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続・樹の散歩道
  外国産オーク類の名称


 公園や樹木園には、しばしば外国産のオーク類が植栽されていて、樹名板を見かけた都度その樹の葉を一瞥するものの、どれもこれもよく似ていて際立つような特徴もなくて面白くない。このため、ちっとも印象に残らないし、その名称自体も大抵は3分後には忘れてしまう。時に後で調べてみれば、同じものに別の名称が使われていることもしばしばあって、頭の中はぐちゃぐちゃになってしまう。そこで、図鑑等の情報も含めて目にした外国産のオーク類を中心に、改めて呼称を整理してみることとした。 【2013.12】 


   ここで、頭の整理のために触れておくと、一般的には英語のオーク Oak は、ブナ科のナラ類(コナラ亜属)の落葉樹を指すのが普通とされる。昔から、オークをカシ(樫)と訳していたのは誤りで、ナラ(楢)と訳すべきであったといわれている。また、ホワイトオークやレッドオークをそれぞれアカガシ、シラカシと訳したり、これらに近いと思ったら大間違いとも言われている。
 さらに、この件に関してはややこしい講釈も目にし、たとえば

 @ オークは落葉樹のナラと常緑樹のカシの総称である。
 A 日本のミズナラは英語で Japanese oak であるが、カシ類もそれぞれ英語では
○○oak の呼称が充てられている。
 B 地中海沿岸の常緑のコルクガシQuercus suber の英語名は Cork oak で、やはりオークである。

といった話もある。もちろんそれぞれホントの話であるが、そもそも、そもそも欧米では常緑のコナラ属の樹種が少ない中で、英語では楢、樫のような落葉系と常緑系のコナラ属の樹種を区別する単語がないために我々が迷惑を被っているのが真相である。

 しかしながら、現実問題として、要は英語の Oak の語を前にしてどんなイメージを持てばよいのかを承知しておく必要がある。 そこで、理屈でナラとカシを意味するからと、Oak を「楢樫」とするわけにはいかない。このため、実態的にはヨーロッパ、北米のいずれも常緑の樫類は少ないようであるから、Oak はナラ又はカシワをイメージするのが自然であろうというのが穏やかな着地点である。あまり神経質になるのは健康に宜しくないと思われる。  
 
     
   身近で目にする外国産の落葉オーク類   
   
 @  Quercus alba (北アメリカ北東部産)    
     
 
      ホワイトオークの葉    
     
 
 
学名 英名 和名 備考
Quercus alba White oak
Stave oak
Ridge white oak
Forked-leaf white oak
Fork-leaf oak
ホワイトオーク
(シロガシワ)
クェルクス・アルバ
北米産ホワイトオークグループの筆頭樹種
ウィスキー樽の材料として著名
 
  注:「シロガシワ」の和名表記をまれに見るが一般性はない。   
     
 
 ・  3種類の変種が確認されている。 
 ・  最も重要なオーク材で、家具、単板、羽目板、フローリングの重要な材料である。従前から枕木、フェンス杭、坑木、船舶、棺に利用されてきた。また、ホワイトオークは長きにわたって桶樽作りに利用され、近年はウィスキー樽の主要材料となっている。 
 ・  ホワイトオーク white oak の呼称は材が淡色のオーク類の総称であるとともに、米国産の上記 Quercus alba の一般名でもある。ホワイトオーク・グループの樹種は、材の取引上はまとめてホワイトオークとして取り扱われているのはレッドオークの場合と同様。 
資料:USDA  材の利用情報は米国内での実態を反映したもの。
 
     
 A  Quercus rubra (北アメリカ東部産)    
     
 
アカガシワの葉  アカガシワの並木
(札幌市内) 
 
     
 
     
 
学名  英名  和名  備考 
Quercus rubra
Quercus borealis
(syn.)
Quercus maxima(syn.)
Red oak
Northern red oak
Common red oak
Gray oak
Eastern red oak
Mountain red oak
レッドオーク
アカガシワ
アカナラ
ボリアリスナラ
北米産レッドオークグループの筆頭樹種
 
     
 
 ・  2種の変種が確認されている。  
 ・  レッドークは重要な広葉樹材で、重硬で強度があり、中庸な耐久性を有する。 
 ・  レッドオークの材は枕木、フェンス支柱、単板、家具、キャビネット、羽目板、フローリング、棺、パルプに利用されてきた。レッドオークは燃料としての価値も高く、薪としても優れている。 
資料:USDA 材の利用情報は米国内での実態を反映したもの。
 
     
 B  Quercus coccinea (北アメリカ東部産)   
     
 
 
スカーレットオークの葉
 (Wikipedia より)
  残念ながら、この樹名板を付した樹木は明らかに別物であった。  
 
     
 
