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樹の散歩道
   トキノキの実と材


 とち餅(参照)栃の実せんべい(参照)ついては別項で採り上げたところであるが、ここではしばしば公園でも見かけるトチノキの実と案外身近な存在であるトキノキの材を採り上げることとする。
 都内でトチノキとしては、桜田通りの街路樹が有名である。かつては救荒食物でもあったトチノキが、農林水産省の前にずらりと並んでいるのは、意識した演出のようで面白い。 この樹は明治45年に植栽されたものといわれ、都会の過酷な環境に耐え、そこそこの太さに育って、樹によっては多くの実を付けているものも見かけた。しかし、こうした環境での実の落下は都合が悪いようで、誠に情緒に欠けるが、道路管理上の必要性から毎年実を除去しているそうである。栃の実の果皮はそれほど硬いものではないため、頭に一粒コツンと落ちても、本来は自然とのふれあいとして感動すべきであるが、行政の立場は難しい。【2010.11】


 
                        開花期のトチノキ
                 大きな木では遠くからでないと気付かない。
 
     
 トチノキ(栃の木)のあらまし

 トキノキは大きめの葉を付け、日が透ける姿が美しく、いい緑陰を形成する。大きく成長するため、公園樹や街路樹として多用されている。
 
     
      冬芽(頂芽)
 
芽鱗は樹脂でべたべた状態で、虫もさわることはできないであろう。
    破裂寸前の状態
 今にもはじけそうである。
   展開し始めた葉
 成葉の印象はホオノキにやや似るが、ホオノキの新葉がピント上を向くのに対し、トチノキでは下を向く。  
 
     
 
         トチノキの葉
 葉は掌状複葉で、対生する。日の透けた葉は美しく、よい緑陰を提供するい。
         トチノキの黄葉  
    秋の黄葉も美しい。
 
 
 
      トチノキの花序
 雄花と両性花が混在している。個々の花はグチャグチャしてわかりにくい
     トチノキの雄花
 花弁は4個、雄しべは7個ある。 
 雌しべは退化しているようである。
     トチノキの両性花
 雌しべは1個、雄しべは7個。 
 
     
 トチノキ科トチノキ属の落葉高木。 Aesculus turbinata
 日本固有種で、北海道(札幌市以南)、本州、四国、九州に分布。(九州には少ない。)
 葉は対生し掌状複葉。小葉は5〜9個。先は急に尖る。ふちには細かく低い鋸歯がある。 
種子のあくを抜いてトチ餅をつくる。花は蜜源として重要。頂芽は大きく、芽鱗は樹脂でべとべとしている。果実は熟すと3裂し、光沢のある褐色の種子を出す。【樹に咲く花ほか】
 東京桜田門外の並木は立派であってよく生育しているが、将来自動車の排気ガスに対して永続生育する力があるかどうか疑問である。【樹木大図説】
(注)当地の環境は実に過酷で、聞くところによれば近年ポツポツと枯れが発生しているという。
 
 
 栃の実

 クリクリとした栃の実(種子)は栗よりもつややかで美しい。栗の実はあっという間に虫が食い散らかすが、栃の実については、自然豊かな山中で落果後に日数が経過すると虫が付くようである。平場の植栽木の栃の実で虫の穴が開いているものは見たことがない。
 
 
    樹上の果実
 裂開途中で、チラリと種子を見せている。
    落下した果実
 写真の果実はいずれも裂開はしていない。
    3裂した果皮
 果皮は厚く、内側はふかふか状態である。
 
 
 植栽樹の採りたての栃の実
 新鮮な栃の実(種子)は濃い色で、いい照りがある。
    同左乾燥状態   
 乾燥に伴い淡色となる。線状の突起(後述)が目立つようになる。
   飛騨産の栃の実
 完全乾燥状態で、皺が生じている。この状態で保存される。
 
