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続・樹の散歩道 北国の冬囲いと雪囲い
積雪地では,降雪期を前にして、多くの家庭においてお父さんたちが、ある義務的な職務を遂行することが求められることになり、うっとうしい気分になる。積雪・寒冷地ではただでさえ住宅、車、衣類、履き物、暖房その他生活用品に関しても温暖な地域とは比べものにならない余分なコストに耐えなければならない中で、この件でコストの節減を図り、家計の負担をできるだけ軽減するためには自らの体力で勝負する以外にないからである。この職務とは「冬囲い」、「雪囲い」である。 【2014.2】 |
注: | ここで、「冬囲い」は雪圧から樹木を保護する囲い(雪吊りを含む。)を指し、、「雪囲い」は雪圧から住宅の窓を保護する囲いを指すこととする。 |
積雪地の街や住宅地の冬の風景は、通りすがりの者からすれば、ああ、一生懸命庭木を大切にしているなあ・・・それにしても色々な方法があるもんだなあ・・・と、地域の風物詩として気楽に見ることができる。こうした目で見た場合に、「冬囲い」に関して以下の普遍的な真実が見て取れる。 | ||||||||||||
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一方、豪雪地帯では、住宅を守るための「雪囲い」が存在する。 | ||||||||||||
1 | 多様な冬囲いの種類(方法) 多様な冬囲いは注意して見ればなかなか楽しいもので、この際にいろいろな種類を分類整理してみた。 各種の冬囲いの名称は「雪吊り」以外は地域名、慣習名、事業者による独自名等を見るものの、必ずしも一定していないため、以下の区分名で整理した。事例として採り上げたものは主として職人の技によるものである。 |
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@ | 縄巻き(紐巻き) 枝が細くて柔軟な低木に適した最も簡便な方法である。PP(ポリプロピレン)の荷造り紐でも用は足りるが、これではあまりにも情緒に欠け、やはり藁縄(わらなわ)の方が様になるのは言うまでもない。 |
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A | 竹囲い(小丸太囲い) 大小の樹木に対して、3本以上の丸竹(又は樹脂被覆の鋼管支柱)を円錐状に配して縄で固定したもので、最も一般的な仕様である。枝をまとめるために縄を巻いたり、ネットを併用することが多い。多数の竹を立てれば雪の侵入を抑制でき、また、縄をかご編み状に密に巻けばこの効果を高めるとともに、見た目にも美しくなる。 なお、竹に代えて小丸太を使用している場合もある。 |
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B | こも巻き(ネット巻き) 樹木をこも(又はナイロンネット、寒冷紗)で覆って縄で縛り上げるていねいな、時に簡便な方法である。完全にこもで覆った状態のものを普通に見るが、光を遮ってしまうのはよろしくないとの見解もあり、南側を少々空ける手法も知られている。ただし、これらが完全に雪に埋没してしまう多雪地帯ではこうしたのんきなことは言っていられず、物理的に完全防御することに全力投球すべきである。色付きのナイロンネットは情緒に欠けるとの声があるが、当人にとっては余計なお世話である。 注:「冬囲い」とは異なるが、いわゆる“松の腹巻き”についても「こも巻き」と称している。 |
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3枚 | ||||||||||||
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C | 屋根囲い 竹材又は板材により水平又は斜めの面で雪圧を緩和又は抑止するもので、以下の仕様が見られた。 |
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A | 竹棚(たけだな) 丸竹を格子状に組んで支柱で支持するもので、ハイビャクシンやハイネズのような匍匐性の低木での適用例が見られる。これらの樹種であれば何もせずに放って置いても支障がないようにも感じるが、装飾的な仕様である。そのため、保護すべきものがほとんど消失していても機械的に作設されている風景を見る。 |
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B | 竹庇(たけびさし) これも装飾性の高い仕様で、列植された低木に対して、細丸竹を斜め格子に組んで片側から湾曲させて庇状に覆う構造の冬囲いの仕様で、市街地の観光スポットで目にした。 |