 学名 英名  和名  備考 
Quercus coccinea
Quercus richteri(syn.)
Scarlet oak
Spanish oak
スカーレットオーク
ベニガシワ
北米産レッドオークグループの一樹種
紅葉が美しいことで知られる。
 
     
 
 ・  葉は深裂し先端は堅い刺状の葉縁で秋には鮮やかに紅葉する。(A-Z)  
 ・  スカーレットオークはピンオーク(後出)と葉や若木の形態が似ているために頻繁に混同され、時にクロガシワ(後出)やアカガシワ(前出)、シュマード・オーク Shumard oak(Quercus shumardii)とも混同される。スカーレットオークは葉の裂片の間の裂欠(中間のくぼみ)がC型となった葉を持つオークとして知られるが、裂欠はその深さ、幅に関して非常に変異の幅が広く、同じ固体でもその傾向が見られる。成木ではスカーレットオークの林冠の上部はピンオークよりも広がった形態となる。(ohiodnr.com) 
 ・  (スカーレットオークとピンオークの違いに関して)スカーレットオークの堅果の先端部には同心円模様があって、殻斗は堅果の3分の1から2分の1を覆っているのに対して、ピンオークの堅果では縦縞模様がはっきりしていて、殻斗は堅果の4分の1程度を覆っている。(Yahoo! Answers) 
 ・  スカーレットオークの名は、緋色の紅葉に由来する。 
 ・  堅果の半分は殻斗に覆われる。堅果の先端には、浅い同心円状の筋がある。 
 ・  スカーレットオークの材はグレードは劣るが、レッドオークとして利用されている。 
資料:USDAほか 
 
     
 C  Quercus palustris (北アメリカ東部産)     
     
 
 
ピンオークとされる樹木の葉 1  ピンオークとされる樹木の葉 2   
     
     残念ながら、この樹名板を付した樹木は明らかに別物であった。 
 
     
 
 学名 英名  和名  備考 
Quercus palustris Pin oak
Swamp oak
Water oak
Swamp Spanish oak
ピンオーク
アメリカガシワ
アメリカナラ
北米産レッドオークグループの一樹種
 
     
 
 ・  葉には深い切れ込みがあり、秋には深紅色になる。殻斗は浅い。  
 ・  ピンオークは葉の裂片の間の裂欠がU型に開いた葉を持つオークとして知られ、スカーレットオークの閉じ気味のC型の裂欠と比較対照される。しかしながら、残念なことに交雑由来を含めた変異が見られ、葉のみによる識別は十分とは言えない。(ohiodnr.com) 
 ・  ピンオークの材は重硬で、一般的な建築、燃料に利用されている。 
 ・  ピンオークの材はレッドオークに似ていて、材は広義のレッド−オークとして取引される。しかし、多数の小さな節が出るため、多くのピンオーク材は高品質な製品への利用には制約がある。 
資料:USDAほか
注:国内のピンオークとされるもので、深紅色に紅葉したものにはなかなか巡り会えない。
 
 
     
 D  Quercus robur (ヨーロッパ、西アジア、北アフリカ産)     
     
 
   注:上記ホワイトオーク、アカガシワ、ピンオーク、ヨーロッパナラのドングリは別項を参照。
 ヨーロッパナラの葉
 
堅果からそれと確認できた。 
国内では植栽された個体数は多くない。  
 
   
 
 学名  英名 和名  備考 
Quercus robur English oak
Pedunculate oak
Common oak(英国)
ヨーロッパナラ
オウシュウナラ
ヨーロッパミズナラ
イングリッシュオーク
イギリスナラ
フレンチオーク
ヨーロッパでは最も一般的とされる。
 
     
 
 ・  ヨーロッパでは最も一般的とされる。Pedunculate oak の名は、特徴的な長い peduncles (果柄)に由来する。  
 ・  種小名の robur はラテン語で strength (強さ)を意味する。 
 ・  造船材料として鉄が使われるようになる19世紀半ばまで、大量に伐採された。(KEW ) 
 
     
 E  Quercus suber (ヨーロッパ南西部、北アフリカ産)    
     
 
 
      コルクガシの葉
 この樹は個性があって間違えない。
   
 
     
 
 学名 英名  和名  備考 
Quercus suber Cork oak コルクガシ 常緑。コルクの採取源
 
     
 
 ・  樹皮からは9〜12年ごとにコルクが採取される。    
 
     
   その他和名を見る欧米のオーク類の例   
     
 F  Quercus ellipsoidalis (カナダ南東部、米国北東部産=五大湖地域中西部)   
     
