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樹の散歩道
   サザンカの豊かな蜜は誰のもの?


 殺風景な寒い時期にあって、サザンカがこれでもかとばかりに真っ白や,鮮やかなピンク、赤の無数の花をつけている風景は、目の安らぎの場となる。 
 身近にあるサザンカの樹にしばしば目をやると、この時期であるからミツバチは来ないし、食いしん坊の鳥も目にしない。さて、サザンカは何のために花をつけているのであろうか。
 ヒトが勝手に美しいと感じる花は、決してヒトのためのものではなく、普通は昆虫や鳥などをおびき寄せて、首尾よく受粉を達成するためのものであることは誰でも知っている。
 少々気の毒になって、平開したサザンカの花を失礼して両手親指で押し開いてみると・・・
【2011.2】


         サザンカの八重咲きの園芸品種
 
  サザンカのざわざわとした邪魔なおしべをかき分けて、恥ずかしがるめしべの付け根をのぞき見ると、驚いたことに、開花して一定期間が経過した花では、水滴状になった蜜がキラリと光っていて、中には蜜がベチョベチョニに吹き出して、流れ出ているものも見られた。

 早速指にとってぺろぺろ舐めてみた。ユリの木の花の蜜については別項( 参照 )で紹介したが、サザンカの蜜はユリの木の蜜に比べるとやや粘性が強く(水分がいくらか蒸発しているのか?)、実に芳醇な味で、間違いなく上質な蜜であることを確認した。サザンカの花がこれほど豊かな蜜を持っているとは知らなかった。

 昔の子供たちはお菓子などには恵まれなかったから、ツツジ(注)の花やスイカズラの花の蜜をチュウチュウやったものであるが、サザンカの蜜は知らなかった。ただ難を言えば、サザンカはおしべが多くて,指で蜜をとると花粉も指について一緒に舐めることになってしまうのは避けられない。それでも花粉が食感を損ねることはないから、全く問題はない。
 
おいしそうな蜜が輝いている
別の花で見やすいようにおしべを一部除去したもの。これも蜜がたっぷり。
 
 
  サザンカやヤブツバキは鳥媒花とされ、ふつうはメジロヒヨドリがペロペロやる姿は観察されるそうである。したがって、サザンカの蜜は小鳥たちのものということになる。といっても、オープンアクセスであるから、ハナアブ、ミツバチ、チョウなどがお食事に訪れるとされる。

 こうして、他家受粉が基本であることを理解するものの、開花期に運悪く鳥が訪れてくれないところに植栽されたものは、いくらかでも自家受粉で結実するのであろうか。その辺の事情も知りたいものであるが詳しいことは確認できない。

 厳しい現実として、管理下にある植栽樹であれば、実生で一族を繁栄させることなど到底困難であるから、蜜を一生懸命に分泌しても、気の毒なことにまったくの無駄になっている。

 そこで、ヒトが直接に集められないこの美味なる蜜を別の収集者から効率的にかすめ取る≠アとができればよいのであるが、あいにくミツバチはこの時期には活発な活動は期待できないし、全くすべがない。

 本当にもったいなく、またもどかしいことである!!
 
<参考1:蜜の好きなメジロ君>

 サザンカの蜜をなめるメジロの写真が撮れないため、ピンチヒッターとして、ヤブツバキとメジロの絵柄のある商品容器に登場願った。

 体の小さいメジロにとっては、サザンカの蜜の量は、カップに並々と注いだものに等しいのではないだろうか。仮にこの時期に蜜蜂がいれば、彼らにとっては洗面器一杯の量に等しいと思われる。あーうらやましい!!

 メジロは小柄でウグイス色≠フ体が美しく、白いアイリングもアクセントになっていてファンが多い。その舌は花蜜をなめるのに具合のよい特殊な形態になっているという。

(注)左の写真の商品が何であるかについては,別項を参照。
 
<参考2:サザンカの花いろいろ> 

             サザンカ
          サザンカ園芸品種
   
           サザンカ園芸品種          サザンカ園芸品種  
 
<参考3:メジロの代わりに来た鳥たち> 
 
  サザンカの花が咲いてもメジロの姿が見られないため、ミカンを餌にしてみたが、来るのは別のお客さんばかりであった。
 
 メジロに来て欲しくて、サザンカの木の下にミカンを置いたところ、待ってましたとばかりに大食漢のヒヨドリ君が登場。じょうのう膜(ふくろ)を残してきれいに平らげてくれる。
(ヒヨドリ:スズメ目 ヒヨドリ科)
 ふと見ると、別のお客さんも来ていた。調べてみると、シロハラ君のようである。餌はミカンと書いたが正確には故郷産ネーブルオレンジである。
(シロハラ:スズメ目 ツグミ科)
 
<参考4:ミカンが大好きなメジロ> 
 
 下の写真は別の拠点でミカン(温州みかん)におびき寄せられたメジロ君である。残念ながら、こちらにはヤブツバキもサザンカもないため、引き続き蜜をなめる姿は確認できないままである。 
 
  蜜と並び果汁が大好きなメジロちゃん
  (メジロ:スズメ目メジロ科) 
            同左 
 
<参考5:サザンカの材>
 
 
 
   写真はサザンカのそれほど太くない枝で作ったサンプルである。
 サザンカの材の感触はヤブツバキに似て、緻密な印象がある。散孔材であるが、写真で確認できるように年輪でツートンカラーとなる。サンプルで見る限りは、ヤブツバキより淡色で、濃い部分はやや赤味がある。

 白花の基本種が野生状態にあるものを見る機会はないが、大きいものは高さ15メートル、直径50センチまでになるという。
 
(注)  ツツジの花蜜の毒性
 冒頭で、ツツジの花蜜のことに触れたが、これをペロペロやるのは避けた方がよいとする意見がある。 昔からレンゲツツジには毒性があることは知られているが、ツツジ属のいろいろな種類の花蜜をなめて、体調の変化等を記録したような有用な体験的レポートは見たことがないから、残念ながら詳しいことはわからない。ただし、海外のHPでは、ツツジ属の特定の種に起因すると思われる蜂蜜中毒の記事が多数見られる。

ツツジ科樹木の毒性に関してはこちらを参照 
 
【2016.1.9 追記】 
 最近、「ツバキが鳥媒花であるのに対して、サザンカは虫媒花であーる。」 という、なかなか説得力のある講釈を耳にした。その要旨は次のとおりである。

 「ヤブツバキは鳥媒花で、そのため、鳥に見えやすい赤い色で招き、鳥相手に多量の蜜を出し、雄しべは筒状で鳥の頭部に花粉をつけやすく、花冠は鳥がとまりやすく、壊れにくい丈夫な構造で、鳥の臭覚は鈍いから匂いをもたない。これに対して、サザンカは虫相手のため、花は初冬までで、匂いで虫を引きつけ、野生種の花は赤ではなく白色である。」

 これはなかなか説得力があるが、サザンカもツバキに負けず多くの蜜を出すのを確認しているから、簡単には同調できない。要は特にサザンカについて、実際の花粉媒介が鳥によるものと虫によるものとどちらが多いのかといった問題になるわけであり、証拠がないと断定は困難である。とりあえずは両刀使いと理解しておくしかなさそうである。