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樹の散歩道
   昔からの束子(たわし)が生存している理由


   古典的なシュロ製の束子は昔であればどの家の流しにも常備されていた当たり前の生活用品、消耗品であった。目を閉じてこの束子にとって最も自然で、ぴったりの環境を思い描くと、やはり、コンクリート製の「人研ぎ流し」であろう。おしゃれな人造大理石のカウンタートップを具えた台所では、ちょっと居心地が悪い思いをするかもしれない・・・・と、これがしばらく遠ざかっていた中での凝り固まったイメージである。
 最近では決して触ることもなかったこの束子であるが、少しだけ意識して見渡したところ、驚くことに百貨店やホームセンターで現在でも普通に販売されていることを知った。
【2010.12】


 古いタイプの束子が未だ往き残っているということは、その機能性においてまだまだ色褪せていないのか、あるいはお年寄りが使い慣れたものを使っているということなのか、単なるノスタルジーということでもなさそうな、これは謎である。

 元々、束子は鍋・釜・フライパンなどの汚れ、焦げを落とすために存在したから、汚れにまみれる運命にある。特にステンレス束子は強力なそぎ落としパワーと引き替えに、飯粒や食いカス、繊維質を中に食らい込んだままになって大嫌いであるが、旧来の束子もこれほどではないものの、汚れカスが繊維の奥に入り込んだイメージからは逃れられないため、今では積極的に使う気にはなれないでいた。しかし、現物を久しぶりに見ると、郷愁に誘われて改めて試してみようという気になってしまった。

 シュロ属にはシュロトウジュロが見られる。シュロは葉の先端が垂れ、トウジュロは葉がピンとして垂れないとして説明されているが、中途半端なものもあって迷ってしまう。しかし、日常生活では悩む必要はなく、単に「シュロ」と認知すれば十分であろう。
 一般的には住宅付近に植えられているものは小振りのトウジュロが多く、シュロ皮採取のために古くから栽培されてきたのは、トウジュロよりも大きくなるシュロのようである。       
            
       シュロ         シュロ       シュロの皮
      トウジュロ        トウジュロ      トウジュロの皮
 旧来の束子いろいろ(目にしたいろいろな種類の束子)                      (注)価格は事例
@ 和歌山県海南市特産 しゅろたわし
品質:棕櫚、麻、針金(ステンレス) 300円 (国産)
(注)麻はぐるり巻いたひもと吊りひもの材質を指している。
扱い:わかやま喜集館 ほか
東京都千代田区有楽町2丁目10番1号 東京交通会館地下1階A

