刃物あそび
和製ロブソ(ROBUSO)の怪
刃物のロブソの名前は以前に購入した爪切り鋏にその名前が見られたが、数あるメーカーの一つと受け止めていて、特に関心も向かなかった。ある時、できのいい洋ばさみがないものかとウェブ検索すると、ロブソ(ROBUSO)の名がゾロゾロ出てくる。出所はネット通販の2社で、いずれも都内の製品であることをうたっている。さらに、“ROBUSO”で検索すると、ドイツのゾリンゲンのロブソ(ROBUSO)社に行き着いた。これは一体どういうことだろう。単に偶然に同じ商標ということであろうか。 【2007.5】 |
1 | ドイツ・ロブソ(ROBUSO)社 1919年にドイツのゾリンゲンで Julius Buntenbach により創立された同族経営会社。製品は家庭用からプロ用のまで、多岐多種類のハサミ、電動裁断機 縫製用小物類、工業用ピンセットなどにも及んでいる。商標はハートに似たかたちのプレッツェル(PRETZEL、塩味のクラッカーのこと。なお、プリッツ(PRETZ)はグリコの登録商標。)にROBUSO、SOLINGENの文字である。創業者がプレッツェルの絵を選んだのは、創業地では地域需要の高いプレッツェルを多くのベーカリーが生産していたことに基づくものという、変な話である。多分、自分が好きであったのだろう。 商標は日本でも登録されているが、未だ製品にはお目にかかったことがない。HPのカタログで見ると、はさみは本流のオーソドックスなデザインで、きれいに仕上げており、高品質の製品と思われる。面白いことに、カタログの一角には、日本のアルスコーポレーション株式会社と貝印の製品がもぐり込んでいた。 ■http://www.robuso.de/english.html
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ドイツ・ロブソ社の製品例・部分(カタログより) |
ドイツ・ロブソ社の製品例・部分(カタログより) |
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2 | 引き出しロブソ 随分前に日本橋のK刃物店で購入したような記憶がある。クロムメッキの爪切りで、仕上げは決して美しくはないが実用上は特に支障はない。こうした鋏を爪を切るのに使うか使わないかは個人の嗜好によるものであって、わが家では奥様専用となっている。本人は使いやすいといって結構気に入っている。 商標の絵柄は何とドイツのロブソ社とほとんど同じで、“ROBUSO”の文字もしっかり入っている。しかし、“SOLINGEN”の文字が入っていない。また、本家ロブソではこうした製品は扱っていない。まさか国内でのOEM生産品でもあるまいし・・・和製ロブソか・・・?
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3 | 錦糸町ロブソ こんな見出しとすると、何か新規開店の風俗店のようであるが、便宜上なので悪しからず。 記述情報は見出せないが、都内のある刃物店で以下の話を聞いた。 @ ロブソは東京都墨田区錦糸町の鈴木さんが作っていたが、高齢で仕事を離れたのは随分前のことである。 A ロブソの名前のことで、何かいろいろともめていたように記憶する。 B 昔はナイフもあったようだ。 ということだが、現在有効な登録された商標も見当たらない。 |
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4 | 浅草ロブソ(ROBUSO) 浅草のK刃物店をのぞいたところ、ねじり鉢巻きのような例のドイツのロブソ社風の商標に“ROBUSO”の刻印のあるハサミを数点展示していた。製品は、小振りの洋バサミ、刺繍バサミ、外科バサミ等である。洋バサミのすり合わせは良好であった。ただし、いずれも小振りの製品にもかかわらず、価格は4千円から5千円クラスと、かなり高めである。店主に聞くと、随分昔の価格のままとのこと。ということは、これら製品はあまり動いていないということである。特にドイツともゾリンゲンとも書いていないから、これも和製ロブソと推定した。先の製品と同様、仕上げが特別に美しいという印象はないが、実用品としては何ら支障はなさそうである。 |
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5 | 通販ロブソ(ROBUSO)その1 岐阜県のO社が楽天の通販に乗せている製品がある。ニッパー式爪切りと甘皮ニッパーで、ホームページの説明書きには、 「ROBUSO(ロブソ)は東京の老舗ブランド 最高の品です。」 とある。価格は非常に高い。出品が維持されているということは、品質には問題はなさそうである。念のためにこの会社に聞いたところ、取り扱っているのは明確に、ドイツ製ではなく、東京製のロブソだという。製品の刻印は確認できない。 |
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6 | 通販ロブソ(ROBUSO)その2 また、東京都杉並区のS刃物店が、ハサミを楽天の通販に乗せている。こちらも非常に高価格で、製品は「ROBUSO 外科用ハサミ」としていて、さらに「東京製の手作りハサミ」との説明文を掲載している。都内なので、本件を是非とも解明すべく店舗を覗いてみることにした。とっ、店に入ってまた病気が再発してしまった。余分なものを一つ買ってしまったのだ。このことはまたの機会にするとして、さて、例のロブソであるが、ドイツのロブソと同じねじり鉢巻き風の刻印のある製品であった。これも和製ロブソということになる。 一方、都内の別の刃物屋さんに聞くと、現在、東京でロブソの名前で製作しているところ(老舗)は知らないという。ここは中国ではないし、いよいよ謎が深まってくる。 そこで、いろいろ推理してみる。 ・錦糸町の制作者が、ロブソの名前でもめていたというのは、本家ドイツのロブソから商標にかかわって訴えられたのかもしれない。 ・浅草ロブソ及び通販ロブソ等は可能性として、@かつての錦糸町の制作者が勝手に商標をパクって作った製品の在庫品、A通販者がドイツ製と知らないで問屋から仕入れたもの、B刃物問屋が都内のいずれかの製作所に発注して作らせた純国産ロブソ(ロブソもどき)、C本家ロブソ社からの委託による日本国内OEM生産品、のいずれかを考える。 このうち、Aは本家ロブソのカタログをHPで確認したところ、ニッパー式の爪切り、甘皮ニッパー、その他都内で見かけたようなタイプのハサミは製作していないので消滅する。@、Bは中国であれば特段驚くに値しない日常茶飯事であろうが、日本にあってはあまり健全な情景とは言い難い。Cは必然性がない。 いずれにしても、本家ロブソとは無関係にこうした行為が平然となされていたことは驚くべきことである。売り手が決してドイツ製だなどといっていないのはまだしも、モノづくりのマナーとして最低の行為である。といっても、実は、ドイツにロブソの名の刃物メーカーがあることをほとんどの刃物屋が知らないということもわかった。また、和製ロブソは多くの刃物店で在庫しているのに対し、ドイツの本家ロブソの製品自体、全く見かけないのだ。一部の通販でやっと見かけたものの、ほとんど日本に入っていないのではないかと思われる。ロブソのネームバリューがあるわけでもないこうした状態で、なぜ和製ロブソなのか、そしてこれまでなぜ広く取り扱われていたのだろうか。ますます謎が深まる。 (注)写真で紹介した製品を販売していた刃物店では、現在でも同型の鋏を販売している。店頭では意味不明の「ドイツ型」と表示していたが、店の名前を刻印したものに変わっており、プリッツェルのマークとROBUSOの文字はないことから、現在ではセーフである。 (注)の追記(2013.8) 誇り高き前記刃物店を久しぶりにのぞいたところ、くだんの製品が姿を消していた。しかし、他の刃物店では現在、通販でも取り扱っていることから、在庫がまだあるということなのであろう。 |