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街中のツタ(ナツヅタ)の芸術 |
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① |
ツタ(ナツヅタ)が描く系統樹 |
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都内の運輸系事業者の建物の裏側の壁にツタがまるで精緻な系統樹のような模様を描いていた。白い壁に描かれたその姿は人にはまねのできない繊細かつ壮大な芸術作品である。 |
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ツタ(ナツヅタ)が壁に描いた芸術作品
葉の展開前の方がツルの細部にわたる全体像が見渡せるために美しい。小ぎれいなオフィスビルではこうしたまねはできないが、素っ気ない建物の外壁の装飾となっている。
(ヤマト運輸港南ビル 東京都港区港南 4月上旬) |
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壁のツタ(ナツヅタ)の部分
芽を吹き始めた状態である。(4月上旬) |
新葉を出し始めたツタ(ナツヅタ)の風景
葉を出し始めた姿も味があるが、つるの細部は見えなくなる。 |
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【追記 2018.1】
上記の決して美しくはないビルは、地域で特異な景観を提供してきたが、改築のため、いつの間にか姿を消して、新たなビルの建設作業が進行していた。 少々残念ではあるが、説明看板によると、新ビルには博物館も併設するようである。 |
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② |
ツタ(ナツヅタ)の紅葉が美しい建物外壁 |
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写真は最もオーソドックスなツタの風景である。まるでアイビーリーグの建物の一つのようであるが、やはり大学の古い建物である。(北海道大学総合博物館裏側 旧理学部本館 1929年竣工 スクラッチタイル仕上げ)
ツタの絡む風景、とりわけその紅葉は美しいが、新しいオフィスビルでツタを利用することは普通あり得ない。なぜなら落葉期は人目を意識したきれいな外壁を損なう存在でしかないからである。 |
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ツタ(ナツヅタ)の紅葉の風景 1(10月下旬) |
ツタ(ナツヅタ)の紅葉の風景 2 |
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③ |
ナツヅタが完全に覆った建物など |
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ツタの絡まる洋館はなかなか見られないが、たまたま見かけたのが「ツタ屋敷」ならぬ「ツタ事業所」である。 |
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ツタ(ナツヅタ)にすっぽり覆われた市街地(都内)の建物(4月下旬)
(東邦地下工機株式会社 東京事業所 東京都品川区東品川) |
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【追記 2018.4】
上記の古い建物が解体され、完全な更地となっていた。住宅展示場に化ける予定である。ツタに被われた建物が次々と姿を消している。 |
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このケースは市街地にはなじみにくい建物の外壁の殺風景な印象を緩和するための知恵かも知れない。ただし、落葉期には残念ながら建物は打ち捨てられた工場跡、廃墟としか見えない。 |
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ツタに覆われた怖いアパート
都内某所のビルの谷間の風景で、中に恐ろしいものがありそうである。 |
ツタに覆われた樹木
安心のふつうの風景である。 |
樹皮上の紅葉したツタ
まだ若いツタであるが、紅葉が美しい。 |
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2 |
ツタ(ナツヅタ)の利用に関する気づきの点 |
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ツタの絡まる大きな洋館は、質素な狭木造住宅に育った日本人にとってはひとつの羨望の象徴であり続けてきたが、和風木造住宅ではツタが絡んだものは普通は打ち捨てられた廃屋であり、そもそも木造住宅にとってはツタは木質の外壁を損なう迷惑な植物であるため、人が住む〝ツタの絡まる和風住宅〟は一般には存在しない。
前項の①と③の例は、運輸・土木系の事業所の建物で、機能を優先したワイルドな建物が市街地で立地している場合の特殊なケースと言える。
上記のような例のほかに、小さな店舗で装飾的に入口付近に小規模にツタを這わせているケースを見たが、一般住宅でキッチリ管理された状態で外壁にツタを這わせている風景は身近では見られなかった。たまに古い住宅やアパートで一部にツタが這っている風景を見かけたが、積極的に利用しているというよりは、気づいたらツタが絡んでいたといった雰囲気で、当面放置している状態にしか見えなかった。
そこで、住宅の壁面をツタで覆う演出を楽しむための要件を改めて考えてみると、
・ 恒久的にツタの付着に耐える高耐久性の外壁素材であること
・ マメな管理に必要となるコストに耐えられる経済的な余裕があると
が最低限必要になると思われることから、ハードルは非常に高いということになろう。
