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続々・樹の散歩道
  ヒラドツツジのしばしば目にする変わり者


 歩道沿いの植栽としてヒラドツツジは昔からの定番である。このグループのオオムラサキツツジ(品種名としては大紫)で、以前に雌しべが帯化した状態のものを目にしたが、同じ株を改めてよーく見たところ、雄しべがわずかに花弁化したものが多数存在するのを確認した。調べてみると、オオムラサキツツジではしばしば見られる現象のようであるが、この程度の中途半端なものでは園芸品種の仲間には入れてもらえないようである。 【2020.4】 


 
                          ヒラドツツジ3兄弟の風景
 ヒラドツツジは長崎県平戸に由来する交雑実生変異個体で、300近い園芸品種が命名されている(園芸植物大事典)という。よく見るのは上の写真の3種である。赤紫色の花がお馴染みの大紫(オオムラサキ)である。桃色曙(あけぼの)白妙(しろたえ)で、両者は大紫の枝変わりとされる。
 大紫の起源については不明であるが、形質から見てケラマツツジ R. scabrumキシツツジ R. ripense 、あるいはリュウキュウツツジ R. mucronatum の交雑種であるといわれている。(園芸植物大事典) 

:以下「大紫」「オオムラサキツツジ」と表記する。
 
 
 オオムラサキツツジの花弁化した雄しべと帯化した雌しべ(オオムラサキツツジの変わり者)  
 
     雄しべが花弁化した例 1 
 この花では複数の雄しべが花弁化していることがわかる。
  雄しべが花弁化した例 2
 1個の雄しべだけが花弁化した例である、 
     帯化した雌しべの例
 
 
 
               オオムラサキツツジの花弁化した雄しべの様々な形態
 いずれも何とか雄しべらしさの痕跡は残しているが。雄しべの機能はほとんど喪失していると思われる。
 
     
 この程度の花弁化では、園芸品種として認知してもらえない。もう少し頑張ったオオムラサキツツジが次の品種である。  
 
 オオムラサキツツジの八重品種(千重大紫)  
 
 センエオオムラサキ(千重大紫) 1  センエオオムラサキ(千重大紫) 2  センエオオムラサキ(千重大紫) 3
 
 
 2と3の写真は花の中心部の様子である。雄しべが花弁化しているのであれば、オオムラサキツツジでは雄しべが10個あるから、その範囲に収まっていると思われるが、小石川植物園の植栽樹であるため、解剖して確認はしていない。  
 
 オオムラサキツツジを教材としてツツジの花を観察すると・・・(オオムラサキツツジの花の構造)  
 
 ツツジの花を観察したことはないが、花が大きいため中学の理科で花の構造を理解するための教材としてしばしば活用されている模様で、ウェブ情報が多く、親切な動画まで提供されていて、非常に参考となる。
 そこで、遅ればせながら自分でも少々観察してみた。
 
     
   オオムラサキツツジの花の中心部 1
 上の花弁の濃いまだら模様が虫を招く蜜標で、その下方に花弁のしわでできた筒(何らかの呼称がありそうであるが未確認)があって、穴をたどると蜜腺がある。中心に小さな雄しべ(花糸も細い)が1本通っている。
   オオムラサキツツジの花の中心部 2
 
雄しべは10個あり、来訪者に花粉をつけるために筒内の1本を除く9本はすべて上を向いている。葯の上方の穴から粘着糸で連なった花粉を出して昆虫に付ける。 雌しべも上を向いている。
★オオムラサキツツジの花粉の粘着糸の様子はこちらを参照
 
 
   オオムラサキツツジの花冠下方の断面
 花冠の基部近くの断面の様子で、蜜標のある裂片の下方が筒状となっていて、その内側が蜜で光っている。 子房の基部には蜜は見られないから、蜜を狙う昆虫は蜜腺のあるこの筒の中に長い口吻を突っ込む必要がある。
   オオムラサキツツジの蜜の筒の基部 
 筒状の部分を押し広げた状態で、下部に蜜がたっぷりたまっている。矢印は蜜が光を反射している部分である。雄しべの花糸の下方はいずれも毛に覆われていて、特に筒の中の花糸の毛は蜜が下方に流れ落ちるのを防ぐことに貢献しているように見える。
 ツツジの花はチョウ媒花とされるから、この形態はチョウの長く伸びる口吻に適応したものと思われる。 
 
 
 目にする八重品種の例  
 
   いずれも見た目の華やかさから選抜されて品種として認知・定着してきたものの例である。   
     
 ツバキ・紅荒獅子(べにあらじし)
*息苦しくなるほどの花弁の量である。この形態を獅子咲きと呼んでいる。さすがに結実しないようである。
 ツバキ・卜伴(ぼくはん)
*雄しべの先が白い花弁状となったもので、この形態を唐子咲きと呼んでいる。生殖能力を喪失しているものではなく、果実を見かける。
 サクラ・紅普賢象(べにふげんぞう)
*八重のサトザクラの仲間で、ふつう2本の雄しべが葉化していて、名前はこれを普賢菩薩の乗る象の牙に見立てたものとされる。
 ウメ・豊後梅(ぶんごうめ) 
*平開する前はバラのようである。豊後梅は大きな果実をつける。
       
クチナシ・ 大八重梔子(おおやえくちなし)
*貧相な果実しかつけないようである。
  モモ・菊桃(きくもも)
*ハナモモの品種の1つで、小さな果実ができるらしい。
 ヤマブキ・八重山吹(やえやまぶき)
*結実しないことは有名である。
  ドクダミ・八重ドクダミ 
*これは花弁ではなく、個々の小花の小苞が大きくなったものである。
 
     
 
 「八重咲き」とは・・・ 
 萼、雄しべ、雌しべなどが花弁に変化したものと、花弁の原基が多数形成されるものとがある。種によって定まった数以上の花弁を持つ花で、2倍以上になることが多い。雄しべがすべて弁花しても雌しべは正常である場合と、そうでなくすべて弁化してしまうものとがある。(園芸植物大事典より)