木あそび アオダモの枝で本当に水が青くなるのか
アオダモの名前の由来に関しては、小枝を水に浸けると水が青くなることからこの名があるとするのが定説で、アオダモの説明に当たっての定型文となっている実態にあるが、実際に水が青くなったとする報告や写真はほとんど目にしない。かつて、北海道産のアオダモの枝で試したことがあったが、全く反応が無くてがっかりしたことがあり、確認できないままになっていた。 幸いにも身近な知ったところにアオダモの植栽木があって、このことを思い出したため、小枝を頂戴して、改めて確認することにした。【2010.7】 |
1 | 図鑑での説明事例 図鑑類では次のように説明されている。 |
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2 | 試験その1 常識的に考えれば、抽出成分が多いのは材部よりも樹皮と思われる。そう考えつつも、念のために以下のパターンのサンプルを屋内外光下で水道水に浸漬してみた。 A 単に小枝を短く切断したもの B 小枝を半割りしたもの C 小枝の樹皮をそぎ落としたもの D 小枝を樹皮付きのままたたきつぶしたもの 上記のいずれも、水が青くなる気配は全くなかった。当初は水が薄い茶褐色となり、時間が経過すればするほど、水溶性の成分が溶け出して、茶褐色の色が濃くなるだけであった。D の溶液は、そのまままで草木染めに使用できそうである。 |
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3 | 試験その2 そこで、仕方なく論文等を検索すると、アオダモが属するモクセイ科トネリコ属の樹木の樹皮の抽出成分に関して研究された経過があって、従前から蛍光物質の存在が確認されていた。 |
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こういった話であれば、方針転換が必要である。タンニンが溶け出したような濃い色になってしまってはたぶん蛍光を確認しにくいと考え、水道水を入れたビーカーにアオダモの小枝を数本挿して屋外の日陰で様子を観察した。 すると・・・ なんと! 蛍光を発したのである! 枝を挿した直後から感動の淡い青色を確認できたのである! |
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これを見たからには、さらに美しい青色を見なければ気持ちが収まらないため、ある秘密基地に持ち込んでさらに確認してみた。 |
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これでやっと安心することができた。 ところで、現行の図鑑類の説明ぶりであるが、経験則を踏まえると、単に「水が青くなる」とする内容では、いかにもわかりにくい。正確には「紫外線で蛍光を発する」ということである。顔料や染料の青い色のイメージとは全く別で、屋外でも日にかざしてもよくわからないし、白い紙をバックにしてもよくわからない。暗色のバックで初めて淡い青色の蛍光が確認できる。 多分、多くの人がアオダモのこの件では首をかしげた経験を持っているはずである。 |
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<参考1:アオダモの花と果実> | ||||||||||||||||||||||||||
アオダモは雄花を付ける株と両性花を付ける株が存在する。 ヒトツバタゴよりも花が小さく密に付き、繊細な印象である。 | ||||||||||||||||||||||||||
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<参考2:アオダモの材?> |
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<参考3:アオダモ材確保の取組> NPO(特定非営利活動法人)「アオダモ資源育成の会」は、バットの優良素材であるアオダモの安定供給に貢献すべく、社団法人日本野球機構からの助成金、一般寄付金、折損バットから作ったグッズ等の販売収入を原資にして、平成12年以来、北海道の各地で毎年アオダモの苗木の植栽を行っている。 |
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(メモ1:アオダモの名の由来) アオダモノ名前の由来に関する説明で、水が青く見える(蛍光を認識できる)としていても、見やすい条件を知らないと見逃す恐れがあって、一般性がなく、簡単・直感的に納得しにくい点があることは少々気になるところである。倉田悟は各地の地域名から類推し、アオダモの「アオ」は樹皮の色によるものと解釈したいとしている。【続樹木と方言】 確かに、我が日本国では緑色は基本的に「あお」と呼んでいるから、先の疑問と合わせ考えれば、簡単に同調してしまいそうである。 |
