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続・樹の散歩道
 フクジュソウはアリ散布植物とされているのに 種子にはエライオソームがあるわけでもないようであり 果実に何かが付いているということなのか?


 フクジュソウアリ散布植物であることは、その分布拡大にどの程度アリが貢献しているのかはわからないが、複数の研究者による書籍、複数の博物館等の記述でもこれに触れているから、多分そうなのであろう。しかし、アリの餌になっているものが何なのかについてはよくわからない。つまり、ニリンソウの場合(こちらを参照)と同様で、アリは果実の一端に食らいついてこれを運ぶらしいのである。ということは、小さな果実の特定の部位が(本来的には種子に付くとされている)エライオソームと同様の機能を有しているということなのであろうか。 【2018.4】 


 フクジュソウ(福寿草)に関する一般的な講釈は、花弁が艶やかで全体が凹面鏡のような形をなして光を集め、まだ気温の低い時期に温かい空間をつくり、花粉媒介者のアブにとって居心地のよいものとして活動を促しているという話が主で、この果実や種子(自然には露出しないと思われる。)について語られることはほとんどない。  
     
 
                  フクジュソウ(ミチノクフクジュソウ)だらけの風景
 広島県庄原市東城町為重(ためしげ)地区で広域にわたって群生しているフクジュソウ(ミチノクフクジュソウ)で、行政の支援も得ながら地域で保護管理され、開花時期には一般公開(入場料無料)されている。
 キンポウゲ科フクジュソウ属の多年草  Adonis multiflora
広島県庄原市東城町久代自治振興区 為重支部 
 
 
 
     フクジュソウ(ミチノクフクジュソウ)の花
 前出のフクジュソウの様子である。
            フクジュソウの花
 北海道内の管理されていない自生のフクジュソウである。
 Adonis ramosa
 
     
 例えばスミレ類がアリ散布植物であることが広く知られていて、多くの書籍でも採り上げられているのに対して、フクジュソウの場合は一般的な植物図鑑でもこれがアリ散布植物であるとして、積極的に記述している例は見られないのがふつうである。

 この違いの背景を想像すると、アリ散布植物の代表格として広く知られる例えばスミレ類は、種子にわかりやすいエライオソームをもつ上に、アリが実際にスミレ類の種子を運ぶ姿等が広く把握されているなど、あふれるほど多くの知見の集積があるのに対して、フクジュソウの果実(そう果)のアリ散布に関しては未だに十分な知見が集積されていないということによるものと思われる。

 こうした事情によるものなのか、フクジュソウに関する一般の理解についても「種子にエライオソームが付いている」と受け止めていることが多いことに気づく。これは明らかに誤りと思われるが、仮に「果実にエライオソームが付いている」として表現した場合であっても、そもそも果実には付属体らしきものは存在しないし、果皮の一部を指してわざわざエライオソームと呼ぶのも違和感がある。
 
 
    フクジュソウの若い集合果     フクジュソウの貧相な果実 1
 
たぶんこの種子は不稔と思われる。
   フクジュソウの貧相な果実 2
   
同左 
 
 
   そもそもフクジュソウでは、あまり結実がよろしくないように思われ、むっちり丸く充実した果実を都内ではなかなか目にすることができない。その上、アリが散布する頻度も決して高くないような印象があり、キッチリと観察した情報が乏しいようである。(次の資料を参照)

 なお、フクジュソウの種子の姿については、写真でも目にすることがない。日本植物種子図鑑でも、掲載されていいるのは何と果皮が乾燥した“果実”の写真である。この事情は、たぶん充実した果実であっても、これが裂開して自然に種子を見せることがないそう果であることによるものと思われる。 
 
     
 
 【植物生活史図鑑:河野 昭一】 
 フクジュソウ:

