|
まずは疑問点を整理してみる。
① 元祖中国では本草綱目で秦皮として薬効を認知した樹種は何か。
② トネリコ属の多くの樹種の間で薬効に差があるのか。
③ 中国医学を日本に取り込んだ漢方で、秦皮としてきた樹種は何か。
④ 中国から秦皮として現に輸入され、流通している生薬の来源樹種は何か。
ついでながら、ウィキペディアで、アオダモの名前の由来として掲げている(出典が明らかでない)複数の属性等に関して、古い書物や中国の図鑑で何らかの言及があるのか否かについても確認したい。 |
|
|
|
(手近な文献探索結果) |
|
|
1 |
【本草綱目 春陽堂版国訳】秦皮:
「釈名」の項(抄):
時珍曰く、秦皮はもと梣皮と書いた。その木は小さくして岑高だから、それに因んで名としたのである。世人は訛って樳木とし、又、訛って秦木とした。或は、もと秦地に参したものだから秦の名が生じたのだとも言う。
「集解」の項(抄):
別録に曰く、秦皮は廬江(ろこう)の川谷、及び寃句(えんこう)の水辺に生ずる。2月、8月に皮を採って陰乾する。
弘景曰く、俗に、これは樊槻(はんき)の皮だといふが、水に浸けて墨に和して書くと、色が脱ちずして微青である。
恭曰く、この樹は檀に似て葉が細く、皮は白点があって粗錯でない。皮を取って水に浸けると碧色で、それで紙に書いて看るとみな青色なるものが真なるものだ。(以下略)
(訳者注釈)現在、中国では苦櫪白蝋樹 Fraxinus rhynchophylla(F.chinensis var.rhynchophylla)(中国東北部、河北、河南などに分布)ならびに核桃楸 Juglans mandshurica(クルミ科マンシュウグルミ)(中国東北部、内蒙古、河北、河南、山西、陜西などに分布)の全く異なった両種の樹皮を「秦皮」としている。市場品には後者が多いようであるが、元来は前者に代用されたものであろう。「中薬誌」Ⅲ、448ページ、また
J.mandshurica の樹皮は市場では「秋皮」とも呼んでいる。生薬学雑誌 9,10(1955)(木島)
「主治」の項:
【風寒湿痺、洗洗たる寒気、熱、日中の青瞖、白膜を除く。久しく服すれば頭が白からず、身を軽くする】(本経) 【男子の精を少(か)くもの、婦人の帯下、小児の癇、身熱を療ず、洗目湯に作るによし。久しく服すれば皮膚光沢となり、肥大し、子を有(も)つ】(別録) 【目を明にし、目中の久熱、両目の赤腫、疼痛、風涙の止まぬものを去る。湯にして小児の身熱を浴す。水で煎じて澄清し、赤目を洗う。極めて効ある】(甄權) 【熱痢下重、下焦の虚に主効がある】(好古) 【葉と共に湯に煮て蛇咬を洗ひ、并に研末して伝ける】(臓器)
「発明」の項(抄):・・・・時珍曰く、梣皮は色は青、気は寒、味は苦、性は濇である。乃ち厥陰、肝、少陽、膽の経の薬である。故に目病、驚く癇を治するにはその木を平にするを取り、下痢、崩帯を治するには収濇を取るのである。又、能く男子の少精を治して精を益し、子を有(も)たしむるは、いずれもその濇にして補するを取るのである。故に老子は「天道は濇を尊ぶ」といった。この薬は乃ち服食、及び驚癇、崩、痢に適するところのものだが、一般にはただその目を治するの一節を知るに止り、幾(ほとん)ど廃棄するに近い。良(まこと)に遺憾な次第である。・・・・ |
|
・ |
蛍光反応があるということは、トネリコ属が想定されるが、紙が青くなるとは考え難い。 |
・ |
原文から種を特定することは困難であるが、それよりも秦皮の名の下に具体的にどの種が使われたのかという情報の方が重要である。 |
・ |
