboldianus
     カギカズラ
 悪魔の角風であるが、この鈎は専ら他のものに引っかけるためにある。 
 アカネ科カギカズラ属
 Uncaria rhynchophylla
    ハリエンジュ
北米原産でニセアカシアとも
 マメ科ハリエンジュ属
 Robinia pseudoacacia
      ハリギリ 
 大径木の樹幹部ではトゲは用済みとなるのか、痕跡すらなくなる。
 ウコギ科ハリギリ属
 Kalopanax septemlobus
       
   アラビアゴムノキ
 樹液は菓子の乳化剤、切手の糊などに広く利用される。
 マメ科アカシア属
 Acacia senegal 
       ボケ
  中国原産で、在来種のクサボケより広く利用されている。
 バラ科ボケ属
 Chaenomeles speciosa
   ミカン属樹種実生
 素性不明の実生の若木であるが、10センチほどもあるトゲを多数出していた。
 ミカン科ミカン属 Citrus sp.
 クサスギカズラ属の一種
 種名不詳。
 キジカクシ科クサスギカズラ属 Asparagus sp. 
 
 
 トゲで行く手を阻む例  
 
 
   サルトリイバラのツル
 強力な逆トゲを持っている。
 サルトリイバラ科シオデ属
 Smilax china
  ナガバモミジイチゴの茎
 逆トゲを持ち、これが繁茂した藪をこぐのは大変で、ズボンも傷めてしまう。  
 バラ科キイチゴ属
 Smilax china
  ジャケツイバラの幹
 若い枝には逆トゲがつき、侵入者の服を損傷する。
 マメ科ジャケツイバラ属 
 Caesalpinia decapetala var. japonica
 
 
 全身トゲだらけに見える例  
     
  ラシャカキグサの茎と苞
 ヨーロッパ原産でオニナベナとも。名は「羅紗掻き草」の意。茎のトゲも凄いが、果穂のトゲ(小苞)はラシャの起毛に使った。マツムシソウ科ナベナ属 Dipsacus sativus
   ワルナスビの茎
 名前のとおり、極悪雑草としてやっかいな存在となっている。 ナス科ナス属
 Solanum carolinense
     アリドオシ
 これがないとセンリョウ・マンリョウ・アリドオシとならない。
 アカネ科アリドオシ属
 Damnacanthus indicus  
  ヒロハヘビノボラズ
 茎にトゲがあるほか葉の鋸歯もトゲ状である。  
 メギ科メギ属
 Berberis amurensis 
 
 
 果実にトゲを持った例     
 
  サンショウバラの果実
 硬いトゲに覆われた果実はハリセンボンにたとえられる。
 バラ科バラ属 Rosa hirtula
  ツノハシバミの果実
 果実を覆うトゲ(刺毛)は奇妙なしつこい痛さを与える。
 カバノキ科ハシバミ属
 Corylus sieboldiana 
    ヒシの果実
 2つのトゲにはさらに小さな逆トゲをもっている。
  ミソハギ(ヒシ)科ヒシ属
 Trapa japonica 
★逆トゲはこちらを参照
    クリの果実
 鋭いトゲに覆われていても、クリシギゾウムシは平気で卵を産み付けてしまう。 
 ブナ科クリ属
 Castanea crenata
       
  セイヨウトチノキの果実
 ヨーロッパ原産
 トチノキ科トチノキ属
 Aesculus hippocastanum
 チョウセンアサガオの果実
南アジア原産
ナス科チョウセンアサガオ属
Datura metel 
 テーダマツの球果(部分)
 米国原産
 マツ科マツ属 Pinus taeda 
   リギダマツの球果
  米国原産
 マツ科マツ属 Pinus rigida
 
 
 
 小さな逆トゲをもった例  
 
  アキノウナギツカミ
 タデ科イヌタデ属
 Persicaria sieboldi  
   ママコノシリヌグイ
 タデ科イヌタデ属
 Persicaria senticosa    
       アカネ
 アカネ科アカネ属
 Rubia argyi
     ヤエムグラ 
 アカネ科ヤエムグラ属
 Galium spurium var. echinospermon  
 
     
   上記の植物では、逆トゲは他の植物に寄りかかってよじ登る役割を兼ねているようである。   
     
8   気づきの点   
     
   高木となる木本類でトゲを有するものでは、@若木のときは枝に加えて樹幹部にもトゲをつけて、大径になると樹幹部ではその痕跡さえ失うもの(ハリギリなど)と、A大きくなって益々さかんにトゲだらけとなるもの(サイカチなど)が見られる。

 こうした風景を見ると、太くなれば被害を被ることがほとんどなくなることから、トゲの防備が不要になるというストーリーは理解できるが、サイカチのように太い木でガチガチにトゲで身を固めている風景は理解しにくい。この状態ではサルでも木にも登りにくいと思われるが、サルを排除したところで何のメリットも考えられない。これは想像してもわからない謎である。。   
 
     
   なお、トゲのある植物を住宅地の防護壁として利用するのであれば、例えばネコ除けにはナギイカダが最適と思われる。この低木は葉が厚くて丈夫な上にトゲがかなり厳しい。

 また、人の浸入を阻止したいのであれば、やはりカラタチの生垣がベストと思われる。ただし、通行人から見たら、かなり攻撃的な性格の住人と思われることは間違いない。