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樹の散歩道
   懐かしの栃の実せんべい


 栃の実せんべいは昔から岐阜県の下呂温泉のお土産として広く知られていている。とち餅は餅米を使うのに対し、栃の実せんべいの場合は小麦粉を使う。焼くための道具も要るため、山村の家庭の味というわけにはいかなかったようである。しかし、せんべいは日持ちがいいから土産物としては都合が良かったのであろう。【2010.11】


  栃の実せんべい(とちの実せんべい、栃の実煎餅)は岐阜県下呂市の下呂温泉界隈や同県高山市に生産拠点が見られ、この地域以外では少ないようである。当地では最大手と思われる「養老軒」は、自社ホームページで、「栃の実せんべい」は自ら創製したものとして紹介している。

 製品の形態は2種見られる。小判型の焼き型どおりの形態のものと、周囲が不整形な円形のものである
 栃の実せんべいの個性は独特の風味と、ザックリ感のあるパリパリの食感である。ザックリ感の由来となっている多数の空隙は、ザラメ砂糖がブツブツと泡立ちながら溶ける際に生ずるものといわれている。久しぶりに食べると、なぜか実に懐かしく感じてしまう。
(栃の実せんべい その1)
栃の実せんべい
原材料名:小麦粉、砂糖、鶏卵、栃の実、膨張剤(重曹)
栃の実せんべい うす焼
 ■有限会社 尾張屋製菓
   岐阜県下呂市湯之島124−1
【とちの実せんべいのしおり】
 この会社のホームページには次のような面白いエピソードが掲載されている。
 「現在の社長はその老舗のY社さんに、昔で言うところの奉公させていただきましたが、暖簾わけを許していただけず、見様見真似で創めたのが興りです。営業に関しては申し訳ないくらい不器用で、いわゆる職人気質の頑固者です。未だに昔からの製法にこだわり、手間のかかる手焼きで製造しています。」とある。Y社とはあまりにも明らかである。

 栃の実の調達に関しては、別項で採り上げた栃餅の場合と同様に、岐阜県内の栃の実煎餅の場合にあっても輸入した栃の実が既に一定のシェアを占めている模様で、その一方でこの会社を含めて、国産の栃の実にこだわり、そのことを強調している店も存在する。
(栃の実せんべい その2)

 こちらはとち餅で知られる米子の寿城で見かけたものである。この会社は国内の各地で展開していて、下呂にも拠点を有している。ただし、栃の実せんべいの仕様は“下呂系”とは異なっていた。
とちの実せんべい 8枚入 ¥700
原材料名:小麦粉、砂糖、鶏卵、栃の実、膨張剤
栃の実の含有量:全重量の13.66%使用
寿製菓株式会社 お菓子の壽城
  鳥取県米子市淀江町佐陀1605-1
下呂系の特色であるザックリ感は踏襲せず、やや堅めで、日本の古典的な小麦粉系せんべいの系譜を感じる。下呂系の栃の実せんべいに慣らされていると、やや異質な印象があるが、人によってはこちらを好む場合もあって、これも多様性ということである。価格はやや高めである。製品の栃の実の含有量を表示しているのは珍しく、決して多いわけではないが、13.66%としている。コンマ2桁までの精度で計量したものとは思えないから、算出値なのであろう。


 下呂の栃の実せんべいは、たとえ原料のほとんどを輸入に頼ることになったとしても、この温泉が存在する限り滅びることはないと思われる。餅と違って堅くなることはないし、長持ちするし、お土産として軽くてかさばらないし、非常に都合がいい。

 なお、余談であるが、栃の実せんべいの「総本家」については、「養老軒」が名乗っているが、別に「元祖」を名乗っている店もある。こうしたことは我が日本国においてはよくある話である。ただし、残念なことに「宗家」を名乗っている店は確認できなかった。

 わずかながら、手元には現在乾燥中の栃の実があるし、ナラ灰もあるため、気が向いたら栃の実せんべいもどき≠焼くことに挑戦するつもりである。
【2010.12 追記】
 栃の実のアク抜きについては大体わかった(参照)ことから、栃の実せんべい作りは条件が厳しくあきらめることとして、栃の実クッキーを試作してみた。
<教訓>
 
 飛騨の栃の実せんべいに倣ってザラメ砂糖を加えたところ、170〜180度ではザラメは溶けずにそのまま残ってしまった。しかし、食感は損ねていない。

 栃の実は完璧には崩していないため、ナッツ状のぶつぶつ状態のものも残っている。ナッツの食感とは異なり、これによる食感はイマイチのため、栃の実は完全に崩すべきであった。

 アク抜きを入念にやったことから、結果として栃の実っぽいやや苦みのある風味がほとんど失われてしまったように感じる。アク抜きはそこそこがいいようである。