 そう果は広倒卵形で、短毛に覆われる。1頭花当たり20個から多いのもでは40個前後形成されるが、地上部が老化し、地面に倒れ込むと、次第に地面に散らばり、やがて落ち葉に覆われるものが大半である。しかし注意深く観察すると、しばしばトビイロケアリのような小型のアリが、フクジュソウの種子(注:果実の誤りであろう)の一端にある小さな突起の部分を加えて、移動しているものを見かけることがある。巣の中へ持ち込み、食べ物としているのであろうか。仮に運搬の途中で放り出すようなことがあれば、偶発的であるが、母植物からは少なくとも離れた場所に散布されることになる。さらに詳しい観察が待たれる。
 
     
 当初はむしろ何かふさわしい呼称を考えた方がよいのではないかとも思ったが、無理やり呼称を創作するほどのことでもなさそうである。つまり、こうした変則的なグループが多数存在するわけでもなさそうだからである。そこで、ここは素直にその部位に即して、例えば

 @ ニリンソウであれば、果実に宿存する花柱?
 A フクジュソウであれば、果皮の基部側の部分?
 B ヒメスゲであれば、果胞の基部?

を特定のアリが好んで運ぶとして理解すればよいと思われる。これらはあくまで付属体ではないから、突然エライオソームと呼ぶのは奇妙であり、むしろ個々に具体的に何なのかを示すべきであり、そうでなければ訳がわからない。

 一般に種枕や仮種皮がアリの食餌となり、種子が散布される場合、これらの種子の附属物はエライオソーム elaiosome, -s と呼ばれる(植物用語事典)が、ときに果実のアリ可食部も含めてエライオソームと呼んでいることがあるのは少々理解しにくい。
 
     
 【例:種子は広がる:中西弘樹】
 エライオソーム:
 アリを誘引する物質を含んだ種子の付属体は、カルンクル caruncle種枕(しゅちん)あるいは種阜(しゅふ)と呼ばれ、珠皮に由来し、種子が発生時に胎座に付着していたへそと呼ばれる部分ににできる。一方、果実がアリに運ばれるものは、果皮あるいは花床に由来する付属体(注)が果実にでき、同じようにアリを誘引する物質が含まれている。従って、これらの付属体を総称してエライオソーム elaiopspme と呼んでいる。

注:本文中、「付属体が果実にでき・・・」とあるが、例えばニリンソウ、フクジュソウ、アリの可食部をもつとされる一部のスゲ属種子の果胞に付加的≠ネ付属体は存在しない。 
 
 
 概念的にアリ散布植物として理解されている多くの植物について、地道な観察をするのは難儀であると思われ、まだわかっていないことが多いように思われる。ということは、少年少女たちが、よき指導者の下で、これら植物とアリの関係をねばり強く観察すれば、アリ散布の実態について理解を深めるための新たな有用な情報が多数得られるものと思われる。それほど、アリ散布の詳細についてはわかっていないことだらけのようである。  
 
<追記:フクジュソウの充実した果実とその種子の様子>  
 先にサンプルとしたフクジュソウの果実はいかにも貧相であったが、別の場所で充実した果実を確認することができた。観察個体では貧相でしいなと思われるものから、ほとんどが充実した果実となっている集合果まで、幅が見られた。  
     
 
    フクジュソウの集合果 1
 すべてしいなと思われ貧相である。 
   フクジュソウの集合果 2 
 一部だけ充実した果実となっている。
   フクジュソウの集合果 3
 多数の充実した果実をつけている。
     
  フクジュソウの果実(そう果) 1 
 果皮に覆われたそう果で、プックリと膨れている。
  フクジュソウの果実(そう果) 2 
 緑色の部分の果皮は薄いが、白い部分は肉質となっていて、アリの餌か?
     フクジュソウの種子
 種皮は暗褐色で薄い殻状である。 花柱はしっかりとしているので、そのままとしている。
 
     
   念のために種子を割ってみたところ、少々水っぽく、成熟までにはあと一歩といったところであった。