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続・樹の散歩道
  東京の街中に大きなアボカドの木があった!!
  しかもタップリ実をつけて・・・


 アボカドの果実に内蔵されている大きすぎる種子は、そのまま捨てるのも癪に障るめに、発芽や生長の経過を観察して楽しんでいる人も多いようである。ただし、大きくなる木であり、実をつけるまで遊び心で育てあげた実績のある人はそれほど多くないと思われる。一方、国内では、一部の地域での取組でアボカドが既に栽培・生産されている例もあり、また様々な品種の苗木も普通に販売されているから、国内でアボカドの木が実をつけている風景は足を運べば見ることはできるはずであるが、なかなかその機会はない。
 ところがである。東京の都会の真ん中の、少々せせこましいところに、放置されたような状態で大きなアボカドの木があるのを確認したのである。しかも生育途中の小さな果実をたくさんつけていたのである。 【2016.8】 


      突然のアボカドの木(道路側から)
     突然のアボカドの木(別の角度から)
 
 
 
            アボカドの葉 1
 大きいだけで特に特徴のないのっぺりした葉である。
 下方の枝の葉で、果実は見られない。
           アボカドの葉 2
 葉身は25センチほどもあって、国内の樹種でこれに似たものは思いつかない。 
   
          アボカドの樹皮
 樹幹はなぜか株立ち状となっていた。
        アボカドの成育中の果実 1
  間違いなく正真正銘の東京産のアボカドの若い果実である。(7月上旬) 
   
       アボカドの成育中の果実 2
 樹の下方には果実はほとんどなく、これは手の届かない位置での風景である。(7月上旬)
        アカドの成育中の果実 3
 栽培されているアボカドがふつうどの程度安室をつけるのかは知らないが、この木でも結構豊かに結実している。(6月下旬)
 
 
   【2016.9 追記】   
 
 
                     順調に成育中のアボカドの果実 (9月下旬)
 
     
   【2017.3 追記】   
 
 十分に成熟した東京産アボカド 1 (3月上旬)
        十分に成熟した東京産アボカド 2 (3月上旬)
 上の写真と同じ部位の果実の様子である。早く食べてあげなきゃもったいない! 
 
     
 非常に狭い敷地内の小さなプレハブ小屋の裏でひっそりと、しかしたくましく育っている。道から少し奥の位置となるため、不幸なことに根際には複数の粗大ゴミが投げ込まれていて、雰囲気はあまりよろしくない。

 たまたまその前の道を通りかかったときに、大きな葉をつけた見慣れない樹の姿が眼に入ったため、素性を確かめようとして葉を観察してみたのであるが、葉身が25センチほどもあって大きく、鋸歯もなく、とりあえずは樹種の絞り込みができない。見上げてみると何となすび型の深緑色の小さな果実をぶら下げているのに気づいた。まだ5センチ前後の大きさであるが、表面の凸凹の状態からぴんときた。これはアボカド以外には考えられないとの確信を持った。果実の様子に加えて、アボカドの種子の発芽を楽しんで、やや小さめであるが幼木の葉も見ていた経験も少し生きたと思われる。

 あくまで私有地であり迷惑をかける恐れがあることから、ここでは具体的な場所は明らかにできないが、本当にビックリである。都内には東京大空襲を生き残ったような大きなスダジイがしばしば住宅地に残っていたり、焼夷弾による焼け跡を残した大きなイチョウがあったりと、歴史を感じさせる樹木がしばしば残存しているのを見かけるが、このアボカドの木は住宅の庭先というわけでもなく、その経歴は全くわからない。

 写真を一生懸命に撮っていたところ、道を通りかかった二人連れのおばあちゃんが立ち止まって、丁寧にもこれがアボカドであることを講釈してくれた。幸い地元のおばあちゃんのようである。聞くところによると、昔、ここはアイスクリーム屋さんであったそうで、既に廃業したとのことである。このアボカドの由来の詳細は承知していないようであった。

 いずれにしても、人の手で植えられたことは間違いない。幹は株立ち状に4本になっている。アボカドの花は同一個体内での自家受粉を避けるために雌性先熟(雌しべ先熟)の性質があり、しかも成熟のタイミングが異なる2系統があるとされ、単木では結実しにくいことが知られているから、この場合は複数本あることで結実しているのかも知れない。栽培用のアボカドの苗木は多数の品種があって、すべて接ぎ木苗(台木は強靱な素性の実生)とされるが、このアボカドの木は、根際を見た限りでは実生木と思われる。