シュロ束子はパーム束子よりやや柔らかい。

田耕造商店(株式会社コーゾー) 
和歌山県海南市椋木97−2

A 亀の子束子 A
品名:亀の子束子1号(小)紙袋 (国産)
材質:パーム(ヤシの実の繊維) 針金  248円
 
この会社の定番商品である。この繊維は一般にはコイアファイバーと呼んでいる。

株式会社 亀の子束子西尾商店
本社 東京都北区滝野川6-14-8
工場:東京滝野川工場 , 新潟木島工場, 和歌山工場 , スリランカ工場

B 亀の子束子 B
品名:シュロチビッコP  小売価格315円 (国産)
材質:棕梠(シュロ)針金

シュロ製のミニタイプで、繊維の密度が非常に高い仕上げとなっている。小さな湯飲みのような食器にも使える。

株式会社 亀の子束子西尾商店
C 棕櫚たわし (国産)
扱い:
葛飾区伝統産業館
東京都葛飾区立石7-3-16

都内葛飾区でシュロ原料を主体とした束子が現在でも作られている。我が家では風呂掃除用。

佐柄 真一(葛飾区伝統工芸士) 
葛飾区宝町2-33-16

 D   百円ショップのたわし 
品名:天然たわし
主な材質:コイアファイバー、スチール
販売:ダイソー(スリランカ産) 2個100円

2個100円など、国内生産ではとても無理である。針金の品質を含めて全体がややワイルドな印象はあるが、実用上は何ら問題はなさそうである。

(株)大創産業
広島県東広島市西条吉行東1-4-14
(亀の子束子に関する補足説明)
 明治40年(1907年)創業:初代社長西尾正左衛門(32歳)が東京本郷真砂町にて棕櫚製の亀の子束子を発明。南方繊維のパームに着眼し原材料として採用。西尾正左衛門商店として発足し発売
 明治41年(1908年)、実用新案を取得するとともに亀の子束子、亀のマークの商標権を登録。
 大正4年(1915年)束子の特許取得。
 束子材料として中国産の棕櫚とスリランカ産パームを使用している。
       上記Aの包装
 パーム束子は赤が基調となっている。
 ここで掲げた包装はいずれも旧仕様である。
       上記Bの包装
 一方、シュロ束子は緑が基調である。
沿革:http://www.kamenoko-tawashi.co.jp/company/history.html
(注)「亀の子束子」の名は日常的には一般名となっているところであるが、上記のとおり明治40年創業の「株式会社亀の子束子西尾商店」(東京都北区)が発明したもので、同店の登録商標(当初登録:明治41年)となっている。以下、亀の子型の束子は単に「束子」と呼ぶ。
 束子の素材

 現在販売されている束子のほとんどは ココヤシ Coconut Palm の果実である ココナッツ Coconut の果皮の中間層に相当する中果皮の繊維( コイアファイバー Coir fibres)を原料とした製品(「パーム束子」の呼称が見られる。)で、元祖シュロ皮の繊維を原料とした製品(棕櫚束子)は少数派となっている。

 束子に利用されるコイアファイバーは十分成熟したココナッツから得られるもので、 ブラウンコイア Brown coir と呼ばれ、マットやブラシなどに利用されるものと同様で、主要な生産国であるスリランカから輸入されている。ホームセンターで見かけるパーム束子はコスト削減のためにスリランカで製品に加工したもので、価格は同じ素材の国産製品の1/3程度であった。百円ショップの製品も同様にスリランカ産で、価格はされに低価格の2個百円であった。
 なお、コイアファイバーのうち ホワイトコイア White coir と呼ばれるものは、ココナッツが成熟する前に採取されるもので、色が白色又はうす茶色で、細くしなやかで、主としてロープに加工される。ホワイトコイアはインドが生産量の過半を占めている。

 シュロ皮は、国内ではかつては和歌山県の野上谷が古くからの産地で、各種シュロ製品も生産されていたが、安価なココヤシの繊維の輸入が拡大されるとともにシュロ皮の生産は衰退し、現在見られるシュロ製品(束子、シュロ縄、シュロほうき)の原料は安い価格で調達できる中国産に置き換わっている模様である。
 価格に関しては、原料価格差に起因してか、中国産シュロの束子はコイアファイバーの束子より少し高めの印象である。
 国産シュロの束子は存在するか

 ていねいに調製した国産シュロ皮による製品は品質が優れていると言われるが、代替品のココナッツの繊維や、中国産のシュロ皮・シュロ製品に対して価格的に太刀打ち困難で、その生産は衰微し、ほとんど目にすることがなくなっている。
 ただし、先の高田耕造商店に聞いたところ、同社では中国産のシュロを使用する一方で、現在でも和歌山県内の棕櫚皮採取の職人に国産シュロの採取を依頼して使用しているそうである。しかし、原材料コストがかさみ、同社の純国産の束子は日本一値段の高い束子(1,920円〜2,940円)となってしまっているとのことである。同社のホームページではこだわりの各種シュロの束子やほうきの通信販売も取り扱っている。
 トウジュロの皮は利用されてきたのか

 実際にシュロとトウジュロの皮を意識して見ても区別は困難であった。和歌山県で植栽されてきたものはシュロのようであり、シュロはトウジュロより大きく育つから、皮を採取するには効率がよいのかもしれない。一方、トウジュロの皮の利用に関しては明快な記述が見られず、図鑑類でも自信がないのか、トウジュロの皮の利用に関してはほとんど触れられていない。ただし、山渓の「日本の樹木」には、シュロとトウジュロに関して、いずれも「繊維は縄・ほうき、葉は細工物」としているが、本当に実態を確認したものなのかは不明である。