 
 果実の果皮は厚く、熟して3裂し、種子を出す。種子は扁球形で(赤)褐色、下半分はへそ(臍)になる。
【橋詰ほか】
 裂開した果皮から転がり出た直後の種子は、暗赤褐色で、乾燥が進むにつれて淡色となり、ついには茶色となる。なお、当初は球形に近いが、長期に保管して乾燥が進むと、やや平たくなると共に凸凹が生じる。
 種子の色の薄い部分は「へそ」と呼んでいるが、本体の半分も占める部分をへそと呼ぶのは違和感があり、むしろ「おしり」と呼んだ方が親しみがわく。クリの場合は「座」と呼んでいるが、これも是非とも「おしり」と呼びたい。なお、「へそ」と呼ぶ事情は、種子が育つ際に胎座に付着して栄養をもらっていた部分を、哺乳動物にたとえた呼称とされる。
 
 
(栃の実の加工・アク抜き)

 栃の実の各地での様々な加工事例、手法に関しては「トチノキの自然史とトチノミの食文化」(日本林業調査会)等に詳しい。とち餅の場合のほぼ共通する基本的な流れは、

 水に漬けて虫殺し→天日乾燥→水で戻す→(熱湯で皮を軟化)→皮むき→(水さらし)→(茹でる)・木灰処理→水洗い・(水さらし)→餅米と一緒に蒸す→搗く
というものである。 (注)( )内は欠いている場合がある。

 細部の工程に関しては、水さらしの有無や加熱のタイミングにバリエーションが見られるほか、木灰処理に当たって、実を砕いている例もある。
 なお、果皮を剥く道具(トチムキトチオシクジリネジキトチヘシ等の呼称がある。)は、シンプルで、片方を括った二枚の板の一方に持ち手があり、これに夾んで揉みしごくようにして皮を剥くことでは共通している。実際に見たものも簡素で難しいものではなく、ある程度の力を入れて実を夾むことができればOKである。

 餅米と栃の実の混合比については、前掲書の事例を抽出すれば、

 (例1)餅米と栃の実それぞれ1升
 (例2)餅米と栃の実2対1
 (例3)餅米2升と栃の実5合(かつては1対2)
 等が見られた。

 近年、栃の実の価格は高騰している模様で、これに伴って、栃の実を利用した製品の栃の実含有量は、製品価格を維持するために次第に低下している可能性がある。

 栃餅の製品を販売する場合に、トチノキの灰汁抜きがどれだけ大変であるかを説明するために、その工程を写真付きで説明したパネルを設置している風景をしばしば見かける。以下の写真はその例である。
 
 
【余呉町版・栃の実灰汁抜き工程】  
  <説明文再掲>
@ 虫出し:採種後の栃の実を水漬け約2〜3日
A 天日乾燥:水切後の栃の実を天日乾燥約1ヶ月
B 皮剥き:乾燥後の栃の実を加熱処理・皮剥き
C 冷水処理:皮剥きした栃の実を冷水に浸す約7日
D 灰がき1:木灰に熱湯を混入し中和剤を作成
E 灰がき2:液状化した木灰に栃の実を投入する
F 灰がき3:投入した栃の実と木灰を混ぜ合わす
G 灰がき4:保温のために上部に木灰を敷き均す
H 灰がき処理:灰がき処理1日強屋内等で保温処理
I 灰がき終了:灰がき後の栃の実を容器に移し替え
J 水洗い:灰がき後の栃の実 灰落とし・水洗い
K 灰汁抜き完成:餅米2升に対し栃の実1升を適分別
 
 
【寿製菓版・灰汁抜きの工程】  
  <説明文再掲>
 この「アク」抜きは、半月以上の時間を要し、十数工程もの作業を必要とする、大変手間がかかるものです。そして、その作業は、生の栃の実の乾燥具合や、工程中に使う水の温度、煮るときに沸騰させる時間など、細かいことのひとつひとつがすべて仕上がりに影響されるのです・・・
@  栃の実は天日干しして乾燥した状態で保存されています。
A  乾燥した栃の実を一週間ほど水に浸します。
B  ひとつひとつ丁寧に皮をむいてゆきます。
C  皮をむいたあと流水にさらします。
D  水がきれいになったら、およそ2時間ほど火にかけて煮ます。
E  桶に栃の実、木灰、水を入れ二昼夜置きます。
F  粘土状になった灰の中の栃の実はきれいな黄金色へと変わります。
G  灰をきれいに落とし、さらに、ひとつひとつ丁寧に、手作業で薄皮をはがしていきます。
H 半月もの手間ひまをかけて、ようやく下ごしらえが終わります。
 手間ひまを惜しまずに下ごしらえを終えた「とちの実」を、蒸した餅米と一緒に“杵”でつき、「とち餅」ができあがります。
 