また「墨に和して書くと、色が脱ちずして微青である。」としているうち、「微青」については青というよりも感性の表現と思われる。 |
・ |
感性の青としては松煙墨由来の青墨があるほか、本当に青色染料を添加した青墨も存在する。 |
・ |
ウィキペディアの「高級感を出すために黒墨に加えて青墨を作るための着色剤として利用された」とする記述の真偽は不明で、「微青」から発展した内容なのであろうか。少なくとも着色剤としての利用は考えられない。 |
・ |
注の苦櫪白蝋樹 Fraxinus rhynchophylla は秦皮の一つであることを確認した(後述)。 |
|
|
|
|
|
2 |
【和漢三才図会 平凡社訳注版】
秦皮(シンピ、トネリコノキ)
梣皮、樳木、石檀、樊槻、盆桂、苦樹、苦櫪
和名 止禰利古乃木(トネリコノキ)、また太無乃木(タモノキ)とも
「本草綱目」に次のようにいう。秦皮の木(モクセイ科オオトネリコ)は、檀(たん)によく似ていて、枝・幹はみな青緑色。葉は細くて匙頭のようである。木は大きく材質は虚で光らず、花実はない。皮には白点があって粗くはない。皮を水に漬すとすぐ碧色(みどりいろ)になる。これで紙に字を書いてみて、ちゃんとした青色であれば本物である。根は槐の根に似ている。
秦皮(苦、微寒、濇)
厥陰肝経、少陽胆経の薬である。だから目の病・驚癇(てんかん)を直すのはこれが木を平らにする効能によってであり、下痢・崩(ながち)・帯(こしけ)を直すのはしぶを収める効能によってである。目を治す要薬である。
思うに、秦皮(トネリコ)の樹は丹波山中に多くある。 |
|
・ |
ここでは、秦皮をトネリコとしているが、日本で秦皮として扱ったものは、トネリコではないようである(後述)。 |
|
|
|
3 |
【本草綱目啓蒙 平凡社版】
秦皮 トネリコ、トネリコノキ、タムノキ、ダゴノキ、アヲタゴ、トウネヂコ
この木寒地に多し。葉は・・・(中略)薬には皮を用ゆ。舶来なし。京師の薬舗に貨者は、江州、若州、丹州より出ず。皮少許を採て水中に浸せば水面青色になる者、真なり。唐山の松煙墨は秦皮汁を用ひ色を助くること集解(注:本草綱目の秦皮の「集解」の項を指す。)に説り。本邦にて皮を濃煎し膠となすを木膠と云。仏教を写す墨に用ゆ。墨工これを貯ふ。国によりてこの木にも白蝋を生ずること水蝋樹(イボタ)と同じ。是も、とばしりと云う。唐山には是あることを聞ず。 |
|
・ |
下線部の内容は、本草綱目の「墨に和して書くと、色が脱ちずして・・・」と同様の意味合いにも思える。しかし、墨はそもそも煤と動物性の膠で作るから、これとどんな違いがあるのかはわからない。 |
|
|
|
4 |
【中国樹木誌】白蝋樹属梣属)Fraxinus (日本の属名:トネリコ属)
70余種存在し、中国に20種、移入種約7種・7変種がある。
材質堅靱、紋理通直、富弾性、用途広。白蝋樹常用以放?白蝋虫。生産白蝋。有些種類樹皮入薬、生薬名“秦皮”。多為著名録化樹種及優良用材樹種。
(注) は日本に分布するもの。
1 |
|
光蝋樹(中国樹木分類学)Fraxinus griffithii 和名:シマトネリコ
中国各地、日本、インド、フィリピン、インドネシアに分布。
|
2 |
|
銹毛白蝋樹(雲南樹木誌)、銹毛梣(中国樹木誌) Fraxinus ferrugincea
中国(貴州南部ほか)に分布。
樹皮味苦渋、可収斂、消炎、治痢疾、腹潟及蛔虫等症状。
|
3 |
|
白槍杆 Fraxinus malacophylla
中国(雲南東南部ほか)に分布
樹皮、根皮及須根入薬、有消炎、利尿、通便、消食、健胃、止痛等効。木材供製農具、家具及器物柄等。
|
4 |
|
