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続々・樹の散歩道
  蜜を提供する「花外蜜腺」の名の奇妙な器官


 樹木や草本で、しばしば花以外の部位から蜜を分泌する例が知られていて、その部位に「花外蜜腺」の呼称を与えている。この蜜腺(腺体)は、いずれも葉身や葉柄の特定の部位にあって、蜜に引き寄せられてやってきたアリの存在により、都合の悪い害虫を寄せ付けない効果があるのであろうと推定されている。決して少なくない数の植物たちが、進化の過程で申し合わせたように身に付けた自己防衛のシステムなのであろうか。改めて身近な該当植物でいくつかを確認してみた。 【2025.8】 


 
  アカメガシワの花外蜜腺 1
葉身の基部に2個の蜜腺がある。
(7月下旬) 
  アカメガシワの花外蜜腺 2
なかなかの集客力で、いずれの葉もお客さんで混雑していた。(7月中旬) 
    ソクズの花外蜜腺 
ソクズは花序内に黄色の単体の腺体(蜜腺体)をもつが、茎の分岐部にもある。(7月中旬)
★黄色の蜜腺体はこちらを参照
     
   ソメイヨシノの花外蜜腺 1
大きめの蜜腺が葉身の基部又は葉柄の上部に2つある。蜜が出ている。
(4月下旬) 
  ソメイヨシノの花外蜜腺 2   
お客さんが訪れていた。 (7月下旬)
   フユザクラの花外蜜腺
葉柄の上部に紅色の杯型の蜜腺が2つある。(5月上旬) 
     
     トウゴマの花外蜜腺
お客さんは見られなかった(7月中旬)
   ネムノキの花外蜜腺 1
葉柄基部にある蜜腺から蜜をたっぷり分泌している。(7月下旬) 
   ネムノキの花外蜜腺 2 
おいしそうな蜜が盛り上がっているのに、お客さんは全く見られなかった。
(7月下旬)
     
  ニワウルシの花外蜜腺 1
小葉基部の鋸歯先端部の裏面に蜜腺が見られる。(9月中旬) 
  ニワウルシの花外蜜腺 2
分泌量は多くない印象である。
(8月下旬) 
  ニワウルシの花外蜜腺 3
お客さんはパラパラと見られる程度であった。(8月下旬) 
     
  カラスノエンドウの花外蜜腺 1
葉柄の基部にある托葉の暗褐色の部分が蜜腺。(4月中旬) 
  カラスノエンドウの花外蜜腺 2 
小さな器官であるが、蜜が盛り上がっている。(3月下旬)
    ニワトコの花外蜜腺
 葉柄の基部に2個ずつ見られるが、お客さんは見ない。(3月上旬)
 花の時期には完全にしぼんでいる。
     
   ナンキンハゼの花外蜜腺
蜜腺は葉身の基部に2つある。お客さんは見なかった。(6月中旬)
    イイギリの花外蜜腺 
蜜腺は葉柄の先端と途中に2つずつある。お客さんは見なかった。
(7月上旬)
    イタドリの花外蜜腺
蜜腺は葉柄基部にあり、出っ張りはない。全体的にお客さんが多数見られ繁盛していた。(6月中旬) 
     
<メモ>

 アオギリの葉に花外蜜腺があるとしている図鑑等の記述は目にしない。これこそ余剰なショ糖の処理を目的とした現象であろうか。  
    アオギリの花外蜜腺?
植木鉢の実生アオギリの葉裏の中央脈の基部付近で見られたもので、間違いなく蜜であった。単に細胞の内圧調整で排出しているのかも知れないが、不明である。(7月上旬)
    アオギリの花外蜜腺? 
街路樹の下の実生幼木の葉裏で、中央脈の基部付近にアリが取り付いているのを確認した。(7月中旬)
 