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C | 板囲い(板屋根) これはすのこ板状の面材を鋭角の切り妻屋根状に配し、板材の剛性で雪圧を断固として抑止するもので、特に大切な低木に適用されている。ハイコストとなるが当然ながら強度的には最も優れている。事業的に畝に沿って設置する場合は、角材を合掌に組んで、厚板を必要段数だけ釘を浮かせ打ち(春の解体時を考えた扱い)して固定する。 |
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D | 雪吊り(いろいろな雪吊りの種類) 中心となる柱(帆柱、芯柱)を立てるか又は直立性の樹幹(主幹)を利用して、四周に多数の吊り縄を配するもので、実用性を優先するものと装飾性を優先するものが見られる。縄を束ねた柱の頂端部には様々なデザインの頭飾り(留め飾り)を形成する。いずれの場合も多数の吊り縄が円錐形をなして、美しい景観を形成する。手入れの行き届いた大きな松で多く見られる。よく見れば様々な形式(種類)が存在することを確認できる。 |
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A | 幹吊り(直吊り) | |||||||||||
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B | 枝吊り 上記と同様に機能性を重視した雪吊りである。樹幹沿いに丸太の柱(帆柱、芯柱)を立て、柱の頂部から四周に吊り縄を配し、保護すべき枝に直接縛って吊すことで枝折れを防ぐものである。(枝張りの多い低木にも適用される。)上記よりも繊細で美しい円錐形をなるように吊り縄の間隔が調整されている。 |
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C | 裾縄吊り 雪がほとんどない地域で、庭園の装飾目的で行われている雪吊りを模した演出である。 柱(帆柱、芯柱)を立て、柱の頂部から四周に吊り縄を配するまでは上記と同様である。大きな違いは吊り縄の固定部位である。簪(かんざし)と呼ぶ丸竹を樹木の下部(下枝部)で放射状に張り出した状体で樹幹と太枝に固定し、その頂部をシュロ縄で繋いで裾(回り縁)を形成し、このシュロ縄に吊り縄を等間隔で結んで美しい円錐形をなすものである。裾部は必ずしも完全な円をなしているものではなく、枝振りにに由来して、張り出した太枝を単位にして複数の円弧をなしている例が多い。 |
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D | 裾竹吊り これも雪がほとんどない地域で、庭園の装飾目的で行われている雪吊りを模した演出である。上記との違いは、裾部分にシュロ縄ではなく割り竹のオモテ面を外側にして湾曲させて使用し、円環をなしている点である。上記よりも裾部(ばち)がなめらかな円形になるとともに、その線がはっきりと強調されて、遠方からでも引き締まって見える特徴がある。 |
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2 | 防寒又は純粋の装飾の事例 | |||||||||||
@ | 藁巻き(わらまき)・こも巻き・霜除け 暖地性のソテツやユッカを霜や寒さから守るために藁やこもを巻く方法である。特にソテツでは定番仕様。装飾性を意識して頂部に頭飾りを付したものと、これのない実用本位のものがある。。 都内の公園・庭園では純粋に装飾目的で設置された張りぼて(化粧霜除け・飾り)が主体で、一部に本物のソテツに施したものが存在する。外観からは全くわからないため、張りぼてを見て本当のソテツが入っていると信じている人も多い。一般にどちらなのかの説明書きはないから、ほとんどクイズのようである。(注:毎年デザインを変えている例が多い。) |
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A | ワラボッチ(藁ぼっち)・稲叢(いなむら) 装飾性が最も高い霜除けで、センリョウ、マンリョウ、ヤブコウジなどを寒さから守ったり、ボタンやカンツバキなどに対する風を除けて生育を助けるために設置する。次のBの「藁囲い」に似て、南側を開けて日照を入れる形式を取る。頂部にはもちろん飾りとしてのワラボッチやさらに手の込んだ頭飾りが付く。これにも本物と張りぼて(「化粧ワラボッチ」とも)の両方が存在する。高さ1メートル以下のものを指している(上原啓二)との説明例を見るが、こうした観点での定着した呼び分けは確認できず、@(藁巻き)の頭飾りのあるものも含めてワラボッチ呼んでいる場合が多い。 |