 
 学名 英名  和名  備考 
Quercus ellipsoidalis Northern pin oak
Hill's oak
Jack oak
Upland pin oak
カナダピンオーク
ノーザンピンオーク
北米産レッドオークグループの一樹種
 
     
 
 ・  材は杭、枕木、シングル(屋根葺き板)、燃料、広葉樹パルプはもとより、家具、フローリング、内装に利用される。  
 ・  カナダピンオークはピンオークに比べて堅果がより先細りで細長いことと、生育地としてより乾燥した場所を好むことで区別できる。また、この樹は秋に落葉するのに対して、ピンオークの場合は冬まで葉を残す。 
 ・  足を運ぶ元気はないが、噂によると実物の個体は富良野市山部東町の東京大学山部演習林(東京大学大学院農学生命科学研究科附属北海道演習林)に存在するようである。 
資料:USDAほか
 
     
 G  Quercus cerris (東南ヨーロッパ・小アジア産)   
     
 
学名  英名  和名  備考 
Quercus cerris Turkey oak トルコナラ
ターキーオーク
イギリスを含めヨーロッパには古くから広く導入されている。
 
     
 
 ・  生長が早く、適応性があるとされるものの、材の強度が劣るとされる。  
 
     
 H  Quercus falcata (米国東部・南東部産)   
     
 
学名  英名  和名  備考 
Quercus falcata
Quercus pagoda(syn.)
Southern red oak
Cherrybark oak
Bottomland red oak
Swamp red oak
Swamp Spanish oak
Elliott oak
アメリカキレハガシワ 北米産レッドオークグループの一樹種
 
     
 
 ・  キレハガシワは極めて優れた材を生み出す。強靱で重い材は家具、内装仕上げ、単板、工場用材、枕木に利用される。  
資料:USDA
 
     
 I  Quercus imbricaria (米国西部・北東部産)   
     
 
学名  英名  和名  備考 
Quercus imbricaria Shingle oak シングルオーク 北米産レッドオークグループの一樹種
 
     
 
 ・  初期の北米への入植者がこの材のシングルShingleを使って屋根を葺いたことからシングルオークの名がある。(新樹社 樹木)  
 
     
 J  Quercus macrocarpa (北アメリカ東部産)   
     
 
 学名 英名  和名  備考 
Quercus macrocarpa Bur oak
Mossy-cup oak
Mossy-overcup oak
Prairie oak
Blue oak
Scrub oak
バーオーク
コブナラ
イガガシワ
北米産ホワイトオークグループの一樹種
 
     
 
 ・  北米産のオークでは最大のドングリを付ける。  
 
     
 K  Quercus petraea  (ヨーロッパ、小アジア産)   
     
 
 学名 英名  和名  備考 
Quercus petraea
Quercus sessiliflora(syn.)
Quercus sessilis(syn.)
Winter oak
Durmast oak
Sessil oak
セシルオーク
フユナラ
ブドウナラ
ワイン樽の材料とされる。
 
     
 
 ・  フランスのワイン樽は、ふつうこの木でつくられる。(新樹社 樹木)  
 
     
 L  Quercus pubescens (南ヨーロッパ、西アジア産)   
     
 
 学名 英名  和名  備考 
Quercus pubescens Downy oak ダウニーオーク
ニコゲナラ
ヨーロッパナラガシワ
材の評価は高くない。
 
     
 
 ・  若い枝には毛が多い。幹には曲がりがあって、枕木や木炭用以外はあまり利用されない。ドングリは豚を含む家畜の飼料とされてきた。(internationaloaksociety.org) 
 
     
 M  Quercus phellos (米国東部・南東部産)   
     
 
学名 英名 和名 備考
Quercus phellos Willow oak
Peach oak
Pin oak
Swamp chestnut oak
ヤナギバナラ
ウィローオーク
落葉又は常緑
北米産レッドオークグループの一樹種
 
 
 
木材やパルプ用の重要資源であり、緑陰樹としても好まれ、移植が容易で都市部で広く利用されている。
資料:USDA
 
     
 N  Quercus velutina (北アメリカ中央・北東部産)    
     
 
 学名 英名  和名  備考 
Quercus velutina Black oak
Yellow oak
Quercitron oak
Quercitron yellow-bark oak
Yellowbark oak
Yellow butt oak
Smooth-bark oak
Smoothbark oak
クロガシワ
ブラックオーク
クエルシトロン
北米産レッドオークグループの一樹種
 
     
 
 ・  クロガシワの材は心材は淡褐色で辺材は白色に近く、レッドオークとして取引され、家具、フローリング、内装仕上げに利用される。また、樽や枕木にも利用される。 
 ・  英名ブラックオークは、樹幹(樹皮)が暗色であることによる。 
資料:USDA ほか
 