 昔、田舎の住宅地に点在するトウジュロの皮を採取して歩いていた人がいた記憶がある。そのときの用途は不明であるが、何らかの利用の実態はあったと思われれる。
 中国から輸入されている素材はシュロかトウジュロか

 トウジュロ唐棕櫚)はどの植物図鑑でも中国原産としているが、英語版 Wikipedia では、「野生は知られておらず、日本における栽培種である可能性がある」としていて、中国の図鑑である「中国樹木誌」を見ても、トウジュロは掲載されていない。日本の図鑑が置いてけぼりを食っているのであろうか。
 また、シュロについては「ワジュロ和棕櫚)」の別名もあって、日本産とも、日本と中国に自生するともいわれる一方、中国原産で、日本には移入されたものとする説明も見られ、こちらも従来の見解が怪しくなってきている。
 不幸なことに、唐棕櫚、和棕櫚のいずれも、呼称自体が不合理な存在となりつつある印象である。
 なお、先の中国樹木誌では、中国国内に分布する棕櫚属は、@ Trachycarpus fortunei (中国名 棕櫚(又は棕樹)、和名 シュロ)、A Trachycarpus martianus (中国名 山棕櫚)、B Trachycarpus nana (中国名 龍棕)の3種を掲げていて、棕皮の有用性を謳っているのは@シュロのみで、Bは小灌木としている。また、@のシュロについては日本にも分布している(??)としている。
 以上のことを念頭に置けば、中国から輸入している素材は「シュロ」であると理解して良さそうである。
 パーム束子とシュロ束子の特性

 両者の違いは見た目にも明らかで、パーム束子の方がやや淡色で、繊維もやや太めである。また、手でさわってみればシュロ束子の方が繊維がしなやかである。このため、両製品に対して、次のような説明を付しているメーカーの例(西尾商店)がある。
シュロ束子 パーム束子
 繊維は、やや柔らかくコシがあり手にもなじみやすく、腐食にも強いです。パームと同様に洗剤なしでも、食器の汚れを洗い流すことができます。食器・調理道具・木製品・ザル・鉄なべなどの洗浄用。あけび、籐かごなどのホコリ取りや艶だしに、シュロたわしがむいてます。ホーロー・ステンレス・テフロン加工の洗浄用にも適しています。  パーム繊維に含まれる脂質は腐敗・カビを防ぎます。ハードな毛でありながら水とよくなじみ、耐水性にもすぐれ、水切れも良い。
 洗剤なしでも油汚れが落ち、頑固な汚れ落としにもむいています。
 使い込むほどに繊維はしなやかになります。食器・調理道具・木製品・ザル・鉄なべなどの洗浄用。野菜の皮むき(新じゃが・ごぼうなど、または里芋の泥落としに)
 このことを頭に置いて、シュロ束子(棕櫚束子)とパーム束子をしばらく使ってみることにした。ついでに、昔はよく使った粉末のクレンザーとは相性がよいはずであるから、この組み合わせも再現してみた。
 
以下はその感想・気づきの点である。
 洗う食器の量にかかわらず、食べ残しをディスポーザーにザッと流して食器を食洗機に投入している場合は束子の出番は少なくなる。
 昔ながらの束子は、やはり鉄製のフライパンや中華鍋と特に相性がいい。さらに昔からの粉末のクレンザーは特に束子が喜ぶ。アルミ鍋は原則として研磨剤の入ったクレンザーは使わない。
 これらに束子を使う場合は、料理の残渣は竹製のササラであらかじめひと流しした方がよい。束子にカス、特に繊維質のカスが入り込むとまとわりついて不愉快だからである。
 製品の説明に、洗剤なしで油汚れが落ちるとする説明は興味深いため、鉄製の中華鍋で試してみたところ、いい仕上がりであった。鉄製品の日常の管理にはこの程度の仕上がりがよい。
 各種鍋類洗いに関しては、力を込めてワイルドに使えるため、業務用としては特に適合しているように思われる。
 シュロ束子で、食器についても洗剤なしで洗ったところ、悪くなかった。
・   カレーなど繊維質ではないもので汚れた食器は、束子で洗うと実に相性がいい。特に水の冷たい寒い時期に、お湯、洗剤を使わずにきれいに仕上がる。束子はスポンジタワシと違ってほとんど水を含まないため、手の濡れが最小限で済む点は都合がよい。  
 前から気になっていたササラの管理であるが、久しぶりに束子でゴシゴシ洗うことができたのは巡り合わせであった。
<参考1:シュロの雑件メモ>
@  シュロ
 ヤシ科シュロ属の常緑高木 Trachycarpus fortunei Chusan Palm
 葉は古くなると裂片の先が折れて垂れ下がる。雌雄別株。