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(メモ2:アオダモの生材はよく燃えるか) アオダモは、生材でもよく燃えるとしばしば記述されていて、樹木大図説には次の記述(引用)が見られる。 「小野蘭山の木略にアオタゴの解として『木薪となし未だ乾かざるもの亦よく燃ゆ、猟師獣を逐ひ雪を侵し山に入り此木を伐り火をたき寒を凌ぐ』とある。」 また「コタン生物記」(更科源蔵ほか)にも、生材でも燃えやすい樹種として、モクセイ科トネリコ属のアオダモ、ヤチダモ、シオジの名が例示されている。 これらは経験的に知られていたものであるが、特にアオダモに関しては生材含水率が低い樹種であることがデータとしても明らかにされていて、このことから生材状態でもよく燃えることが説明されている。 ただし、近年の体験的記述はほとんど目にしない。北海道でもアオダモはそれほど多くはないし、大径木にもならないため、これを雑木のように薪として、しかも生材のまま燃やす機会には巡り会えないからであろう。 これについても是非とも自分の目で確認したいところである。贅沢な薪は手に入らないため、気休めに生の小枝を燃やそうとしたが、全然燃える気配はなかった。 |
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(メモ3:アオダモは青色染料になるのか) アオダモが青色の染料に使用されたとする記述が個人ホームページで広く見られるが、これはたぶんウィキペディアの記述に由来するもので、図鑑類を含めて一般的には認知されていない。ただし、アイヌ文化に関して、アイヌ文化研究家の更科源蔵氏の著作に次の記述が見られる。
しかし、氏の他の著作では、次のとおり、釧路白糠では(アイヌが)アオダモの煎汁で黒色に染めた例を紹介している。 |
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更科説の影響なのか、北大植物園の「北方民族植物標本園」の説明板には以下の記述が見られた。 | ||||||||||||||||||||||||||
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アオダモの煎汁で青く染めることが本当に可能なのか、現在のところ確認できない。アイヌ民族博物館でも、具体的な技術については確認できていない。 ほとんどの植物で適切な媒染剤を使用すれば染色は可能とされるが、青色に染色できる植物は限られていて、藍とクサギ以外は一般性のあるものとしては耳にしない。アオダモの場合は蛍光物質があっても青色の染料が採れるとは考えにくい。ただし、古くから染料として利用されたとするヤマアイ(トウダイグサ科)のように、青藍(インジゴチン)を含まないから緑色にしか染まらないと思われていたものが、染織家の手で青く染まることが確認された例もあることから、難しい問題である。是非とも検証が必要な課題であるが、とりあえずは疑義があり、本気で受け止めないこととする。 |
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(メモ4:アオダモの煎汁は入れ墨や止血・消毒に使われたのか) 前出の北大植物園の説明板のように、アイヌがアオダモの樹皮の煎汁を入れ墨の染料に使ったという記述は書籍では確認できなかったが、入れ墨を行うに際しての、たぶん止血・消毒にヤチダモ等を使用したものと思われる記述が、例によって更科源蔵氏の著作で見られる。 |
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ここではアオダモは直接登場していないが、同じトネリコ属のヤチダモが登場している。 アオダモ類に由来すると思われる生薬の秦皮については、別項(参照)で取り上げたとおりで、殺菌効果やタンニンに由来するであろう収斂・止血効果を利用していたことが理解できる。 列挙されたものでは、カシワの樹皮は広くタンニンの原料にされてきた。ヨモギ、ハコベは止血効果が知られている。その他、一般に樹皮の煎汁はタンニンを含むから、少なくとも一定の止血効果は期待できるであろう。 |
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(メモ5:アオダモの地方名の例) フヂキ(フジキ):「木材の工藝的利用」ではアオタゴ(コバノトネリコ)の俗称として「フジキ」の名を掲げているが、地方名(方言)である。同書では別に「フヂキ」を一般リストに掲げていて、こちらはもちろんマメ科のフジキのことである。 ニガキ:アオダモの地方名の一つに「ニガキ」の名があること知られている。アオダモの小枝の樹皮を実際に噛んでみると、本当にやや苦い味がする。古くは樹皮の煎液を洗眼薬にしたとも言われ、苦みと合わせ考えると、タンニンの収斂作用に期待したもののようである。 |
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【追記 2010.8】 | ||||||||||||||||||||||||||
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