小葉白蝋(中国樹木分類学)、秦皮(神農本草経)、小葉梣(中国樹木誌)
Fraxinus bungeana 和名:ヒメトネリコ
木材堅靱、有弾性、供製家具、農具等用。樹皮称“秦皮”、味苦、為健胃収斂剤、治腸炎、可煎汁治眼疾。可作緑化樹種。
|
5 |
|
三葉白蝋樹(雲南植物誌)、三葉梣(中国樹木誌) Fraxinus trifoliolata
中国(四川等)に分布。
|
6 |
|
多花白蝋樹(雲南植物誌)、多花梣(中国樹木誌)Fraxinus floribunda
中国(貴州、雲南南部及び東南部)、チベット東南部、カシミール地区、インド東北部、ミャンマー、タイ、ベトナムに分布。
|
7 |
|
苦櫪木(中国樹木分類学)
Fraxinus insularis
.retusa
F.floribunda
中国各地に分布。
|
8 |
|
戸曇白蝋樹(秦岭植物誌)、宿柱梣(中国樹木誌)
Fraxinus stylosa
F.fallax
F.fallax var.rtylosa
中国各地に分布。
樹皮称“秦皮”或“岑皮”供薬用、対目疾、菌痢、慢性気管炎、血管病及風湿性関節炎等有較好療効。
|
9 |
|
秦岭白蝋樹(中国樹木分類学)、秦梣岭(中国植物誌)
Fraxinus paxiana
中国各地に分布。
|
10 |
|
廬山白蝋樹(中国樹木誌) 和名:マルバアオダモ
Fraxinus sieboldiana
F.mariesii
中国各地、日本に分布。
樹姿優美、為優良鑑賞樹種。用種子繁殖。
|
11 |
|
白蝋樹(中国樹木分類学)、 梣皮(神農本草経)Fraxinus chinensis
中国各地、朝鮮半島、ベトナムに分布。
白蝋為我国(中国)特産、“峨眉白蝋”暢鎖国外、可用作精密機械及金属器皿的防潮、防銹和潤滑剤、紡織工業着光剤、造紙工業的填充和不光原料。
木材堅靱、富弾性、稍耐腐、易切削、耐磨損;供製工具柄、家具、車廂(車両)、網球拍(ラケット)、双槓、地板、門○(穴冠+口+タ)、玩具、縫紉機(ミシン)台板等。枝条柔靱、可供編織、粗者可倣釣魚竿、手杖、紅櫻槍等。
*中国樹木誌では薬効に関する記述はないが、中草薬図譜では本種を秦皮(岑皮、秦白皮、蝋樹皮)の来源樹種の一つとして掲げている。
|
12 |
|
大葉白蝋樹(中国樹木分類学)、花曲柳(東北木本植物図誌)、苦櫪白蝋樹(中草薬図譜)
Fraxinus rhynchophylla
F.chinensis var. rhynchophylla
中国各地、朝鮮半島、日本に分布?。 和名:チョウセントネリコ
(注)日本国内での自生は確認できない。。
木材供建築、車両、家具、農具等用。枝条供編織。樹皮可作“秦皮”入薬。種子含油量15.8%、可供製肥皂(石けん)。為産区保持水土及緑化樹種。用種子繁殖。
|
13 |
|
尖萼梣(植物研究)Fraxinus longicuspis 和名:ヤマトアオダモ
中国各地、日本に分布。 |
14 |
|
窄葉白蝋樹 、狭葉梣(中国樹木誌) Fraxinus baroniana
中国陝西、甘粛、四川等に分布。
|
15 |
|
西藏白蝋樹、椒状白蝋樹(西藏植物誌)、椒葉梣(中国樹木誌)Fraxinus xanthoxyloides
チベット西部、パキスタン、カシミール、インドに分布。
|
16 |
|
美国白蝋樹(中国樹木分類学) 大葉白蝋(中国主要樹種造林技術)、美国白梣(中国樹木誌)Fruxinus americana
北アメリカ原産で、中国各地に植栽あり。
|
17 |
|
美国紅梣(山東樹木誌)、洋白蝋(中国樹木誌)Fraxinus pennsylvanica