 シュロは日本産、トウジュロは中国産。シュロは九州(南部)の原産といわれるが今日は野生しているものを見ない、多くは栽培品である。【樹木大図説】
 九州産のものは自生と推定される。中国にも分布する。【平凡社 日本の野生植物】
 和歌山県での棕櫚栽培の起源は、およそ千二百年もの昔に、弘法大師(空海)が唐(中国)から持ち帰った種子を、寺院の庭先に蒔いたことに始まると言われています。【紀美野町観光協会】
(注)また、弘法大師が登場した!!弘法大師は忙しい!
 日本のシュロは中国から移入されたという説もある。【樹に咲く花】
 シュロは中国南部原産であるが、日本やヨーロッパ中・南部でも戸外で広く栽培されており、すべてのヤシ科植物の中で最も耐寒性がある。【朝日百科 植物の世界】
 シュロは中国の亜熱帯地方に生育しますが、平安時代に鐘の鐘木や縄に利用するため移入された植物です。【国立科学博物館附属自然教育園】
 Trachycarpus fortunei(Chusan Palm, Windmill Palm or Chinese Windmill Palm)は中国中部湖北省、ミャンマー北部原産。古くから栽培されていて、正確な自然分布はわからない。T.fortunei ‘Wagnerianus’は以前はしばしば別の独立した種として扱っていたものであるが、中国や日本で栽培種から選抜された葉の小さい変異個体である。【英語版Wikipedia】
 原産地は中国中部、東アジア、ヒマラヤ。英語の一般名 Chusan palm は中国の Chusan Island 船山島(現在は Zhoushan Island)に由来し、この地でロバート・フォーチュンが初めてこの栽培品に出会った。ヨーロッパには1830年にドイツ人医師フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトによりもたらされ、英国には1836年に入った。【Royal Botanic Gardens, Kew】
 幹は,葉鞘(ようしよう)部が腐って残った黒褐色の繊維,つまりシュロ毛で密に包まれている。中国の原産で,南九州では野生化したところがある。シュロ毛は耐水性があり,ロープ,縄,みの,油のろ過用に用い,若葉を漂白したもので草履表,帽子,敷物,籠などを作る。トウジュロとの雑種と考えられる中間的なものも多い。【平凡社世界大百科事典】
 シュロの葉の基部にある茎を包む葉鞘部は繊維質で、この繊維には耐水性があり、中国でも日本でもかつては広く雨合羽やロープを作るのに用いられ、日常生活に有用であった。
 若葉は編み物に、若い花序は食用にされた。果実も医薬品として用いられ、抗ガン作用が知られている。【朝日百科 植物の世界】
 シュロは庭樹に用いないわけではないが本来庭樹としてはトウジュロを用うべきである、その上シュロの皮を剥がしたものは庭園用にはならない、シュロは皮をとるための実用の樹である。【樹木大図説】
 栽培の盛なのは和歌山県である、有田郡安締川の荘長峰の地(今の安締村)に文永年間自生のシュロあるを里人が発見しこれを庭樹として用いたのに始まる、後弘和年間隣村八幡村に結城式部という人がいて栽培を広め皮を大阪や江戸に送ったと伝える、同県では便宜上二つに分けてヒメシュロ、オニシュロとす、前者よりは葉をとり、後者より皮をとる、共に材を橦木、数寄屋建築の床柱、土木材に利用す。【樹木大図説】
 材は耐湿力あり、土工用、杭、屋根、柱、鐘の橦木とする。磨くと光沢あり、切って皿、鉢、土瓶敷とす、毛苞をシュロ皮といひ耐水性強く浸水して木槌でたたき軟くし毛を抜き縄につくる、毛はタワシ、靴拭、マット、蓑、刷毛、ふるいの底に作る。【樹木大図説】
 棕櫚科 棕櫚:長江流域以南多有栽培。葉鞘繊維(棕櫚皮)入薬、有収斂止血的功効、用于吐血、衄血(はなぢ)、尿血、血崩、外傷出血;根有利尿通淋、止血的功効、用于血崩淋証、小便不能;葉用于吐血、労傷;果実用于潟痢、腸風邪;茎随用于心悸、頭暈、崩漏;花有止血、止潟、活血散結的功効 用于血崩、帯下、腸風、潟痢、瘰癧。
【中国東部地区薬用木本植物野外鑑別手帳】
A  トウジュロ

