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続々・樹の散歩道
 シャリンバイが大好きな虫たち
 ナシミドリオオアブラムシとサツマキジラミ
   
葉裏のワンダーランド その7


 身近で植栽の多いシャリンバイの葉裏に何か興味深い虫がいないものかと、次々と葉をひっくり返してチェックしていくと、決して生息密度が高くはなかったが、ほかでは見かけない色合いでやや大きめのアブラムシの姿を確認した。そのアブラムシは、淡緑色の体に鮮やかな緑色の斑点があって、多数の若い幼虫とともにシャリンバイの葉裏の主脈部及びその周辺にに取り付いていて、明らかに口針を刺し入れてチュパチュパと吸汁しているようであった。以前にシャリンバイの葉をひっくり返してみたときには、キジラミ類の幼虫の脱皮殻がしばしば残っているのを見かけただけで全く退屈な教材であったが、今回たまたま見かけたアブラムシには少々興味を覚えた。そこで、早速調べてみると、これはナシの葉を加害することで知られている「ナシミドリオオアブラムシ」であることが判明した。さらによーく見ると、は褐色のキジラミ類の成虫が葉の両面にいることがわかった。 【2019.9】 


 シャリンバイの樹皮大島紬の染色に利用されてきたことはそこそこ知られているが、ほとんどの人は大島紬などには縁がないから、深く学習する気にもなれないのがふつう感覚である。

 しかし、シャリンバイは公園樹や車道と歩道の間の植え込みとしてこれでもかと大量に植栽されていて、緑化木の便利屋として大活躍であり、そのことに起因してこの樹の葉が大好きな虫たちも広く拡散してきたようである。
 
 
 シャリンバイの様子  
 
          シャリンバイの花 1
 バラ科シャリンバイ属の常緑低木 Rhaphiolepis indica var. umbellata  花粉を放出後の雄しべは花糸が紅色になっている。サクラ類の花と同様の変化である。
         シャリンバイの花 2
  この個体では花弁が細い。なお、葉が細いタイプをときにマルバシャリンバイと呼ぶことがある。
 
 
     シャリンバイの果実
 結実良好で、果実をタップリ付けるため、実生試験をしてみた。 
     シャリンバイの種子
 種子は径7〜8ミリで、たくましい印象で、発芽率も良好であった。 
     実生のシャリンバイ
 丈夫な葉を多数つけ、スクスクとたくましく育っている。 
 
     
 
 シャリンバイの葉裏で群れていたアブラムシ(ナシミドリオオアブラムシ)  
 
          シャリンバイの葉裏のナシミドリオオアブラムシ 1
 葉表は何ともないのに、裏返してこの風景を見るとギョッとする。成虫も幼虫も主脈から吸汁したいようであるが、これだけ混み合っていると、主脈にたどり着けないものが大勢いる。例によって、足下は自らの甘露でベチャベチャである。(4月中旬) 
 
         シャリンバイの葉裏のナシミドリオオアブラムシ 2
 このアブラムシは、若い葉があっても、基本的には成葉に取り付くことが知られている。写真の葉では全面的に分散して吸汁している。(4月中旬) 
 
        シャリンバイの葉裏のナシミドリオオアブラムシ 3 (成虫) 
 体長約3ミリ。カメムシ目アブラムシ科オオアブラムシ亜科 Nippolachnus piri 
 体は淡緑色で全身毛だらけで、腹部背面の3条の縦の鮮緑色の線条が個性的である。触角は短く毛がある。角状管も短く円錐形。尾片は半円形多数の長毛がある。脚が非常に長い。
 
 
    ナシミドリオオアブラムシの頭部と胸部       ナシミドリオオアブラムシの口吻
 口吻の中には口針が収納されている。 
 
 
 ナシミドリオオアブラムシ(背面) ナシミドリオオアブラムシ(腹面) 
 
 
                  ナシミドリオオアブラムシの有翅型
 タイミングによるものなのか、有翅虫はわずかしか見られなかった。(4月中旬〜5月上旬A観察)
 5月頃に有翅虫がナシなどに移動するというが、ナシの樹では見られなかった。
 無翅型の成虫とは体の色合いが全く異なっていて、全くミドリではない
  原色昆虫大図鑑には「有翅胎生雌虫は、胸背と腹側に白粉を装い、腹部は暗緑色で背面に鮮明な黒色斑紋がある。」とある。
 
     
   調べてみると、ナシミドリオオアブラムシは、そもそもナシやビワの葉を好んで吸汁して損なう害虫のアブラムシであることが判明したが、(付近にナシの木があるかどうかはとりあえずは横に置いて、)既にナシの新葉が見られる時期になぜシャリンバイの葉裏でゆっくりくつろいで食事していたのか?

