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樹の散歩道
   サネカズラの果実はどんな味?


 サネカズラビナンカズラとも)の果実の美しさは格別である。鮮やかな赤色で美しい艶があり、実においしそうで、しかもその形を子細に観察すると、まるで高級スイーツを思わせるような凝った作りである。これを口に入れないことなど全く考えられない!!
【2010.1】


                 
   サネカズラの雄花
 中心部は雄しべの集まりとされる。
  サネカズラの雌花
 中心部は雌しべの集まりとされる。
  サネカズラの果実1
 艶のある鮮やかな色合いが食欲をそそる。
            
 念のために図鑑で確認すると、食べられるとしている記述は全く見当たらない。また、有毒であるとする記述も見当たらない。

 これから想像できるのは、毒ではないが、積極的に食べるような代物ではないということかもしれない。しかし、ネット検索しても、これがどんな味であったかとするレポートが全く見つからない。山野でこんなにおいしそうに見える果実に出会ったら、太古から現在に至るまで、多くの人が口に入れたはずである。

 こうした事情であれば、迷うことはない。さっさと自分の口に入れてみればよいのである。できることなら身内で立候補してくれる者がいれば喜んで順番を譲るところであったが・・・
                         
          鮮やかな色合いのサネカズラの果実
 白い皿に盛れば豪華なデザートといった風情である。(長い果柄は邪魔なので短く切ってある。)
  液果を取り去ると、花床がまるでヤマボウシの果実のように見える。
     果実の断面と種子 
 中心部の花床の内部は真っ白である。
液果の食感:  白い種子が1~3個入っていて、わずかに酸味があり、ジューシーであるが、残念ながら甘味が全くない。
花床の食感:  見た印象のとおり、ちょっと硬めでしゃきしゃき感があるが、これも甘味がない。スライスしてドレッシングをかければいけるかもしれないが、わざわざ試す気は失せてしまった。ジャムにしてはどうだろうかという提案があったが、聞き置くに留めた。
 食糧事情が決していいとは言えなかったかつての我が日本国。いつもひもじい思いをしていた腕白坊主たちの多くが一度はサネカズラの実を口に含み、ペッと吐き出す風景があちこちで見られたに違いない。
 サネカズラについて
   
(サネカズラのあらまし)
 マツブサ科サネカズラ属の常緑つる性木本(Kadsura japonica)。雌雄異株又は同株。果実の中心の球体は花床で、回りにびっしりと液果を付けている構造である。一般に、日本、台湾、朝鮮、中国に分布するとされるが、中国には分布していないとする見解もある。
A: 分布:本州(関東地方以西)、四国、九州、沖縄、済州島、中国、台湾【山渓 樹に咲く花】
B: 分布:関東地方以西から南西諸島までと、朝鮮半島南部の暖帯林に生育する。【朝日百科植物の世界】
C: 福建と台湾に産し、朝鮮、日本ほかにも分布する。【中国植物誌】
:中国名は、奇妙なことに日本南五味子である。 
 
(サネカズラの名前の由来)

 「サネ」について「実」のこととする説明があるほか、ややこしい講釈もあって、興味がわかないため転記はしない。
 別名のビナンカズラの名は、広く知られているように、その枝皮の煮汁の粘物質(キシログルクロニド xyloglucuronide )を整髪用に使用したことによると言われている。以下に少し詳しい説明例を紹介する。
 「茎の粘液を滲出して絹の糊づけとし光沢を出させる、また製紙にも用う、整髪用には茎を適当の長さに切り、鍋で煮ると粘汁を得るからこれを保存して使う、この太い茎を削って使ってもよい、中国ではこの材を削るのでそれを鉋花という、ビナンカズラの名は調髪用より、トロロカズラは粘液より来た名称である。【樹木大図説】

 ところで、なぜ美男なのか。肝心な美女はどうしたのであろうか。そのほうが気になる。詳細は明かではないが、「主として男性用に使っていた。【平凡社世界大百科事典】」とする記述を見るだけであった。
 なお、属名の Kadsura は日本語の「カズラ」に由来し、種小名の japonica は日本に産することを意味する。
 つる性であるが、こうして植木鉢で仕立てることができる。
  