なお、ツタ自体は季節の変化が美しいから、これを身近でコンパクトにして楽しむために鑑賞鉢に収める方法があるようである。 ツタの盆栽として目にすることができるが、盆栽は樹種を問わず、とんでもない手間が掛かるから、右の写真の販売品では、価格が何と3万5千円となっていた。 |
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ツタ(ナツヅタ)の盆栽の例(販売品) |
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改めてツタ(ナツヅタ)を概観する |
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(1) |
ツタ(ナツヅタ)の様子 |
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ツタ(ナツヅタ)の葉 1
花のつく枝の葉形で、標準的なタイプである。
ブドウ科ツタ属の落葉つる性木本。
Parthenocissus tricuspidata |
ツタ(ナツヅタ)の葉 2
花のつかない枝の3小葉タイプらしい。
中国名は地锦 (地錦)。英語名は Japanese ivy, Japanese creeper, Boston ivy であるが、なぜ Boston なのかは未確認。 |
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ツタ(ナツヅタ)の花の蕾
花はびっしりついた葉に隠れているため、葉をかき分けることで初めて花の存在を知る。集散花序に多数の花をつける。 |
ツタ(ナツヅタ)の開花期(雄しべ成熟期)
花は雌雄同株で、直径2~3ミリ。タイミングをうまくとらえないと、こうした姿は見られない。 |
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ツタの花(雄しべ成熟期)
雄性先熟で、雄しべが先に成熟する。花弁と雄しべは5個。 |
ツタの花(雌しべ成熟期)
花粉を放出後に雄しべは花弁とともに脱落して、次に雌しべが成熟する |
蜜を出したツタの花
花が小さい割りには蜜をタップリ出している。 |
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花萼の形態は単なるカップ状に見えるが、これについて「萼は杯状で5裂する」(日本の野生植物)とした説明例をみるほか、「萼の辺縁は全縁或いは波状を呈する」(中国植物誌)としている例を見るが、5裂しているようには見えないし、波状にも見えなかった。 |
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ツタ(ナツヅタ)の紅葉と果実
果実は液果で球形、紫黒色で白く粉をかぶる。 |
ツタ(ナツヅタ)の果実
「果実は薄甘いが、のどがチカチカする。(樹に咲く花)」との面白い説明を目にした。 |
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ツタ(ナツヅタ)の果実
果実には1~3個の種子が見られる。 |
ツタ(ナツヅタ)の種子
いかにもブドウの仲間の種子といった形態である。 |
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ツタの果実には奇妙な味がありそうであるが、「チカチカ」というのはよくわからないため、青い果実と成熟果実の両方をそれぞれ口に含んで味見をしてみた。何れも唇や口中に弱いヒリヒリ感を生じ、この感覚はしばらく続いて、不快な感覚が長い時間口中に残った。衝撃的、激烈な味を期待したのに、少々拍子抜けであった。また、成熟果実では甘みは全く感じられなかった。ヒリヒリ感といえば、サンショウの青い実はさわやかで強烈なヒリヒリ、ジンジン感があって、目が覚めるようで心地よいが、ツタのヒリヒリ感はよろしくない。調べてみると、ツタの果実は有毒としている情報を多数目にした。シュウ酸塩が元凶となっている模様であるが、ヒリヒリ感との関係はよくわからない。いずれにしても味見などはしないのが賢明と思われる。 |
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【追記】 |
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その後、試食用果実を採取した箇所とは別の箇所でナツヅタの果実が十分成熟し、表面にややしわが生じた状態のものを見かけたため、性懲りもなく、もう一度試食してみることとした。 |
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ツタ(ナツヅタ)の十分に熟した果実
ムクノキの実と同様に、ややしわが生じた時点が完熟といった印象である |
指でつぶしたツタ(ナツヅタ)の果実
先に試食した果実とは異なって、濃厚なネットリとした果汁が出て、指が濃い紫色に染まってしまった。 |
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見かけ上もポリフェノールの濃度が高まったようであり、わずかな果汁成分もとろみを増して糸を引くほどの状態となっていて、前回の試食時とは果実の様子が明らかに異なっている。そこで、恐る恐る口に含んでみると、やや甘味が生じていて、さらに不思議なことに、ヒリヒリ感とかいやな味はほとんど消失していた。まるで、ドクウツギの果実が十分に成熟すると毒性が弱くなるといわれているのと似たような印象である。成分の変化に関する詳細はよくわからない。 |
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<参考メモ> |
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【公益財団法人日本中毒情報センター】
ブドウ科のツタ、カタバミ科のカタバミ・・・などにはシュウ酸カリウム、シュウ酸ナトリウムなど可溶性のシュウ酸塩が含まれる。可溶性のシュウ酸塩は体内カルシウムと結合し、低カルシウム血症を生じるため、テタニーや不整脈を起こすことがある。不溶性のシュウ酸カルシウム(針状結晶)のような口腔内刺激は少ないが、多量に摂取すると刺激による消化器症状を生じる。 |
