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刃物あそび
 
   最も退屈な刃物 爪切り
             


 身長が伸びなくなっても、髪の毛と爪は伸び続ける。このうち、髪の毛はなくなってしまえばそれまでであるが、それでも爪は伸び続けるから、爪切りには一生お世話になる。爪切りは家族全員が必ず定期的に使う生活密着型の刃物である。しかし、より上質で、デザインもそこそこ、そしてより使いやすく愛着を持てる製品の製造のためにそれほどのエネルギーが投入されてきたようには感じない。刃物の中で最も存在感に乏しい製品である。それともこれが究極の姿、行き着いたデザインとでもいうのだろうか。【2007.7】  


クリッパー式(nail clipper)

てこの原理を利用したもので、大正時代に欧米から伝わり、1935年頃から国内での生産が始まったとされる。値段も手頃で、国内では最も普及しているタイプである。もちろん百円ショップにも大小ぞろぞろある。


フェザーツメキリ

 最もオーソドックスなタイプで、どこの家にもありそうな気がする。大きさはS、M、Lの3種類、色も赤、緑、青の3色があり、定番商品として長きにわたって販売されている。
 爪飛散防止のカバーも金属製で、実に堅実な製品である。ただし、デザインは実用性一点張りで全く色気がない。また、価格を抑制しているからヤスリもおまけ程度の仕様となっているのは仕方がない。


フェザー パラダ(PaRaDa)


 デザインと品質を少し高めたタイプで、どの程度進化したかを確認したく購入したもの。長きにわたる退屈な製品の歴史の中で、少しだけ目を向けたかなといった印象である。全身梨地(サテン)仕上げとなっている。指の当たりが安定するように、レバーの指当て部分が少し凹面に湾曲している。飛散防止のカバーも精度のよい金属製でOKである。また通常、ヤスリはレバーの裏をヤスリ風に加工しているが、この製品では珍しく、別素材の本物のヤスリを組み入れている。使い心地であるが、切れ味は良好で、これに由来するのか不思議なことに切る時の音が小さいのだ。
刃の噛み合わせは、刃の傷みを防止するため、下刃を上刃より0.1ミリ以内前に出して設定しているとのこと。
 上の製品と一緒に引き出しに入れておくと、案の定、家族はこちらを使う。従来の爪切りと少し違うのは貢献であり、さらなる対抗馬も期待したい。

商店での宣伝配布用

 店の名前が入っていた宣伝用である。こうした爪切りは職場置きに都合がいい。また、マナーの悪い家族がいればいるほど爪切りが行方不明になる頻度が高くなるため、大いに役に立つ。この製品では、飛散防止の樹脂カバーが、レバー以外をすっぽり覆っている。爪切り本体は決して上質ではないが、カバーがピッチリと収まりがよく、爪切り単体よりも印象がいい。カバーに「PAT 169190」とある。特許の期限は切れているようであるが、今でも飛散防止カバーの有効な特許が複数存在する模様である。

フェザー プリエ(Plie)足用ツメキリ(カーブ)

 足用の爪切りということで、多少巻き込んだ爪でも切りやすいように斜め刃となっている。
 この製品は刃先が普通にカーブしたタイプであるが、別に一直線のストレートタイプがある。仕上げはきれいである。この製品の特徴は、レバーの指の当たる部分と飛散防止カバー(下面も覆っている)のそれぞれが同じ軟質樹脂でできていることで、滑り止めになると同時に手当たりの柔らかさを実現している。しかし、樹脂部分の経年変化や汚れの不安があり、要経過観察である。デザイン自体は非常にシンプルであるが、印象はまあまあである。ただし、バネがやや硬いのが難である。
 こちらの製品の歯の噛み合わせは、0.3ミリ以内でずらしているとのことである。

貝印 あしのつめ

 製品のレバー部にひらがなで「あしのつめ」と、堂々と表示して、いかにも自信がありそうなので、つい購入してしまったもの。しかし、その表示はぺらぺらのシールで、放っておいてもいずれ自然にはがれそうなため、即座に剥がしてしまった。刃部は斜めのストレートで、仕上げは良好である。飛散防止のカバーは残念ながらポリプロピレンで、しかも刃部よりも出っ張っていてじゃまになるため、少し短く自分でカットしなければならなかった。さらに、使用時にレバーを起こす際に、指がかかりにくいのも難である。またレバーを回転して引き起こそうとしてもカバーに引っかかってしまう。本体・刃部はしっかりしているのに、カバーの材質・仕様が半端なのが残念である。