 
(栃の実一粒でお試し〜第1ラウンド)

 剥皮とアク抜きの感触を知るため、まずは栃の実一粒で、方法を変えて試してみることとした。
 
 サンプルは数年間乾燥した栃の実で、これを水に戻して使用。
 写真は縦に半割したもので、突起部分には中に幼根がある。 
 便宜上、包丁で四つ割りにして子葉を取り出した。しかし、この方法では果皮も薄皮も剥きにくいことがわかった。
 これを水にさらした後にアク抜きした。薄皮はアク抜きの後なら簡単に落とすことができた。
 ナラ灰で2日間アク抜き後に水洗い。このまま味見するため、少しゆでたところ、やや崩れてしまった。
 火にかけるのであればアク抜き前の方がよい。
 
   
(栃の実一粒でお試し〜第2ラウンド)

 
今度は水で戻した実を熱い湯に漬けた後に板に夾んで優しく周囲に圧を掛けて揉んだ上で包丁で二つ割りにしたところ、何と、果皮と薄皮が子葉からきれいに浮いていて、簡単に剥皮することができた。
 
 
(栃の実数粒でお試し〜第3ラウンド)  
 今度は板で夾む際にもう少し強い圧を掛けたところ、刃物を使わなくても外皮が裂けて口が開くことを確認した。子葉はいくつかに割れるのは避けられないが、粉々に砕けることはない。これで、大体の様子がわかった。

 この後のアク抜きの工程を考えれば、必ずしも丸い状態を維持した剥皮にこだわる理由はなく、むしろ適宜小割りされている状態の方が灰汁に接する面積が多くなって好ましいものと思われる。
 
(栃の実の皮剥き道具の試作)  
 
 目にした栃の実の皮剥きの道具の現物や写真を参考に、簡単で使い易そうな道具を試作してみた。4枚の板の貼り合わせで、台の部分だけ若干幅広とした。
 専用の道具が不可欠ではないが、これでやれば、楽に、しかも力加減も微妙に調製できることを確認した。やはり道具はあった方がよい。 
(全長:39.5センチ、素材:赤松)
 
 
 なお、アク抜き後の実を少し試食してみたが、栃の実特有の風味を感じたものの、この状態では正直に言えばやはり栗の方がおいしい。  
 
<参考1:栃の実に関するメモ>  
 
 種肉は渋みあり直に食用とはならない、これはサポニンを含むからである。これを全然加工せず鼠に与えると3日で斃死する。種肉が石鹸代用に使われるのはサポニンによる、そのまま薬用として百日セキの薬効ありともいう。食用とするためには苦渋味を除くのだがこの仕事はすこぶる手数を要し、俗に米一升トチ粉一升と同価だという。越前の山間では種実を水に浸けること30日、次に皮をむき灰汁で煮て粉としモチ米に和す、これをトチ餅という。トチ餅は各地で作り正月用としている。【樹木大図説】
 トチノキは、2〜3年ごとに豊作年があり、隔年に並作(凶作)となる。【トチノキの自然史とトチノミの食文化】
 栃の実が出土した縄文遺跡の数は164(36都道府県)を数える。栃の実の出土例は、圧倒的に東北、関東、中部地方を中心とする東北日本に偏している。出土例が多く、今日でも栃の実の食用が盛んな県は、山形県、福岡県、新潟県、富山県、岐阜県、兵庫県である。出土例は少ないが、栃の実の食用が盛んな県は、石川県と福井県である。出土例はあるが、栃の実の食習俗を確認できない県は、北海道、青森県、宮城県、千葉県、神奈川県、大阪府、岡山県、福岡県、長崎県、大分県、宮崎県である。【トチノキの自然史とトチノミの食文化】
 