 ヤシ科シュロ属の常緑小高木。 Trachycarpus wagnerianus  Minature Chusan Palm
 葉はシュロよりやや小さくて堅く、裂片の先は垂れ下がらない。雌雄異株。

 中国原産。西日本では寺院や庭園によく植えられている。【樹に咲く花】
 中国南部原産。【山渓 日本の樹木】
 中国大陸南部原産。【平凡社 日本の野生植物】
 Trachycarpus wagnerianus は、自生は知られておらず、日本における栽培種である可能性がある。ドイツ・ライプツィヒの園芸家アルベルト・ワグナー Albelt Wagner が日本で初めて“発見”した。庭園樹として優れていることが認識されるまでは、それほど知られていなかった。【英語版Wikipedia】
 起源は日本。自生は存在しない。ドイツの園芸家アルベルト・ワグナー Albelt Wagner が日本で発見した。【palmvrienden.net】
(注)「中国樹木誌」では掲載されていない。複数の中国語サイトでは、Trachycarpus wagnerianusTrachycarpus fortunei と同義としていた。
 東京などの市街地で野生状態で生えているものの中には、シュロとトウジュロの雑種と推定される個体がある。【平凡社 日本の野生植物】
 造園植栽用には初めから皮を剥がしてはいけない。トウジュロはその形態上和洋両用の庭に適する。盆栽用にはヒメシュロ(和歌山県におけるものとは異なる。)とうのがあり矮性品である。トウジュロの種子をまいても全部母樹の形とならず実生樹のなかにシュロの形をなすものがかなり多い、母株に交配されているものがあるわけでこういう結果となる。シュロとトウジュロのとの中間種のものがある。これをアイジュロという。【樹木大図説】
 中国では寺院に多く見られる。古来シュロやソテツを眺めていると色情を失うというので特に寺院に植えるのだといわれる。南方熊楠氏によれば腎張り男が泊り宿にもシュロのあるところを避けたということが風流局三味線に出ている。【樹木大図説】
(注)これは極めて興味深い重大な話である。既に枯れた老夫婦ならともかく、家を新築した若夫婦は、庭にシュロ類など決して植栽してはならないことになる。ただし、奥様が強すぎる場合に、さり気なく奥様対策として植栽することは考えられる。もちろんこの場合、亭主は極力シュロから目を背けなければならないのは言うまでもない。できれば、こうしたシュロの実際の効果に関する体験談についても知りたいものである。
<参考2:シュロ縄いろいろ>