ITEZA HATTORI 足のつめきり

 これも足専用をを謳った製品である。爪の飛散防止カバーが金属製であるのはエライ。刃の開きが非常に広くて、約4ミリほどある。これだけのことで、上に掲げた2つの製品よりも明らかに使いやすい。メーカーに関する詳しいことはわからない。
  G フェザー ツメキリ足用(斜め直刃) 

 
再びフェザーの製品である、極厚の鉄板を使用した全長105ミリの大きめの爪切りである。素材が厚くなると丈夫であるが、反面重く、バネも硬くなってしまっている。相当の力持ちでないと使いにくいであろう。仕上げはきれいである。
 
<参考> 上記PaRaDa拡大写真
 クリッパー式の爪切りの噛み合わせをわずかにずらしているのは、快適な切れ味を長持ちさせるための取扱いとのことである。かつてはこれが特許となっていたという。メーカーによって表現が異なっている。

【フェザー】:刃先の上刃と下刃をわずかに前後にずらした噛み合わせの設定をオフセット加工と呼んでいる。

【貝印】:下刃が上刃より前に出ていることが良い爪切りの条件の一つとして、これを下刃の「かぶり」と呼んでいる。


和ばさみタイプ

 古くは小刀で爪を切ったり、爪磨(つまと)と呼ばれる砥石(といし)で研いだらしく、江戸時代に入り和ばさみの普及に伴って、爪を切るのにも使われるようになり、さらに明治時代には爪切り専用の握りばさみが流行して,一般にも普及したという。【平凡社世界大百科事典】
 都内でも複数の刃物店で見かけたが、ある店で聞いてみると、需要もなく既に作っていないため現品限りとのことであった。
 クリッパー式やニッパー式のタイプは右手でも左手でも気にせずに使えるのに対し、和鋏タイプは明らかに形勢は不利で、姿を消すのは時間の問題であろう。

 後学のために製品を観察してみた。やはり糸を切るものとは少々仕様が異なる。大きさは普通の握り鋏程度であるが、違うのは刃部の背が富士山形になっていて、身が厚く丈夫な造りとなっていることであった。使用に当たっては山の頂点の手前に指を当てて、刃のアゴに近い部分を使うのだそうである。指を当てる部分は指が痛くないよう厚めで、角が落としてある。      (手持製品なし。)

洋鋏タイプ

 こちらはあまり一般的ではないが、爪が薄くぺらぺらで、クリッパー式でぱちんとやると割れそうで不安のある人にはお奨めのようである。


木屋 爪切り その1

 日本橋木屋扱いで、ニッケルメッキ仕上げである。
 KIYAの文字が入っており、木屋がイタリアのメーカー「コマック社」に発注している製品である。
 
 
木屋 爪切り その2

 
これも日本橋木屋扱いであるが、こちらはステンレスの製品である。仕上げは良好で、刃部には反りがある。

  発注者のKIYAの文字が入っている。うちの奥様の日常使いとなっている。



謎のロブソの爪切り

 国産で、別項で紹介したもの。これも刃部に反りがある。

D

木屋 赤ちゃん用爪切り

 日本橋木屋扱いで、クロムメッキ仕上げである。
 KIYAの文字が入っており、安全に配慮して先丸となっており、反りがある。


ニッパー式(nail nipper)


 欧米で広く利用されているとのことである。野獣並みの荒々しい爪や、救いようがないほど頑固な巻き爪には具合がよいそうである。高級感があることやこだわりの製品が多いことなどから、遊び心もあって愛用者もいる模様である。国産、輸入品と品数は豊富で、価格は5千円前後からと高いことから、生産、販売者にとっては、こちらのほうが多くの利益をもたらすに違いない。
 一部の製品で、「爪飛びガード」付きとしたものもあるが、このタイプの爪切りは基本的に切った爪をポロポロ散らかすことが前提となっている。だらしのない印象があり、あまり興味がわかないことから、手持製品はない。