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続・樹の散歩道
  サネカズラの奇妙な花を改めて観察する


 サネカズラ(特にその果実)及びマツブサ科樹種の薬効等に関連した話については別項(こちらを参照)で採り上げたところであるが、サネカズラの奇妙な花の理解についてはとりあえずは先送りにしていたところであった。たまたま、都内の某公園で雄花と雌花を大量につけている風景を目にしたことから、改めてサネカズラのわかりにくい花を観察して理解を深めることにした。
【2017.6】 


 サネカズラの花では雄しべも雌しべも球状となっていて、雄花では点々と葯らしきものが花粉を出している姿を見るが、そもそも赤い本体が一体何なのかは見てもわからない。また雌花では多数の子房がぎっしりと集まっていて、集合果を作るつもりであることは見てわかるが、柱頭がぎっしり集まった個々の子房の間から出ている姿は何とも不思議である。そもそも、雄しべや雌しべが個々にどんな形態となっているのかさえさっぱりわからない。そこで、少し勉強である。  
 
 サネカズラの花の様子  
 
           サネカズラの雄花
 
マツブサ科サネカズラ属の常緑つる性木本(Kadsura japonica )。赤い雄しべは昆虫誘引用か?。しかし雌花はどうやって誘引するのか?
          サネカズラの雌花 
 両花とも花被片が厚く、モクレン科の花を思わせるが、かつてはモクレン科に分類されていたという。しかし、花に香りは全然感じない。
 
 
  雄花の葯は一見すると筒状に開いて花粉を出しているように見えるが、実はそうではないことが後でわかった。また、雄しべがこのように肉質のボール状となっているが、その必然性があるとはとても思えない。雄しべのボンボンをつくれば、自らにとってきわめて省エネとなるはずであるが。

 雌花では柱頭を子房の真ん中に短くつければシンプルであると思われるが、この形でどんなメリットがあるのかは想像してもさっぱりわからない。

 なお、サネカズラの花の雌雄性については、複数の図鑑を見たところでは、「雌雄異株又は同株で、まれに両性花をつける」ということらしい。多数植栽されていた場所でざっと見た限りでは、雌雄異株であった。まれに見られるという両性花は残念ながら確認することはできなかった。

 図鑑での記述例は以下のとおりである。
 
     
  サネカズラの花の雌雄性に関する図鑑での記述例  
樹に咲く花:  花は雌雄異株または同株 
中国植物誌:  花は雌雄異株 
植物観察事典:  雌雄異株 
日本の野生植物: 雌雄異株 
植物の世界:  花は雄花と雌花があり、雌雄異株とされることがあるが、同じ茎に雄花と雌花を両方つけることは珍しくなく、基本的には雌雄同株と考えられる。まれに両性花をつけることもある。
園芸植物大事典: ふつう雌雄異株又は同株であるが、しばしば両性花が混在する。
 
 
 サネカズラの花の構造  
 
(1)  雄花  
 
        サネカズラの雄花の様子 1
 上から見れば、葯が筒状となっているように見える。
        サネカズラの雄花の様子 2
 黄色の点線で囲った部分が1個の雄しべである。半葯は2つの葯室からなる。葯隔は鮮やかな赤色で、表面はざらついている。
 
 
    サネカズラの雄しべ 1
 斜め上方から見た1つの雄しべで、葯隔の形はまるでシュモクザメの頭のように見え、両端に半葯をつけている。
    サネカズラの雄しべ 2
 斜め下方から見た様子で、葯が斜め下方を向いているのは奇妙で理解しにくい。
     サネカズラの雄しべ 3
 開いた葯の様子で、花粉を放出中である。葯室は2個。
 
 
   雄しべがこんなに肉質の仰々しい形態となっている理由はわからないが、まるで雌花と足並みを揃えているかのようである。  現物はまだ確認していないが、希にしか見られないという両性花では雄しべと雌しべが相性よく同居しているのかも知れないが、その形態はやや想像しにくい。。   
 
(2)  雌花と若い果実  
     
  (サネカズラの雌花)  
           サネカズラの雌花 1
 子房の表面は葯隔と同じようにざらついている。 
           サネカズラの雌花 2
 半割にした状態で、花床は楕円形で、柱頭がくぎの頭のような形態であることがわかる。子房は石垣の積み石のように、隣接接触面は多面体状である。 
 
 
    サネカズラの雌しべ 1
 柱頭と子房の様子で、3枚の写真はそれぞれ別の雌しべである。
    サネカズラの雌しべ 2
 花柱は子房に側生していて、 花柱の中ほどが胚珠につながっている模様である。
    サネカズラの雌しべ 3
 柱頭の形態はまるで手づくりの和釘のようで、やや不定形である。 
 
 
    (サネカズラの若い果実)  
 
     若い果実 1 
 
子房側面の花柱が残って褐色となっている。
     若い果実 2 
 石垣の積み石のような多面体となっている。
     若い果実 3 
 子房の下方が伸張して、花柱跡が頂部近くとなっている。
    若い果実 3 
 個々の子房はほぼ丸くなり、花柱の付着痕はほとんど果実の頂部に近い位置になっている。
 
     
 
<参考メモ> 

中国植物誌(抄):サネカズラ(中国名 日本南五味子)
雄花は花被片8-13片、淡黄色で腺点があり、中輪の最大の1片は楕円形または倒卵形、長さ12ミリ、幅7ミリ。花托は楕円体型、頂端は伸張せず、付属体はない。雄しべ群は球形または卵球形に近く、直径は5-7ミリ、雄しべは34-55個、雄しべの長さは2ミリ、花糸と葯隔は台形をなし、葯隔の頂端は横長円形、腺点があり、葯室は花糸とほぼ等長
雌花の花被片は雄花に似て、雌蕊群は球形に近く、直径約5ミリ、雌蕊を40-50個そなえる。漿果では1心皮あたりの種子は1-3個。