 
<参考2:トチノキの仲間たち>  
 
@  セイヨウトチノキ(西洋栃の木) Aesculus hippocastanum
 ギリシャ北部〜小アジア原産。
 
 
   セイヨウトチノキの花
 花はトチノキよりわずかに華やかである。
 セイヨウトチノキの果実
  果皮の刺が特徴。
   セイヨウトチノキの種子
 セイヨウトチノキの種子のおしり(へそ)は日本のトチノキより小さく、人間界とは逆である。
 
 
 葉は掌状複葉で対生。小葉は5〜7個。ふちには重鋸歯がある。花は白色に少し赤みがさす。果実は果皮に短い刺があるのが特徴【樹に咲く花】
 日本に入ったのは明治中期である。【樹木大図説】
 英名には horse chestnut , European horse chestnut , common horse chestnut , 独名は gemeine Rosskastanie , 仏名は marronier(マロニエ)という。
 → 銀座のマロニエ通りの話はこちらを参照。
 果実は緑色で、刺のある果皮の中に種子が1つ(稀に2つまたは3つ)入っている。種子は直径2〜4センチ、光沢のある暗赤褐色で、やや白いへそがある。【Wikipedia 英語版】
 果実は直径2〜2.5インチで1個又は2個の種子が入っている。果皮は淡褐色で刺があり、裂開する。【Plant UConn database】
 
 
A  アカバナトチノキ(赤花栃の木) Aesculus pavia
 米国南部原産。Scarlet Buckeye, Red buckeye, Firecracker plant
 
 
   アカバナトチノキの花
 花は赤いが、大きく開かないため華やかさは感じない。
 アカバナトチノキの若い果実
アカバナトチノキの果実 
 
 
 葉は掌状複葉で対生。小葉は5個。ふちには細かい鋸歯がある。花は鮮やかな紅色の円錐花序。【樹に咲く花】
 高さは2.4〜3メートルの小さな樹であるが、稀に9メートルを超えるものがある。果実は果皮が平滑で薄く、直径5〜7.6センチで、果皮の中には毒のある栗に似た種子が1〜3個入っている。【floridata.com】
 
 
B  ベニバナトチノキ(紅花栃の木) Aesculus × carnea
 Red Horse-chestnut
 
 

      ベニバナトチノキの花
   花色は最も華やかである。
   ベニバナトチノキの果実
  果実にはわずかに刺が残る。
 ベニバナトチノキの種子
 種子のおしり(へそ)はやはり小さい。 
 
 
 アカバナトチノキとセイヨウトチノキの種間雑種。葉は掌状複葉で対生。小葉は5〜7個。ふちには粗い重鋸歯がある。花は紅色から朱紅色。【樹に咲く花】
 セイヨウトチノキとアカバナトチノキとの交配で作出された園芸種で、繁殖はふつうセイヨウトチノキを台木とした接ぎ木によっている。【木の大百科】
注:接ぎ木に関する記述は海外の情報に基づくものと思われる。国内ではトチノキが台木と聞く。
 アカバナトチノキとセイヨウトチノキのハイブリッドで、両親の中間的特徴があり、樹高も20〜25m止まりであるが、アカバナトチノキから赤味のある花色を受け継いでいる。大きな庭園や公園で一般的で、ブリオッティイ‘Briotii’(花は濃い赤色で実を付けない),オニール‘O'Neil’(花は明るい赤色),フォートマクネア‘Fort Mcnair’(花は濃いピンク色で、喉は黄色),プランティエーレンシス‘Plantierensis’(花はローズピンクで、喉は黄色)などの栽培種が存在する。【Wikipedia 英語版】
 最大で30〜40フィートの高さと広がりとなる。果実は長さ1〜3インチの楕円形で褐色。【USDA】
 果実は長さ1〜1.5インチで丸い。果皮は淡褐色で刺があり、種子は艶のある茶色。【Plant UConn database】
この木の(当初の)真の原種は不明であるが、昆虫による自然交雑によるものが1820年にドイツで認知されたと考えられている。最も一般的な栽培品種は ブリオッティイ'Briotii' (syn. 'Ruby Red Horsechestnut'), フォートマクネア'Fort McNair', ロセア'Rosea' そしてオニールレッド 'O'Neil's Red' である。【オハイオ州立大学】 
 