     
   こうして見てみると、花外蜜腺の全てがいつも蜜でしっとりと濡れているわけではないことがわかる。樹体又は全草の全ての花外蜜腺で蜜を垂れ流したら、大変な負担になるはずであり、大量の生産物が無駄使いされてしまう。また、アリが大きな樹の最上部の枝先の蜜腺を目指して大変な長旅をする根性があるとも思えない。ひょっとすると、受粉の時期など肝心な時期に重点を置くか、地面に近い下方に絞り込むかして分泌しているのかもしれないが、思いついたことを今すぐ簡単に見極めることも困難である。

 特に受粉を虫の活動に依存する植物では、植物自身にまるで目があるかのように、ターゲットとする虫の形態、生態にあわせた絶妙なメカニズムを進化の過程で身につけている例がしばしば紹介されるが、花外蜜腺は本当に役に立っているのであろうか。これがピントのずれた進化であっては気の毒な気もする。しかし、仮に実質的な効用がほとんどないのであれば、植物の更なる進化の過程で、花外蜜腺戦略など放棄する可能性もあるかもしれない。

 花外蜜腺の本当の効用を知るための観察は、できることなら適切な指導者の下での粘り強い少年少女による取組に期待したいところである。なぜなら、研究者がこうした見通しの立たない課題に本気で取り組むことは考えられないからである。このため、花外蜜腺の実際の機能実質的な効用に関しては、今後百年経過しても現在の “推定” の域を出ないままと思われる。

注:  花外蜜腺は、その他ソラマメ、サツマイモ、ケナフ、ヘチマ、トウゴマ、アブラギリ、シナアブラギリなどにも見られるという。 
 
     
    <おまけ写真 その1>  
 
 写真はミズナラの葉で見られた風景である。

 先の花外蜜腺の場合は、それが本当に有効に機能しているのであればアリと植物との共生的な関係と言えるが、この写真のアリたちはアブラムシ(カバイロトゲマダラアブラムシ?)の分泌する甘露に群がっているもので、ミズナラは汁を吸われるだけである。つまり、ミズナラは一方的な被害者で、アリはアブラムシから甘露を得て、結果としてアブラムシの天敵を寄せ付けない構図となって、ミズナラ抜きでの両者の共生関係が維持されている。

 ところで、アリが特に樹木の蜜腺にたどり着くにはかなりの道のりとなるはずであるが、同様にアブラムシの甘露にありつくまでの道のりも大変なことでは変わりがない。実は、それ以前のこととして、アリが遥か上方の樹上の蜜腺の蜜やアブラムシの甘露をどうやってかぎつけるのか、これが何とも不思議なことである。  
 
     
   <おまけ写真 その2>   
 
 オオケタデの???
 
 太い茎の節の部分の凹んだ箇所にアリが群れていた。花外蜜腺であるのかは未確認で、物理的な損傷を受けた部位のようにも見える。これだけのアリを集めているということは、魅力的なお味に違いない。(7月上旬) 
 
     
   <おまけ写真 その3>   
   最後におまけとして、花外蜜腺ではないが、ほぼ平開した花弁の中央に蜜腺(蜜斑、蜜腺溝)を持つ美しい変わり者を紹介する。こんなぺらぺらの花弁から、虫たちが満足する量の蜜が分泌されるのか心配になるが、現に虫がとまっているのを見たから、心配は無用のようである。
:「蜜腺溝」の名は、実際には溝を形成していないから、適当ではないと思われる。 
 
 
   アケボノソウの蜜腺 1
花の花弁の中央部分に見られる黄色〜緑色の2つの丸い模様が蜜腺。 
   アケボノソウの蜜腺 2 
ハチの仲間のお客さんが来ている。
   アケボノソウの蜜腺 3
ハチが荒っぽくかじったのか、蜜腺部分に穴が空いてしまっている。 
 
     
   蜜腺の位置が雄しべの基部から離れているものの、雄しべが外に張り出しているために、葯は蜜腺と同様の位置にあるから間違いなく花粉を運んでもらえるはずである。蜜腺の丸い模様と花弁の先端の黒紫色の斑点は虫を引きつけるターゲットとなっているのであろう。  
     
   なお、ユリノキでもアケボノソウと同様に、花弁の内側の平らな部分に蜜腺をもつことが知られている。アリが蜜をペロペロやっている様子はこちらを参照。