北アメリカ原産。北京、山東青島及び泰安等に植栽がある。
|
17-a |
|
美国緑梣 Fraxinus pennsylvanica var.subintegerrima
北アメリカ原産。中国各地に植栽あり。
為優良速生用材樹種。常用作行道樹(並木)及“四旁”緑化。
|
18 |
|
絨毛白蝋(中国主要樹種造林技術)Fraxinus velutina
北アメリカ原産。中国各地の植栽があり、天津での植栽が最多。
木材堅靱有弾性、結構均匀、紋理緻密、強度大、耐摩損、抗腐蝕、繊維長、年輪明○(湿の右)、心辺材不明●(湿の右)、乾時易開裂、易加工;可供建築、家具、農具、工具柄等用材。為城市優良緑化及用材樹種。
|
19 |
|
湖北梣 (中国樹木誌) Fraxinus hupehensis
中国(湖北)に分布。
為我国(注:中国を指す。)特有珍稀優良用材樹種。
|
20 |
|
象蝋樹 (中国樹木分類学)
Fraxinus platypoda
F.inopinata
中国各地に分布。
為優良用材及緑化樹種。
|
21 |
|
新疆白蝋樹 小葉白蝋 欧州白蝋(中国主要樹種造林技術) Fraxinus sogdiana
中国に分布。
木材堅靱有弾性、為建築、紡織、車両、家具和工具柄優良用材。樹葉可作緑肥及牛羊飼料。為優美園林及防護林樹種。
|
22 |
|
水曲柳(中国樹木分類学) 和名ヤチダモ。日本での輸入木材の通称は「中国タモ」
Fraxinus mandshurica
F.nigra subsp. mandshurica
中国各地、俄羅斯遠東、朝鮮半島、日本に分布(注:日本のヤチダモを本種の変種 Fraxinus mandshurica var.japonica とする見解もあるが、ここでは同種と見なしている。)。
材質優良、有弾性、紋理美;為膠合板主要原料及航空用材、可供室内装飾、機械製造、造船、車両、家具、象嵌木地板、工具柄、銃床等。
*薬効の記述なし。
|
22-a |
|
短梗水曲柳(西北植物学報) Fraxinus mandshurica subsp.brevipedicellata
中国(山西南部ほか)に分布
用種子繁殖及萌芽更新。為産区重要珍貴速成用材樹種。 |
|
|
トネリコ属で中国樹木誌掲載の22種1亜種1変種(うち3種1変種は米国産)のうち、生薬としての秦皮となるとしているものは以下の3種である。
4 :Fraxinus bungeana 小葉白蝋樹皮称“秦皮”
8 :Fraxinus stylosa 戸曇白蝋樹樹皮称“秦皮”或“岑皮”供薬用
12:Fraxinus rhynchophylla 大葉白蝋樹 樹皮可作“秦皮”入薬
説明文の雰囲気では④と⑧は秦皮そのものといった風情である。 |
|
|
5 |
【中草薬図譜】:秦皮(秦皮の来源植物を掲載)
1 |
|
白蝋樹 Fraxinus chinensis 秦皮来源 別名 岑皮、秦白皮、蝋樹皮
効能:清熱燥湿、収渋明目
(注)上記の中国樹木誌に掲載されているが、秦皮との関連には触れていない。 |
2 |
|
尖葉白蝋樹 Fraxinus szaboana 秦皮来源 別名 蝋樹皮、秦白皮、梣皮
中国各地に分布。
効能:清熱燥湿、収渋、明目。
(注)上記の中国樹木誌に本種は掲載されていない。 |
3 |
|
苦櫪白蝋樹 Fraxinus rhynchophylla 秦皮来源 別名 岑皮、梣皮、蝋樹皮
効能:清熱燥湿、明目。
(注)上記の中国樹木誌でも大葉白蝋樹の名で、秦皮を作成できるとしている。
|
|
|
・ |
先の中国樹木誌で掲げている秦皮がらみの3種と本書の2種が一致する樹種は Fraxinus rhynchophylla 1種のみである。 |