 実はこの点は既に学習済みである。こうしたパターンはアブラムシ類ではよくあることで、異種の植物の間を年間スケジュールにしたがって行ったり来たり(寄主転換)するタイプであるらしい。

 このナシミドリオオアブラムシの場合は、

シャリンバイのほかビワ、アカメモチ、モッコクなど(一次寄主)の葉裏で卵で越冬し、3月ごろ孵化、5月頃からナシ(二次寄主)に移動し、夏の間繁殖を繰り返す。10月末〜11月頃、再びビワなどの冬寄主に移動して産卵雌虫を生じ、卵を葉裏の主脈に沿って産み付ける。(愛知県:あいち病害虫情報)

ということである。アブラムシは通常、新しくて柔らかい茎や葉に取り付くが、ナシミドリオオアブラムシの場合は主として成葉に取り付くことが知られていて、この点は奇妙である。また、名称は「シャリンバイミドリオオアブラムシ」でもよさそうであるが、やはり害虫としての研究が基礎となっているためか、経済的な被害のある「ナシ」が名前で優先されているのであろう。 
 
     
   シャリンバイは緑化木として都市部でもきわめて広く植栽されていて、どこにでも見ることができる。しかし、都市部ではナシが植栽されていることなど皆無に近いから、5月頃の移動の時期にこのアブラムシの有翅虫はどこに移動しているのかは謎である。ナシ以外にナナカマドやアズキナシにも取り付くというが、これも都市部ではごくわずかに植栽例があるに過ぎない。この点に関しては今のところ情報が得られないが、やはり、バラ科の何らかの樹木で見られると思われるが、ひょっとすると詳しいことはあまりわかっていないのかも知れない。 

 ちなみに、皇居東御苑に複数の系統のナシが植栽されているが、ナシミドリオオアブラムシの有翅型は確認できなかった。
 間を空けて、再びナシの葉を見たところ、一部で葉を巻いていて、内側に多数の幼虫の白い脱皮殻を確認したが、これが何なのかにについては確認できなかった。
 
     
 シャリンバイの葉で整列していたキジラミ(サツマキジラミ)  
     
 よく通る道の歩道沿いのシャリンバイの葉をふと見ると、褐色の小さなヨコバイ風の虫がしばしばシャリンバイの新葉の表側の主脈に沿って並び、あるいは葉の両面で不規則にとまっていた。

 調べると、今度はサツマキジラミの成虫であった。幼虫の脱皮殻については以前にしばしば目にしていたが、蠢く幼虫については全く気づかないままで、今回の成虫とのご対面であった。シャリンバイは葉表もにぎやかである。
 
 
 
              シャリンバイの葉表で見られたサツマキジラミ
 成虫は体長約2ミリ、全長約2.5ミリほどで、幼虫、成虫ともに芽や葉から吸汁する。総じて若い葉の表裏両面で見られ、しばしば葉表の主脈沿いに整列していた。  
 
     
   サツマキジラミ (背面)
 このキジラミも例によってやはりセミにそっくりである。
   サツマキジラミ (腹面 1)
    サツマキジラミ (腹面 2)
 
 
 
                    サツマキジラミ(側面)
 シャリンバイが大好きなキジラミ類で、名前の「サツマ」は、かつて鹿児島県で本種が確認されたことに因むようである。
 カメムシ目キジラミ科 Cacopsylla satsumensis Psylla satsumensis

 原色昆虫大図鑑によれば「年に数回発生し、成虫越冬であるが、幼虫でも越冬する。越冬後の成虫はシャリンバイの新鞘に産卵し、5月におびただしい成虫が羽化、よそへ移動する。秋にまたシャリンバイに戻り、再び数が増え、晩秋に秋型が現れる。幼虫が群生すると、葉表にすす病が発生する。」とある。
 
 
 
           サツマキジラミ(背面)            サツマキジラミ(側面) 
 
     
 