 園芸用、垣根作りに古くから使われているシュロ縄(棕櫚縄)であるが、身近なホームセンターを見ると、産地、素材の多様性を確認した。
@  「国産シュロ縄」と表示して、素材表示のないもの
→ 素人にはシュロとコイアファイバーの区別は困難であるから、素材の表示がなければ、シュロか否かはわからない。国内で製造したシュロ縄という意味であれば、コイアファイバーであろう。
A  素材を「シュロ100%」と表示した中国産の「しゅろ縄」
→ シュロは中国原産といわれるから、中国産でも一向に構わないが、問題は均一な繊維を素材として仕上がりが良いかということである。
B  素材を「天然コイアファイバー」と表示したスリランカ産の「棕櫚縄」
→ 結束材の素材としてのコイアファイバーは一般的であり、また、生産国にこだわるものでもないが、シュロを素材としていないものに「棕櫚縄」と表示するのは、よろしくない。素材のコイアファイバーの表示がある場合はまだましであるが、総じて必ずしもそうでもなさそうである。
この点、束子屋さんは良心的で、こうした紛らわしい表示は見たことがない。
 国産のシュロを素材とした加工品はほぼ絶滅したと思って良いと思われる。
 なお、園芸用の結束素材(縄、紐)にはシュロコイアファイバーのほか、ジュートサイザルヘンプ(大麻)といった植物性繊維の製品も一般的である。
<参考3:シュロ材の利用>

 シュロの材部は、ココヤシの材のように箸やボウル(ココナッツの内果皮もボウルにする。)の素材、さらには建築資材として利用されている姿を見ないが、特異な用途として昔から梵鐘ぼんしょう。釣り鐘。)の橦木しゅもく)として利用されてきた歴史がある。鐘を痛めにくいといわれることによるものであるが、シュロの太さには限りがあるため、巨大な梵鐘に対しては適合しない。実態は、針葉樹(ヒノキなど)、広葉樹(ケヤキなど)も利用されている模様である。ただし、材の堅さや密度は音色にも影響するため、こだわりの住職はその感性で橦木の素材を選ぶのかもしれない。仮に、ケヤキのように堅くて耐久性に優れた材としたい場合は、打撃部をクッションで調整する方法もある。
    シュロ類の撞木の例
 こうして見ても、シュロなのか、トウジュロなのかはわからない。(勝央町真福寺)
 
 左の写真は芝増上寺の大梵鐘の撞木である。見たところでは針葉樹の芯去りの角材を八角形に仕上げた仕様となっている。15トンにも及ぶ鐘を撞くには、シュロでは太さが足りない。

 なお、撞木を吊るのに鎖やワイヤーが利用されているのは打撃位置の狂いが生じないようにするための選択のようである。やや情緒に欠けるが、繊維質の縄では撞木の重さで打撃部位が次第にずれてしまうようである。
   
   
<参考4:ココナッツの断面構造> 
   ココナッツの断面模式図
 ココヤシは樹体全体を余さずに利用できるという。この内ココナッツの利用は特に一般性がある。
  半割りのココナッツ
 甲板磨き用のため、中身は空っぽである。
(初代帆船日本丸にて)
  ヤング・ココナッツ
 成熟前のココナッツの内果皮に覆われた部分で、つまり「種子」である。(八百屋で購入)
外果皮 Exocarp 繊維状の ハスク husk を構成 。
中果皮 Mesocarp 繊維状の ハスク husk を構成 。コイアファイバーが得られる。
内果皮 Endocarp 堅い殻 shell で、ココナッツの最も堅い部分であり、ボウルやボタンなどの日用品、工芸品の素材となる。
胚乳@
脂肪層(固形胚乳)
Solid Endosperm
成熟に伴い厚くなる。 ココナッツ・ミートCoconut meat と呼ばれる。
若いココナッツでは軟らかく ココナッツ・ゼリーCoconut jelly とも。
わさび醤油で食するとタコに似た味がする。
成熟し硬くなった脂肪層を絞ったものがココナッツ・ミルクCocinut milkで調味料となる 。また、成熟脂肪層を乾燥したものがコプラ Copra で、ココナッツ・オイル Coconut oil が採れ、石鹸等の原料となる。コプラを細かくおろしたものが製菓用となる(デシケート)・ココナッツ・(ファイン)Desiccated coconut fine である。
胚乳A
胚乳液(液状胚乳)

Liquid Endosperm
成熟に伴い減少する。ココナッツウォーター Coconut water と呼ばれる。
甘味があり飲むことができる(があまり美味しくない。)
 しばしば店頭でヤング・ココナッツの名で販売されているのは、成熟前のココナッツの種子で、固形胚乳がまだ柔らかく、液状胚乳が多い段階のココナッツの外・中果皮を除去したものである。