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続・樹の散歩道
  ハナミズキの奇妙な総苞片には理由があるのか


 ハナミズキは街中の緑化木として全くありふれた存在となっていて、言わば緑化木の便利屋的存在となって久しい。したがって、開花期となると例年の季節の移り変わりを示すひとつの象徴と受け止めるものの、改めてその姿をじっくり見ることなどふつうはあり得ない。ただ、前から気になっていたことがひとつあった。それは、白い総苞片が輪のようになっている姿を目にし、この奇妙な形態となっていることにどんな理由(意味)があるのかという点である。近縁で同属の国内種であるヤマボウシでは見られない風景であることから、ハナミズキの総苞片の形態に関する合理的な説明、講釈の試みがないものかと探索してみた。 【2017.8】 


            ハナミズキの花 1
 総苞片の先端が合着したままで頭状花は開花している。
            ハナミズキの花 2
 総苞片は開いた状態で頭状花は開花している。
 
 
 
 ハナミズキの小花  総苞片の先端部分 尖った先端部を裏側から見た様子
 
     
 まずはハナミズキの総苞片の先端部の形態について  
 
 ハナミズキの総苞片の形態に関して、同属近縁のヤマボウシの総苞片の場合と比較して、しばしば先端部が凹んでいると表現されている。しかし、これは正確ではなく、先端部は間違いなく尖っている。ただ、尖った先端部は下方に反り返ってるというのが真相である。この奇妙な形態については表現は難しく、また、なぜこんなことになっているのかもあとで検討してみたい。  
 
 ハナミズキの初期の総苞片の形態には理由があるのか  
     
 ハナミズキの総苞の機能に関しては、多数の球状の頭状花序を保護するとともに、大きく目立つ姿で授粉昆虫を誘引するというのが一般論となっているのみであった。ここでいう「頭状花の保護」とは、総苞片が頭花を包み込んだ状態を指していると思われる。芽鱗がないからこれに代わってつぼみを保護しているというのは見てわかることである。

 しかし、個人的な関心は、開花時期に総苞片がしばらくの間、風呂敷の四隅をつまんで縛ったような形態となっていて、横から見れば輪になったように見えることにある。これは、同属近縁のヤマボウシでは見られない風景であるからである。しかしながら、これに答えた講釈は目にすることができなった。そこで、ひょっとすると、開花前後の時期の小さな頭状花を引き続き保護する機能があるのかとも考えたが、はっきりしない。そこで開花時期のハナミズキの総苞片の様子を改めて観察してみた。
 
 
 開花期のハナミズキの芽吹き以降の経過を観察すると・・・  
 
    (ハナミズキの芽吹き後の経過)  
      花芽−A1
 外側の1対の総苞片は先端部が合着している。
     花芽−A2
  花芽の直下の1対の葉芽がそれぞれ対生の葉を出す。
      花芽−A3
 総苞片は先端が接合したままで成長している。
     花芽−A4
 総苞片のアーチが形成された。花は開花前である。 
       
      花芽−A5
 花は開花後で総苞片も痛み始めている。
      花芽−A6
 ここに至っても総苞片が接合したままとなっている。
      花芽−B1
 この花の場合は2対の総苞片が既に分離している。
      花芽−B2
 頭状花のつぼみが姿を見せている。
       
     花芽−B3
 総苞片が開いた状態となっている。花は開花前である。 
     若い果実 
 果実の下方に2対の対生する葉が確認できる。
    葉を出した葉芽
 1対の芽鱗に包まれていた1対の対生の葉が展開した。 
     葉をつけた短枝
 毎年形成されてきた芽鱗根が確認できる。
 
 
 複数の個体で改めてハナミズキの開花期の総苞片の様子を観察してみると、今までは2つの相対する総苞片の先端部がしばらくの間はくっついているのが普通で、後に分離するものと思っていたが、実は個体差があって、小さなねぎ坊主の形態の花芽が少し膨らんだ時点で早々に総苞片が開いてしまうものがあれば、さらに、先端部がくっついた総苞片がなかなか離れすに、そのまま総苞片がヨレヨレになってしまうものがあるなど、その経過には色々なパターンのあることがわかった。

 ということは、開花前後の花を保護するために、つぼみ状態以降もしばらくの間だけ先端部がつながっているものとも言い切れない。そこで仕方なく総苞片が奇妙な形態となっている由来を推定してみる。
 
 
 ハナミズキの総苞片の形態の由来  
 
 ハナミズキの開花初期の総苞片の3次元的形態を言葉で表現するのは難しく、その形態をとらえて何といえばいいのかは苦しいが、あえて言えば、総苞片の中央線部にギャザーを入れて縮めたような(しわはもちろんないが)形態と言えなくもない。