 このように都内で果実をつけるアボカドの大きな木が存在するのは珍しいはずである。例えば、区が所有者と交渉して、地域の珍しい樹木として「保存樹木」として、形式的に多少の樹木管理費を支払うかたちをとって看板を設置させてもらったら面白いと思われるが、ただ、間違いなく人為的な被害は免れないであろう。(注:余計なお世話であろうが、本気で果実を採るためには、3段伸縮タイプの高枝切り鋏が必要である。)

 これを考えると、やはりわかる人だけがわかった状態で、ひっそりと存在する方がいいのかも知れない。
 
 
   【2017.5 追記】   
    このアボカドの木の花を5月に確認した。  
    アボカドの開花までの様子  
 
       開き始めた混芽
 中心部分に小さな葉があり、周りは開き始めた花芽である。
      開き始めた花芽
 多数の花のつぼみが確認できる。 
    新葉とつぼみの様子
 花序軸が伸び出している。 
 
     
   アボカドの花の様子   
 
              アボカドの花 1
 花被片が淡緑色であるため、実に地味である。
             アボカドの花 2 
 同じクスノキ科のタブノキの花とそっくりである。花は次々とさみだれ式に開いていく。雌性先熟であることで有名。
   
          アボカドの花 3 (雌性期)
 雌しべ成熟期の花で、9個の雄しべは寝た状態となっている。蜜が溜まって輝いている。
         アボカドの花 4 (雄性期)
 雄しべの葯の弁が開く寸前の状態である。雌しべはたぶん受粉を了していると思われ、内側の3個の雄しべは直立状態となっている。  
 
     
 
                    アボカドの花 5 (雄性期)
 9個の雌しべの葯で、すべての弁が開いた状態となっていて、黄色の腺体部分では蜜が光っている。花の構造は同じクスノキ科のタブノキの場合(こちらを参照)と同様と思われる。 
 
     
   アボカドの完熟落下果実の様子と芽生えの経過   
   少々痛みが生じていたが、このアボカドの木の完熟果実が落ちて転がっていた。艶のある暗紫褐色で、販売されているメキシコ産のアボカドと比べても遜色がない。ひょっとすると鳥が突いた可能性がある。教材として頂戴して味わったところ、間違いなく完熟オボカドのいいお味であった。

 この実から一つ認識を新たにした。自然完熟のこの果実では、種子が発芽したくて我慢しきれなかったのか、パックリ割れ目が生じており、へその部分を見れば発芽の準備のために既にわずかに根を出していた。発芽試験をするにはこれ以上のものはない。先に栽培試験をしたところが途中で枯れてしまった(こちらを参照)ことから、早速ながら植木鉢に植えて、再挑戦することにした。 
 
     
 
      上等な東京産完熟アボカド      わずかに根を出した種子
 
割れ目の奥には胚の姿が見える。 
     アボカドの芽生え 1
 頂部にはすでに複数の葉が準備されている。
 
   
 
     アボカドの芽生え 2      アボカドの芽生え 3       アボカドの芽生え 4 
 
     
     
<アボカドに関する参考資料>  
 【Kew Royal Botanic Garden】(抄訳)
 Persea americana (avocado アボカド)はメキシコ及び中米原産の成長の早い樹木で、英語の一般名はavocado アボカド、 avocado pear アボカドナシ、alligator pear ワニナシである。

 アボカドは栄養価の高い果実であることから紀元前8000年以来栽培されており、それ以前は野生のものが食べられていた証拠がある。最古の考古学的な記録はメキシコのコスカトランで紀元前約10000年からである。

 樹高はふつう20mとなり、40mに達することもあり、50年くらい生きる。

 アボカドの花は自家受粉を減ずるために雄しべと雌しべが異なる時間に成熟する。(具体的には)花は2回開く。つまり最初は雌しべが成熟して開き、(長時間閉じた後に)次は雄しべが成熟して開く。
:アボカドの花は両性花であるが、いわゆる雌性先熟雌雄異熟の花ということである。)