 
                         サツマキジラミの腹面の様子
 サツマキジラミの腹面の細部の形態は、別項で観察したヤツデキジラミの様子とほとんど同じ印象である。
 口吻もやはり前脚基部(基節)の直ぐ後ろに見られる。
 
     
   サツマキジラミの幼虫に関しては全く見逃していたため、改めてシャリンバイの葉裏を観察すると、ヤツデキジラミのように群れた状態ではなかったが、わずかにサツマキジラミの大小の幼虫を確認することができた。色はオレンジ色から淡褐色である。   
     
     (サツマキジラミの幼虫)  
 
          サツマキジラミ幼虫 1
 幼虫の赤ちゃんで非常に小さく、背面の模様はまだはっきりしない。 
         サツマキジラミ幼虫 2 
 尻からワックスを吹き出し始めている。 
   
          サツマキジラミ幼虫 3
 この幼虫も尻からワックスを吹き出し始めている。 
          サツマキジラミ幼虫 4 
 背の模様がはっきりしている。終齢幼虫か?
 
     
   サツマキジラミの幼虫の存在を見逃していたのは、今反省すれば、別項で観察したヤツデキジラミ(こちらを参照に比べて非常に小さく、また毛の多い新葉の裏に取り付いていることによる。 

 今回、サツマキジラミの幼虫についても観察できたが、併せて今までの認識違いも明らかになった。
 しばしば目にしていたものを幼虫から羽化した際の脱け殻と思い込んでいたが、これを改めて見ると明らかに寄生バチが幼虫の殻に丸い孔を開けて羽化した痕跡であることが判明した。そもそも、羽化した際の脱け殻であれば幼虫の背が割れるはずであり、殻もゴミ化していつまでもしゃんとした形で残ることはないはずである。

 シャリンバイの葉をよく見れば、サツマキジラミの幼虫が寄生バチに乗っ取られてマミー化しているものの存在も確認できた。生きた幼虫との違いは全体が暗褐色で、眼に赤みがないことですぐにわかる。また、マミー化した幼虫は寄生バチの幼虫の仕業で、葉に張り付いた状態となっている。これを剥がして裏返せば寄生バチの幼虫又は蛹が露出した状態となって確認できる。 

 寄生バチはキジラミ類、コナジラミ類、アブラムシ類などの非常に小さな昆虫や卵にまで寄生することが知られていて、その適応力には驚かされる。
 
     
   (マミー化したサツマキジラミの幼虫と寄生バチの幼虫、蛹、成虫)  
 
 
        マミー化した幼虫 A 
 寄生バチ幼虫の仕業で、サツマキジラミ幼虫の殻の内側が補強された上に、糸で葉に固定されている。
    A を裏返して見られた寄生バチの幼虫
 サツマキジラミの幼虫の中味を食い尽くした幼虫の姿である。寄生バチの産卵の経過は未確認。
 
     
 
         マミー化した幼虫 B 
 生きた幼虫とは明らかに色が異なり、殻がやや硬い。
      B を裏返して見られた寄生バチの蛹
 まだ若く淡色の蛹の様子である。葉に密着した側の殻は消失している。
   
         マミー化した幼虫 C
 
  C を裏返して見られた寄生バチの蛹(羽化直前) 
 羽化が近く、色が黒くなった状態。
   
 寄生バチの蛹(背面)  寄生バチの蛹(腹面)
 
     
 
 
           マミー化したサツマキジラミの幼虫から寄生バチが羽化した痕跡
 サツマキジラミの成虫の口器は、吸汁のための口吻であるため、こうした丸い孔を開けることはできない。一般にハチやアブは羽化する際は蛹に丸い孔を開ける。 
 
 
          比較用:キジラミの蛹からふつうに成虫が羽化した脱け殻
 キジラミの成虫は、蛹の殻の背部を縦に割って出て来る。殻はマミーに比べたらペラペラで、自然に葉から脱落するようである。 
 
     
 
   マミー化した幼虫から羽化した寄生バチ(背面)      マミー化した幼虫から羽化した寄生バチ(腹面) 
 
     
 
           マミー化したサツマキジラミの幼虫から羽化した寄生バチ(背面)
 
種名は未確認。体長は約1.5ミリほどである。しばしば、虹色に光を反射する翅をもつものが見られた。 
 
            マミー化したサツマキジラミの幼虫から羽化した寄生バチ(腹面)