|
|
|
6 |
【中薬大辞典(小学館・翻訳)】:秦皮(秦皮の来源植物、薬効等を詳細に解説)
1 |
|
苦櫪白蝋樹 Fraxinus rhynchophylla |
2 |
|
小葉白蝋樹 Fraxinus bungeana |
3 |
|
秦嶺白蝋樹 Fraxinus paxiana |
|
|
・ |
先の中国樹木誌で掲げている秦皮がらみの3種と本書の2種が一致している。結局のところ、地域差があるのか、利用実態を把握するに際しての同定に問題があるのか、真実はよくわからない。 |
|
|
|
7 |
【廣川薬用植物大事典(廣川書店)】
トネリコの樹皮を乾かした生薬を従来日本で秦皮(シンピ)に当てている。(注:異論あり。後述。)秦皮の煎剤は消炎、収れん薬であり、また熱性下痢に用いられる。植物各部に mannitol(マンニトール)を含み、また樹皮に aesculetin(エスクレチン)とそのグルコシド aesculin(エスクリン)とを含有する。なお、ヒメトネリコ F.bungeana 及びチョウセントネリコ F.rhynchophylla の枝の皮も秦皮と称する生薬として用いられている。なお、中国で秦皮と称するものはマンシュウグルミ Juglans mandshurica の皮である。
|
|
中国樹木誌の2種と一致。 |
|
|
8 |
【倉田悟:続樹木と方言】(S42.7.31、地球出版株式会社)
・ |
トネリコノキという和名は古く本草和名を始め、平安初期の諸薬物書に見えており延喜式には諸国より年料として秦皮(トネリコ)の納められていた事が記録されている。秦皮は眼疾薬であった。 |
・ |
トネリコは分布の狭い種であり、古の薬物書に出ているトネリコノキもトネリコ系統の方言名を有する樹種もアオダモ類(アオダモ Fraxinus lanuginosa form.serrata 、マルバアオダモ Fraxinus sieboldiana 、コバシジノキ Fraxinus sambucina 、ヤマトアオダモ Fraxinus longicuspis )である事は牧野富太郎先生が主張されるとおりである。
|
|
|
本書では、国内で秦皮として扱ったものは、分布が限られているトネリコではなく、アオダモ類であるとしている。 |
|
|
|
以上の限られた資料であるが、中国及び国内での「秦皮」の由来樹種を再掲整理してみる。
樹木誌:中国樹木誌
図譜:中草薬図譜
辞典:中薬大辞典
訳注:国訳本草綱目の注釈
啓蒙:本草綱目啓蒙
倉田:続樹木と方言 |
|
|
|
<中国の秦皮>
Fraxinus bungeana |
小葉白蝋【樹木誌】 |
樹皮称“秦皮” |
小葉白蝋樹【辞典】 |
秦皮の来原植物 |
ヒメトネリコ【廣川】 |
秦皮として用いられている |
【中国・百仁堂】 |
歴代本草学における秦皮のひとつ |
Fraxinus stylosa |
戸曇白蝋樹【樹木誌】 |
樹皮称“秦皮”或“岑皮”供薬用 |
宿柱白蝋樹【中国語HP】 |
秦皮基原 |
Fraxinus rhynchophylla |
大葉白蝋樹【樹木誌】 |
樹皮可作“秦皮”入薬 |
苦櫪白蝋樹【辞典】 |
秦皮の来原植物 |
苦櫪白蝋樹【訳注】 |
樹皮を秦皮としている |
苦櫪白蝋樹【図譜】 |
秦皮 |
チョウセントネリコ【廣川】 |
樹皮を秦皮としている |
【中国・百仁堂】 |
歴代本草学における秦皮のひとつ |
苦櫪白蝋樹【中国語HP】 |
秦皮基原 |
Fraxinus chinensis |
白蝋樹【図譜】 |