 これにより自花受粉を避ける助けとなるが、一方で、単木では滅多に果実をつけないことを意味する。果樹園では受粉を確実なものとするために、異なる時間に花を開く品種が含まれれた状態を確保しなければならない。 
  【UC ANR "The Remarkable Avocado Flower" By Dr. B. O. Bergh】(抄訳・編集)
 アボカドの花は雌性期には花被片は2、3時間開き、この時には雄しべは反り返って平らに寝た状態になっていて花粉は出さず、雌しべは直立状態で受粉可能な状態となっている。その後花は閉じて、翌日にまた開く。今度は雄性期で、花被片を数時間開き、この時は雄しべが立ち上がっていて、花粉を出す。この段階では雌しべはもはや受粉しない。

 アボカドは交雑受粉が可能となるような2系統の品種が存在する。

 "A" タイプは(気候が暖かければ)初日の午前中に雌性で、翌日の午後に雄性となる。
 "B" タイプはこれとは全く逆で、午後に雌性で、翌日の午前に雄性となる。

 それぞれのタイプの一つの花に着目すると、タイミングは次のとおりである。

 
区分 初日 翌日
花のタイプ 午前 午後 午前 午後
A タイプ 雌性     雄性
B タイプ   雌性 雄性  

 しかし、両タイプの多数の花が毎日開花すれば、日々の全体の様子は以下のように見えることになる。

 
花のタイプ 午前 午後
A タイプ 雌性 雄性
B タイプ 雄性 雌性

 2種の開花タイプは平均気温(夜の最低と昼の最高)が約21度以上の時は、時計のような正確さで振る舞う。気温が下がると、毎日の開花が遅延して不規則になり、そのため、単木で雄性期の花と雌性期の花が同時に開花する可能性がある。
 【果実の事典(朝倉書店)】アボカド:
 わが国の適地は西南暖地の無霜地帯であるが、栽培北限は伊豆半島である。
 わが国では大正時代末期から昭和初期、戦後にかけて鹿児島、愛媛、高知、和歌山、静岡南部に導入され試作された。 現在では西南暖地の一部の温暖な地域において栽培されている。
 (注:ということは、東京は栽培適地ではないということになる。) 
 【熱帯果樹の栽培(農文協)】アボカド:
 わが国に最初にアボカドが導入されたのは1915年で、アメリカの農務省より静岡市興津の園芸試験場(現在の果樹研究所カンキツ研究興津拠点)に接ぎ木苗が寄贈された。 
 
 
<都内におけるその他のアボカド情報>  
 都内のアボカドの大きな木に関する情報を1件だけ確認した。  
 
 東洋大学京北中学・高等学校 (東京都文京区 白山2丁目36−5)  
 
 たぶん、アボカドの木と理解してよいと思われ、道から見える位置にある。花はたくさんつけると聞くが、残念ながら見上げた限りでは果実はつけないようである。果実をつけないアボカドの木など、リンゴをつけないリンゴの木、赤い実をつけないクロガネモチの雄株のようなもので、気の毒ではあるが、人間界では蔑ろにされても仕方がない存在である。開花特性の異なる系統の樹がもう1本あれば、全く違う目で見てもらえたのに、残念なことである。

 
     
   
       果実をつけないアボカドの木          同左樹皮の様子 
 
 
  【2018.5 追記】 いつの間にかこの植栽樹が姿を消していた。  
     
 なお、 都内のベルギー王国大使館にも、かつてはアボカドの木が道から見える場所にあって、しかも果実もつけていたという。残念ながら、敷地内の建物の改築に伴って姿を消したようである。  
 
【2017.1 追記】  
 個人ブログで東京海洋大学品川キャンパスにもアボカドの大径木があることが紹介されていたため、念のために確認した。
 構内を散策すると、大径木1本、中径木1本、小径木1本の計3本のアボカドの木を確認した。残念ながら何れも果実をつけないようである。 (東京海洋大学 品川キャンパス:東京都港区港南4-5-7)
 
 
 
   
   果実をつけないアボカドの大径木
 これで果実をつけないとは、もったいないことである。
 果実をつけないアボカドの中径木(左奥)と小径木(右)
 中径木の方は風によるものなのか、ひどく傾いていて、方杖支柱で支えられている。 
 
     
  【2018.10 追記】   
    先に紹介した豊かに実をつけたアボカドについて、特に継続的な観察はしていないが、2018年10月にふと見たところ、わずかな結実しか見られなかった。気候によるものかははっきりしないが、結実には変動があるようである。