     
   以上にリストアップした樹種の和名を見て気付くのは、外国産のオークに対して、「○○カシワ」と「○○ナラ」の両方の呼称が見られることである。しかし、これらが何らかの分類上の区分を意識したものかといえば、決して厳密な使い分けがなされているものではないことがわかる。同じ樹種に対して、○○カシワと○○ナラの両方の和名を与えている例が複数あるからである。

 こうして、外来のナラ類の筆頭的な和名は交通整理不能となっていることがわかるが、実は一般市民にとってさらに困るのは、先にも触れたとおり、公的な樹木園でも切れ込みが深めで鋸歯の尖った外来のナラ類の同定が怪しいケースがしばしば見られることである。個人的には全く手に負えないが、指摘を受けても当の樹木園としてはたぶん困惑するのみで、外来種の再同定などとても自信がないというのが現実と思われる。そもそも原産国でも悩ましい思いをしているようであるから、仕方のないことである。
 
 
     
     
 
 北米・ヨーロッパ産オークの呼称例 【再掲】
 
     
 
学名 英名 和名 備考
Quercus alba White oak
Stave oak
Ridge white oak
Forked-leaf white oak
Fork-leaf oak
ホワイトオーク
(シロガシワ)
クェルクス・アルバ
北アメリカ北東部産
北米産ホワイトオークグループの筆頭樹種
ウィスキー樽の材料として著名
Quercus cerris Turkey oak トルコナラ
ターキーオーク
中央・南ヨーロッパ産
Quercus coccinea
Quercus richteri
(syn.)
Scarlet oak
Spanish oak
スカーレットオーク
ベニガシワ
北アメリカ東部産
北米産レッドオークグループの一樹種
紅葉が美しいことで知られる。
Quercus ellipsoidalis Northern pin oak
Hill's oak
Jack oak
Upland pin oak
カナダピンオーク
ノーザンピンオーク
カナダ南東部、米国北東部産=五大湖地域中西部
北米産レッドオークグループの一樹種
Quercus falcata
Quercus pagoda
(syn.)
Southern red oak
Cherrybark oak
Bottomland red oak
Swamp red oak
Swamp Spanish oak
Elliott oak
アメリカキレハガシワ 米国東部・南東部産
北米産レッドオークグループの一樹種
Quercus imbricaria Shingle oak シングルオーク 米国西部・北東部産
北米産レッドオークグループの一樹種
Quercus macrocarpa Bur oak
Mossy-cup oak
Mossy-overcup oak
Prairie oak
Blue oak
Scrub oak
バーオーク
コブナラ
イガガシワ
北アメリカ東部産
北米産ホワイトオークグループの一樹種
Quercus palustris Pin oak
Swamp oak
Water oak
Swamp Spanish oak
ピンオーク
アメリカガシワ
アメリカナラ
北アメリカ東部産
北米産レッドオークグループの一樹種
Quercus petraea
Quercus sessiliflora
(syn.)
Quercus sessilis
(syn.)
Winter oak
Durmast oak
Sessil oak
セシルオーク
フユナラ
ブドウナラ
ヨーロッパ、小アジア産
ワイン樽の材料とされる。
Quercus phellos Willow oak
Peach oak
Pin oak
Swamp chestnut oak
ヤナギバナラ
ウィローオーク
米国東部・南東部産
落葉又は常緑
北米産レッドオークグループの一樹種
Quercus pubescens Downy oak ダウニーオーク
ニコゲナラ
ヨーロッパナラガシワ
南ヨーロッパ、西アジア産
Quercus robur English oak
Pedunculate oak
Common oak(英国)
ヨーロッパナラ
オウシュウナラ
ヨーロッパミズナラ
イングリッシュオーク
イギリスナラ
フレンチオーク
ヨーロッパ、西アジア、北アフリカ産
ヨーロッパでは最も一般的とされる。
Quercus rubra
Quercus borealis
(syn.)
Quercus maxima
(syn.)
Red oak
Northern red oak
Common red oak
Gray oak
Eastern red oak
Mountain red oak
レッドオーク
アカガシワ
アカナラ
ボリアリスナラ
北アメリカ東部産
北米産レッドオークグループの筆頭樹種
Quercus suber Cork oak コルクガシ ヨーロッパ南西部、北アフリカ産
常緑。コルクの採取源
Quercus velutina Black oak
Yellow oak
Quercitron oak
Quercitron Yellow-bark oak
Yellowbark oak
Yellow butt oak
Smooth-bark oak
Smoothbark oak
クロガシワ
ブラックオーク
クエルシトロン
北アメリカ中央・北東部産
北米産レッドオークグループの一樹種