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B | 藁囲い | |||||||||||
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C | 藁帽子 藁束の先端を広げて、低木の樹幹に被せる最も簡単な霜除けである。前掲Bに対してもこの呼称が使われている。 |
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(参考資料) 樹木の保護と管理:上原敬二(平成12年4月1日、加島書店) 庭木の手入れと雪吊り:中川草司(1997年11月20日 株式会社金円社) |
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3 | 雪囲い 豪雪地帯では「雪囲い」が存在する。これは特に積雪が多い地域で、通常の降雪に屋根から落ちる大量の雪が加わって、窓際にうず高く積もった雪で窓が押されて破壊されるのを防ぐもので、通常はカギ金具に多数の板を掛けて面的にガードしている。これは板材が重くてかさばるからやっかいであるが、作業としては難しい技術は要しない。 厳しい豪雪地帯の象徴のような存在で、命懸けでの生活が想像され、見ただけで鳥肌が立つ。 なお、戸建て住宅の断熱があまりよろしくなかった時代は、窓枠からのすきま風を防いだり、冷え込みをわずかながらに抑制するため、窓枠全体をビニールで被って、モール材で固定する方法が普通にとられていて、これを「窓張りビニール」と呼び、かつてはこれもまたお父さんたちの気の重くなる仕事となっていた。 |
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4 | 参考メモ (1)雪吊りの種類に関する解説例 (浜離宮恩賜庭園内説明板より) |
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(2) | 都内の公園、庭園になぜ“雪吊りもどき”が存在するのか 都内の公園、庭園では、その時期になると優雅な雪吊りの風景が出現することが知られている。都内では公園樹が悲鳴を上げるような雪などまったく無縁であることは誰もが承知しているが、なぜこの手間のかかる装飾にお役所がこだわるのかであるが、答えは簡単である 。 特に、多くの都の庭園は、将軍様や大名、明治期の成金に由来するもので贅を尽くした造りとなっていて、現在でも高い管理水準を維持していており、都民にとっても質の高い憩いの場となっているところである。これらの管理には相当なコストを要するから、一般に入園料を徴収しているのは仕方がないものとして受け入れられている。 しかしである。冬の庭園が実に殺風景であるのは間違いのない事実で、せいぜい十月桜、ロウバイ、寒ツバキが寂しく咲いているくらいで、池のカモたちも首をすくめて丸くなっているだけである。入園料を徴収しながらこの有様では申し訳がないという、自然な感覚から雪吊りの演出が行われるに至ったものと理解される。加えて、正月前後にも一生懸命に色々な催しを行っている。「オ・モ・テ・ナ・シ」のこころか。 |
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(3) | “雪吊りもどき”に本当の雪吊り機能はあるのか 都内の装飾的な雪吊りが実際の降雪に対してどの程度耐えられるのかは興味深く、是非とも知りたいところである。 枝吊り以外の裾縄吊り(南部式)や裾竹吊り(北部式)は確かに装飾優先のつくりであるが、ある程度は持ちこたえるのであろうことは想像できる。なぜなら、丸竹のかんざしの一部は下枝に対しては樹幹に固定された副木的な状態にあり、さらにこの丸竹がシュロ縄や割り竹経由で細いながらも縄で保持されているから、ある程度の雪であれば関係する枝に限っては折れるのを防ぐ効果があると考えられる。 また、裾縄吊りと裾竹吊りの比較であるが、裾竹吊りの場合は積雪量が増して裾竹が雪に埋没した場合は、雪の沈降圧で裾竹が押し下げられて却って大きなダメージを受ける可能性を感じる。 まあ、こうしたことは現実にはあり得ないであろうから心配には及ばないと思われる。しかし、仮に東京で湿雪が一気に50センチほど降ったら、庭木や緑化木はひどい被害を受けることになり、また一方でこれ幸い方式の違いによる実際の雪吊り能力をしっかり検証できるに違いない。 そもそも湿雪のパワーは驚くほどで、自然のアカマツ林でも、枝どころか幹が中間でボキボキと折れた風景(幹折れ)を見たことがあり、それほどすさまじい被害をもたらすことがある。 |
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