トップページへ  木あそび目次へ
木あそび
こえまつ と わ
肥松 永久の美と用


 以前から、脂(やに)をたっぷり蓄えた肥松(こえまつ)の製品を手に取ってじっくり楽しみながら吟味して購入したいと思っていたが、都内では全く見かけない。デパートはもとより香川県の都内アンテナショップでも置いていない。しかし、たまたま高松へ行く機会があって、やっと製造元で製品に対面できた。【2007.11】   


 場所は香川県の高松市内で、市街地からは少々離れた住宅地である。知る人ぞ知る「クラフト・アリオカ」である。店舗の構えではなく、作業場といった風情である。スリッパで上がらせていただくと、半製品、製品が所狭しと置いてある。ほとんどがロクロによる刳り物で、素材は肥松のほかクリ、ケヤキ、モミ等々を扱っていて、一部に黒柿の製品も見られた。こうした中でも、やはり肥松の製品が主役となっていて、しっかりガラスのケースに納まって別格扱いで鎮座していた。

 あこがれの製品に対面できて、もうワクワクドキドキ状態であったが、さて、次に現実の問題に直面することになる。覚悟はしていたが恐ろしく値段が高い。素材として最適な脂を多く含んだ古木が少なくなったことから、材料の希少性が高まっているようである。最終的には予算枠を提示して見繕ってもらった中から選ぶこととした。


                   魅惑の肥松製品の例
 製作者の有岡良益ありおかりょうえき)氏は昭和54年には伝統工芸士の認定を受けている。製品の裏側には製作者の名前の一文字「良」の字の極印がある。




 価格は脂を多く含んだ赤味の強い製品ほど高価で、また、棗(なつめ)のような緻密な作業を要する製品はなお高い。もちろん、丸盆のような製品になると木目の具合も価格の大きな要素となっているのであろう。見た目にこの上なく美しいことに加え、使用しながら拭き込んで慈しみ、飴色なるのを楽しみとする製品は他に例がない。また、脂を蓄えた年輪は日にかざすと光が透けて、これがまた何とも魅力で、肥松の製品の最大の特徴となっている。

 そもそも塗装による塗膜がないわけであり、塗面の劣化は生じようがなく、むしろ使いながら年数を経ることでより輝きを増し、より大切にされる製品である。


 肥松こえまつ)は脂松やにまつ)とも呼ばれている。マツの木自体は広く分布するから、そのうちの高齢の特に脂の強い部分を素材とした什器は各地で作られたものと思われるが、現在耳にするのとして、先に掲げた香川県高松のクラフト・アリオカ(アカマツ、クロマツを素材として使用。)、広島県の宮島細工の系譜(同)、静岡県下田市の「下田脂松細工しまざき」(こちらはクロマツを素材として使用し、また、脂松やにまつ)と呼んでる。)がある。「しまざき」はロクロによる刳物系ではなく指物系の製品である。製品の仕上げはラッカー仕上げが基本のようである。指物は角があって乾拭きしにくいし、しばらくの間は脂(やに)でべたつく煩わしさを封印して、実用の便を考慮した仕様なのかもしれない。 

 なお、クラフト・アリオカの製品は実は年に1回程度定期的に都内の老舗百貨店でも実演販売をしていることを雑談の中で聞いた。全く知らなかったが、価格的には多分直接買った方がお得と思われる。(そうでないと困る。)


 肥松の工芸品は素材の確保が難しくなってきているようである。伝統工芸がその技術を継承するためには材料の確保は重要な問題で、先行きが心配であるが、その一方で材料の枯渇が原因で製品価格が跳ね上がれば、手持ちの製品の値打ちも高まるし・・・と、何とも勝手なことを考えているところである。
         <製品のしおり>



  有限会社 クラフト・アリオカ
    香川県高松市勅使町1007−1
    電話 087−866−8248

 
       工房内の展示品の一部
 摺り合わせのある製品はこれまた高額となる。
       有岡良益氏の極印
 
<参考>

 
肥松のことを東北地方ではアブラマツとかマツキ、関東地方では ヒデシデシデマキ、中部地方ではネマツカンマツアカシタイトボシ、近畿地方ではサイトボシ、中国四国地方ではコイマツコエマツ、九州地方ではアカシタイコイマツワリマツツガマツ、などと、さまざまな名称で呼んでいる。【宮本馨太郎】 
 
肥松のいろいろな表情 【追記 2011.6】
                 光が透けた肥松製品
 上記製品とは別の小型の肥松のボウルで、お手軽価格の製品である。内側に照明を当てて撮影したもので、光が透けて見える。脂がコッテリのさらに上質の高額の製品であればもっと透けて見える。塗装仕上げであるため、経年変化を楽しむことはできないが、肥松製品の魅力的な個性の一端を示している。
勝山木材ふれあい会館 扱い
  岡山県真庭市三田211
 
 
                 杢が出た肥松の長手盆
 別項でも紹介した肥松の盆であるが、が出て、これほど光を反射する肥松の製品は初めてであったため、肥松とはやや異質の印象を持っていた。しかし、次に紹介する肥松の銘木素材を見て、初めて納得できた。
あすなろ工芸 代表者 松本三郎
  岡山県津山市高野本郷1258-26
 
 
                   肥松の板材の杢
 これは都内の銘木展示施設で見かけた見事にの出た肥松(クロマツ)の板材(部分)である。説明板の内容は次のとおりである。

 「この脂松(やにまつ)は静岡県沼津の有名な千本松原のクロマツで、年数を経たものは樹脂分がきわめて多く、磨くと美しい光沢を示す。床柱(とこばしら)、床板(とこいた)に用いられる。」

 先の盆は何と18万円であったが、素材としてはこちらの方がさらに格上であろう。

財団法人 日本住宅・木材技術センター 試験研究所 銘木館
  東京都江東区新砂 3-4-2