 
<参考3:英語名の由来>

 
セイヨウトチノキの英名 「ホースチェスナット」 horse chestnut は「馬栗」の意で、この名の由来については諸説があって楽しいが、永遠に決着しないであろう。
 
樹木大図説  「ウマグリ」の名の来歴は3説あり、葉痕が馬蹄形で7本の釘後まで明らかなのでウマグリという説、果実が馬を初め他の家畜の病気に効ありとする説、栗に劣るという意でイヌとかウマとかの名を冠するという説、これである。第一、第二の説が多く用いられている。
欧州では有毒として食用にしないが牛は食し、豚は食わないという。
「樹木」(コリン・リズディルほか)  英名はホースチェスナット。この名は粘つく頂芽の下の葉痕が馬蹄形をしていることに由来する。種子は大きいが、食用にならない。
uksafari.com  枝にある粘り気のある芽(頂芽の芽鱗は樹脂でべとついている)の直ぐ下に蹄鉄のような形の芽鱗痕があって、このことに由来してその名が付いた。馬を連想して、かつては馬の呼吸障害の治療のために実を粉にして食べさせていた。
ランダムハウス英和大辞典  初出1597.近代ラテン語 castanea equina の翻訳;馬の呼吸器疾患の治療に使われたことにちなむ。
uk.clarins.com  英名の由来はトルコ人が馬に食わせたことによる。
herbolove.com  名称はおそらく中世に牛や馬に実を食べさせた事実に由来する。
岡部  英名ホース・チェスナット(ウマグリ、馬栗)は大型で野卑なクリの意。名称にウマが冠せられる理由は、実が家畜の飼料とされたり、ウマの咳を治す薬に用いられたことによるらしい。
満久  英名のホースチェスナット(うまぐり)は、実が栗に似ていることと、果実を馬の風邪薬に使ったことによるという。
 
 
 トチノキの材

 トチノキの材が明らかにそれとわかるかたちで最も身近で利用されている事例は、お盆ではないだろうか。実はケヤキのように杢目がくっきり出ないため、一般にはトチノキと認知されていないのがふつうであるが、トチノキとケヤキはお盆の素材としての双璧である。
 拭き漆仕上げの製品では、ケヤキはハリギリ(センノキ)と紛らわしい場合があるが、トチノキは目を凝らせば必ず細かい縮緬状の縞模様であるリップルマークripple mark さざ波紋漣紋)が見られることから、識別は容易である。
 トチノキに素地の見える塗装をする場合は、素地をきっちりきれいに仕上げないと、塗装した場合に研磨痕がくっきり見えて見苦しいものになる。販売されている製品でも気になるものが随分ある。
 
 
     トチノキの盆       同左部分      同左拡大写真
  別のトチノキの盆・拡大写真    トチノキ製の看板・拡大写真    サンプル材・拡大写真 
 
 
 また、トチノキは本物志向の無垢材を使用した家具の用材としてもしばしば見かける。材が淡色で、散孔材であるため強い木目が出ない材面の優しい感触が好まれるのであろうか。一方、いろいろな杢が出ていれば、ケヤキなどの他の材と同様に一気に評価も跳ね上がる。  
 
     トチノキの瘤を素材としたボウル
 予想外の杢の変化が現れて美しい。素材として稀少なため、びっくり価格となっていた。
        同左部分拡大写真
 
 
 かつては、トチノキの杓子(しゃくし。杓文字 しゃもじ。)も一般的であったと聞くが、宮島の土産物としての杓子の素材としても特に聞かないし、既にポリプロピレン製の製品が主流となっていて、木製杓子の影は薄い。
 しかし、今でもトチノキが活躍している場がもうひとつある。現在ではプロと趣味の世界に属するが、こね鉢である。長野県下水内郡栄村の秋山郷の製品が有名で、「秋山木鉢」として、長野県知事指定の伝統的工芸品にもなっている。
 
[参考資料]
 トチノキの自然史とトチノミの食文化:谷口真吾・和田稜三(2007.12.27、(株)日本林業調査会)
 栃と餅:野本寛一(2005.6.24、株式会社 岩波書店)P.25-44