 ただ、これではその形成経過の説明にはならない。そこで、先端部が合着して丸まった総苞片の場合をじーと見れば、総苞片については次のように説明できそうである。
 
     
 ・  花芽の段階では、相対する2組の総苞片のうち、外側のものは尖った先端部が合着しており、内側のものはこれに上下方向でゆるく張り付いている。この形態は明らかに若い総苞片は芽鱗に代わる機能も併せ持っているということに他ならない。 
 ・  開花時期を迎えた際に、4個の総苞片の先端部がくっついたタイプでは中央線部分の成長が遅くてもたもたしていて、その間にじらされた個々の総苞片の両翼部分が縦方向及び両翼方向にはるかに伸長し、結果として個性的な三次元構造に至るようである。 
 ・  また、開花時期の早々に小さな総苞片を開いてしまうタイプの場合も、基本的には同様の経過をたどるものと思われる。つまり、総苞片の中心線部分の成長が遅いために全体がやや歪んだ形態になることが理解できる。 
 ・  こうしたなかで、特に総苞片の先端部は芽鱗的な丈夫さを残したままでほとんど成長しないため、反り返ってしまうのであろう。 
 
 
 ヤマボウシとの比較  
 
 ヤマボウシの場合は、花芽では総苞片の外側にしっかりとした芽鱗があるから、総苞片は梱包の内側の薄い包み紙のような存在で、頭花をがっちりガードする役割を担っているわけではない。このため、細長い総苞片はゆるく頭花に巻き付いているだけで、芽鱗が開けばゆったりと普通の葉のように全体を均一に成長させて大きくなっていることがわかる。  
 
    (ヤマボウシの芽吹き後の経過)  
 
     花芽−1
 花芽(混芽)は2対の芽鱗に包まれている。 
      花芽−2
 外側の1対の芽鱗が中間で折れている。
      花芽−3
 内側の芽鱗が長く伸びている。
      花芽−4
 外側の折れた芽鱗が内側の芽鱗の先端についている。
       
      花芽−5
 2対の対生する葉が伸び出ている。総苞片は頭状花を完全に覆っているわけではない。
      花芽−6
 芽鱗と幼葉を取り去った状態で、4個の細長い総苞片がつぼみの頭状花に巻き付いている。
     花芽−7
 2対の対生する葉が展開した状態で、総苞片も開き始めている。
      花芽−8
 まだ小さく緑色の総苞片が開いた状態となっている。
       
     花芽−9 
 花後の若い果実と2対の対生葉の様子である。総苞片は既に脱落している。
      葉芽−1
 芽鱗から丸まった状態で先端が引っ掛かった対生する葉が伸び出ている。
      葉芽−2
 展開し始めた葉の様子で、1対の芽鱗は後に脱落する。
   葉をつけた短枝
 毎年形成されてきた芽鱗根が確認できる。 
 
     
  ヤマボウシとハナミズキの比較(日本の野生植物及び樹に咲く花を参考としこれに加筆)  
区分 ヤマボウシ
ハナミズキ
分類 ミズキ科ミズキ属 Cornus kousa ミズキ科ミズキ属 Cornus florida
総苞片 総苞片は4枚、卵形〜長楕円状卵形で、鋭先頭。 4枚の総苞片は倒卵状を帯びて先端が著しくくぼんだように見え、基部はくさび状に細まる。
花芽 偏球形の混芽 2対の芽鱗が多数の小花と2対の対生の幼葉を包む。
注:図鑑ではなぜか芽鱗が2個としている場合がしばしばある。
ネギ坊主型で2対の十字対生する椀形の総苞片に二重にキッチリ包まれる。
直下に葉芽が1対対生する。
花芽の葉 対生の葉を2対出す。 − (花芽には葉が含まれない。)
葉芽 円錐形で、2個の芽鱗に包まれる。 2個の芽鱗に包まれる
葉芽の葉 シュートを出し、対生の葉をつける。短枝では1対の葉のみ。 シュートを出し、対生の葉をつける。短枝では1対の葉のみ。
花弁と雄しべは4個、雌しべは1個 花弁と雄しべは4個、雌しべは1個
果実 核果が集まった集合果で甘く食べられる。(果時に萼筒が肥厚して互いに合着し、球状の集合果となるもの。
★ヤマボウシの果実はサルによる種子散布に適応した進化であるとする説がある。
液果状の核果ヤマボウシのような集合果とはならない。(花は密に束生しているが、互いに離れ、果時にも合着しない。)
樹皮 不規則にはがれ、まだら模様を示す。高齢のものでも比較的平滑である。 やや深く、細かく割れるため、落葉期でも一目で識別できる。
 
     
  ハナミズキとのヤマボウシの花と果実、ヤマボウシの木材、常緑ヤマボウシについてはこちらを参照