【Poisonous Plants of California】
ブドウに似たツタやアメリカヅタといった食用に適さない果実には少量のシュウ酸カルシウム、胃腸刺激物を含むが、シュウ酸カルシウムの量は少なく、刺激現象は著しいものではない。 |
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(2) |
ツタ(ナツヅタ)の付着盤の様子 |
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巻きひげの先端部は、その形態に着目して便宜上「吸盤」と称しているが、これは明らかに吸盤の原理で吸着しているものではないから、名称としては適当ではない。誤解の無いようにむしろ「付着盤」というべきであろう。(ヤモリの足裏も吸盤ではない。) |
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ツタの巻きひげと若い付着盤 |
付着盤(吸盤)の表側 |
付着盤(吸盤)の裏側(付着面) |
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ツル先端の若い付着盤を剥がしてその付着面を触ってみると、全くベタつきはない。一般に付着盤は粘着物質によって様々な材質の面に付着するといわれているが、丸い付着面は付着後にベタつきを失って乾燥・固着するものと思われる。粘着物質を出すタイミングはよくわからない。 |
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<参考>
(International Journal of Plant Sciences:T. Steinbrecher ほか)抄訳
這い上りボストン・アイヴィー(The climbing Boston ivy ツタ Parthenocissus tricuspidata )は粘着パッド(adhesive pads)を持った巻きひげによって、永きにわたって付着することを実現している。きわめて効率的な構造となっていて接着液を分泌し、有機質及び無機質の広範な基材に付着することが知られている。 |
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(3) |
ツタ(ナツヅタ)の真珠体 |
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ブドウ科ツタ属の植物で広く見られる微小な「真珠体」が、ツタでも幼葉の裏と巻きひげで生成されているのを確認した。先に採り上げたヤブガラシの真珠体(こちらを参照)の形態とは全く異なっている。
また、ヤブガラシの真珠体は表面に疎らな毛のある球形で、着生部位がはっきりしなかったが、ツタの真珠体は楕円形で、なすびのように着生している姿が確認できた。 |
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ツタ(ナツヅタ)の真珠体(真珠腺) 1
表面には流れるような筋が見られる。 |
ツタ(ナツヅタ)の真珠体(真珠腺) 2
葉脈に着生した状態となっている。 |
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(4) |
ツタ(ナツヅタ)の落葉形態 |
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ツタの落葉時期の風景を見ると、蔓にツンツンと多数の葉柄が残っていることに気づく。つまり、落葉するときに、まずは葉身を落とし、その後に残った葉柄を落とすようである。変則的であるが、何の意味があるのかは不明である。 |
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落葉期のツタ 1 |
落葉期のツタ 2 |
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ツタ(ナツヅタ)に関する参考情報 |
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【世界大百科事典(抄)】ツタ(ナツヅタ)Parthenocissus tricuspidata:
紅葉が美しいので世界的に観賞用に栽培される。夏の葉も観賞するので、キヅタ(ウコギ科キヅタ属 Hedera rhombea)の別名フユヅタに対してナツヅタの別名もある。和名は〈伝う〉に由来したらしい。円形吸盤のついた巻きひげで他の物に吸着し、からむ。
類似の種にアメリカヅタ Parthenocissus quinquefolia Planch.(英名 Virginia creeper、American ivy、ivy vine)がある。原産地は北アメリカで、大正時代に日本に導入されたが、紅葉は日本産のほうが美しい。 |
【Missouri Botanical Garden:Parthenocissus tricuspidata】抄訳
ツタ Parthenocissus tricuspidata はボストン・アイヴィー(Boston ivy)として知られていて、一般に30~50フィート、あるいはそれ以上の長さに伸びる生長の早いつる性木本である。支持を必要とせずに強健に巻きひげで這い上る。巻きひげの末端にある接着盤 adhesive holdfasts (吸盤 sucker disks とも)により、例えばレンガや石、木材の壁の表面にはりつく。このツルは中国や日本原産であるが、米国では広く利用されてきており、多くの単科大学や総合大学の建物の壁を飾っているツタで、米国北東部ではアイヴィーリーグ(注:アメリカ合衆国東部にある8校の私立大学群)の名の起源となっている。(注:アイヴィー・リーグの名の語源については諸説ある模様。) |
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