秦皮 |
白蝋樹【中国語HP】 |
秦皮基原 |
Fraxinus szaboana |
尖葉白蝋樹【図譜】 |
秦皮 |
尖葉白蝋樹【中国語HP】 |
秦皮基原 |
Fraxinus paxiana |
秦嶺白蝋樹【辞典】 |
秦皮の来原植物 |
【中国・百仁堂】 |
歴代本草学における秦皮のひとつ |
Juglans mandshurica |
核桃楸【訳注】 |
樹皮を秦皮としている(代用) |
マンシュウグルミ【廣川】 |
中国の秦皮はこの皮 |
【中国・百仁堂】 |
この異物同名品は正しくない |
|
|
|
|
<日本での秦皮(としたもの)>
トネリコ
Fraxinus japonica |
【和漢】、【啓蒙】、【廣川】
【国内複数の薬局のHP】 秦皮はトネリコの樹皮
*「トネリコなど」としている場合もある。 |
アオダモ
Fraxinus lanuginosa form.serrata
|
【啓蒙】 |
アオダモ類 |
【倉田】 古の薬物書のトネリコ等はアオダモ類を指す。 |
マンシュウグルミ
Juglans mandshurica
|
【国内HP】 トネリコと並ぶ秦皮の基原 |
|
|
|
|
まとめ
ア |
生薬である秦皮の有効成分が何で、樹種による含有量の多寡がどうなのかについては、明確になっていないようである。エスクリン、エスクレチンによる殺菌作用と、タンニンによる収れん作用について説明されている事例がある。マンシュウグルミが代用とされていることについては、タンニン成分に依存したものとの印象がある。
なお、秦皮は日本薬局方には収載されていない。
|
イ |
核桃楸 Juglans mandshurica(マンシュウグルミ)も秦皮として扱われるとの記述がしばしば見られたが、中国樹木誌では秦皮の代用品とするとの記述は見られなかった。中国自生のその他クルミ属の3種1変種についても同様であった。同書では、マンシュウグルミは葉、果皮及び樹皮が土農薬原料になることは記述している。
|
ウ |
日本でかつて眼疾薬とされた秦皮はアオダモ類の模様である。
|
エ |
生薬として秦皮の名で販売されているものは、中国からの輸入品で、取扱い業者は、「トネリコの樹皮」又は「トネリコの樹皮またはマンシュウグルミの枝皮」としているものがあるほか、香港に拠点を置く業者が秦皮の来源としてトネリコ属の複数の樹種(上記「中国の秦皮」の項を参照)を掲げている例がある。しかし、製品が何なのかはよくわからない。実態上はトネリコ属の複数の樹種の樹皮が利用されていると理解するしかない。マンシュウグルミの混入の有無、比率の実態は確認する術はない。 |
|
|
|
|
<参考:アオダモの名前の由来> |
|
ウィキペディアで、アオダモの名前の由来に関して、出典は明らかにしていないが、以下の記述がある。
「アオダモのアオの由来は
①雨上がりに樹皮が緑青色になること、
②枝を水に浸けて暫くすると水が青い蛍光色になること、
③高級感を出すために黒墨に加えて青墨を作るための着色剤として利用されたこと、
④青い染料に利用されたことによるといわれる。」
|
|
①はよくわからない。言及している事例が見つからない。水を掛けてみたが青く見えない。
②これは一般に知られていて、実際に確認もした。(参照)
③もよくわからない。墨がらみの本草綱目の記述もよくわからない。
④はアイヌがかつて利用したとの記述(更科源蔵氏)が見られるが、よくわかっていない。少なくとも国内では普遍性がないから、名前の由来に絡むとは考えられない。
ということで、②だけは一般に認知されている内容である。 |
|
|
|
|