   サネカズラの種子
 種子は淡褐色から茶褐色の腎臓形で、硬くて艶がある。ふつう2,3個入っている。
 サネカズラの樹皮の様子
 樹皮を剥ぐと、ノリウツギと同じようにぬめりがある。こんなものまでよく利用したものである。
  サネカズラの乾燥果実  果実を乾燥してみた。チョウセンゴミシの代用品として強壮効果があるとされる。効果は未確認で、老後のために保管している。。
(サネカズラの薬効)

 サネカズラの果実は、生薬として有名なチョウセンゴミシ朝鮮五味子Schisandra chinensis 、中国名、生薬名のいずれも「五味子(日本薬局方)」)の果実の代用として、漢方で滋養・強壮、鎮咳剤として用いられてきたという。

 さて、サネカズラの生薬名は、国内では「南五味子」と一般に呼んでおり、その他単に「五味子」と呼んでいるケースも見られる。一方、チョウセンゴミシの生薬名「五味子」の別名を「北五味子」とも言うとしている。ところが、漢名の本家中国の図鑑では「南五味子」は全く別の種を指している模様である。中国での呼称と日本国内での呼称が例によってズレがあるようで、少々ややこしいため、以下に中国の図鑑掲載種を紹介する。
   
 五味子いろいろ
   
 日本にはマツブサ科は3種しか存在しないが、中国の図鑑を見ると、○○五味子がぞろぞろ登場する。以下は「中国樹木誌:中国林業出版社」掲載種をベースとし、薬用に係る記述があったものはその旨を付記した。青文字部分は参考となることを追加的に付記した内容である。赤文字は中国植物誌による。
マツブサ科 Schisandraceae (注:モクレン科から分離された経過がある。)
(中国名)五味子科   2属約50種あり中国に2属約30種分布
               2属約40種がアジアと北アメリカに隔離分布する。【樹に咲く花】
                
サネカズラ属  Kadsura
(中国名)南五味子属 24種あり中国に8種分布
約28種あり、主にアジア東部と東南部に産する。中国に20種あり、東南部から西南部に産する。
Kadsura coccinea (Kadsura chinensis) (中国名)黒老虎 ほか
 根は薬用となる。果実は熟すと甘く食べられる。
Kadsura longipedunculata(Kdsura peltigera) (中国名)南五味子<本草綱目>、少号風沙藤 
 根、茎、種子は薬用となる。
Kadsura oblongifolia (中国名)冷飯藤 ほか
Kadsura heteroclita (中国名)海風藤、異形南五味子 ほか
  茎、根、果実は薬用となる。
Kadsura  japonica サネカズラ、(中国名)日本南五味子
 果実を薬用とする。根と茎を紅骨蛇と呼び、蛇咬傷、止瀉、解熱、鎮痛に用い、果実は強壮剤、鎮咳用とする。
中泰南五味子  Kadsura ananosma
毛南五味子 Kadsura induta 
鳳慶南五味子 Kadsura interior  
多子南五味子 Kadsura polysperma  
仁昌南五味子 Kadsura renchangiana  
マツブサ属 Schisandra 
(中国名)五味子属 25種あり、中国に19種分布
約30種が主にアジア東部と東南部に産し、中国に約19種ある。
チョウセンゴミシ(朝鮮五味子)→和名
Schisandra chinensis (中国名)五味子北五味子<本草綱目>
Kadsura chinensis
 中国ほか朝鮮、日本にも分布。
 「果肉酸甜、種子苦辣而略有鹹(咸)味、故名“五味子”、為著名薬材。」(果肉が酸っぱくて甘く、種子が苦くて辛く、しおからい味もあるため、五味子の名がある。著名な薬材である。)中国では東北地区で産するものが最も優れている。
 「有斂肺止咳、滋補之効;主治神経衰弱、肺虚喘息、瀉痢、盗汗等症」(慢性の咳を止める、滋養を補う効果があり、神経衰弱、喘息、下痢、寝汗等の症状を治す。)
 臨床応用:用于久嗽虚喘、梦遺滑精(夢精)、久瀉不止(下痢)、自汗、盗汗(注:寝汗)、津傷口渇、短気脉虚、内熱消渇、心悸失眠等症。【中草薬図譜:広東科技出版社】
 日本では長野県、山梨県と北海道では普通に見られるが、それ以外の地域ではまれである。【朝日百科植物の世界】
 マツブサ科マツブサ属の落葉つる性木本で、果実は房状に付く。
 「チョウセンゴミシ」の和名は、享保年中輸入したことから「朝鮮」の名を冠するもので、日本に自生は多い。果実は薬用(強壮剤)とし、朝鮮産を佳とし、中国産これに次ぐという。【樹木大図説】

 生薬としての五味子は果実を天日乾燥したもの。各種リグナン、ビタミンC、 Eが含まれているという。煎じて服用する。強精効果を謳った製品も販売されている.
Schisandra grandifolia (中国名語)大花五味子
Kadsura grandifolia
Schisandra henryi (中国名) 棱枝五味子蛾眉五味子
 根、茎、果実は薬用となる。
Schisandra sphenanthera (中国名)華中五味子
 果実は薬用となり、(中国国内で)五味子の代用とする。
Schisandra viridis (中国名)緑葉五味子、風沙藤
Schisandra arisanensis (中国名)阿里山五味子台湾五味子

Schisandra bicolor (中国名)二色五味子

Schisandra propinqua  (中国名)合蕊五味子
 サネカズラについて、日本の図鑑類の説明では、中国にも分布するとしているものとそうでないものが見られる。中国樹木誌では、中国に分布するすべての種を掲載しているものではない中で、サネカズラは掲載されていない。しかし、中国植物誌には中国本国、台湾にに産するとしており、中国名を「日本南五味子」としている。
 なお、上記リストで、既に北五味子(五味子の別名)と南五味子が登場している。   
   
 国内で、サネカズラの種子を五味子又は南五味子と呼んでいるのは、中国での呼称を踏襲したものではなく、代用品に格を付けるための日本固有の呼称である可能性がある。
   
 樹木大図説では、本当の「南五味子」は牧野博士が言うように「シナサネカズラ」Kadsura chinensis Turcz.(Schizandra Hanceana Baill)であるとして、この種に関して、「種子に褐色の種皺あり、少球形、帯黄赤色、五つの味を具え催眠薬に使う。」としている。中国樹木誌ではKadsura coccinea の別の学名として、Kadsura chinensis Hance ex Benth 名を掲げているが、交通整理不能である。
   
 「中国ではスキサンドラ・スフェナンテラ Schisandra sphenanthera から作られるものを「南五味子」という【朝日百科植物の世界】。」とする記述が見られるが、先の中国の図鑑では、Schisandra sphenanthera  華中五味子で、五味子の代用とされるとしていて、南五味子Kadsura longipedunculata を指していて、食い違いがみられる。
<参考1>チョウセンゴミシ(朝鮮五味子) Schisandra chinensis

 残念ながら、この果実はまだ口にしたことがない。是非ともファンタスティックな5つの味を確認したいものである。
 
  チョウセンゴミシの雌花
  チョウセンゴミシの果実
 果実の実りがやや貧相であった。
   チョウセンゴミシの葉
 サネカズラと違って、こちらは落葉性である。
<参考2>マツブサ Schisandra nigra ,Schisandra repanda

  マツブサの果実

   マツブサの葉
 マツブサはマツブサ科マツブサ属の落葉つる性木本。国内で自生するマツブサ科の種は、先のサネカズラ、チョウセンゴミシと本種の3種のみ。

 液果はまるでブドウのようで、一応食べられることになっているが、少々脂臭い。

 枝や葉は入浴剤として使用したという。また、果実を乾かしたものは民間薬で二日酔いに効くという。